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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「殺害の理由はいつだって生首に口づけするようなものだ」
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第56話「戯け者」

「明日香は俺の後見人なんだ。どうせ聞いてるんでしょ。俺は昔から嘘吐きで、両親は強盗に殺されたってこと」


「まさか『強盗犯を撲滅する十の秘密』って、その時の狼谷君の経験を活かした……」


「わけないでしょ。真面目な話してるんだから、真面目に聞いて」


「すみません」


 重い空気を軽くしようと試みたのだが、失敗してしまったようだ。「まったく」と呟かれた為、私は口を噤んだ。


「同情したんだろうね。その恩に報いるために俺は俺なりに頑張ったけど、結局ダメにしちゃった」


「犬養さんは多分そんな風に思ってないよ」


「そんなこと陽正に分かるわけがないでしょ。人は嘘を吐く生物なんだから」


「でも犬養さんは狼谷君を信じてくれるでしょ? 狼谷君の嘘を信じて愛してくれてる。傍から見ててもそれは分かるよ?」


「だから嫌なんだよ。『大丈夫』っていう嘘が、偽物の笑顔が……苦しくなる。本当の親なら言えたのかもしれないけれど、後見人に『本当のこと』なんて言えるわけないじゃん。挙句の果てにキャリアまで奪ってさ。俺は誰かを不幸にすることしか出来ないんだよ」


「そんなことない! 昨日一日、犬養さんは楽しそうだったし、私だって楽しかったよ!? 息抜きになったし……」


「でも事件が起きた。人を守る為の嘘でも、嘘は嘘だ。陽正は今、自分が嘘吐きになってることにちゃんと気付いてる?」


「私は嘘なんか吐いてない!」


「俺から逃げたくせに」


 露天風呂で犬養さんが言っていたことを想起する。ああ、こういうことなのか、と溜飲を下げた。


 彼は、まだ高校生。どんなに大人びて見えても、周りの態度に心を揺れ動かす子供なのだ。恐らく私の態度から嫌われた、とでも思ったのだろう。犬養さんは自身が彼を利用していたことに気が付いて〝やめた〟と言っていた。彼女の中では解決しただろうことも、彼の中では燻ったままなのだ。


 愛されてる自信がない……いや、親という絶対無二の存在に、思うように愛を注いで貰わなかった彼には信じることが出来ないのだ。だから〝嘘〟で武装する。〝本当〟を口にしなければ傷付くことがないから。


 けれども彼は〝真実(ほんとう)〟を口にした。私に歩み寄って来てくれたのだ。それは弱った心が垣間見せた一瞬の隙。一時の気の迷い。彼は今、罅割れの合間から想いを零してしまうほど揺れているのだ。何に、なのかは分からない。けれども、私を信じて貰うのには好機に思えた。


「逃げてない」


「嘘吐き」


 今度は私が嘘吐き呼ばわりされる番だった。しかし、私は嘘など吐いてはいない。しっかり話をしなかったあたり〝逃げた〟のかもしれない。それでも、私は逃げたつもりなどなかった。


「私は嘘を吐かない」


「それが既に嘘だよ。嘘を吐かない人間なんていないんだ」


「じゃあ前言撤回。今は嘘を吐かないから信じて欲しいの。折角、話をしてるんだから」


「……言ってみれば」


「私は狼谷君から逃げたんじゃない。狼谷君を利用していた〝私〟が許せなくなって、貴方から離れたの」


「利用なんて今更じゃん」


「そうだね。無意識にしても、意識的にしても、私は狼谷君を利用した。だから私に出来る罪滅ぼしは、日常へ返してあげることだなって思ったの。それには刑事の私は必要ない……ううん、邪魔だったでしょ? もしも狼谷君から踏み込んできたなら、いくらでも助けてあげるつもり。でも、そうじゃない限り、私と狼谷君の縁は繋ぐべきじゃないって思ったの」


「それが〝ごめんなさい〟の理由?」


「覚えてたんだ」

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