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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「殺害の理由はいつだって生首に口づけするようなものだ」
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第55話「戯け口」

「狼谷君」


 声を張らずとも届くだろう。一m先の背に言葉を投げ掛ければ、此方を振り仰ぐ彼がいた。


「なんであんなことを?」


「事実だから」


「狼谷君じゃないでしょ!」


「なぜ?」


「狼谷君は嘘吐きだから。狼谷君がやったって言ったことは、やってないってことになる」


 我ながら暴論であることは分かっている。それでもアリバイとか動機とかを語るより、彼には此方の方が届くような気がした。


 あなたの嘘を私は信じている。私は、あなたを疑わない。


 矛盾していることなど理解している。けれども私は彼と向き合いたいと思った。


「アンタ本当に馬鹿だよね」


「あはは、ひどいなぁ」


「こういう時は、アリバイとか、動機がどうのとか、刑事らしいことを並べるべきでしょ」


「そっちで良かったの!?」


「陽正は俺のこと何だと思ってるの」


「嘘吐き?」


「アンタの、そういうところが敵を呼ぶんだよ。馬鹿」


〝なに〟私は彼を何だと思っているのだろう。逡巡した答えを小首を傾げなら提示するも、狼谷君が笑ってくれることは無かった。


「冗談よ!」


「この状況で冗談言ってどうするわけ。励ましてるつもり?」


「そうよ! 励ましてるのよ! 下手くそで悪かったわね」


「いや、俺、落ち込んでないけど」


「それも分かってるよ! だから何て声を掛けていいか分かんなかったんだもん!」


「なにそれ」


「私は〝大人〟だから分からないの! 狼谷君のことが分からない。分かりたいけど、何を考えているのか、とか。何を思っているのか、とか。そういう……クシュンッ!」


 いいところで(くしゃみ)が出る。気まずい空気に緘黙していれば、朝の静寂が私達を包んだ。


「アンタって本当に馬鹿だよね。ほら、これ」


 自らが身に付けていた茶羽織を私へ差し出す。先程まで在った距離は腕一本ほど、彼の仕草で心の距離も近付いたような気がした。


「でも、そしたら狼谷君が」


「寒いに決まってんでしょ。要らないなら俺が着るけど」


「着る! 着ます! ありがとうございます!」


 ひったくった茶羽織に腕を通す。そこには確かに彼の温もりが在った。


 人なのだ、と実感する。嘘吐きでも、可愛げがなくとも、彼はやっぱり紛れもない人なのだ、と。狼谷君は人のことを馬鹿にして、それでも寒そうにしている私を助けてくれる優しい青年だ。


「『俺が着るけど』か」


「なに?」


「狼谷君が言ったら、それは嘘になる。ってことは『俺は着ないからアンタが着なよ』ってことでしょ?」


「おめでたい頭」


「なんとでも言うがいいわ。私は嬉しかったから」


「陽正は愛されて育ったんだね」


「どういう意味?」


「親に愛されて育ったから真っ直ぐなんだよ。俺の言うこと全部信じちゃって馬鹿みたい」


「そうだね。愛されて育ったとは思う」


「知ってる。アンタの爺さんに聞いたから。でも陽正を見れば分かるよ。馬鹿正直はアンタの長所だ」


「えーっと……褒められてる? 馬鹿にされてる?」


「好きに取ったらいいんじゃない。愛されてるってのはいいことだと思うよ。だから明日香にも蟹江にも愛されてるんだし」


「猿島警部には嫌われちゃってるけどね」


「あの人は昔から、ああなんだよ」


「でも、さっきのはさすがに……」


「恨んでたのは本当だよ。でも明日香のキャリアを奪ったのは俺だ」


「どういうこと?」

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