第47話「戯れ言」
「アイツが犯人だと言ったから俺達は……!」
「誰が犯人なんて言ったの? 心当たりがあるって言っただけだけど」
「クソガキが……! ふざけるなよ!? 捜査は遊びじゃないんだ!!」
「遊びじゃないのに俺の言うこと真に受けたの? 馬鹿じゃん」
「お前!?」
「離してくれない? 苦しいんだけど」
猿島警部が狼谷君の胸元を締め上げ持ち上げる。目を剥いて制止しようと立ち上がった時、傍らを人影が通り抜けた。
「ちょ、猿島警部!? ダメですよ!!」
「うるさい! 此奴は昔から人のことを馬鹿にして……」
「ダメですって!!」
「猿島、真空を離せ。一体、何があったって言うんだ」
「え、っとですね……」
「部外者に漏らすな!! もういい、行くぞ!! 犬養!!」
「なんだ?」
「一人で出歩くなよ!! また襲われたら敵わんからな!!」
地震でも起こすのでないか、と言うほど、けたたましい足音を立て台風の目が去っていく。それを追い掛ける蟹江君の裾を掴めば「あとで話すから」と囁かれた。そう言われてしまえば解放せざるを得ない。私は厳つい背を見送り、なんとも言えない胸の内を諫めようと必死だった。
「あの様子じゃ聞かなくても分かるな」
「そうですね」
「気にしても仕方ない」
「〝次〟を待ってみるのもアリかもよ」
「次って……それじゃ危ないんじゃないの?」
「危ないけど、今の状況じゃ犯人の目星を付けるのも難しいし、突発的な衝動だったなら〝次〟は起こらないかもしれない」
「もし〝次〟が起こってしまったら?」
「その時は犯人の目星を付ける手掛かりになる。もう一度、明日香が狙われたら明日香狙い。陽正か俺が狙われたら、やっぱり明日香狙いってところじゃない?」
「そうだな。執拗にアタシを狙うなら、それはそれで安心だ。二人に危害が加わらない方がいいに決まっている」
「そんな……もし犬養さんが殺されそうになったら……!」
「そうならないように一緒に行動して防ぐんでしょ。陽正は刑事なんだから、しっかりしてよね」
「分かってるわよ!!」
肘掛に肘を附き、手の甲に顔を乗せている。やたら賺しているように見える為、苛立ちが顕著に表れた。今なら先程の猿島警部の気持ちも分かる。正直「クソガキが!」と思わざるを得ない。
「悪いな、陽正。推理力が磨かれた代わりに、可愛くない言い方ばかりするようになってね。アタシが後でお灸を据えておくから許してくれ」
「犬養さんが謝ることではないです!」
「お灸とか勘弁して欲しいんだけど」
狼谷君の言葉に犬養さんが噛みつく。やはり仲良さそうな二人には親子以上の絆があるように見えた。それは血が繋がっていないからでもあるのだろう。血が繋がっているからと言って何でも分かり合えるわけではない。実のところ、家族とは血が繋がっていないくらいが丁度いいのかもしれない。
「吹雪いてきたね」
徐に窓の外を眺めた犬養さんが呟く。私はそれに「そうですね」とだけ返し、何も起こらないことを願ったのだった。




