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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「殺害の理由はいつだって生首に口づけするようなものだ」
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第43話「侘び戯れ」

 右なのか左なのか分からない襟に四苦八苦しながら身支度を整え、浴衣の帯を適当に締める。ドライヤーで軽く乾かした髪を髪留めで纏め、私は紅色の暖簾を潜った。


 何の気なしに辺りを見渡せば自動販売機がある。アイスの前で足を止め、金貨を投入するとバニラアイスが排出された。


 — 火照った指先に氷塊のような冷ややかさが染み渡る。行儀が悪いとは分かっているものの、私はそれを齧りながら旅館を散策するべく歩みを進めた。


 廊下には生花や盆栽、絵画が飾ってある。適当に彷徨っていると、中庭の前で佇んでいる猿島警部を見つけた。慌てて曲がり角に身を潜め、物音を立てぬよう後退する。食べかけのアイスなんて見られた日には、また怒号を飛ばされる。抜き足差し足で、その場を離れようとしていると振り返った瞬間、人とぶつかりそうになった。


「す、すみません!」


「此方こそ、よそ見してい……陽正?」


「蟹江君!」


「誰かと思ったよー、浴衣似合うねぇ」


「蟹江君も似合うね」


「色男だろ? にしてもビックリしたよな。まさか陽正と犬養警部に会うとは思ってなかったよ」


「私もだよ」


「陽正に至っては休日まで猿島警部と会いたくなかっただろ?」


「まぁ、うん」


「あの人も不器用なだけで悪い人じゃないんだけどね。若いとまだ視野が狭くて分かんないよな。あ、そだ、猿島警部探してたんだよねー、見てない?」


「それなら中庭に居たよ」


「マジか! サンキュ!」


 手を振った彼が満面の笑みで駆けていく。私は食べかけのアイスを齧り、大好きなバニラ味を堪能した。


「このままじゃ鉢合わせしそうだし部屋に戻ろっと、その前に、もう一本買ってこよ」


 ひとり言を呟き、再び自動販売機に向かう。もう一本アイスを買ってから、私は宿泊予定の部屋に戻ったのだった。

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