第4話「嘘で固める」
「あったぞ、ほら」
「どうやらホントらしいな。刑事さんよ、何もしてねぇよな?」
「してないわ」
私は男達を睨み上げ、即答する。なめられてはいけない。その思いで毅然とあるように努めた。
「本当かどうか分かりませんけど、警察はこういう時、縄抜け出来るように訓練してるそうですよ。縄、確認した方がいいと思います」
余計なことを。反射的に私は彼を睨み上げる。すると彼は、私を揶揄するかのように笑みを深めた。
まさか、という思いが浮かぶ。そのあまりに落ち着いた態度から予測される、彼が共犯かもしれないという可能性。乱暴に床に押さえ付けられた事で身体に痛みが走り抜ける。苦痛に顔を顰めた私を、彼がまた嘲笑っているような気がした。
「もしかして貴方、共犯?」
「喋るんじゃねぇよ!」
「ウッ……!?」
背中を蹴られ、思わず喘ぐ私などお構いなしに青年は口を開く。相変わらずその唇は弧を描いていて、とても気持ち悪かった。
「違いますよ。でも、今からでも俺を仲間に入れて貰えませんか?」
「なんだと?」
「俺の父、昔はやり手の強盗だったんです。ちょっと間抜けして捕まったんですけど、釈放されてから、色々とレクチャーされてますし、きっといい助言が出来ると思いますよ」
「ハッ! んなの信じられるかよ」
「報酬は微々たるもので構いません。その盗んだお金。そうですね……百万程ください。勿論貴方達の事は言いません。どうです?」
「信用出来るわけねぇだろ。お前と別れた後、お前が警察に言わねぇ保障なんてないしな」
「安心してください。そのお金を貰った時点で共犯なので、貴方達が捕まってしまったらデメリットしかありません。俺、進学校の生徒なんで将来に傷は付けたくないですし」
「なんでそこまでして共犯になりてぇんだよ」
「要は命乞いですよ。本当はお金なんて要りません。けれど、それでは貴方達にとって不安要素が多すぎる。だからこそ、リスクは俺の方が多くないといけない。俺はココにいる人間の命なんて微塵も興味ないです。けれど、自分の事は大事なんです」
「清々しいほどのクズだな」
「同じ穴の狢ってやつです」
「おい、解いてやれ」
「ありがとうございます」
「言っとくが、使えねえと判断したら殺すからな」
青が縄を解くと、青年はすかさず立ち上がり人質を見渡した。彼が目の前に立ったことで、その容姿が顕わになる。私はそれを目に焼き付けるように、上から下まで舐めるように眺めた。
切れ長の鋭い目つき。薄い唇。髪の毛は美しい烏の濡れ羽色だったが、天パなのかそれは緩やかに波打っていた。体型はやや細めであるが、普通と言えよう。身長も然程高くはないようで、精々一七〇というところだった。
やや目つきが悪いのが難点とも言えるが、至って普通の男子高校生に見える。にも関わらず彼は、とんでもない交渉を成立させた。おまけにポジションは強盗側。絶体絶命とも言えるこの状況に、私は項垂れるしかなかった。