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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「殺害の理由はいつだって生首に口づけするようなものだ」
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第35話「戯けを尽くす」

 ——ヨナハーンの生首に口付けを。


 厚く塗りたぐった紅を、冷たい口唇(こうしん)に押し付けるサロメは妖艶な娘だったそうだ。狂気と傾慕(けいぼ)に彩れた須臾(しゅゆ)の舞台。俺がその様を眺めていたのなら、心を奪われていたに違いない。


 銀皿の上に滴る葡萄酒が、大理石に滲みを作っていく。愛しい人の顔を持ち上げ、視線を絡めたサロメの気持ちを誰が考えたことだろう。美しく舞い、王に媚を売る。それがどれほど屈辱的か。それでもサロメはヨナハーンを(たお)したかった。


 彼女はきっと、拒絶されることを恐れたのだ。愛する者を殺されることよりも、愛する者に拒絶される方が怖かった。


 だから物言わぬ首に愛を(こく)し、口づけを施したのだ。拒まれないから僥倖(ぎょうこう)だった。それを誰も知らない。


「復讐なんかじゃない。愛しいから殺した」


 けれども、殺人の理由など誰も考えないのだろう。失くしてしまった命を悼むことしかしないのだ。俺は、そんな人々に言いたい。


 ——あなたは愚かだ、と。

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