第31話「虚飾」
「順に話をしましょう」
「面白いですね。どうぞ、俺は犯人ではありませんが」
「夜は普通に会談し、眠りに着いた。翌日、用意された朝食を囲んだ後、アナタは犯行に及ぶ。ランニングに行く前にウィンドブレーカーを身に付けていてもおかしくはないですからね。
昭雄さんを刺し、楓さんを刺し、和ちゃんを刺し、最後に光君を刺したアナタはウィンドブレーカーについた血をシャワーで流し、タオルで軽く拭いてから浴室を出る。そして自分が使った食器を片し、指紋などの痕跡を拭き取った。
その後、何食わぬ顔でランニングに向かい凶器を隣町のゴミ捨て場に捨て、ウィンドブレーカーも捨てようとしたところミスに気付く。替えを持ってきてないんですから間抜けですよね。
けれどもアナタは随分と度胸がある。そのまま新しく出来たパン屋で朝食を摂るフリをし、そのまま戻って来て刑事に声を掛けたんですから。犯行に使われたウィンドブレーカーを身に付けたまま、よく声を掛けられましたね。馬鹿過ぎて称賛を送りたいくらいですよ」
「随分と人をコケにしてくれるな」
「段々、化けの皮が剥がれてきてますよ」
小馬鹿にしたような狼谷君の物言いは、よっぽど腹立たしいのだろう。三井がポケットに両手を突っ込んだあたり、拳を握り怒りを諫めているだろうことが分かった。
それとも何か入っているのだろうか。いつでも動けるよう構える私に倣う蟹江君も警戒を強めていた。
「一日を共にしたのは何故か、俺なりに考えてみました」
「へぇ、聞かせてくれよ。こんな猟奇的な事件を起こした犯人の思考ってやつをさ」
「まず自供したらどうです? どうせ逃げられない。分かってるんでしょう?」
「そうだな。元々、目を付けられたら終わりだと思ってたし。警察も馬鹿じゃないんだな」
口元をいやらしく歪め、蛇のように長い舌で唇を舐めている。凶悪な本性を現した三井を、私は呆然と見ていることしかなかった。
そんな私を差し置いて蟹江君は颯爽と駆け出す。三井の背に回ったかと思えば、後ろ手に手錠を掛けていた。
「〇五・五四。三井正樹、殺人の現行犯で逮捕する」
「現行犯、ねぇ。全然、殺してないんだけどなぁ」
「黙れ」
「まぁ、そう怖い顔しないでよ。暴れたりなんかしないからさ。で、従兄弟君は推理とやらを聞かせてくれるんでしょ? 早くしてよ」
「自供を引き出せたし、語る必要はないと思うけど」
「いいじゃん! 教えてよ! その制服を着てるってことは君も特別なんでしょ!? 俺は〝特別〟がだーいすきなんだぁ!!」
「変態」
「特別な人間ってのは、どこかしら酔狂なもんさ。だから俺は平凡な人間を許さない」
「許さない、ね。ただプライドが傷付けられただけのくせに」
狼谷君がささめき、三井がそれに目を剥く。充血した眼は焦点が合っておらず、猟奇的に見えた。否、彼は本来猟奇的なのだろう。今迄〝普通〟に見せていただけなのだ。そう思うと背筋が粟立つ。未だ、こういったことに慣れないあたり、私は刑事に向いていないような気がした。




