第30話「虚栄心」
「三井 正樹さん、少々構いませんか?」
「君は……刑事さんの従兄弟さん。刑事さん達もお揃いで、どうかしたんですか?」
狼谷君の前を通り抜けようとした三井がウィンドブレーカーのフードを取る。私達の顔を確認したかと思えば、人好きのする笑みを浮かべた。
優しそうな様相は、とても人を殺しそうには見えない。嘘吐きというのは総じて〝そう〟見えない生物であることを知った。
「どうして俺の名前を?」
「まぁ、それは色々と」
私が昨夜、徹夜して調べたのだ。それを省略されたことに些か突っ込みたい気分になる。
「中高大と有名な中距離の選手だったようですね。ですが大学生の時、怪我で引退。その後は普通の会社に入社、平凡な人生を歩んでらしたようで」
「ええ。見ての通り私は平凡な社会人です。お話がそれだけでしたら俺はこれで……」
「この家の住人を殺したのは、アナタですよね。三井さん」
「何を根拠に。第一、俺には殺す理由がありません」
「なら、どうして工藤さんと知り合いであることを隠していたんですか?」
「知り合いってほどの間柄じゃないからですよ。変に疑われたら嫌じゃないですか」
「そうですね。変に疑うも何も三井さんが犯人なんですけど」
三井の眉が撥ねる。幾許か険しい様相を浮かべた彼は、不満げに狼谷君を見つめていた。
「工藤家に泊まることになったアナタはシャワーを浴びてから工藤家を尋ねる。髪の毛などから特定されないよう工藤家の風呂を使うことを避けたんですよね」
「仮に俺が泊まりに行ったとして風呂に入らなかったら不自然でしょう」
「アナタの趣味はランニングでしょ? 走ってきたから家でシャワーを浴びてきた、とでも言えば不自然ではありません」
「俺のは趣味じゃない!!」
激昂した三井が叫び散らす。吃驚に肩を揺らした私は目を瞠った。視界には一杯食わした、とでも言いたげな狼谷君と、顔を赤黒くした三井がいる。蟹江君に目配せをするも、彼は黙ってやり取りを見つめていた。
「存じております。それがアナタの殺害動機ですよね」
ハッとしたような顔で私達の顔を見渡した三井が失言を隠すかのように口元を手で覆っていた。その顔だけで捕まえてやるには十分に思える。その表情は自らを〝犯人だ〟と物語っているようなものだった。




