第23話「虚仮の後思案」
「あの少年……って言うには大き過ぎるな。青年か、あの青年が絡んでるから気になるんだろ?」
はい、とも、いいえ、とも言い難い。狼谷君に霊感があるという話をしたところで信じてなどくれないだろう。かと言って、否定すると私の行動は相当奇異に映る筈だ。どう答えるべきか考えあぐねていれば彼が笑った。
「なんでそんな迷ってんだよ! 俺だって、えーっと……」
「狼谷君」
「そう! 狼谷青年のことは気になってんだよ。強盗事件の時は素晴らしい手腕だったからな。ソイツが言うなら、ちょっと調べてみたいかも」
「おい! 会議の時間だ! 早く来い!」
蟹江君が空になった缶を私から受け取り、ゴミ箱へ放り投げる。縁に当たって吸い込まれる様を一部始終眺めていると、怒声が聞こえた。吃驚に肩を揺らし、背後を仰ぐ。遠目に猿島警部の顰め面が待機しており、やる気が失せた。
「はい! すみません! 只今、参ります!」
「日辻! 返事が聞こえないぞ!」
「す、すみません! 只今参りますっ!」
慌てて立ち上がり敬礼する。猿島警部は鋭い眼光で一瞥すると、会議室へ向かって歩いて行った。勿論、曲がり角で姿が見えなくなるまで威儀を崩すことはしない。猿島警部の姿が見えなくなると、私は脱力したかのようにベンチに腰掛けた。
「はぁー」
「お前も大変だなぁ」
「あの部署で私に優しくしてくれるのは蟹江君だけよ……」
「ははっ、陽正は仕事が出来るから嫉妬してんだろうな」
「こんな新米に嫉妬……」
だとしたら、よっぽど大人気ない。自らの心に正義感はないのか。ないから出来るのだろう。そして罪悪感に苛まれることもないのだ。妬み辛みなど心底くだらないと思う。けれども、それに押し潰されそうな自身は、弱い人間のような気がして受け入れ難かった。
「新米だからこそ、だろ。俺みたいな成り上がりからしたらキャリアは羨ましいんだよ。俺は一課に身を埋めるだろうけど、お前はもっと上に行ける。だから、こんなことでへこたれんな」
「ありがとう」
力無い笑みだったと思う。けれども蟹江君が見せてくれたのは満面の笑み。ならば満面の笑みを返さなければ。そんな思いで無理矢理口角を上げてみたが、上手く出来ていただろうか。すぐさま背を叩かれ、会議室へ向かったので答えは貰えなかった。




