第22話「虚器を擁する」
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「それは災難だったなぁ」
一連の出来事を蟹江君に話しながら、奢って貰ったカフェオレを嚥下する。説教を見かねた蟹江君に助けられ、私は署に戻ってきていた。
「にしても、よく声を掛けようと思ったな」
「狼谷君に?」
「いんや。陽正に」
「私?」
「ああ、ただのランニングマンが警察に何かありましたか~? なんて普通訊くか? 知り合いの家だったならまだしも」
「聞くでしょ。女の人とか噂好きだし、近所だよ? 気になったんじゃない?」
「でも女じゃないですし?」
「じゃあ蟹江君は訊かないの?」
「訊くだろうな」
「でしょ?」
「だって俺、刑事だし? 正義の味方の血が騒ぐ的な?」
目を眇めて軽蔑の眼差しを送る。そんな私に気付いた彼はゴミ箱に缶を投げ入れながら、「ゴメンって~」とヘラヘラ笑っていた。
明るくて軽い。蟹江君を表すなら、そんな感じだ。金に近い茶髪は所々跳ねているし、垂れ気味の目元はいつも撓っている。口端を上げる様は、物腰の柔らかさを表していた。交番勤務から異例の出世を果たしたらしい彼は、五つ歳上にも関わらず親しみ安い性格をしている。故に歳は彼の方が上だが私達は同期だった。
蟹江君は歳上だからと先輩風を吹かすことはない。むしろ「タメ口でよろしく!」と肩を組まれたのだから動揺したほどだ。それでも私が今も刑事を続けていられるのは彼のお陰である。蟹江君の優しさに私は救われていた。
「何故、ね……蟹江君は、なんで訊いてきたんだと思う?」
「頭脳戦って俺、苦手なんだよね~、んー、まぁ単純に気になったからだろうな」
「ほら、そうなるじゃない」
「犯人だったから」
思わず口を閉ざす。瞬きをしていれば、彼がおかしそうにケラケラと笑った。
「なーんて、な!」
「もう、真面目に訊いてるのに!」
「真面目はいいことだけどなー、馬鹿正直でいいことはないんだぜ?」
「はぁ……ご忠告どうも」
「陽正」
「まだなにか?」
「気になるなら現場を洗ってみるか?」
「え?」




