第2話「嘘から出た実」
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——どうしよう。
乾いた発砲音が耳に届いた瞬間。私の脳裏に浮かんだのはその言葉だった。テロか、いや、この場合強盗だろう。何故なら私は現在銀行にいるのだから。
「静かにしろ! 騒いだり変な行動したらすぐ撃ち殺すからな!」
阿鼻叫喚になるほんの少し手前。黒い目出し帽を被った男は、ライフルを抱え叫んだ。その後ろには連なるように赤い目出し帽の男と、青い目出し帽の男が立っている。赤い目出し帽の男は右手に拳銃を、青い目出し帽の男は左手にナイフを持っていた。
黒、赤、青。店内を見渡し、それ以外の色がない事に安堵すると、私は気を引き締め思考を巡らせた。
「おい女、お前はこれでこの場にいる全員を縛れ。それとそっちの女はこのバックに入るだけ金を持ってこい」
考える間もなく、リーダーであろう〝黒〟は受付をしていた女性従業員達に、麻縄と茶色の革製バックを乱暴に押し付けた。ショートボブの女性が麻縄を、茶髪ロングの女性が鞄を震える手で受け取る。悲鳴を上げないだけ十分勇気がある女性だ、と心の中で感嘆した。
女性が持った所為だろうか。やたら大きく見えるバックは、両手で抱えるのも困難な程に大きく見えた。尤も、受付から大分離れたこの入口付近のATMからでは、しっかり確認する事はかなり困難だったのだが。
運が悪かった。最近の私は、その一言に尽きる。一課に配属されたまでは良かった。夢が叶ったと歓喜していた頃が懐かしい。
しかし、まだ新米刑事の私にキャリアという肩書は重過ぎた。ただでさえ、刑事という仕事は男ばかりだというのに、その肩書が気に入らなかったであろう先輩には、あらゆる洗礼を受けた。
挨拶をされない事など当たり前。お茶汲みを強要され、面倒な書類は押し付けられる。事件現場では邪見に扱われ、この間の事件では腐敗していた死体と初の御対面を果たし、吐き気を催した私に『これだからゆとりは』と溜息を吐いていた。直属の上司には『使えない奴だな』と嫌味を言われる日々。最悪だ。
おまけにこの間の事件は犯人が分からず未解決ともなれば『ツイてない』そう思わざるを得ないだろう。
そして極め付けは、この強盗事件。昼休みを利用してお金を下ろしに銀行に足を踏み入れた瞬間、射撃訓練でしか聞いたことのない発砲音に出くわした。
しかし、嘆いていても仕方がない。自分は刑事なのだから、せめて人質を無事解放出来るように尽力せねば。その思いで辺りを見渡し、人質の確認を試みる。自分を含め手首を縛られた人質は店の中央に集められ、冷たい床に腰を下ろしていた。
——犯人は三人、このメンツなら共犯はいなさそう。そして七人か……。
人質は七人。自分を含め八人だった。
先程、男の指示を受けていた二十代の女性従業員二人。支店長であろう四十代後半の男性。初老の女性。男子高校生。五、六歳程の男児と女性。恐らくこの二人は親子なのだろう。皆、下を向き項垂れていた。
時折、強盗犯を見上げる人もいるが「コッチ見てんじゃねぇ!」と一喝されれば、迂闊に視線も上げられない。かく言う私もそれは同じ。ましてや、この自由を奪われた状態では人質を保護することも、犯人と交渉することも出来なかった。
もしも、自分が刑事だと知られてしまえば、何をしでかすか分からない。下手に犯人を刺激するのも良くないだろう。私は犯人を観察しつつ、もうすぐ来る筈の応援を待った。