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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「天才というのは、いつだって孤独でいたがる」
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第19話「不当周延の虚偽」

「日辻、手袋をつけろ」


「はい」


「俺の後に続け。犯人がまだ中にいる可能性がある。気を抜くなよ」


「承知しました」


 もう刑事の顔になっていたと思う。猿島警部の目配せに頷き、肺の中の空気まで研ぎ澄ませる。呼吸一つ乱してはいけない、と私は彼の後に続いた。


 玄関の右手は隣の家との間に軽い柵が隔ててあるくらいだ。けれども左手にはこじんまりとした庭があり、ウッドデッキが備えてあった。恐らくリビングから直接庭に出られるようになっているのだろう。つまり庭から中を確認出来る筈だ。勿論、カーテンが閉まっていなかったなら、という話だが。


「どうやら犯人は、ご在宅ではないようだな」


 窓から中を覗いた彼が渋く唸る。吃驚を零すまでもなく、私は二の腕を掴まれた。引っ張り出される形で窓の前へ躍り出る。恐る恐る右手に位置する窓へ視線を向ければ、凄惨な現場が広がっていた。


 壁や床を濡らす臙脂色の液体。所々、こびり付いて見えるということは時間が経っている証だ。人影——いや、人影と呼ぶには相応しくない。何故なら——


「このぶんじゃ誰も生きていないな」


 生きている訳が無かった。一番手前に在るのは十歳前後の少女の死体。目をひん剥き、口端から唾液を垂らしているところを見れば、相当な恐怖を味わったのだろう。私は唇を震わせて同情心を諫めた。


「日辻、応援を呼べ。俺は始めに中に入ってる。終わったら来い」


「はい。あ、でも鍵は!?」


「窓の鍵が開いてる。まるで『ようこそ』とでも言っているみたいにな」


 そんなことには気付かなかった。慌てて錠を確認すると、印は〝開〟を指していた。どうやら私は空気に呑まれていたらしい。狭くなった視野と短絡的な思考に反省せざるを得なかった。つまるところ、私は、まだまだ若造らしい。


「早くしろ。ゆとりだからって甘く見ないからな」


「はい!」


 そんなことは分かっています! その叫びは生唾と共に呑み込んだ。


 被害者は、この家に住む家族四人。三十代の夫婦、十歳の長女、そして八歳の長男だった。そのどれもが刃物で滅多刺しになっており、少年に至っては泡を吹いていた。母親は子供達を守ろうとしたのだろう。刺し傷は背中に集中しており、また長女も幼い弟を庇おうとしたようだ。刺し傷のいくつかは背中からのものだった。


 夫の遺体がソファに転がっていたことから、彼が第一の被害者であることは明白だった。次いでドアの付近に妻の遺体が転がっており、窓辺には長女の遺体。その近く、部屋の中央寄りに長男の遺体があった。刺し傷の数は二十~三十二。夫の遺体損傷が激しいことから猿島警部は怨恨の線で調べていくつもりのようだった。

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