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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「檻の中で繋がった縁は夫婦の絆に彩られる」
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第16話「嘘」


 *


 端的に言えば、狼谷君の推理は当たっていた。推理なのかは甚だ疑問だが、彼の助言で事件は解決。息子である高校生達は、日常へと戻っていった。


 お手柄だ、と犬養さんは大袈裟なほど褒めてくれたが、私は何だか申し訳ない気持ちになった。誰の手柄かと言えば、彼女の力添えが大きかったから。


 一方、猿島警部は顔を顰め、不満そうにしていたが、一言『よくやった』と言ってくれた。あの猿島警部が言うのだ。大きな一歩だったと思う。


「狼谷君!」


 私は礼をするべく、狼谷君の家へ足を向けていた。下校途中の彼を見つけ声を掛ければ嫌そうに顔を歪められる。本当に初対面の時とは違い過ぎる姿に溜息を零した。そんな嫌そうな顔をしなくてもいいではないか。


「人違いでは?」


「ねぇ、それ毎回やるの?」


「俺、亀谷コーポレーションの息子なんで、父に言い付けますよ。刑事のストーカーに追われてるって」


「君、本当に呼吸するように嘘を吐くね」


「デリカシーの欠片もない人に、言われたくはありません」


「確かに、オブラートという言葉を覚えろとは言われるけど……」


 私は口に空気を含んで膨らませると、何とか彼に反撃出来ないものかと言葉を探す。けれども、私に語彙力というものは備わっていないらしい。何も浮かばない己の脳に、恨み言を連ねるくらいしか出来なかった。


「やっぱりアンタが言ってたことは綺麗言だよ」


 唐突にかち合う視線。私はそれに息を呑んだ。先程の軽口とは違う、固い声音に緊張を覚えたからだろう。


「確かに俺は嘘つきだ、けれど親が殺される、死んじゃう。そう言って泣きながら近所を回った子供を疑うこと自体、おかしいと思わないか」


 私と彼との距離は約三m。


「結局、オオカミ少年の話は自業自得だ、なんて言うけれど、それを見破れない人間はただのクズだよ。第一オオカミ少年のことを、村の人はどれだけ知ってたんだろうね」


 彼はその距離を、ゆっくり、ゆっくり歩みを進め縮めてくる。


「〝子供の言う事を本気にしてはいけない〟その考えがおかしいんだよ。なんで親が殺されるなんて嘘吐くんだ。たかだか八歳の子供が。人間は人間を信じる生き物だと言うなら。その子供は信じるに値しなかたってことか? それともソイツは人間じゃなかったって事?」


 目の前に立ちはだかる彼の瞳を伺い見れば、氷のような冷たい彩りをしていた。


「なんで? どうして信じたいと思えないの? その子供が嘘吐きじゃなかったら信じたのか? でも嘘だと思ってるのが大人だけだとしたら? 今迄、子供が吐いてる〝嘘〟だと思ってたことが実は〝本当〟だったら?」


 彼と私の身長差は然程無い。彼の方がやや高いくらいで、ほぼ変わらない目線。しかし、彼は同じ高さになるように少し腰を屈め、鼻先が触れ合うほど顔を近付けてくる。


 再会してから一度も撓ることの無かった彼の目は、弧を描いておりとても不気味だった。その瞳は勿論、笑ってはいない。ゴクリと生唾を呑み込み唇を震わせるも、私は彼から目が逸らせなかった。


「ほら、人間は信じたいものしか信じないんだよ。

 それじゃあね。さっきの話はたとえ話だよ。俺に騙されちゃってご愁傷様」


 すっと遠ざかった彼の顔を見上げれば、先程の不気味な表情は浮かべていなかった。無表情で不愛想な彼は、私の傍らを通り過ぎ鼻で笑う。彼の足音が段々遠ざかり、その音がやけに大きく耳を突いた。


 追いかけなければ、頭ではそう思うのに身体は言うことを利かない。何故立ち止まってしまったのか、自身に問うも答えは出なかった。


 嘘か、真か。空言か、真理か。戯言か、真誠か。


〝嘘〟と言う理は、人間とって永遠に図れないものなのだと。私は彼の言葉でそう直感した。

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