第14話「吹嘘」
「俺、霊のことに関しては嘘を吐かないことにしてるんだ」
「どうして?」
「さっきから質問ばっかだねアンタ。霊は俺のこと嘘吐きだって言わないから」
「それだけ?」
「俺にはそれで十分。じゃあ、本題に入ろうか。アンタが今請け負ってる未解決事件解決してやる」
「え?」
「俺のことを信じた、二人目の奇特な人間にご褒美だよ」
彼が言う未解決事件とは、まさしく今、一課総出で犯人を捜している最中の〝密室夫婦惨殺事件〟の事だった。
事件の概要はこうだ。二週間前、夫婦の遺体が見つかった。夫の遺体は包丁で何十か所も刺されており、妻の方は背中を一突きされ、亡くなっているというもの。
死亡推定時刻が、大凡二十時間ずれている事から、妻が帰宅後に殺されたか、何らかの理由で監禁後、殺害されたものとして捜査は進められていた。因みに、現場付近で不審者の目撃情報がない事から、監禁後、殺害されたものと視られている。
更に妻の遺体が夫の遺体に重なり合うようになっている事から、犯人が何らかの意図を持って、このような殺害現場を作りだしたと思われる。また、夫の遺体状況から、怨恨の線で捜査を進めていた。
ここで浮上したのが夫の浮気相手である。しかし、事件当時その浮気相手は仕事中であり、アリバイが成立した。
次に嫌疑を掛けられたのは、夫婦の息子達。しかし、遺体の第一発見者である高校二年生の兄は、事件当時、部活の合宿に参加しておりアリバイが成立。また高校一年生の弟も、友人達と共に外泊していた事から、アリバイが成立した。
事件現場となった自宅は余すことなく施錠されており、密室状態であることから、浮気相手の犯行はほぼ不可能。そこで、鍵を持っている息子二人が今現在、容疑者に挙げられていた。とはいえ、彼らもアリバイが成立している。普通に考えれば犯行は不可能だ。
しかし、夜な夜な息子と父親が口論している声が近所中に響いていた事から、動機が浮き彫りとなり、息子二人は現在第一の容疑者として疑われていた。
「困ってるんでしょ? 解決してあげる」
「ほん、とうに……?」
彼の言葉は甘美に注がれる。それが分かっているのかいないのか。緩慢に動く唇を追うことしか私には出来なかった。
「犯人、今ココにいるんだよ。ああ、立たなくていいよ。彼女には何にも出来ないから」
足に力を籠め、警戒を強めた瞬間。彼はそれを見透かしたように告げる。その言葉に大人しく座り直し、私は彼を真っすぐ見据えた。
「死んでる、ってこと?」
「そう。端的に言えば犯人は奥さんだよ」
「待って、彼女の背中には包丁が刺さってたんだよ? そんなの不可能じゃない!」
「それがこの事件のミソで、彼女の作戦だったんだ」
不可能だと思った。周辺に荒らされた跡はあれど、何か企てれるような物はなかった筈。それを、一介の主婦がどうやって『殺人』に見えるように『自殺』出来たというんだ。