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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「檻の中で繋がった縁は夫婦の絆に彩られる」
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第12話「嘘偽り」

「この間とは全然違うね」


「こんな態度で、交渉に応じてくれるわけないでしょ」


「それもそうだけど……一人称まで違うし……」



「〝俺〟は使えないし、〝私〟なんて1番バカにしてるように見えるじゃん」


 たしかに。なんて唇の裏で唱える。勿論、それが彼に届くことはなかった。


「……凄かったね。私じゃ、ああは出来なかった」


「前、本で読んだのを実践しただけ。『強盗犯を撲滅する十の秘密』ってやつ」


「そんな本があるんだ!」


「嘘だけど」


「嘘なの!?」


「アンタよく馬鹿正直って言われるでしょ?」


 返す言葉がない。口を噤むも彼は変わらず熱いお茶を啜っていた。


「話がないなら帰ってくれない? 俺、これから友達来るから部屋片付けないと」


 以前とは違いニコリともしない彼に違和感を覚える。この間の彼の雰囲気とはまるで別人のような表情や仕草に、動揺を隠せない。

 いくら嘘吐きといえど、こんなに変わるものなのだろうか。些か疑問を感じながら私は口を開いた。


「それは嘘だよね?」


「なんで?」


「さっき帰って来た時、買い物袋持ってたでしょ? 中身は人参と玉ねぎと牛乳。友達が来る予定ならお菓子とか買って来るんじゃない?」


「もう買ってる可能性は考えてなかったの?」


「ウッ……でもそれなら買い物なんて行かないだろうし……」


「夕飯を振舞うのかもよ?」


「朝から夕飯の話!?」


「馬鹿では無いみたいで良かったよ。じゃあ早く済ましてくれない?」


 抑揚など無い淡々とした口調で先を促す彼。会話の意図は掴めなかったが、話をしてくれる意思はあるようで安堵した。


「それじゃ名前と年齢を」


相原(あいはら) (かなで)。二十歳」


「えっと……嘘、だよね?」


「そう思うなら訊くなよ。名前と歳くらい明日香に聞いて知ってんだろ」


「そうだけど、そういう問題じゃないって言うか……本当は署までご同行願いたいって言うか……」


「チッ……狼谷真空、高二。あとは何?」


 面倒臭い、とでも言いたげに顔を顰めると、彼は観念したかのようにボソボソと質問に答える。私だって面倒臭いんだよ、と怒りが湧いてきたがそれでは話が進まない。グッと堪え事情聴取を続けた。


「なんであの時あそこにいたの?」


「バイト代出たから金を下ろしに」


「バイトしてないのに?」


「んなことまで知ってんのかよ」


「大体のことは犬養さんに……」


「あのババア……アンタを尾けてたんだよ」


「何で……そういえば、どうして名前も知ってたの?」


「アンタ、銀行行く前にコンビニ寄って、人にぶつかった挙句、警察手帳落としただろ」


「あ、うん。拾って貰って……」


「それ俺。あと無防備過ぎ」


「それで普通覚えて無くない!?」


「事実、覚えてただろ」


「そ、う、だけど……じゃあ私のこと尾けてたのはどうして?」


「アンタさ、俺が今言ったこと、全部本当だと思ってんの?」


「え? 違うの?」


「もう少し他人を疑うこと覚えたら? 人は嘘だろうが真実だろうが、自分が信じたい方しか信じないんだから」


「何それ……人は人を信じる生き物だよ。少なくとも私は人を信じたいと思ってる」


「ふーん。だから俺の事も信じるの?」


「勿論。私は命を助けてもらったし、そんな人が悪い人だと思わない。それに虚言壁があるみたいだけど、今はこうして応じてくれてるじゃない」


「じゃあ俺がこれから言う事も信じるの?」


 彼は揶揄するように私に訊ねるも、その目は疑いを向けてはいない。あくまで確認するかのような問い掛けに私は迷いなく頷いた。

 それを確認すると彼はゆっくり口を開く。まるでスローモーションのようなその動きは本当に滑らかで、彼の言葉を待つだけにも関わらず、私は緊張していた。










「俺、幽霊が見えるんだよね」


 嘘。本当。どちらとも取れない彼の言葉に、私はただ目を瞠るばかりだった。

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