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夢巡り、天の川号と共に  作者: ジェムシリカ
1章 夢という名の世界より
6/13

2話 違う常識

(なっ、なんとか木に捕まらないとっ!!


どうにか体の体勢を立て直そうとする。

だが空気抵抗が邪魔をしているのだろうか、体は全く言うことを聞かない。

リンは藁にもすがる思いで、必死に木を掴もうとしていた。

その刹那、リンはそのフワッとした空中での感覚に既視感を覚える。


昔、同じ経験をしたという既視感。

地面に近付くほど、記憶は深く思い出される。


いつ頃だったろうか。

そうだ、丁度七歳の頃。

これ程に大きい木では無いけど、あの頃の自分には十分大きい木に登っていた。

木に映る色合い……夕暮れ時……。


思い出すにつれて、その時の周りの記憶……例えば自分がどうだったとか、どこに居たとかがリンの中で鮮明に蘇っていた。

だが、どうしてだろうか。それでも親の事も友人がいたのかさえも分からない。

ただ、その日に限ってのことだけ。


でも覚えている……。

公園の木から落ちた後、誰かに助けられた。

そうその時に、確かに声を掛けられた。


「リン、大丈夫っ!?」


自分の名前を呼ぶ誰かの声……誰の声?

手を伸ばせば、分かる……のかな。



「リン!しっかりっ!!」


「……んっ…」


目を開けると、すぐ目の前にミルのとても心配そうな表情があった。


「……み、ミル?」


目線で周囲を見回す。さっきまでずっと下に見ていた地面が、すぐそばに見える。

あぁ、助かったのか。

そう理解すると、急に体中に血が戻った様に火照り出した。少し暑い位に。


「良かった……」


そう言うと、リンを胸の前で抱えていたミルは音も無く地面に崩れ落ちた。


「そ、その……勝手にどっか行って、ごめんなさい……」


怒られるかと思って、リンの方から顔をそらす。しかし怒られるどころか、むしろ上からギュッと抱きしめられた。


「本当に、びっくりしたんだから」


視界の片隅には、さっきの雛とその親らしき姿が見える。赤ん坊も親に無事助けられたようだ。


「それにしても、木に登ろうなんて……リンは意外とアグレッシブというか……」


「そ、それはその」


「巣から落ちた子どもを、巣に帰そうとしてくれたのですね」


肩に赤ん坊を乗せた親が、リンに話しかける。髪の長さやその顔立ちから見て、母親だろうか。


「は、はいっ!」


声を掛けられて、びくっとリンは反応する。


「すいません、わざわざありがとうございます」


丁寧に彼女は礼をした。


「い、いえこちらこそ、お子さんを危ない目に合わせてしまってすいませんっ!!」


リンはミルの側からスッと立ち上がり、その母親よりもずっと深く頭を下げた。


「いいんですよ。ほら、娘もあなたのこと気に入ったようですし……」


ピィーー!と鳴きながら小さな翼を広げて、その赤ん坊がリンの方に飛んでくる。

頭を撫でてあげると、また愛らしい鳴き声で彼女の頰に擦り寄った。


「それに、人間にもあの人の他に親切にしてくれる方がいるというのが分かったんですから」


「あの人?」


「リン。多分、あの人っていうのがこの夢を見てる人かもしれない」


ミルもその場に立つと、彼女から聞いた手掛かりについてをリンに軽く話した。


「お二人は彼を捜しているのですか?」


「はい」


声を揃えて二人は答える。


「それなら、あなた方が来た方向をそのまま進んで下さい。すると森を抜け、丘が見えます」


翼を向けて、その方向を指し示す。


「その丘の上に立つ風車小屋。そこに彼は住んでいます」


「すいません、ありがとうございます!」


「一緒に行ければ幸いなんですが……」


「いえいえ、ここまでで十分です!」


気を付けて下さいねという優しい声と、赤ん坊の鳴き声を背に彼女達はその場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そういえば」


リンは思い出したかの様に声を上げた。


「うん?」


「私、思い出しました。って言っても、ほんの一部……」


「えっ!?」


目を見開いて、驚いた様子を見せるミル。


「木から、落ちた時……その、前にもこんな経験をしたかの様な」


リンは表現できない感覚を、身振り手振りでなんとか伝えようとする。


「小さい頃夕暮れ時の公園で、木から落ちて……その後誰かに助けられた?」


ミルがリンの言った事を繰り返す。彼女は頷きながら、言葉を続けた。


「えと、まさにミルが助けたみたいに、お姫様抱っこで助けられた思い出……だったかな?」


「ボクみたいに、お姫様抱っこして……お姫様抱っこ!?」


ミルは自分がやった事を思い出しては、首の後ろに手を当て、その視線を泳がせる。

リンは、そんな車掌の様子をジッと見た。

しばらくの沈黙の後、二人の視線が合う。

沈黙にしびれを切らした様に、ミルは咳払いをしながら再び口を開いた。


「えーと、それで、他に何か思い出したかい?」


「うーん……」


助けてくれたその人の顔を思い出そうとする。しかし、まるで靄がかかった様にその輪郭を思い出せない。

リンは、顔を横に振る。

ミルはそっか、と軽く溜め息を吐いた。


「まあ、これからゆっくり思い出せるはずだから大丈夫だよ」


「うん……」


ミルにそう言われたものの、どうにも、その人が彼女の心には引っかかった。

しかし、思い出そうとすればするほどに、その記憶に想像か、あるいは靄がかかっていく。

途中で諦める様に、リンは話題を移した。


「ところでミル、さっきの人を知ってる様だったけど」


「あー、あの人はリンがいなくなった後、しばらく探していた時に会ったんだ」


ミルは改めて、その時の会話を回想した。

会った経緯や、道中で聞いたこの夢を見てる人間だと思われる人物についての事。

この世界の背景についても聞いたそうだ。


「そうそう。彼らは、この世界では魔物というらしいね」


「魔物?」


確かに二人とは違い、腕は翼になっていた。足も、例えば鳥類のそれに似た形をしていたし、肌も露出部分は少なく、羽毛が生えていた。


「初めて会った時彼女はボクに、自分がハーピーという魔物である事を告げたんだ」


初対面での様子は、少しこちらを睨んでいるかの様な、怯えた様な、そんな様子だったとミルは言う。


「この世界では、人間は彼らみたいな魔物を忌み嫌ってるらしい。見つけたら、それこそ始末するほどに」


「そう、なんですね」


少し寂しげに、少女は来た方向を振り向いた。

さっきの場所から随分歩いたので、勿論そこに彼らの姿は無い。


「良い人達だったのに……」


自分とは関係が無くとも、そんな事を聞いてなんとも思わない訳が無い。

リンは歯を食いしばり、顔をちょっとだけうつ向かせた。

二人が歩く世界は夢の世界。

それは、この夢を見ている人間の現実的なそれを具現した世界に過ぎないけれど。

だからこそ、より、彼らが言っていた『あの人』に会おうという気持ちが増していった。


「リン、そろそろ森を抜けるよ」


辺りは既にオレンジ色に染まっていた。

森を抜けた先にあった丘も、夕暮れの空を映すかのような色合いをしていた。

そんな丘の上に一つだけ、ポツンと小屋が立っている。絵になる光景に、改めてリンは息を呑んだ。


「さぁ目標は後少し、行こう!」


二人は、丘の上にそびえ立つ風車小屋に向かう。そこに、この夢を見ている人間がいると信じて。

ミルのうろたえてる感じが……いい!

今後の更新は不定期になります。

Twitter、活動報告で告知するのでこれからもよろしくですm(_ _)m

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