偽りの身体と本物の心
目が覚めたら僕らは知らない世界にいた。
見たことのない草花、嗅いだことのない匂い、
僕らの世界には無かった空に浮かぶもう1つの月。
見るもの全てが異なっていた。
そう、それは自分自身でさえも……。
僕ら兄妹は見知らぬ世界で、見知らぬ身体で目が覚めたんだ。
それでも不思議な事に妹の事だけは妹だと判った。
見た目なんて全く違うのに、妹も僕を兄と認識出来ていた。
「お兄ちゃん、私たちどうなっちゃったの?」
「僕にも判らないよ……とにかく人を探そう」
僕らは手を繋ぎ、歩き出す。
不安や恐れはあるが、それよりも僕の胸は喧しいくらい鳴っていた。
太陽だと思う星はちょうど真上に来ている、多分お昼くらいだろう。
この世界に昼という言葉があるのかは知らないけど、
僕はこの世界を知らないから昼と言っておく。
妹の手は軽く汗ばみ、不安そうなのが見て判る。
だから僕は兄としての義務を果たすだけさ。
妹の手を引き、静かに、力強く抱きしめる。
顎に触れる髪がこそばゆくて、鼻を楽しませてくれる妹の匂いが、
僕の中に潜むどす黒い何かを大きくしていく……。
あぁ……狂おしいほど愛おしい…………。
「僕がいるから大丈夫だよ、安心して」
妹の慎ましやかな胸の感触を感じながら、妹の細く綺麗な髪に触れ、
僕は幸せの絶頂を噛み締めていた。
すると、妹は僕の背に手を回し、ギュッと抱きついてくる。
「うん、お兄ちゃん……大好き」
頬を僕の胸にこすりつけ、上気した顔を向けてくる。
肌と肌ははぴったりとくっつき、僕らの鼓動は互いに伝わっていた。
そう、僕らは愛し合っているんだ。
それは許されないこと、知られてはいけないこと……。
僕らはずっと隠れて愛し合ってきたんだ。
「……大好きだよ」
僕は妹と唇を重ねる。
身体はいつもと違うけど、妹の唇の感触はいつもと同じで、
僕らは互いの口内を舌で確かめ合い、夢中で味わう。
あぁ……愛おしい……狂おしいほど愛おしい……。
唇が離れると、濡れた唇に空気があたり、ひんやりとする。
それが少し寂しくて、僕らは決めていたかのように再び求め合う。
長い長い時を妹の口内で過ごし、僕らは強く抱き締め合っていた。
いつまでもこうしていたかったが、そうもいかず、
僕らは再び歩き出す。
しかし、行けども行けども誰もいない。
この世界はまるで、僕らしかいないみたいだった。
でも、僕らはそれでも良かった。
やっと隠すことなく愛し合える。
僕らは二人で生きてゆく。
この終わりの先にあった、僕らだけの世界で……。