プロローグ 契約事項
一年ほど、前の話になる。学校の『秘密』の鍵であるその人は、私に微笑みかけて尋ねた。
「君が欲しいものは、何?」
今までずっと、予感めいたものはあった。この学校はどこかおかしい。そして、私がそれを知った時には全てが手遅れだった。助けなどない。先生なんか当てにならない。この事は普通の生徒に教えるわけにはいかなかった。何故なら――それこそが、一番恐るべき事態だから。逆に言えば、簡単に話すことができるような内容ならば、この学校はこんなに異常な状況に陥ったりしなかった。私の友達の中でも、この事を知っている子はいない。皆、私のことは普通の、ちょっと不思議なクラスメイトくらいにしか思っていないようだから。私にとってこれ以上ありがたい誤解はないので、特に訂正することもしなかった。
もともと、目立つ存在でもなかった私には、欲しいものなら山のようにあった。権力、知識、財産。だけど、その中のどれよりも欲しいものが、あった。
「私の欲しいものは……」
入学して、ずっと感じていた違和感。今、私はその奥へと入ろうとしているということを感じて、思わず身震いする。
「スリル」
まだ、足りない。どこか麻痺した私の感覚では、これくらいのスリルは退屈でしかない。それもこれも『日常』になりつつあるのだから。
「じゃあ、君にあげるよ」
その人は、微笑んだまま恐ろしいことを口にした。
「君が卒業するまで、退屈させない。君がどういう状況にあっても、地の果てまで追いかけてあげる」
それが契約だった。