第六話「後始末─その6」
がたんがたんと揺れる馬車の中、少女は隙間から景色を眺めていた。
馬車に乗って王都内を移動するのは、彼女にとって初めての経験だった。子供のころから駆け回った王都は、荷車の中で隙間から覗く風景からはまるで別の世界のように見えた。
じっと外を凝視する彼女を見て、相席している女中が咳払いをした。
「お嬢様。外の方には顔を出さないでください」
「わかっていますよ。私だけに迷惑がかかるのならともかく。そちらにもご迷惑が掛かりますからね。
あと、私はお嬢様じゃなくて奴隷なんですから」
「自分を卑下なさらないでください。
それに、私に言葉を改める必要はございません
投げやりな態度をする少女を非難するように、女中は眉をひそめた。少女は困ったように苦笑いを浮かべた後、植物で編んだ幕の隙間から再び王都を眺めた。
少女が顔を出すことを許されないのは、彼女が指名手配されているためだ。変装するために、一度髪を切っていたが、今は逆にカツラをかぶることで長い髪になっている。
化粧も複雑に行い、人相を変えているが、知っている人間が見たら彼女の正体に気づくだろう。
たくさんの思い出が詰まった王都だが、恐らく彼女がここに足を踏み入れることは二度とないだろう。
哀愁の思いを抱きながら、彼女は買ってもらったパンを口にほおばった。
「拗ねてんだよ、そいつは」
突然粗野な声が馬車内に響き、女中は眉をひそめて不機嫌そうな表情を作った。声は前方から聞こえた。御者が中の会話を聞いて、声をかけたようだ。
「クロード。お嬢様になんていう態度ですか」
「いいよ。クロードには普段通りの方がうれしいし」
「……普段からこんな態度なのですか?」
御者のクロードは、普段の黒色槍騎兵団の制服から、簡素な旅装束に変えていた。慣れた手つきで馬を捌き、王都の人波を避けて門へと進んでいく。
「たっく、好き勝手しやがったと思ったら……今度はお嬢様と来たもんだ。
あそこで売っているパンが食いたいだの」
「わがままでわるかったね。どうしてもあそこじゃなきゃいけなかったんだ」
不機嫌そうにパンを頬張る少女の様子を、覗き込んだクロードは高々と笑った。女中はそんなクロードの態度や、マナーのなっていない少女の仕草に眉をひそめた。
「お嬢様。これからはテーブルマナーも学んでもらいますからね」
「うっ……はい」
女中に釘を刺され、少女はバツがわるそうにパンを口の中に詰め込んだ。その姿を見て、女中はさらに嘆息を深めた。
女中の視線を避けるように外へと目をやった少女は、ある人たちが目に入り、食い入るようにそちらを見つめた。
視線の先にはジャケットを羽織った黒髪の青年──圭がいた。圭は金髪の男装の麗人──アニェーゼに声をかけられて振り向いた。少女から何を言っているかは聞こえない。しかし、アニェーゼは決まりが悪い様に視線を逸らしながら圭に言葉を投げかけている。
圭は一瞬きょとんとしたが、落ち着きがない様子で頭を掻きながら返事をしている。
短い間だったが、自分を助けてくれた人達の無事を確認することができて、少女は満足した。外を眺めるのをやめて、馬車に落ち着いて座った。
養父たちの仇を取るため、【復讐代行】のための資金を得るために、少女は自分を売った。
『龍』と名乗る男に連れられた闇のオークション、そこで売られた人間の将来は保証されない。どんな目に会わされようとも、後悔しない。そう決意した少女は、彼女の血縁者を名乗る者たちに買われた。
復讐のためにすべてを諦めたはずだが、助かってしまった。だが、元通りになることは決してない。
どうするか悩んだ少女は、自分を捨てることにした。
自分の復讐のために、彼は少なくない金を出したのだから、せめて彼らのために生きることにした。
それでも、かつての自分に優しくしてくれた人たちがどうなったかは知りたかった。そして、それが知れた以上、彼女の物語はおしまいだ。
梅雨晴れの空は明るく、ラーサス神の光が王都を照らしていた。
せめて彼らに祝福がある様に、そうベアータだった少女は祈った。
──代行人は上官殺しを裁く
──了
第二部はこれで完結。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
なんとか区切りの良いところまで作れたのは、ブックマークや評価を入れてくださった方、読んでくださってくれた皆様のおかげです。
話を作って完結させるっていうのはものすごい労力なんだなと、つくづく思いました。
また思いついたら続きを書こうと思いますが、ひとまずは完結にします。
別に思いついているネタで連載を先に作るとは思いますので、
もしよければそちらもよんでいただければと思います。
本当にありがとうございました。
また別の作品でお会いできれば幸いです。




