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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第二部「騎士団崩壊の後始末」
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第四話「後始末─その4」

「……昼か」


 木製の窓から差し込まれる光に刺激され、圭は目を覚ました。体に染みついた習性で、枕元に置いてある腕時計を見ると、時刻は12時を指していた。

 アニェーゼと喧嘩別れし、アジトから家に戻ってきたころには1時を指していた。その後もすぐに寝ず、部屋にあったエールを飲みほしてから寝た。エールを飲み干すのに対して、時間をかけてはいないだろう。よって少なく、見積もっても10時間は寝ていたことになる。

 圭は自分が考える以上に、肉体的にも、精神的にもかなり疲れていた。腕を回して硬くなった体をほぐすと、関節から音が鳴り響いた。


「太陽は偉大だな」


 窓を開いて太陽光を取り入れると、部屋の中が一気に明るくなった。温かい日光を浴びて、思わず圭は口から感想がこぼれた。そして、差し込まれた日光に時計を晒した。普段使いでも十分充電はできているだろうが、なんとなくこの作業を圭は毎日していた。


「いや、この世界では神様か」


 六神教において、主神ラーサスは太陽と同一の存在だ。天へと昇った六神たちは、星となり今も人類を見守っているという事になっている。眩く輝く太陽に掌を向け、日射を浴びて圭は目を細めた。


「はあ」


 そして、陰鬱にため息をつくと着替えを始めた。いくら復讐代行で金を手に入れたといっても、隠れ家を所有しアリスや<碧い牙>といった扶養家族を持つ圭に金銭的な余裕はない。自由気ままなフリーターだが、だらだらと働かないですむ身分ではないのだ。


(それに、アニが抜けるなら選べる仕事も変わるな)


 暗殺技術を持ち、見た目麗しい女性であるアニェーゼの存在は、仕事においてかなり有益だった。切った張ったといった荒事ならルーファスと圭で行えるが、特定のターゲットを狙うような繊細な仕事にアニェーゼは不可欠だった。

 女性と言う点ならラーフィリスでも可能だっただろうが、たとえ優れた暗殺技術を持っても圭はラーフィリスにそういうことをさせるつもりはなかった。


(……アニの奴、馬鹿なことを仕出かさないといいが)


 心の中で圭は思ったが、あり得ないと判断し苦笑した。裏社会で生きてきたアニェーゼが、【復讐代行】の事を口走るような愚かな行動に出るわけがない。アニェーゼの事が頭から離れない現状に、圭は苦笑が漏れた。自分が思った以上に彼女を信用し、重用していたと気づいたからだ。


(失ってから気づく、だなんてよくあるけど……)


 日本からこの異世界に来た時も、故郷のありがたみを身に染みて味合わされた。その時と同じようなやるせないような虚脱感を感じさせる感触を、圭は苦笑いと共に受け入れた。




*****




 圭が支度を済ませて、食堂に降りるとそこには活気あふれる世界が広がっていた。


「この棍棒はヴェルサスルスの骨と牙を使った良質な物だよ!」

「ひょー、鋭い牙がたまんねえなあ」


 普段食事を広げているテーブルの上には、食べることができないであろう動物の骨や牙で作られた武器が並ばれていた。

 ヴェルサスルスとは4足歩行の大型の哺乳類で、全長は3メートルを優に超える危険な生命だ。地球上の生物で比較することが難しく、圭に言わせれば大型の虎が不細工な顔立ちをしているといった具合だ。ただし、その俊敏性は豹に近い。

 普通の大人なら、数人がかかりで囲わなければ危険すぎる動物だが、ヴェルサスルスから取れる素材は様々なものに用いることができる。武器もその中の一つで、ヴェルサスルスから作られる棍棒や剣は、戦いに関係する職業の人間にとってあこがれの一品である。


 そんな良質な武器である、ヴェルサスルスの棍棒を手に持った猫耳の少女は、得意げに口上を言い放つと、周囲の男たちを煽り立てた。

 猫耳の少女はプリムといい、圭にとって親しい友人の一人だ。しかし、彼女が武器商人に転職したという話は聞いたことがない。もちろん、武器を売るのは商人ギルドか、鍛冶屋ギルドを通さなければならないので、彼女がやっているのはモグリによる闇商売となる。


 いったい何をしているのかと不思議に思いつつ圭が近づくと、プリムや男たちも気づいて口々に挨拶をした。


「お、ケイちゃん。おはよー」

「おいコック、寝坊すんなよ」

「すぐに飯作れよ、コック」

「調子に乗んな、アホんだら」


 圭は勝手なことを言う男達の頭をひっぱたきながら、プリムへと近づいた。ぴょこぴょこ動く猫耳を一撫でして、挨拶代わりとした。

 猫耳を堪能してから、圭は並んでいる武器を見る。すると、すぐに共通点に気づいた。どれもこれも動物由来の武器であり、青銅や鉄を使った武器が見られなかったのだ。

 ヴェルサスルスの棍棒等、動物や魔物──細かい分類基準を圭は知らないが──を素材とした武器は値段の振れ幅が金属製の武器に比べて非常に大きい。それは、金属製の武器を安定というなら、生物由来の武器は一期一会であるためだ。


 金属製の武器の出来は、多くが鍛造する鍛冶師の腕に依存する。それは金属の質がある程度一定であることに起因する。当然、素材によるばらつきは多少あるが、それは生物由来の素材と比較すると雲泥の差だ。金属製の武器では、出来栄えの5割が素材由来だとするならば、生物由来の武器は9割が素材に依存している。

 軍隊のように安定的に同じ性質の武器を求める場合は金属、冒険者や傭兵と言った特殊な戦闘職は生物由来の素材を求めることが常だ。


「しかし、何の騒ぎだこれ?」


 圭は武器を手に取り眺めながら、あきれた様子でプリムに尋ねる。プリムはにやりと笑いながら棍棒をくるりと回した。


「ケイちゃんは寝ていて知らないと思うけど。今、大変なことになってるの」

「……大変って何が?」


 大変なことが起きている、恐らくは黒色槍騎兵団の事だろう。圭は不自然過ぎないくらいに驚くことにした。


「実はよォ。黒色槍騎兵団の副団長含め、何人もの騎士が一晩で殺されちまったのよ!

今思うと、暇を出されてよかったぜ……」


 黒色槍騎兵団で奉公していた男は、わざとらしく体を震わせながら恐怖を表現する。ついでにくねくねと腰を揺らせて鬱陶しいことこの上なかった。


「気持ちわりぃよ」

「痛っ!」

 

 余りに気持ち悪かったためか、腰を揺らしていた男は背中から叩かれた。


「ケイ、あんま驚かねえな」

「いや、驚きはしたんだが。こいつが気持ち悪くて」

「確かに気持ち悪い」

「顔も気持ち悪い」

「おいやめろ、その言葉は俺に効く」


 圭は驚く演技をしようと思っていたが、男の気持ち悪さに唖然としてしまった。しかし、結果的には不自然にならないですんだため、わずかばかりは感謝した。


「いやいや、ケイちゃんはびっくりするわけないじゃん」

「……なんで?」


 そんな圭の思いを切り落とすように、プリムがあっけらかんとした声で驚くことを言った。一瞬だけ、圭は言葉に詰まったが何とかプリムに理由を問いただす。


「だって、ケイちゃんが興味を抱いた事って大抵悪化するし」

「……それひどくないか?」


 白絹屋の時や、今回の黒色槍騎兵団の時のように、圭が興味を抱いた事象は続きがある。プリムはそのように学習知っていたため、そのような感想が生まれた。一方で、圭は個々のところ話題になるような事件を仕事にしすぎたと反省していた。

 しばらくは話題に上がるような仕事は避けるべきだろう、圭はそう決意した。しかし、アニェーゼが抜ける以上、仕事は選ぶようになるため、結果的にそうなるだろうとも思った。


「んで。黒色槍騎兵団の話と、この武器は何の関係があるんだ?」

「よくぞ聞いてくれました!

これは自衛で使うの」

「自衛?」


 えへんと言わんばかりに胸を張りながら、プリムは手に持った棍棒を振った。横にいた男にぶつかりそうになり、周囲の人間は慌ててプリムから離れた。

 圭は周囲とは異なり、タイミングを見てプリムに近いた。そして彼女の手をつかみ、棍棒を振り回すのを止めた。


「黒色槍騎兵団が機能不全になったことで、急速に王都の治安が悪化したの。近衛騎士も巡回をしてるけど、不安は拭いきれない……。

 それで自警団や冒険者ギルドが巡回の人員を急遽募集中!

 参加要項は自衛できる武器と健康的な肉体! 賃金は何と3ソロヴァ銀貨!」

「ほう、それはなかなかだな」


 日雇いの給与がソロヴァ銀貨2枚前後であることを考えると、かなりわりの良い給与だった。条件さえ満たせていれば、その日暮らしの者たちはこぞって参加するだろう。

 どこから聞いたのか、宣伝員のような口調で話すプリムの言葉を聞き、ようやく彼女が集めてきた武器がどういう意味を持っているか理解した。


「だから、こういう武器なのか」

「そうそう、わかる?」


 安定した金額である金属製の武器に比べて、生物由来の武器は金額の振れ幅が大きい。需要と供給のバランスで大きく値段が変化することが特徴だ。例えば騎士が使うような幅広の鉄製の剣は新品なら64枚のソロヴァ銀貨を必要とするだろう。一方で大型の動物の骨で作った棍棒程度なら、安い時に買えばソロヴァ銀貨数枚程度で買える。今回の仕事に間に合わせの武器を用意することができ、数日の働きで元を取れる。

 それに、治安の悪化はスリや強盗といった危険性も増加させる。護身用の武器として購入するのも悪くないだろう。


「いつから用意してたんだ?」

「ケイちゃんが黒色槍騎兵団の話を気にした日から」


 未来を知っているとしか思えないタイミングで、武器の用意を始めているプリムに圭は脱帽した。

 自前の武器を持っている圭が、武器のオークションに参加しても邪魔なだけなので、プリムたちから離れた。ついでに昼食を作る様に要求されたので、食材と金を決め圭はキッチンに立った。


「ふっ」


 喧々囂々(けんけんごうごう)と騒ぎ立てながら武器を競り落としていく彼らを見て、圭は思わず笑みがこぼれた。


『もし、黒色槍騎兵団がつぶれたらどうなってしまうんだ?』


 この事件を捜査している途中で、ルーファスにそう問いかけられた。その時、圭は問題点をすり替えて誤魔化した。だが、今なら自信をもって『問題ない』と回答できる。

 きっと、王都はしばらく混乱するだろう。不利益を被る者もいるかもしれないし、命を落とす結果もあるかもしれない。

 だけど、そのことを慮って動かないのは、傲慢だし間違っているのだろう。

 

 一人一人に人生があり、それぞれが主役なのだ。お偉そうな騎士団が亡びようとも、住んでいる人々はそれぞれ強く生きていくだろう。治安だの、影響がどうだの、何様だというのだ。自分は依頼を受け、依頼主の恨みを晴らす、唯の【復讐代行人】なのだ。


 楽しそうに武器を選んでいる騒がしい住民を見ながら、圭はチャーハンを作ることにした。



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