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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第一部「異世界人、絹屋の娘の死に興味を抱く」
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第四話


 圭達はミートパイを食べながら、くだらない話をしていた。せっかくおいしいものを食べているのに、仕事の話をしては飯がまずくなる。そう思ったため本題に入らず、意味のない話を続けていた。


「最近、変わった変質者が出てきてな……逮捕できなくて困っている」


 ぽろぽろとパイ生地を畳の上にこぼしながら、ルーファスは悩ましげな声を出した。圭は棚に入れていたチリ紙を取り出し、こぼれたパイ生地をつまんで載せていく。


「どんな変質者なんだい?」


 圭が必死に綺麗にしているにも関わらず、アニェーゼも気にせずパイを食べていくため、ぽろぽろと破片がこぼれていった。


「おい、気を使え」


 圭は注意をするが、ルーファスは眉を少し上げただけだ。アニェーゼに至っては何も気にしていない。


「パイ食べてるんだから仕方ないだろ?

んで、その変質者っていうのは美人の近くに近づいて、『見抜きいいっすか?』と聞くらしいんだが……」

「仕方なくねえよ、紙を床に置け。

畳にパイ生地の破片が入り込むと、掃除できないんだ」


 掃除機もないしな、と圭はつぶやく。聞き覚えのないフレーズに3人は顔を見合わせる。


「まぁまぁ、タタミの上に落ちた生地は後で払えばいいじゃないか。

紙をそんなのに使うだなんてもったいないよ」


 ラーフィリスは膝の上に布を引き、破片をほとんど零さないように上品に食べていた。パイの油を吸っていく紙を見て、もったいないと圭に言った。

 この世界では、まだまだ紙の価格が高く、間違ってもゴミ受けなどで使うようなものではなかった。特に圭が出した紙は、羊皮紙ではなく、食物繊維で作られたさらに貴重なものだ。サイズにもよるが、羊皮紙は1枚ソロヴァ大銅貨1枚、紙は2枚程度で購入できる。


「払っただけじゃ、隙間に入ったパイ屑が取れないだろ。 虫が寄ってきても困る」

「本当に圭は変わってるな。 まあ、安心しろよ。『そよ風よ!』」

「ばっか!」


 ルーファスは人差し指に中指を添えて、空中で横に振る。そして、力ある言葉を放つと、風が舞い畳の上に落ちていたゴミが浮かび上がった。そのまま、風に流されて地面へと落下していく。

 それと同時に、ラーフィリスのスカートが舞い上がり、中身が丸見えになった。


「………」


 3人は微妙な表情で固まってしまった。なんと声をかければいいかわからない。ラーフィリスはすくっと、立ち上がると、ルーファスの頭に拳骨を落とした。




─────




 パイを食べ終わり、腹も膨れたところで圭は本題に入ることにした。


「さて、今日集まってもらったのはほかでもない。

白絹屋の娘が死んだらしい」


 本題に入ったことで、全員姿勢を正す。ルーファスはあまりにタイムリーな話で、嫌な顔をした。


「ルーファス?」

「……ああ、その娘なら検死を立ち会ったぞ」


 ルーファスは少し戸惑いながらも、死体の様子を説明した。暴行を受けた後がある話をすると、女性陣は顔をしかめた。だが、この稼業についているだけあって、騒いだりはしなかった。女性が食い物にされることなんて、この業界ではよくあることだった。


「ふむ……やはり暴行を受けたのは事実なのか」

「ああ、ひどい話だ」


 ルーファスは痛ましげにうつむき、右手で額を覆った。


「で、強姦魔を殺す仕事が出ると?」


 アニェーゼは手についたパイ屑を払って畳の上に落とす。やる気があるのは歓迎だが、まだ畳を汚す気なのかと圭はイラッとした。


「恐らく、な」

「また、ケイの勘?まあ、よく当たるみたいだからいいけど」


 アニェーゼは「しょうがないか」と言いながらも、乗り気だった。


「ケイ、実は……」

「まだ何かあるのか?」


 ルーファスは少し口ごもった後に、アイリス女が、男と一緒にいるのを見たことを話した。


「ほう、そいつはでかい情報だな」

「となると、その男が本性を現したってこと?」

「いや、そう安易に考えるのは釈然としないな。女衒だったのかもしれない」


 女性を惚れさせてだまし、ほかの男に売ったり、遊女に落としたりするような男はどこにでもいる。その男もそうだったのかもしれないと圭は推測した。


「『白の』、その男は顎に刀傷があった優男だよね?」

「ああ、そうだが?」


 ラーフィリスはルーファスに細かく特徴を聞く。その特徴は、ラーフィリスが酒場で見た取引をした男に非常に酷似していた。


「知ってるのか?」

「もしかしたらだけど」


 ラーフィリスは昨晩、その男に似た人物が酒場に来ていたことと、何らかの取引をしていたことを伝えた。


「なかなか、運命的なくらいに情報が入るね」

「これも……ラーサス神のお導きなのだろうか」


 アニェーゼは口笛を吹いて、感嘆の気持ちを示す。ルーファスは腕を組み、じっと考え込んだ。確かに、出来過ぎなくらいに情報がそろって来た。


「とりあえず、本当に同じ人物なのか確認をしないとね」


 ラーフィリスはルーファスに目配せをすると、彼は頷いて答えた。圭はじっと口を紡ぎ、頭の中で情報を整理している。


「よし、方針は決まった。まずは頬傷の男を探すぞ。ルルとラスはそいつを探してくれ。 アニは白絹屋の娘の足取りを洗ってほしい。俺は白絹屋に接触する」


 圭は自分の膝を叩いてから口を開くと、手早く全員に指示を出していく。


「待ってくれ、今回は殺しって話になりそうなんだ!

このまま行けば普通に裁ける可能性がある!」


 圭の言葉に食いつくようにルーファスが立ち上がる。裏の仕事になった場合、仇は取れるかもしれないが、悪行が表に出ることはない。犠牲者の名誉のためにも、表で裁けるほうがいいに決まっている、ルーファスはそう思っていた。


「そんときゃ、お前の手柄にしろよ、ルル。

調べておくことには、越したことはないだろ?」


 圭は興奮するルーファスを宥める。確かに表で裁けるのなら、それで構わないと圭は思っていた。だが、そうならないだろうと圭の勘が訴えていた。

 

「いいのか?」

「ちょっとまってよ、僕はタダ働きするのは嫌だよ」


 一方でアニェーゼは異議を出した。表の職業があるルーファスや、様々な稼ぎ手を持っている圭と違って、アニェーゼは表に出られない細工師のため、この稼業の稼ぎが重要であり、タダ働きをする余裕がなかった。

 またそれ以前に、この4人は別に仲良しグループなどではなく、あくまで復讐代行の仕事仲間だと彼女は考えていた。協力をするのは仕事のため、一方的に貸し借りを作るのは間違っていると思っていた。


「私はルルさんの貸しにしてもいいけど」


 ラーフィリスは圭と同じ考えで、とりあえず調べてみて仕事になれば良し、仕事にならなかったらルーファスの手柄になって良いと思っていた。最初からルーファスの手柄になるために調べてるわけではなく、仕事として調べているのだから構わない。調べたことが無駄になることだなんていくらでもある。今回はたまたま無駄になった情報がルーファスの役に立つ、それでいいじゃないかと彼女は判断した。


「わざわざ女衒を雇って女に乱暴して殺すような奴だ。

少なくとも金を持ってるやつだ。表で裁かれない可能性は高い……と思ってる。

特にお前んところは腐りまくってるからな」


 圭はルーファスを揶揄するように言いながら、顎で彼を示す。ルーファスは恥ずかしそうに赤面した。


「表で裁かれれば良し、そんときゃルルに貸しができるだけだ。

裁かれない悪なら……俺らの出番だ」


 リーダー扱いの圭が締めくくると、アニェーゼも不承不承ながら納得した。


「二日後に龍の会がある。 それまでには動きが出るさ」


 龍の会とは、復讐代行を行う裏組織である。圭はその組織に属しており、残りの3人は圭の協力者だ。


──晴らせぬ恨み、金次第で晴らして見せましょう。


 金と、正当な復讐理由があれば、必ず復讐対象を殺す。それが龍の会の理念であり、ただ一つの稼業だ。4人は立ち上がり、顔を各々隠して外へと向かう。最後に部屋を出たルーファスが、明かりのともった紐の火を吹き消した。


17/3/19 句読点追加

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