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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第二部「代行屋、騎士団長殺しを探る」
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第七話「ラーフィリスと騎士の娘。体を拭く」

 ラーフィリスの家で、ベアータは内職にいそしんでいた。内職と言っても、商売に使うものではなく、ラーフィリスが習慣的に行っているメンテナンスを代行しているだけに過ぎない。迷惑をかけている分、少しでも役に立とうというベアータの健気な行動だった。

 彼女は学んだ通りに、キックブーツと呼ばれる武器の手入れを行っていた。この武器はエルドラード神が使っていたとされていたもので、使い方は神殿で教わることができる。

 キックと名前がついている通り、足を主体で使う戦闘術だ。女性が護身で覚えるようなものではなく、危険な攻撃用の格闘術だ。硬質な魔獣の革を用いたキックブーツは、鋼鉄よりも頑丈で軽くなる。勢いをつけた回し蹴りは、確実に内蔵にダメージを与える。達人が使った業物では、人蹴りで内臓破裂による死に追い込むといわれている。

 ただでさえも危険なブーツだが、そのうえラーフィリスのキックブーツは特注なのか、足先から刃が出るような細工があった。ベアータは薄々と気づいていたが、アニェーゼだけでなくラーフィリスも表に出せない仕事をやっているようだった。つまりは間違いなくもケイもそうだろうと予想がついた。

 

 なお、ベアータは知らないがこのキックブーツは特注ではなく市販品である。エルドラード神殿には、裏エルドラード信仰があり、そちらでは彼氏の監禁方法から恋敵の殺害を主点に置いた刃付きのキックブーツの取り扱い方を学ぶ事ができる。


「ただいま」

「おかえりなさい。キックブーツの手入れやっておきました」

「ありがとう、ベアータ」


 ちょうどキックブーツの手入れが終わった段階でラーフィリスが帰って来た。雨でぬれた外套をベアータは受け取り、外套掛けに吊るした。ラーフィリスは水が入った木製のバケツを地面に置くと、真新しい布をベアータに渡した。よくわからないままベアータが布を受け取ると、桶に水を張っていく。


「体を拭ける様に水持ってきたから」

「えっ、うわぁ。ありがとございます」


 ソロヴァ王国は熱帯な気候をしているため、普通に過ごしていても汗をかく。今は梅雨の時期なため、湿度も高いため、不快度指数は非常に高かった。そんな気候であるため、市民はほぼ毎日、水浴か体を拭くことをしていた。雨に降られたのが最後だったベアータにとって、非常にありがたい申し出だった。


 気をつかってラーフィリスが顔をそらしてくれているので、ありがたくベアータは体を拭くことにした。彼女が早速上半身をはだけると、着やせするのか予想以上に豊満な胸があらわになる。

 いそいそと体を拭くベアータを見ないようにしつつ、手入れをしてもらったブーツを見た。真面目な性格なのか、想像以上にしっかりと手入れがされていた。


「ラーフィリスさんは、ケイさんとは長い付き合い何ですか?」

「ケイさんとは4年くらいになるかな」

「へー、長いんですね」

「そうだね、私にとっては唯一の家族かな」


 ラーフィリスにとって、ケイは家族であり、恩人であり、好きな人であった。家族愛に、尊敬の念に、親愛、照れ、様々な感情が混じりあった微笑みを浮かべた彼女は、同性も見惚れてしまうものだった。

 ベアータは思わずラーフィリスに見惚れてしまった。突然静かになったベアータを気にして、ラーフィリスは彼女の方を見てぎょっとした。騎士の従者らしい引き締まった体はさておき、着やせして気がつかなかった豊満な胸を見てしまった。


「あの、そんなに凝視されると恥ずかしんですけど……」

「……ああ、ごめん。やっぱり従者って鍛えているんだねって思ってね。

ちなみに、どんな鍛え方してたの?」

「えっと、普通に素振りとかですよ」

「そっか、素振りか……やっぱ筋を鍛えるのがいいのかな」

「そうですね、筋を鍛えるのが大切です」


 凝視するラーフィリスの視線を避けるように、ベアータは布で胸元を隠した。その仕草でようやく自分が他人の素肌を凝視していることに気づき、ラーフィリスは慌てて視線をそらした。なお、ラーフィリスが言う筋は胸筋であり、ベアータは筋肉についてである。


「えっと……アレスさんとはいつお知り合いになったんですか?」


 恥ずかしさをこらえるように、ベアータは話題を変えた。


「ア……レスね。

1年前にケイさんから紹介されたんだ」

「え! ケイさんが紹介した!?」

「……妙に食いつくね」


 目を輝かせて話を聞こうとするベアータに少し引きつつも、ラーフィリスはかつての出会いを思い出していた。

 アニェーゼとラーフィリスの出会いは、彼女が復讐代行の仕事を手伝うようになって1ヶ月程度先の話だ。彼女は知らないが、ラーフィリスを仲間にした以上、危険性を減らすために暗殺ができる仲間を増やそうと圭は考えていた。そして、タイミングよくアニェーゼと殺し合いを果たした圭は、彼女こそが求めていた戦力だと思い、スカウトをした。


「たしか、惚れ込んだって言っていたなぁ」

「惚れ込んだ!?」


 アニェーゼを仲間にした理由を圭に聞いたところ、「あいつは天才的な腕前を持ってるぞ。油断したら俺が死んでただろう。あの腕前に惚れ込んでスカウトしたんだ」と妙に自慢げに語っていた。

 その言葉に嘘はないだろう。なぜなら、アニェーゼが女だと気づいたのはラーフィリスのほうが先なくらいに、圭は彼女を男だと信じ切っていた。


「元々は勘違いで戦いあったらしいんだけど」

「殴り合いで友情が芽生えたんですね!」

「うぅん……そうかなあ?」

「しかしそうなると……。アレス×圭かと思ったんですけど……圭×アレスも捨てがたい……」


 ぶつぶつと妙な事をつぶやくベアータに、ラーフィリスは呆れた顔をした。どうやら体を拭き終わったようで、水が貼ってある桶をそのままにタオルにした布をぎゅっと握っている。


「終わったなら、私も体を拭くから桶の水替えるよ」

「は、はいィ! すみません」


 慌ててベアータはラーフィリスに桶を渡す。桶を受け取ったラーフィリスは、窓の下に人がいないのを確認してから水を外へ捨てた。水は重力に逆らわず地面に落下し、水をはねさせた。雨が降っているため、どこの地面も濡れており、ベアータが使った水がどこに行ったかはわからなくなってしまった。


「じゃあ、拭くから」

「はい」


 ベアータが視線をそらしたのを確認してから、ラーフィリスが体を拭き始めた。細い体に、やや膨らんだ胸部、年下だと思われるベアータに負けている体つきに、ラーフィリスはため息をついた。

 ベアータは彼女のため息を、普段とは異なる生活を取らされているせいだと勘違いした。騎士に見つかるとまずいという理由で匿われているが、いつまでも甘えていられない。


「あの、ラーフィリスさん。

いつまでもここに私がいたら迷惑だと思うんです」

「突然どうしたの?」

「迷惑しかかけていないのに、本当にラーフィリスさんも、アレスさんも、ケイさんも私に良くしてくれて申し訳ないです」

「いいのいいの、アレスが頼んできたことだし、請求はアレスにするから。

拾ってきたのもアレスだし、最後まで責任持たないとね」

「私はペットですか」


 ラーフィリスが冗談めかして言うので、ベアータもくすりと笑った。互いにくすくすと笑い、2人の間にあった垣根が取れたかのようだった。


「あれ?」


 その時、ベアータはラーフィリスの首筋に何かの跡があることに気づいた。普段は衣服に隠れて見えない場所だったが、体を拭くために胸元がはだけていたため、見ることができた。特殊な形状の文様、それは多くの人が知っている文様だった。


「奴隷印……?」

「っ……!」


 とっさにラーフィリスが首筋を隠すのを見て、それが奴隷印で間違いないとベアータはわかった。通常の奴隷印は、契約を施した際の魔力で発色しているはずだが、それは見られなかった。つまり、この奴隷印はすでに契約が解除されているものだ。

 1度奴隷になった者は、奴隷印が消えることはない。また、ラーフィリスの奴隷印は通常より大きめで、広がって歪んでいた。体の成長でそうなったのだと考えると、幼少期につけられたものだと推測できる。


「……4年前に少しの間だけ奴隷になってたんだ」

「少しの間だけって……。

1度奴隷になったらほとんど解放されないんじゃ……」

「うん、そうだね」


 奴隷の身分に落とされたものが、再び自由を取り戻すには最低限でも良い主人に巡り合う必要がある。それでも、元を取るために数十年は奴隷のまま働かされるのが当たり前だった。


「私のご主人様は、買ってすぐ解放してくれたから。

それが、ケイさん」


 4年前、奴隷となったラーフィリスを圭は全財産を使って購入し、その場で解放した。


──好きに生きろ。お前は自由だ


──好きに生きれるわけないでしょ! 私はただの家族を失った小娘なのよ!


──じゃあ、好きについてこい。せめて生きて行けるようにはしてやる


 それが、原風景。ラーフィリスが圭からもらった返しきれぬ恩である。


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