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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第二部「アニェーゼ、騎士の娘をかくまう」
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第六話「圭、事件を考察する」


「それでお前はこの子を匿ったってのか?」

「悪いか?」

「悪いか良いかで聞かれたら、悪いに決まってる。

お前、自分が正義の味方か何かと勘違いしてねえか?

叩けば出る埃があんだろ?」


 騎士に追われている娘を匿った──その話を聞いた時、圭は開いた口が塞げなかった。アニェーゼに連れられてラーフィリスの家に行った圭は、初めて見る少女と出会う事となった。家出少女でも匿ったのならまだ笑い話だったが、騎士に追いかけまわされていると聞いて、卒倒しそうになった。裏社会の人間が、好き好んで問題を拾ってくることが信じがたかったのだ。


(【心臓破りの】と呼ばれるほどの殺し屋が、なぜそんな情を見せるんだ?)


 アニェーゼは、裏社会では名の通った殺し人だった。彼女のその腕前にほれ込んだ圭が、復讐代行屋へとスカウトした。しかし、酸いも甘いも知る裏社会の人間かと思ったら、信じられない甘さを残した小娘だった。もっとも、冷徹な殺し屋よりは好感を持ったの事実だったが。

 人間としては好きだったが、仲間にするにはリスクがあった。騎士や神官を嫌うのは裏社会の人間として仕方ないが、妙な情けを持っている傾向があった。付き合いも1年になり、そのことを知ってはいたが、まさか見ず知らずの人間を匿うほどかとは思ってもいなかった。


「やっちまったもんはしょうがねえだろ。僕でケリをつける」

「やっちまったもんはしょうがないってのは、やらかした本人が言う言葉じゃねえんだよ、このあんぽんたん。

頭を切開してその脳みそに直接言葉を刻み込んでやろうか、ドアホ」


 あまりの呑気さに、圭は本当に頭を勝ち割ってやろうかという気持ちになった。しかしながら、ここでアニェーゼに怒鳴り続けても進展はない、彼女が言うようにやってしまった以上は先を考えなければならない。裏稼業でチームのボスをやっている以上、持ち込まれた仲間内の問題を解決するのは義務だと圭は考えていた。


 事件のあらましを聞いて、圭は長屋で首になった男が勤めていた騎士団も、黒色槍騎兵団だったことを思い出していた。これが無関係とは到底思えず、使用人に暇を出したのは、騎士団長と副騎士団長の死に対する情報統制を取るためだろう。


(つまり、これは覇権争いだ)


 圭も噂では聞いたことがあったが、黒色槍騎兵団は大きく3つの派閥に分かれていた。1つは中立派で、スプリングス騎士団長を慕っていたものが多い。スプリングス騎士団長は、騎士団を保有する侯爵家の前当主の盟友であり、若いころは前当主と大きな勢力を作り上げたそうだ。前当主が隠居した際に、共に引退しようとしたがお目付け役として残る様に説得されて残った。そのぶん、現当主からは目の上の瘤のように思われていたらしい。

 次の派閥が、ベアータの父であるザック副団長の勢力だ。ザックは物静かで穏やかな男であり、非凡とは言えないが、それなりに有能な男だったそうだ。独身で、妻を娶ることもしなかった稀人だが、スプリングス騎士団長の覚えもよく、次期騎士団長は彼だといわれていた。

 最後の派閥であるヴァディム副団長を一言で表すなら過激だ。ザックが静ならヴァディムは動、ザックが穏なら、ヴァディムは騒である。しかし、ヴァディム自身が粗野な男だというわけではなく、神経質そうな印象を受けるが大胆で時に過激に自分の勢力を強化していきた。それ故に、過激な人物や若者には人気があった。


 使用人たちに暇を出した件といい、自分が騎士団長になるためにスプリングスとザックを手にかけたと考えていいだろう。だが、野心的な陰謀家にしては稚拙なところがあることは否めなかった。

 2人を処分するにしても、タイミングがあってしかるべきであり。ベアータが逃げ出した事や、使用人に突然暇を出すなど、後手に回っていることも多かった。


「キミの父親は、最近どんな様子だった?」


 一通り話を聞き、仮説を立てた圭はベアータに質問をした。ベアータは居心地が悪そうに、アニェーゼの隣に座りながら、縮こまっていた。アニェーゼはそんなベアータの背中を叩きながら、心配ないよと微笑み、圭の方をにらみつけた。


(おいおい、てめえはどこのホストだよ。この野郎、野郎じゃないけど)


 ソファーに座りながら女性を慰める姿は様になっており、くたばれという気持ちでいっぱいになった。先ほど烈火のごとくアニェーゼをしかりつけたのが原因だろうが、そこまでビビらなくてもいいじゃないかと、圭は憮然とした気持ちで思った。

 アニェーゼだけでなく、ラーフィリスも心配そうにこっちを見ている。圭は心配いらないと手をひらひらと揺らして意志を示した。

 男装をしているが、アニェーゼは女性だ。つまり女性三人に囲まれて、非難を浴びていることになる。まるで女系家族の縮図を味わっているような感覚に、圭は釈然とない気持ちで、


(なんだよ、俺は悪者かってんだ)


と、思った。奇しくも、アニェーゼ、ラーフィリスと続き、圭も同じような事を思ったことになる。ベアータは他人をきまりが悪い気持ちにさせる才能があるのかもしれない。


養父(ちち)は最近、極秘の任務だって泊りで出かけることもありました」

「極秘任務か、何んとも取れるな」


 覇権争いだろうと推測はしたが、ザックがスプリングスを害した可能性も十分ある。今は情報を集めることが必要だろうと結論付けた。


「とにかく今は情報が欲しい。恐らくは、ヴァディムが騎士団長になるために、黒色槍騎兵団の団長と、ベアータの父親を殺害したとみるべきだろう」

「ケイ!」


 気遣いなく父親が殺害されたというケイに、アニェーゼは非難の声をあげた。


「あんまり気づかいしていられる用事な状況でもないぞ、ア……レス」

「私は大丈夫です、続けてください」


 一瞬、アニといつもの呼び方をしそうになったのを、圭は修正した。アニェーゼが反論するよりも早く、ベアータが返事をした。彼女は先ほどまで縮こまっていたが、圭の雰囲気につられたのか、今は毅然とした様子で彼を見返していた。


「大丈夫?」

「私を逃がすために、使用人が殺されました。養父(ちち)も殺されたというなら、私は彼らの無念を晴らさなければなりません」


 優しそうに心配するラーフィリスに対して、ベアータは力強く言った。だが、意志を込めた瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。ラーフィリスの家ではおびえた様子しか見せていなかったため、圭は思ったより強い女なのだと上方修正した。


「いい言葉だ、その気持ちを捨てんじゃねえぞ。

 覇権争いにせよ、そのあとの展開がずさんであることから、ヴァディム自身も、今凶行に出る気はなかったと思う。ならば、そうせざる負えなくなった何かがあるはずだ。それを探る」

「了解、どうすればいい」


 この場にいないルーファスを含む4人は、1年間裏稼業の仲間として生きてきた。圭を頭脳として動いてきたチームの絆は深く、彼が指示をすれば一つの生命のように行動を開始する。彼らは仕事モードともいえる状態に入った。3人の気配が突然変わったことをベアータは感じ取り、変化に戸惑った。

 

「さっきも言ったが、とにかく情報だ。真正面からぶつかっても俺らがつぶされるのがオチだ。とりあえず日中はアレスとベアータはこの家に隠れてろ。ララ、仕事は?」

「もう、遅刻だね」


 ラーフィリスは『ミリタリス(ふう)』と呼ばれる店の看板娘として働いている。今日は昼営業の仕込みがあるため、本当は早く出勤する必要があった。


「今からでも行ってこい。あのおっさんに俺のせいだと思われたらたまったもんじゃない」

 

 『ミリタリス風』の店長兼料理人は、ラーフィリスを悪の道へと引きずり込む悪い奴と圭の事を思っている風潮がある。一度勘違いから「女に迷惑をかけるな」と言われ、しこたま殴られたことがあった。

 それ以来、圭にとって店長は一種のトラウマのようになっていた。オールバックにした黒髪に鋭い目を見ると背中が震えそうになる。また、殴られた際に「本当に料理人かよ」と聞いたところ、「俺か?俺はただの店長兼料理人だ」と言われた。お前のような料理人がいるかよと、今でも思っている。その際の考察で、恐らく六神教ではなく、別の神を信仰していると推測した。


「アレスは夜になったらララが帰ってくるだろうから、逆三角形のおっさんのところに行け。今日は五日目だし、夜に行けばいい」


 逆三角形のおっさんとは、圭達のアジトのことを示している。迷路横丁にある隠れ家の入り口は回転扉になっており、同じような回転扉が並んでいる最奥のため、区別をするのが難しい。そこで、判別できるように逆三角形に瞳が描かれた落書きが壁面に描かれている。そのイラストの隠語として、彼らの間では逆三角形の~というとアジトの事を示していた。


「ララはアレスが出かけたら、ここでベアータと休んでてくれ」

「はい」


 言い終えると、話は終わったといわんばかりに圭は椅子から立ち上がった。


「待ってください!」


 そんな圭を、ベアータが呼び止めた。圭は立ち止まり、ベアータの方を見つめる。


「ありがとうございます」


 ベアータは深々とお辞儀して、お礼を述べた。圭は苦笑をしながら頭をあげるように促す。


「よせよ。気が向いたからだし、礼はうまくいってからにしな」


 ぶっきらぼうにいう圭が照れているという事に、ラーフィリスは気づいた。彼女がほころぶのを見て、圭はそっぽを向く。


「僕からもありがとう、ケイ」

「お前の場合は体で払えよ」

「か、体で!」


 アニェーゼがお礼を言うが、圭はぶっきらぼうに返した。彼女が男装をしている時は、どことなく仕草がキザな男になるため、気取った様子が様になって癪に障るのだった。二人の気の置けない仕草に反応して、なぜかベアータは顔を真っ赤にした。

 どうも調子が狂うなと、女ばかりの空間からさっさと去りたかった圭は、不思議に思いながらも、ラーフィリスの部屋を後にした。


 こうして、奇しくも黒色槍騎兵団の事件に、圭、ラーフィリス、アニェーゼ、ルーファスの4人は巻き込まれることとなった──。


17.5.7 養父→ちちとフリガナを入れました。展開上、ようふと読ませるのはよろしくないので

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