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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
番外編『アリスは名探偵!緑髪の白の神官とアリスの推理』
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アリスの推理──(了)

 アリスに犯人だと指摘されたタニアは、驚きを浮かべるどころか無表情だった。すべての感情が欠落したかのように、まるで能面をかぶったかのように、その表情から何も読み取ることができなかった。或いは、この結末をどこかで予感していたからかもしれない。


「……旅司祭様、どういうことですか?

まるで私ならできたって、と言いたいみたいではないですか」

「そうだよぉ……アンちゃんにも、ローちゃんにもできなかった。

でも、ターちゃんならできた。」


 先ほどまで表情を失っていたタニアは、突然感情を取り戻したかのように戸惑った表情を取り繕った。しかし、アリスは容赦なく、もっと直接的にタニアが犯人だと告げた。


「しかし、どうやって?」


 タニアが見せた表情は、彼女が犯人であるといわれて納得のいくものだったが、ルーファスにはどうやったかがわからなかった。ほかの二人にできず、なぜ彼女だけができるのだろうか。


「助手ちゃん、アリスはねクリルチェフス王国の出身なんだよ↑」

「あの山脈にある王国か」


 アリスはなぜか自慢げな様子だった。それに何の関係があるのだろう。ルーファスはそう思ったが、ひとまず話を促すことにした。


「クリルチェフス王国はここよりもずっとずっと寒いんだね↑ だから、冬は雪がいっぱい、いっぱい降るの」

「ええ」

「それで、寒い冬には氷の橋を作って移動距離を短縮できるんだ」

「氷の……橋!?」


 はたと、ルーファスは自分のコップの中を見た。そこには涼し気に氷が浮かんでいる。それを視認して顔をあげ、タニアを見る。ルーファス以外にも、ロビー、アンガスといった面々もタニアを見た。タニアは俯いているため、表情が読み取れず、何を考えているかわからない。


(それで、アリスはコップから氷を取り出したのか)


 タニアが犯人だと告げる直前に、アリスはコップから氷を取り出していた。それはきっと彼女の様子を窺うためだろう。


「今日はお昼でも空が真っ暗になるほどの雨だったね↑ それだけの雨が降ったのなら、氷はいくらでも作れるよね」


 アリスはタニアの様子を見ながら、彼女に近づいていく。


「……氷なんて張ったら、花壇が腐ってしまいませんか?」

「外周の花壇は、移動させられていて土がむき出しだったよね?」


 螺旋状に氷の階段を作れば大丈夫でしょ、とアリスは言った。その言葉を聞いて、アンガスは思い出したことをつぶやく。


「そういえば……塔の周りの花壇に植えている花を交換しようって言ったのは……タニアだったな」


 アンガスがつぶやくと、タニアはすさまじい形相で彼をにらみつけた。あまりの表情に、アンガスは言葉につまる。


「証拠はあるんですか!? 私がやった証拠なんてないでしょ? 凶器は?」

「凶器は氷のナイフ、これなら溶けてなくなるからね↑

それに証拠はいらないよ。アンちゃんも、ローちゃんもリジーできなかった。ターちゃんならできた。

これだけの情報があれば、ラーサス神殿の『嘘発見』の儀式魔法を使えるよ」


 『嘘発見』の儀式魔法とは、ラーサス神の司祭以上が教わる魔法で、その名の通り対象が嘘をついているか判断することができる。強力な抗魔力を持っていたら効果がない魔法であり、使用者が限られるため普通は使用されないが、唯一人の容疑者だというのなら、旅司祭であるアリスが頼めば儀式魔法を神殿が行ってくれるはずだ。

 これ以上、抵抗はできない。そう思ったタニアは、その場にへたり込むと、ヒステリックな笑い声をあげ始めた。


「うふふ……あは、あははは、あはははははははははは!!」


 高らかに笑いだしたタニアを、アンガスは信じられない目で見る。ロビーは恐る恐るタニアへと近づく。


「なぜ……キミが?」

「うふふ、なぜ? どうでもいいじゃない。

あーあ……バレちゃなら無駄なことせずに、真正面から殺せばよかったわ。

まさか、今日に限って常に鍵があるだなんて証明されてしまうなんて……」


 ついてないわ、とタニアはつぶやいた。


「タニア……なんでだよ!」

「あんたには関係ないわ」


 アンガスの問いかけに対して、タニアはぶっきらぼうに返す。しかし、その愁いを帯びた表情は、関係がないとはとても言えない物だった。それを察したわけではないだろうが、アンガスは口をつぐんだ。


「子供が見たのは、氷の橋を歩くタニアか?」

「んー、そうだろうね↑

氷は透明だから、空中を浮いているように見えたんだろうね↑」


 ロビーが呆然とつぶやくのに対して、アリスは律儀に回答をした。重い空気が支配している中、アリスはへたり込んでいるタニアの前に立った。


「マラリーナの旅司祭として、ターちゃんが狂気に支配されてしまった悲しみを、癒しを司るマラリーナ神の聖名(みな)において癒すね↑

『世界は、常にあなたを許してくれる。火傷をしても、世界があなたを癒してくれる。

あたな自身を、許して、自由になれ。安静の安らぎ』」


 『安静の安らぎ』とは心をやすらげる魔法だ。アリスはタニアを殺人者として扱わず、悩める同じ信徒として扱った。その思いが伝わり、タニアの瞳に涙が集まった。

 アリスが優しくタニアの頭をなでると、暖かな光があふれた。タニアは目を閉じると、そこから涙があふれた。




─────




 残りの処理作業は自警団員に任せ、ルーファスは神殿へと戻ることにした。また、アリスも事件が解決したという事で、家に戻ることにした。

 ほぼ雨も止んだ帰り道の途中で、ルーファスはアリスと事件の事に関して話をしていた。


「しかし、よくわかったな……。それに、タニアにしか犯行が可能じゃなかっただなんて……」


 つくづく感心したといった様子のルーファスに、アリスはきょとんとした顔をする。


「ううん、ローちゃんもアンちゃんにもできたよ」

「はぁ?」


 想定外の事を言われてルーファスはぽかんと口を開いた。一方でアリスは、当たり前といったようで解説をする。


「アンちゃんの場合は……そっくりな鍵の模型を作っておくの。研究室にかけてあったもう一つの鍵と、その模型を入れ替えておく。それで、塔への出入りはその鍵を使って、塔を開けようとなった段階で鍵を開ける役になれば、こっそり入れ替えられるでしょ?」

「じゃ、じゃあロビーの場合は?」

「別に土の山にする必要はないよね↑

花壇の中に木を何個か入れておいて、『物質形成』で梯子を作れば入れるでしょ?」


 ルーファスは開いた口がふさがらなかった。事実、その方法をつかえば彼らにも犯行は可能だった。最も、双方とも子供が見た悪霊の説明がつかない。それに、アンガスの場合は誰かが鍵を使って中に入ろうとしたらばれてしまうし、ロビーの場合も調べれば見つかることだ。だが、ここで重要なのは三人とも犯行は可能だったという事である。


「じゃあ、どうしてタニアが犯人だってわかったんだ?」

「見たからね↑」


 タニアが犯人だと確信したのは、儀式魔法『逆さ巡りの砂時計世界』で過去の光景を見たからに他ならない。タニアが犯行を認めたのも、アリスの推理があっていたからとは限らない。権力者の知り合いであるアリスが犯人だと断定した以上、言い訳を続けても容疑を晴らすことができないと思ったからかもしれない。

 彼女にしか犯行はできなかった、ルーファスの推理が否定されたことでそう錯覚したタニアは、素直に負けを認めたのだった。


「『逆さ巡りの砂時計世界』、ルーちゃんがお手て、洗ってた時に使ったんだ」

「それは……エルドラード神の儀式魔法……マラリーナの旅司祭であるアリスがなんで使えるんだ?」

「ルーちゃんだって、メリル様の魔法使えるでしょ?」


 気づけば、アリスはルーファスの事を助手と呼ばなくなっていた。


「しかし、その儀式魔法は……」


 ルーファスは『逆さ巡りの砂時計世界』という儀式魔法を聞いたことがあった。エルドラード神の強い加護を持つ者しか使えず、過去を見るだけでなく、改変することすらできるといわれているこの儀式魔法は、同じ六神教の信徒とはいえ、他の神を崇めている信徒に教えるようなものではなかった。すくなくとも、司祭以上の立場でなければ教わることはないだろう。

 改めて、アリスの青みがかった黒髪をルーファスは見た。絹のように鮮やかな髪は、エルドラード神とマラリーナ神、双方の加護を受けたものだった。


「いや、なんでもない。

しかし、それなら最初からそう言えばあんな風に問い詰める必要はなかったんじゃないか?」

「ううん、あれは必要だったよぉ↓

だって、アリスは嘘つきだからね↑」

「嘘つき?」

 

 アリスは泣き笑いのような表情で、自分の事を嘘つきといった。ルーファスには、アリスが何を言いたいのか理解できなかった。


「アリスは嘘つきだから、ターちゃんが殺したのを見ただなんて嘘だし、『逆さ巡りの砂時計世界』のも嘘。

信じてもらえなければ、そんなの嘘と変わらないんだよ、ルーちゃん」


 悲し気に言うアリスの言葉に、ルーファスは同様の件を思い出した。ラーサス教の『嘘発見』にまつわるエピソードである。

 ある凶悪な事件があり、その犯人と思われる人物がいた。証拠は何一つなかったため、『嘘発見』の儀式魔法で確認をすることになった。結果、犯人だという事が断定されたが、その結果を聞いて犯人はこう言った、『それで、その人物の嘘は誰が確認するのかね?』。

 事件の容疑者だった人物は、王族の一人だった。『嘘発見』の儀式を行ったものが、嘘をついたという事にされ、そのラーサス教徒は極刑にされた。


「────」


 ルーファスは、自分が正義を為せないのはラーサス神の加護が弱いからだと思っていた。だがそれは事実ではなく、どんな力をもってしても、解決できないことがあるのかもしれない、そう思った。


「でもいいの↑ アリスは嘘つきでもみんなの役に立てれば。

だって、アリスは名探偵だから!」


 アリスはそういって笑顔を見せた。




─────




 ──後日談。

 不思議な名探偵、アリスのおかげで事件はスピード解決を迎えた。これだけ素早く奇怪な事件を解決したのだから、評価されるだろうと思っていたルーファスだったが、自警団員の強い報告により、すべてが謎の旅司祭の力によるものとなった。

 おそらくこれは、うやむやにせよというスポンサーの意向に応えられなかった自警団員が、せめて自分が悪くないことを示すためにそう報告したのだろう。


 それだけならまだしも、自警団員はルーファスが見当違いな推理をしていたことまで報告をあげており、それを知った上司のレーガンは褒めるどころかルーファスを叱責した。

 白絹屋の事件で、切れ者ではないのかと疑われていたが、その疑いは結果として晴れた。


 そして、遅く帰って来たルーファスに、妻のミカは不機嫌になった。




─────




 一方でアリスは事件を解決できて満足だった。別に賞賛がほしかったわけではない。ただ、でぃーちゃんのお願いに応えただけだ。結果として人の役に立てたのなら、満足。それがアリスという名探偵の生き方なのだから。


 なお、勝手にアリスに依頼をしたでぃーちゃんは、後日<碧き牙>の告げ口もあり、圭にしこたま怒られることになった。



──アリスは名探偵!緑髪の白の神官とアリスの推理


──了


番外編最後までご覧いただきありがとうございました。

魔法がある世界だからと言って、なんでも魔法で解決できるわけでないと書きたかっただけです。

そのためだけに妙に長い番外編をやってしまいました。


土日あたりから第二部をスタートします。

よろしければ、ぜひとも二部もお付き合いいただければと幸いです。


追記:平日スタートになりそうです

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