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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
番外編『アリスは名探偵!緑髪の白の神官とアリスの推理』
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屋敷への帰還~悪霊見たり

遅くなりまして申し訳ありません。

 ルーファスが手を洗って3階に戻ると、アリスは窓から外を見ていた。正確には窓の様子を見ていた。窓枠には鉄格子がはめられていたと思われる穴があり、かつては牢獄だった名残が残っている。

 元々、鉄格子だった場所に木製の窓を新たに取り付けたせいか、鍵などはなく、単純に上向きに開くような構造だった。これならば外から開けることも容易だろう。

 窓の外に頭を伸ばしたアリスは、下に誰もいないことを確認すると、右手に持っていた屑銅貨を落とした。

 屑銅貨は、自然落下よりも早い速度で落下していき、一瞬で夜闇の中に消えていった。そんな様子を見て、ルーファスはあることを思い付くと、その場にあった紙を一枚拝借し、くしゃくしゃに丸めた。


「アリス、ちょっとどいてもらっていいか」

「助手ちゃん? いいよぉ↑」


 アリスが横に避けると、ルーファスは呪文の詠唱を始めた。


「『7つの弾丸のうち、6つは望みの場所へ飛ぶだろう。だが、1つは私が決める。魔弾』」


 『魔弾』という魔法は、手元から発射された物質の軌道をコントロールすることができるようになる。ルーガスは少し助走を加えて、紙で作ったボールを上向きに力強く投げた。投げられた紙のボールは魔法の力で上向きに加速する。素早く飛んでいく紙のボールは窓枠の上部ぎりぎりのところを通過して、上向きに登っていく。わずかな時間は浮かび上がったまま外を飛んだが、すぐに『墜落』の影響を受けて、垂直に地面へ落下した。


「即座に落下するわけじゃない、か……」


 結果を見たルーファスは満足げに頷いた。塔の中に入らずとも、リジィを殺すことが可能な方法をルーファスは思いついた。確認は必要だが、間違いなく可能だと判断した。


(話すのは確定してからでいいだろう)


 アリスに推理を披露しようかと思ったが、ルーファスはもっと確実になってから話せばよいと判断した。確実な推理にして披露すれば、もしかしたら自分の手絡になるのではないだろうか、という下心もあった。いい加減、妻の小言にさらされるのは御免だった。ここらで手柄を立てたい。


「アリスはもう屋敷に戻っていいけど、助手ちゃんはどうするぅ?」

「俺は事前に見ているんで大丈夫だ」

「ん! じゃあ戻ろうね↑」


 ルーファスの下心に気づかず、アリスは振り返ると、屋敷に戻ることを提案した。ルーファスも屋敷に行かなければ、推理を固めることができなかったので渡りに船だった。

 2人はこの場を離れる前に、リジィの死体に祈りをささげた。


(あともう少しで全部わかるから待ててね↑)


 アリスはリジィに事件の解決を約束すると、屋敷から出た。


 雨は弱くなっているが、依然として降っている。来た道と同じように、魔法で雨よけをしながら内庭を抜けるが、アリスは途中で方向を変化させた。人工的に作られた道から逸れて、花壇の中を歩いていく。


「アリス?」


 ルーファスが呼び止めるが、アリスはずんずんと花壇の中にあるテーブルへと向かっていた。お茶会ができるように用意されたテーブルの周りには椅子が置かれている。アリスは椅子の前で立ち止まると、慎重に足を乗せた。

 右足を乗せ、テーブルに手を置いて体を支えながら、左足も椅子の上に乗せた。両足で椅子の上に乗ると、その場で立ち上がり、テーブルの上に乗っていく。


「『墜落』は地面からつながっていたら効果がないのか」


 アリスは『墜落』の魔法の性質を確認していた。ポケットに入っていた飴玉をテーブルの外側へと投げると、『墜落』の効果を受けて素早く落下し、地面へ突き刺さった。

 『墜落』の魔法は、魔方陣から固形物が続いたら発動しないように設定されていた。


「もしかして……」


 つまり、地面から窓までに階段を作ることができれば中に侵入できる。先ほど思いついたことも、ルーファスは自信があったが、こちらのほうがスマートであり得る話ではないかと思った。

 ルーファスは二つの軸からこの事件を考えることにした。


 1つは3階へ、何らかの方法で地続きの道を作ることで侵入する方法。

 もう一つは、遠距離化の狙撃である。


 いずれにせよ、玄関の施錠は大した問題ではないという事がわかった。


「ん。 実験終了だね↑ いっこか、助手ちゃん」

「ああ」


 アリスは満足そうにテーブルから降りると、落とした飴玉を拾った。飴玉に付着した土を、雨で流すと口に放り込む。


「おいしいね↑」

「いや、そのまま食うのかよ」


 雨を食べるまでの滑らかな動きに、ルーファスは突っ込みを入れた。一方でアリスは、気にすることなくマイペースに無邪気な笑い声をあげた。




─────




 館に戻ると、むわっとした湿気と熱気が2人を襲った。外は雨が降って、風もあるのでそれなりに涼しかったが、建物の中は非常に蒸し暑かった。

 アリスが諦めるまでは帰るわけにもいかなかったため、広間では容疑者たちが待機していた。彼らも事件が立ってある程度落ち着いてきたのか、今はソファーに座り、湿気にうんざりとした表情をしている。しかし、リジィの死からは立ち直れていないようで、顔色は良くなかった。


「お疲れ様です。何かわかりましたか?」


 タニアがすぐに気づき立ち上がり声をかけると、アンガスも立ち上がった。


「進展はあったかい? 正直疲れてきたんだけど」


 疲れたという言葉にあながち嘘はないようで、表情には疲労が浮かんでいた。


「1つ聞きたいのですけど、空中を伝っているロープは何ですか?」


 2人の質問には答えず、ルーファスは早速確認したいことを聞いた。


「あれは鳥よけだよ。

鳥が『墜落』の効果範囲に入ると、そのまま落下しちまうからな」

「なるほど、つまりあのロープが伝っている場所は『墜落』の効果範囲外、という事でよろしいですね?」

「そうなるな」


 質問に対してロビーが答えると、ルーファスは想定通りの回答に満足した。アリスも、鳥よけだという回答に満足した。彼女の予想通りだったのだ。

 鳥類はその性質上、四角い線で囲われている範囲内には降りることができない。もちろん余りに間隔が大きい場合は別だが。


「ふう……暑いね↓」

「なにか冷たい飲みものでも用意しましょう」


 ロープに関する推理があっていて満足したアリスだったが、さすがの蒸し暑さに辟易とした声を出した。彼女が同じ宗教の上役だったためか、すぐさまタニアが反応する。


「せっかくだ、素敵な容器を作ってやれよ。

ロビー、こいつを使いな……

『7つの弾丸のうち、6つは望みの場所へ飛ぶだろう。だが、1つは私が決める。魔弾』」


 アンガスはそういうと、部屋の隅に置かれていた握り拳大の木材を持ち上げた。呪文を詠唱し、ルーファスが先ほど使ったのと同様の魔法を用いてロビーの方へ木材を投げた。ロビーは、直前で急速に減速した木材を受け取ると、机の上に置いて意識を集中させる。


「時間がないので、魔法で失礼。『在る物を、唯在る様に、形を象れ。物質形成』」


 『物質形成』の呪文を唱え終わると、木材は形をひとりでに変えて行き、質素ながらも細かい彫りが施されたコップが二つ生まれた。『物質形成』の魔法は、固形物の形を変形させる呪文で、加護が強いほど細かい装飾や硬い物質でも変形させることができる。ただし、不可逆な魔法のため、一度変形させると元に戻すことができない。


「最後は私の仕事です。『私の心に吹く、ブリザードは止まらない。氷結』」


 タニアはお茶が入ったピッチャーを持ち、出来上がったばかりのコップにお茶を注いだ。半分程度お茶を注いだ後、『水精製』の魔法で湿気から水を集める。集まった水を『氷結』の魔法で凍らせると、お茶の中へと落とした。


 3人の動きは手慣れており、頻繁にやっていることが頷けた。このパフォーマンスは、来客があるたびに行っていた。魔法がうまく扱えるのは、加護の強さにつながるため、出資者の前でやることで後々の交渉が有利になるのだった。

 このパフォーマンスは3人で完結しており、リジィがいなくてもできる。パフォーマンスと言ってしまっても、いわば学者に見世物をやらせていることになる。パフォーマンスを免除されること、雨の日に1人で執筆がしたいと、塔を独占できること、これらの事から4人のパワーバランスがうかがえた。


 それはさておき、氷が浮かんだお茶を受けとって、アリスはご機嫌になった。

 嬉しそうにお茶を飲むアリスを見て、塔の調査結果は自分から話したほうがよさそうだと判断した。ルーファスはお茶を1口飲んでから、塔を確認して生まれた推理を披露した。


「検討しましたけど、玄関から侵入は難しく。

唯一の侵入口は3階の窓だけになりそうです」

「じゃあやっぱり、中に入るのは不可能……」


 自警団員がつぶやくと、ルーファスは首を振って否定した。


「いえ、そんなことはありません。

じつは『墜落』の魔方陣は、宙に浮いてなければどんな高さでも発動しないのです」

「というと?」

「つまり、足場を積み重ねることができれば、3階に登れるのです」


 自信たっぷりにルーファスは宣言するが、反応は芳しくなかった。気をつかうような様子でロビーが手をあげる。


「理論的にはあっているが……その足場はどうやって持って行くんだ?」

「……そうですね」


 実のところ、足場を作るという考えは容疑者たち自身が思いついていたのだ、しかし屋敷に囲われた塔であり、大きなものを中に入れることはできない。また中庭は低木の花壇であり、物を隠す余地がなかった。


「組み立て式はどうでしょう?」

「そんなデカ物を中庭に運んでたら誰かが見ているよ」


 次なる推理もアンガスに否定されてしまう。そこまで単純だったらすぐわかっていただろうと、ルーファス自身も思っていた。そこで、もう一つの推理を披露しようと口を開きかけた時、どたばたと一人の子供が広場に入って来た。


「や、やっぱり悪霊はいたんだ! 悪霊の仕業なんだよ!」


 少年が大げさに騒ぐと、奥から母親と思わしき使用人が走ってくる。彼女は慌てて少年を捕まえると、彼に叱りつけた。


「コラッ! 申し訳ありません! 私の息子が」

「待って、悪霊ってどういう事?」


 平身低頭する彼女に対して、タニアは少年の言葉の真意を聞き出そうとした。


「見たんだよ! 悪霊が塔の周りを浮遊しているのを!」

 

 少年がおびえた様子で伝えると、広間の空気が凍った。


(馬鹿な!)


 ルーファスは信じられなかった。悪霊なんているはずないのだ。

 広間の人間たちはそれぞれ顔を見合わせる。


「おいおい、冗談だろ」


 アンガスはおどけたように言うが、ひきつった笑みを浮かべていた。


「にわかには信じられん」


 ロビーはそういうと、顎を撫でた。


 混乱する容疑者や、ルーファス、自警団員を前にアリスだけは冷静に彼らの様子を見ていた。


「待ってください、悪霊なんていません。

私に別の考えがあります!」

 

 悪霊がリジィを殺した、それで確定しそうな雰囲気にルーファスは耐えられなかった。真実を明らかにし、正しい裁きを行うためにも、検証をしてから言おうと思った推理をルーファスは披露することにした。

 一方で、アリスは別の事を考えていた。


(んー……わかったけど、証明するにはどうすればいいのかなぁ↓

きっと、ルーファスさんの推理はアレ(・・)だから……。

申し訳ないけど、ルーファスさんを利用して証明するね↑)


 犯行の全てがわかった名探偵は、助手の推理をとりあえず聞くことにした。


次回から解決編ですので、ぜひとも犯人と方法を推測してみてください。

ミステリーチックなのでいろいろガバガバですが、推理はできるようには作ってます。


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