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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
番外編『アリスは名探偵!緑髪の白の神官とアリスの推理』
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殺人検証~密室の定義

 殺人事件が起きた天文台がある研究施設の広間に、似つかわしくない少女が突然現れた。天真爛漫な笑顔を浮かべた少女──アリスは、広間に集まっていた全員に事件を解決すると宣言した。普通なら関係のない少女が、勝手に紛れ込んできたのだろうと思い、しかりつけてやるところだ。だが、その場にいた者は皆、唖然とした表情をしつつも誰一人とその行動を咎めなかった。

 原因は彼女の服装にあった。簡素に作られながらも、青色を主体とした法衣には、水が満たされた青色の金属球体が取り付けられている。これは水と癒しを司るマラリーナ神の聖印で、細工師が作るようなものではなく、神殿が授与する正式なものだった。そして、法衣には特殊な魔力の籠められた糸で縫われた文様が描かれており、彼女の身分が旅司祭であることを示していた。


 旅司祭とは、その名の通り旅をする司祭、すなわち神殿に常勤していない司祭を示している。侍祭以上の役職になるためには、原則として一定の時間を神殿で過ごす必要がある。しかし、例外として神に貢献したとみなされた人物には、名誉職として旅何某といった役職が与えられる。

 旅侍祭などは非常に多い役職で、村長などの指導者に箔をつけるために任命するなど、至る所に存在する。あまりに存在するせいで、侍祭に関しては旅が省略されることが多い。

 旅何卒を授けるためには、基本的に1個上の役職を持つ人物が推薦する必要がある。例えば、旅侍祭の場合は、助司祭の推薦が必要だ。また、授ける役職が上がるほど条件が厳しくなってくる。

 例えば、この場にいるアンガスら学士たちは、それぞれ信仰する神の旅助祭に任命されている。先進的な研究を発表していると認められたため、それぞれの神殿の司祭が推薦し、授与された。アンガスらのような先進的な学者ですら、旅助祭止まりなのだ。


 旅司祭になるためには、各国家の大聖堂にいる司教の推薦が必要で、かつ同じ六神教でも別の神を信仰している司祭以上の推薦が2つ必要となる。厳しい審査条件の元、授与された旅司祭という称号は、それだけで権威となる。


 少女であるにもかかわらず、旅助祭になったということは、よほどの才能と権力者の知り合いがいることを示していた。つまり、侮る事はできないし、機嫌を損ねたら身の危険すらあるだろう。


「マラリーナ神の旅司祭様が何の御用でしょうか?」


 最初に反応したのはタニアだった。同じマラリーナ信徒として、失礼な態度はできないという思いから、いち早く反応することができた。彼女は首から下げていた聖印を手で包み、頭を軽く下げた。これはマラリーナ信徒の祈りの仕草でありあいさつ代わりにもなる。アリスも同じ様な仕草を取り、挨拶をした。


「えっと……アリスはアリスだけど。

お姉さんは何て名前なの↑」

「タニアと申します。旅司祭様」

「ターちゃん、だね↑」


 タニアの反応を見て、広場にいた者たちはそれぞれ自己紹介をしていく。アリスは名前を短縮し、ちゃん付けするのが基本的なネーミングセンスなようで、アンガーちゃん、ローちゃんなどといったかわいらしいあだ名が皆についていった。


「私の事はアリスちゃんでも、なんでもいいよ」


 フランクにアリスは言うが、自分よりも明らかに偉い人物をそう呼ぶ勇気は誰にもなかった。


「えっと、アリス旅司祭。

調査は自警団とラーサス神殿で行いますので、ご足労いただく必要はありませんので……」


 挨拶後にアリスに口答えをしたのは、自警団員だった。彼は出資者の貴族から事を荒立てず、うやむやにするように指示を受けているため、アリスにひっかきまわされるのは都合が悪かった。


「だーいじょうぶ、だよ↑

でぃーちゃんからお手紙預かって来た」


 自警団員の意見を受けて、アリスはポケットを漁ると手紙を出した。素直に受け取った自警団員はそこに描かれた文様を見てうめき声をあげた。様子がおかしいと、自警団員が持っている手紙を覗き込んだものは、次々と奇妙な悲鳴を上げていった。

 恐る恐る、といった具合にルーファスも手紙を覗き込む。すると、彼も同じように悲鳴を上げた。阿鼻叫喚ともいえる現状を引き起こしたアリスはきょとんとした顔をしている。


 アリスが持ってきた手紙には、王族の紋章が描かれていた。これを発行できるのは限られた人物であり、中身が実現可能でなかろうとも書かれた内容は達成しなければならない。

 手紙の中には簡素にこう書かれていた。


『この手紙を持ち込んだ女性、マラリーナの旅司祭であるアリスの身を、ソロヴァ王家の名のもとに保証し、彼女の望みを可能な限り叶えるようにせよ』


 内容を理解して、青ざめた顔をした自警団員がルーファスを見る。ルーファスはまるで死霊と遭遇したかのような顔を見て、とりあえずこの事件がうやむやになることは無くなったなと思った。






「ふむふむ、それでリジーちゃんは死んじゃったんだねぇ↓」


 本当に理解しているのかわからないが、ふむふむとアリスは大きく首を振り、事件のあらすじを聞いた。聞き終えてから、彼女は聖印を握りしめ、リジィが天に昇り安らぎを得られるようにと、祈りをささげた。


「このような不可思議な事件が、人の手に成しえるとは考えにくいでしょう。

おそらく、死霊の仕業かと愚考いたします」


 まだ事件をうやむやにするのを諦めていなかったのか、懸命に自警団員は訴えかけていた。ルーファスがにらみつけるが、意に返さず身振り手振りを交えてアリスに訴えかける。だが、自警団員の反応には興味がないのか、アリスは3人の学士に質問を始めた。


「んとー、まず聞きたいんだけどね↑

最初にリジーちゃんの死体を見つけたのは誰かな?」


 アリスの質問の意図がわからなかったのか、3人の学士は顔を見合わせた。芳しくない反応に、少し首をかしげていたアリスは説明が悪かったと思い、右手の握り拳で左手の平を叩いて、何が聞きたいかを話した。


「つまりね、3人が同時に見つけたのか、誰かが最初に見つけたのかってことを知りたいの!」

「それならば、3人同時でした」

「中に入ってから別行動はした?」

「していませんが……」


 何の意味があるのかと不思議に思う学士たちに、アリスは指を振って答える。


「例えば、塔に入ってから1人でも先回りできるならぁ。先回りしてリジーちゃんに鍵を握らせられるね↑」

「あっ」


 ルーファスは思わず声を漏らしてしまった。なるほど、死体が鍵を持っていたからと言っても、最初からとは限らない。何らかの方法で、他の人間に気づかれないうちに鍵を返すことができれば、密室を作り出すことは可能になる。


 アリスが聞いているのはこういう筋書きだ。犯人は塔に向かい、リジィの手で中へと向かい入れられる。その後、隙をついてリジィを殺害し、鍵を持って塔の外に出る。塔の鍵を閉めて、何食わぬ顔で屋敷に戻る。夕食の時間になったら3人で塔へと向かい、鍵がかかっていることを確認させ、もう1つの鍵で中へと入る。塔に入った後は、他の2人よりも早く死体の元に行き、鍵を握らせる。こうすれば疑似的な密室の完成だ。しかし残念な事に、3人は別行動をすることがなかったらしい。


「じゃー、鍵を見つけたのは誰?」

「……なるほど、別行動を取らなくとも駆け寄った人物がこっそりと握らせれば良いという事か。アリス旅司祭、残念ですが彼女は仰向けに倒れていました。鍵を持っていることは遠目でもわかりました」


 アリスの次の質問の意図を理解したロビーがすぐさま返事をした。流れるような推理に、その場の全員は感心していた。道楽で事件に首を突っ込む少女かと思われたが、その推理はなかなかしっかりしている。一方で、まじめに推理をしていることから、うやむやにしたい自警団員は青ざめていた。


「鍵は最初からリジーちゃんが持っていた……ってことで良さそうだねぇ↓

じゃあ次だけど……誰が塔の鍵がかかっていることを確認して、開けた?」

「鍵は実際にかかっていなかった……っていうことかしら?

たしか……ロビーが最初に鍵がかかっているって言いだしたのかしら?」

「ああ、俺が開けようとしたら鍵がかかっていた」

「ええ、それで私も確認したわ」


 鍵がかかっていることはアンガス以外が確認をしていた。


「ちなみに、鍵を開けたのは俺だよ」


 アンガスも、館の鍵で塔を開けているので、鍵がかかっていることは確認していた。


「つまり、全員鍵がかかっていることを確認したんだね?

なかなか難解ィ……↓」


 次々と推理が否定され、アリスは頭を抱えた。黙って話を聞いていたルーファスは驚くばかりだった。成人になったばかりにしか見えない少女が、堂々と的確な推理を続けているのだ。若くして旅司祭に任命される人間は違うな、と素直に感心していた。


「うむむ、やっぱり現場を見るしかないね↑」


 アリスは両腕を伸ばして背伸びをすると、ルーファスのほうを向いた。


「じゃあ、ルーちゃんは助手さんになってね↑」


 突然の助手指名に、ルーファスは驚いた。驚きはしたが、彼は快くアリスについていくことにした。王族の指示がある以上、彼女が満足するまでは解放されそうにない。自分から積極的に事件を解決したほうがよさそうだ。

 それに、ここで解決に貢献できれば、仕事の大きな成果になりそうだ。


「では、私はここで聞き込みをしていますので」


 せめてもの抵抗か、自警団員はついてこないようだ。先ほどは検死をした時は、自警団員がしかしていたので満足に確認できなかった。これならば、ゆっくりと死体の様子を見れるだろう。


「わかりました。じゃあ旅司祭様、行きましょうか」

「ちっちっち、助手クン。助手はアリスって呼ぶの!」

「わかりました。アリス」


 うやむやにされそうになっていた事件が、この少女のおかげで進展しそうになったのだ。お礼というわけではないし、自分が礼を言うにはおかしいが、可能な限り協力しようとルーファスは思った。



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