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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第一部「復讐代行の後始末」
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後始末、その4──(了)


 白絹屋の顛末を聞いた後、圭はラーフィリスに正しい着物の形状について話していた。

 もっとも、彼自身着物の作り関して詳しいわけではないので、わからないことも多かった。


「肌着はどうするの?」

「肌着……なんだろうな?」


 わからないなりに、想像で二人は着物の形状に関して話をした。

 また着物以外にも、食事や風習などに関しても話をしていた。圭は久々に日本について楽しく話ができていた。

 故郷の話をすると、いつもは寂しげな様子を見せていた彼だが、今日は楽しそうなのでラーフィリスもうれしく感じていた。


 そんな時、部屋にノック音が響いた。


「どなたですか?」


 圭がドアに向かって大き目に声をかける。

 すると、ドアの方から少女の声が返って来た。


「ケイちゃーん、私」

「プリムか、どうした? 鍵は空いてるぞ」

「はーい」


 プリムと聞いてラーフィリスは微妙な表情をした。

 許可が出たので、灰色の猫耳をピコピコ揺らした少女──プリムは中へと入って来た。


 部屋の中に圭以外にもラーフィリスが居ることに気づくと、プリムは目を丸くした。


「うわ、なんか空気悪ぅい。 換気しないと、換気ィー」


 ラーフィリスも視認すると、プリムは目を笑わせて、わざとらしい声を出した。

 パタパタと手を振る仕草をしながら、プリムは圭とラーフィリスの間に割り込むように部屋に入る。

 ラーフィリスがむっとした表情をするのを見ると、わざとらしくプリムは口元に手を当てて驚いた声を出す。


「あ、ラーフィリスさん。 居たんですか?

なんか暗いから気づかなかったです」

「出会い頭に暗いとか、なんなわけ?」


 険悪な雰囲気を出し始める二人に、思わず圭は天を仰いだ。この二人の相性は悪く、事あるごとに喧嘩をしている。

 しかし、犬猿の仲というわけでもなく。時折、二人で遊びに出かけているようだった。妙に喧嘩腰になることもあるが、結局のところは良い喧嘩友達である。


「ねー、ケイちゃん。 料理お願いできる?」


 ラーフィリスを無視するように、窓を開けたプリムは圭にお願いをする。


「そうだな。 お腹も減ったし、飯にするか」


 プリムが媚びを売るような仕草で圭にお願いすると、ちょうどよかったと圭も同意した。


「今日はいっぱい材料があるし、ラーフィリスさんもどうですか?

あまりいいもの食べてないから、成長が止まっているようですし?」


 プリムがラーフィリスの胸元を見ながら笑うと、彼女は真っ赤になった。


「人の事言ってないで、自分はどうなの?

私よりも小さいじゃない?」

「あれれ? 別に胸の事とか言ってませんけど?

それに、私はラーフィリスさんと違ってまだまだ成長期ですしー」


 からかうようにプリムが笑う。ラーフィリスが胸のサイズに関して気にしている事を知っていて、彼女はからかっているのだ。

 言い争いをする二人を見て、しょうがない奴だ、と圭は苦笑した。


「というか、どうしてそんないっぱい材料かったんだ?」


 圭が質問をすると、プリムはよく聞いてくれましたと胸を張った。


「今日は、私のおごりなのデス!」


 プリムはおどけて言うと、右手で敬礼のポーズをとった。


「おごりって……ずいぶん景気がいいんだね?」


 ちょっと驚いたラーフィリスが、怒りの表情を収めてプリムに質問する。


「ふふふ、うまいこと(さば)ききったのです」

「捌ききったって何を?」


 質問に対して、プリムは人差し指をびしりと立てる。


「布、絹の売買手形」

「はい?」


 余りにタイムリーな話題かつ、売買手形だなんて聞いたことがないラーフィリスは首を傾げた。


「先物取引か。 よく思いついたな」

「サキモノトリヒキ、が何なのかわかりませんけど。 今回の件は荒れるってふんでいましたから」


 ぬふふと笑うプリムに対して、圭は感心していた。先物取引とは、期日を決めていつまでにいくらで何を買うと定める契約の事だ。その購入物の値段が期日までに高騰すればその差額分だけ儲けが出る。プリムは今回の問題が衣類業界全体に大きく影響すると予想し、事前にいろいろな商家と契約を結んでいた。

 そしてプリムの予想通り、マイク機織りが事実上の倒産を起こしたことで、絹や布の値段は高騰していた。


(材料集めの時から思ってたけど、こいつは商才があるな)


 圭は感心しながら、プリムに手のひらを差し出した。


「じゃあ、料理代はソロヴァ銀貨3枚ね」

「ええええ!」


 儲けが出たのならいいだろうと、容赦なく圭は料理代をプリムに請求する。


「とほほ」


 わざとらしくガックシと口でいいながら、プリムは肩を下げた。


「せっかくだし、ラーフィリスも飯食ってけよ」

「そうだね、じゃあご馳走になろうかな」


 ラーフィリスが意味深にプリムを見ると、彼女はすねたように口を尖らせた。


「腕によりをかけて、うまいもん作ってやるよ」


 調味料が入っている袋を圭は持つと、二人を残していち早く部屋を出た。


「長屋に住んでないラーフィリスさんも食べるんですかあ?」

「さっき、奢ってくれるっていったじゃない?」


 言い争いをする二人の声を背中に聞きながら、圭は陽気に笑い声をあげた。




─────




「こんなに頂いていいんですか?」


 花屋の娘が驚いて目を見開く。


「前回はだいぶ安くしてもらえたからね。

臨時収入もあったし、今回は儲けさせてあげないと」


 アニェーゼは花屋の娘にウィンクをすると、彼女は顔を真っ赤にさせた。

 事件が終わって落ち着いてきたころに、アニェーゼは改めて花を購入し、アメリアの供養に出かけることにした。

 前回は彼女を誑かして、安値でいい花を購入した上に、カイルをだます際には彼女の様子を参考にした。ある意味お世話になったので、アニェーゼはお礼を返そうと思っていた。


「えっと、今回は明るい花もお買いになられたんですけど……よろしいのでしょうか?」


 死者への手向けの花として、この国で最もポピュラーなクロユリ以外にも、今回は黄色いポピーをアニェーゼは購入していた。

 アニェーゼは購入した花を受け取り、いったん机の上に置いた。腰の袋から木製の髪飾りを取り出し、その場でポピーを取り付けて、花飾りを作成する。

 目の前で手早くかわいらしい花飾りができていくのを、花屋の娘は感嘆の声をあげながら見つめた。


 完成した花飾りをアニェーゼは娘に差し出した。


「これはほんのお礼だよ」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん、キミのために作ったんだから」


 ニヒルに笑いながら、アニェーゼが花飾りを渡した。感激した花屋の娘は、髪飾りを受け取ると、顔を真っ赤にしながら喜んだ。


「あ、あの! つけてもらっていいですか!」


 声が尻すぼみになる、娘にアニェーゼは笑いかける。


「喜んで」


 そっと娘の茶色の髪に、黄色い花飾りをつけた。茶色の髪に、黄色が映えて女性らしさが花開いたように見えた。


「やっぱり、キミには明るい黄色が似合うよ」

「はうううううううう」


 花屋の娘は感激してむせび泣きそうになった。そんな彼女苦笑しながら、アニェーゼは見て、別れを告げた。


「それじゃあ、またね」

「は、はい! またのご来店をお待ちしております!」


 純真な少女を誑かすイケメンを、周囲の人は冷たいまなざしで見ていたが、アニェーゼは気にせず、その場を後にした。


「喜んでもらえたようで何より」


 上機嫌に鼻歌を歌うアニェーゼは、ふと気づいた。


「もしかして、口説いているみたいだったかな?」


 男のふりをして生活の大半を過ごしているが、彼女の性自認は女性だ。本人は夢見がちな娘が喜ぶだろうという表現を取ったまでだが、周りからどう見られているか把握しきれていないところがあった。


「……もしかして、女衒というのはこういうやり方をするんじゃないのか」


 冷静になって自分がとった行動をとると、純真な少女を誑かす悪い男だったと気づいた。

 いまさら気づいたアニェーゼは上機嫌さを失い、思わずうめいた。


「いけない、男を演じることを意識すると、どうも変なキャラになる」


 ぼろを出さないようにしないと、と反省しつつ、アニェーゼは王都外れの孤児院跡を目指した。






─────






「来たか」


 王都外れに行くと、そこにはラーフィリスと圭が待っていた。最初に買った献花は、用心棒に殺されたであろう中年に捧げてしまったと、あとでアニェーゼは報告していた。

 後日改めて捧げに行くと告げると、時間を合わせると圭とアニェーゼは言った。

 ルーファスは立場的に、あまり一緒にいるのを見られるのは好ましくないため、時間をずらしていくことにしている。


「じゃあ、中に行こうぜ」


 圭に促されて、三人は孤児院跡に入って行った。

 アメリアが死んだと思われる場所は、先についていた二人がきれいにしていたようだ。簡潔だが、土が盛られている。

 六神教では、焼いた肉体の魂は天へと帰り、残った灰は土に埋めることになっている。

 灰を土へと返すことで、肉体に残った要素は拡散していき、次の肉体が作られたときに、天から魂が下りてくると考えられていた。


 エルドラード信徒であるラーフィリスは、聖印を掌に握りこむと、両指を合わせて祈りの形をとった。


「エルドラード様、貴方の身元に魂が帰りました。

貴方の子であり娘が、天で魂をやすらげ、再び大地に帰れるように癒してください」


 ラーフィリスが祈りの言葉をささげて、アニェーゼからクロユリを受け取ると土の上にゆっくりと置いた。

 ラーフィリスが一歩、後ろに引くと、アニェーゼが前に出る。


「一輪失礼します」


 アニェーゼは、捧げたクロユリを一輪取ると、その場で髪飾りに加工していく。

 完成したクロユリの髪飾りを土の上に置いた。


「ダルカード神の信徒として、貴方の魂を慰撫するために飾りを作りました。

どうか、安らかな眠りを」


 ダルカード信徒は、死者に対して物を作り納めることが多い。アニェーゼは髪飾りを作ってアメリアへと捧げた。

 ちなみに花屋の娘に渡したのと同じで、彼女の分はついでに作ったということになる。


 アニェーゼが横にそれ、最後に圭が前に出た。

 圭は両手を合わせて、祈りの言葉をささげた。


南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)


 二人は聞いたことがない祈りの言葉だったが、お互いの過去は詮索しないことになっていることもあり、由来などを聞いたことはなかった。

 重要なのは死者を惜しむ気持ちだ。

 3人はそれぞれ祈りをささげ、孤児院跡から去った。



 王都で、一人の女性が殺された。


 その女性の死にかかわった四人が死んだ。


 関係者の心に傷は残り、いつか癒える日が訪れるかはわからない、


 だが、それでも彼らは生きているのだから、歩み続けるしかないのだ。






 黒い噂の絶えなかったマイクの死は、ラーサス神の裁きなのではないかと噂された。


 悪事を働くものは、裁きを恐れ大人しくなる。


 しかし、所詮は一時的な物で、いつかまた弱者が食い物にされる日が戻ってくるだろう。


 その時、復讐代行人がまた現れるのだ──




「その恨み、晴らして見せましょう」




──代行人は罪深き機織りに死に装束を着せられるか?


──了


ここまでご覧いただいて誠にありがとうございます。

ほぼ毎日投稿で第一部を投稿しきれたのも、読んでくださった皆さんのおかげです。


次の話は、ある程度書き溜めきってから投稿しますので、

来週か再来週あたりから再開しようと思います。


途中で登場人物の整理とか短編を投稿したりはするかもしれませんが、

またよろしくお願いします。

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