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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第一部「復讐代行の後始末」
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後始末、その1


 翌朝になり、マイクの死は衝撃をもって王都に流れた。


 ラーサス神殿、自警団の厳重な巡回の中で4人も死者が出たのだ。市民たちは治安の悪化を懸念し、口々にこの話題を出した。

 また、どこから情報が漏れたのか、マイクの死体の上になぜか香典が置かれていた事も噂になっていた。死体の発見者がくすねる可能性が高かったが、流石に三人もの死体が見つかった場所で盗みを働く気にはならなかったようだ。


 香典とマイク機織りが白絹屋と争っていた事実。そして、直前ではアメリアが死んでいた事。それらの事実から、今回の事件はマイク機織りと、白絹屋の縄張り争いが過激化したのが原因ではないかと噂された。

 そのことから、ラーサス神殿は白絹屋を調査したが、店長及び関係者は家にいたことが判明し、証拠もなかったので犯人とされることはなかった。


 娘が乱暴されて死んだことから、白絹屋には同情の視線が集まっていた。

 仮に、マイク機織りと白絹屋が縄張り争いをしていて、その結果死んだとしよう。その場合は、婦女に乱暴をするようなマイク機織りは、殺されても自業自得、という風潮が広まっていた。

 マイク機織りは、正確な跡取りもいなかったことで、急速に落ちぶれていくこととなった。

 また、「殺したのは復讐代行人だ」そんなうわさも流れたが、ラーサス神殿及び自警団は、復讐代行人なんていないと発表し、混乱の回復維持に努めた。




 それでは、4人の復讐代行屋のその後を語るとしよう。




 マイクの死体が発見された場所の近辺で巡回をしていたラーサス神の神官は、始末書を書かされることなった。すなわち、ルーファスも始末書を書かされることとなった。


「あなたたちは一体どこを見てたんですか?」


 レーゲン助祭の白い目にさらされ、ルーファスは居心地が悪い毎日を過ごしている。

 情けなくも言及だけは勘弁と懇願したことから、関与を疑われることはなかった。実は切れ者が無能のふりをしているのでは、と疑われもしていたがその情けなさから


「駄目な奴」


 という評価に戻った。


 再び出世の道は遠のき、妻のミカからの小言も増加した。もっとも、ミカはルーファスが危険な目に合わなかったことを内心では喜んでいた。


 たっぷり怒られて家に帰ったルーファスだが、けっして憂鬱な気持ちだけではなかった。

 むしろかなりハッピーだった。今回の復讐代行で得られた金はす、すぐにソロヴァ銀貨へ換金した。ルーファスのように、ソロヴァ王国の外に出ることがない人間が連合王国銀貨を持っていることは珍しいため、疑いを避けるためだ。

 また、連合王国銀貨は多くの場所で使用できるため、賄賂に最適という風潮があるので、神殿に所属している自分が持っているのは嫌だったというのもある。


 アニェーゼのように両替屋に伝手がなかったため、手数料で2割とられたが、ソロヴァ銀貨52枚になった。給料1ヶ月分の半分弱の金額に相当する。

 剣や防具の手入れで金を使ったが、それでもまだ余りがある。給料を嫁に管理されて以来、こういったことでしかお小遣いがないルーファスにとって、喜ばしいことだった。

 鼻歌の1つでも歌いたい気分になりながら家に帰ると、珍しく来客なのか、話し声が中から聞こえた。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい」


 ミカの声が食堂の方から聞こえる。夕食を作っているのに客がいるのかと、不思議に思いながらも、ルーファスは食堂へと入った。


「おじゃましています」

「よお、ルーファス侍祭」

「カシム?」


 中ではカシムとその嫁がいた。相変わらず包帯が巻かれていて、痛々しい姿だったが、外を気軽に出歩くことはできようになったようだ。

 机の上を見ると、豪華な肉料理が並んでいる。

 自分の給料でこんな食事を続けたら即座に破産するだろう。金額を想像してしまい、ルーファスは眩暈を起こしそうになった。


「ミカ、これは?」

「今日はご馳走にしようと思って。 カシムさんたちも誘ったの」

「申し訳ありません、こんな豪勢な食事にご同伴いただいて」


 普段はお金がないないと騒いでいるミカが、どうしてご馳走なんて作ったのだろうか。ルーファスは嫌な予感がして、ぎぎぎとミカの方にぎこちなく首を振った。


「ねえ、これのお金は?」

「臨時収入があってね」


 にやりと、意味深に笑って寝室の方に顔を向けた。

 すべてを悟ったルーファスは食堂から出て、全力で寝室へと向かった。

 ベッドの下に手を入れ、ある個所の板に力を加えた。するとそこが浮かび上がり、スライドできるようになった。

 これは、ルーファスが圭の知識を借りて作り出し隠し小物入れだ。へそくりの隠し場所が見つかる度に、彼は圭の知識を借りている。


──隠し物入れでも入っている箪笥でもプレゼントしようか?


 へそくりを隠す場所を相談すると、圭は微妙な顔をしながら、そういっていた。

 隠し小物入れの中を手で探ると、そこには入れたはずの金が、そっくりそのままなくなっていた。


「ノーーーーーーー!!!!」


 彼が絶叫をあげると、いつの間にか寝室を覗き込んでいたカシム夫婦が苦笑いを浮かべていた。


「その、なんだ。 ご馳走になるぜ」

「えへへ、ごめんなさいね。 ルーファスさん」


 事前に事情は聴いていたのだろうか、支払うとかそういう事は一切言わず、それどころか奢りになると追い打ちをかけてきた。

 描いていた夢の生活が儚くも崩れ去り、ルーファスは崩れ落ちた。




 その後、カシムに慰められ一応は気を取り直したルーファスは、こうなっては仕方ないとご飯を腹いっぱい食べることにした。


「うまい……」


 ミカは料理が上手だったため、食事内容には文句が言えなかった。夢がおいしい食事に変わったと思ってあきらめるしかない。


(しかし……この肉どこかで食べたような気が……)


 妙に味わったことがあるような肉がルーファスは気になった。鶏肉のようだが、どこで食べたのだろうか。


「これ、おいしいですね。 何のお肉なんですか?」

「紫祖鳥よ。 食べると傷の回復にいいって聞いたから」

「紫祖鳥……」


 味わったことがあるのは当然だった、数日前にラーフィリスの差し入れで食べたミートパイの具だ。

 当時は圭をからかったが、こんな気持ちだったのかと思うと、申し訳ない気持ちになってきた。

 少しだけ圭に悪く思ったが、よくよく考えてみるとあいつは自業自得だったと、思い直した。へそくりを勝手に使われた自分の方がかわいそうだ、と怒り気味に弾力がある肉をかみつぶす。

 肉汁が口いっぱいに広がり、悔しいがうまかった。




「ごちそうさまでした」

「ミカさん、ありがとな。 あとルーファスも」

「おう、俺のへそくりから出した食い物だ。 いつか返せ」


 食事を終えたあと、カシム夫婦は長居せず家に帰っていった。傷の直りは早いようだが、まだ完璧には程遠いため、家に帰って寝るのだろう。

 ルーファスはミカと共にカシム達が帰るのを見送った。手を貸そうとする、嫁に対して意地を張って、ぎこちなく1人で歩いている。

 そんな彼の背中を見ていると、ルーファスは事件の事を話してやりたかった。


(カシム、お前は一生知ることはないだろうが。

アメリアを穢した男は死んだぜ)


 伝えることができない歯がゆさを感じつつも、ルーファスはカシムの仇が取れた事を満足するしかない。この稼業の定めだ。

 いつか破綻が起きる日は来るだろう、そんな予感がしていたが、今更この生き方を変えることはできなかった。


「ふうー、ああー食べた、食べた」

「よかったね」


 満足そうにお腹を叩くミカに対し、冷たく言い放ってしまう。


「はい、これ」


 ミカを恨めしそうに見ていると、彼女はポケットに入れていたペンダントを取り出した。ペンダントには黒曜石と魔晶石が埋められており、呪文が書かれている。


「なに、これ?」


 魔道具だと思われるペンダントを受け取り、ルーファスはじろじろと眺めた。


「一度だけ受けた衝撃を弾き返す魔道具。 あんた弱っちいから、必要でしょ」


 ミカはそっぽを向きながらそういった。彼女はカシムが怪我だらけで帰ってきて不安になっていた。もし、ルーファスが同じ様に襲われたらどうしようと。

 ラーサス信徒としての加護や才能は低くとも、ルーファスが強い男だということは知っていた。だが、それでも不安だったし、自分が見ていないところでルーファスが傷つくのは嫌だった。

 気休めでも、ルーファスが怪我をする可能性を少しでも削りたかった。


「まったく……」


 顔を真っ赤にしながらそっぽを向くミカを見て、さすがのルーファスも彼女が自分を心配してこれを買ったのだとわかる。

 ルーファスはミカの肩をつかみ、正面を向けさせる。ミカは視線をそらしていたが、彼が顔を近づけると、上目遣いになった後、目をつぶった。

 二人の距離がゼロになり、しばらくたった後、恥ずかしそうにお互いの顔から目をそらしながら、二人は家に入った。





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