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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第一部「裁きの夜、死に装束を着せるために代行屋は闇を動く」
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第五話


 ルーファスが茶髪の用心棒を倒していた一方で、圭は赤毛の用心棒と戦っていた。

 接近戦となっていたルーファス達と異なり、赤毛の用心棒は圭から距離をとっている。

 魔法を主体にして戦う相手には、近接戦闘を挑んだことが常識だ。しかし、音が聞こえないことと、圭が無詠唱で魔法を使う人物だとはわかっていたため、接近戦では奇襲を食らう可能性が高いと赤髪は判断した。


 圭は右手に短剣を持ち、左手には3つの術符を指の間に挟んでいる独特な構えをしていた。

 用心棒にとって、初めて見る戦い方をする人間だ。

 用心棒は無詠唱で飛ばされる『風の刃』を食らわないように、遠くから一瞬だけ距離を詰め、ヒット&アウェイ作戦で剣を繰り出す。

 圭が短剣で受け止め、合わせて『風の刃』で攻撃をする頃には逃げられていた。

 想像以上に機敏な動きができる用心棒だった。


(こいつ、なかなかできるな……)


 一方的に大したことないだろうとレッテルを張っていたわけではないが、それなりに場数を踏んだ戦士だということが圭には分かった。

 悪党とはいえ、大手機織り商会の用心棒としては、あまりに破格な腕前を持っている。

 失態をしでかして落ちぶれたか、はたまた生粋のアウトローか、それは圭にはわからない。


 逆に圭から距離を詰めて攻撃を仕掛けると、近づかれないように牽制気味に剣を振るわれて距離を取られる。

 左手を動かすと、『風の刃』を避けるために大きく横に動いた。

 魔法が飛ばされるかは勘で避けているのだろうが、術符の文字の輝き具合からなんとなく予想をつけたのだと圭は気づいた。


(めんどうだな……慣れているし、頭も回る)


 一番厄介なのは、勝てないと判断していることになった。いや勝てるかもしれないが、そのリスクをとるくらいならと、生き残ることに主眼を置いた戦い方だ。

 今も用心棒はじりじりと距離を取り始めており、いずれ逃げられると判断した場合は逃走を始めるだろう。

 また、見回りが多くいることは分かっていることだ。時間を稼げば異変を察知した白の神官や、自警団が来るはずだ。



(悪党が警察つかうなよ)


 用心棒の考えが手に取るようにわかった圭は鼻白む。


 圭の術符を使った戦闘スタイルの、致命的な欠陥は一度に使用できる魔法が限られているということだ。

 左手に持った三つの魔法は、それぞれ緑色、白色、水色に輝いている。

 緑色は『風の刃』で、残り二つは別の魔法になる。これらの使用する魔法は、戦う前に選択しなければならないので、他に適切な術符を持っていても、交換する余裕がない。

 魔法のメリットである、選択の幅が圭にはなかった。



 だが、問題はない。

 圭は飛び込むように用心棒に距離を詰める。

 再び剣が襲い掛かるが、右手の短剣ではなく左手を伸ばした。

 用心棒が驚愕に顔をゆがめる。

 左手に挟んである切り札ともいえる魔法を圭は使用した。

 紙に描かれている、白く輝く呪文が一層光り輝く。



(『光の剣』よ!)



 激しい閃光ととともに、白い輝きが伸びて光で作られた剣を形取る。

 『光の剣』で用心棒の剣を受け止めると、バターを切り裂くように剣先が宙を舞った。


 武器を失った用心棒は呆然と先の無くなった剣を見ているが、容赦なく圭は無防備となった右手を切り落とした。

 剣を飛ばした時と同じように、バターを溶かすようにするりと、右手が肘のあたりから切り離される。




 肉が焦げるような、嫌な臭いがあたりに広がった。


「──!──!──!──!──!」


 声は聞こえないが、大きく口を開け叫んでいる。赤毛は左手で切られた右手を抑えた。

 感じられたのは熱さだ、やけどをしたようなひきつった痛みが右肘に広がった。

 そこから激しい痛みが広がっていき、叫ぶことが我慢できない。


 そして、ないのだ。

 いままであったはずの右手の肘の先からの感覚がない。

 それはたまらない恐怖であった。

 

 右肘の切り口は焼けただれており、出血は激しくないが、戦意はすでに喪失していた。

 圭は抵抗力を失った用心棒に近づくと、右手の短剣を心臓に突き刺した。

 鋭い切っ先を持った突き専用の短剣は、用心棒が来ていたレザージャケットをたやすく貫き、まっすぐと体を貫いた。

 心臓と共に肺も傷つけたのか、彼の口から血があふれ出た。

 震えながら、用心棒が圭を見つめた。浮かんだ感情は憎しみだろうか、驚愕だろうか、それは圭にはわからなかった。


 短剣を引き抜くと、右手を左手で抑えたまま、2、3歩前に進んでからその場に倒れた。

 少しずつ、用心棒の体を中心に血が広がっていく。

 すでに茶髪の用心棒を始末していたルーファスは、その様子を眺めていた。


(ミセリルコリデとか言ってたな)


 圭が使用している短剣はこの世界では珍しく、刀身が三角形になっており、細長く先端だけ尖らせて刃はついていないという独特な形状をしていた。

 その剣に興味があったルーファスは、かつて名前を聞いていた。




「スティレットとか、ミセリルコリデっていう名前だ」

「スティレット、ミセリルコリデってなんだ?」

「この翻訳機能ガバガバじゃねえか、なんか興奮しているサイトじゃねえんだから……

スティレットってのは名前だよ。ミセリルコリデってのはあだ名だ。

『慈悲』って意味だ」

「『慈悲』か……」




 悪党を殺す復讐代行で、何を思って『慈悲』の名を持つ剣を振るっているのか。滅多に悪党をなぶることがない圭の様子から、なんとなくではあるが彼の気持ちを察していた。

 二人は顔を見合わせると、用心棒たちの死体をそのままにして、ラーフィリスがいる小道へと足を進めた。






─────






 跪いていたマイクは、顔をラーフィリスに蹴られてのけぞった。

 逃げなければならない。マイクの頭を支配した思いはそれだけだった。

 先ほどの男も、この女も白絹屋に頼まれた殺し屋だ。そう、マイクは確信していた。


(手間取らせないで欲しいな)


 ラーフィリスは害虫を見るような目でマイクを見下していた。

 彼女は(かかと)を何回か地面にぶつけて衝撃を加えている。すると靴の先から刃が飛び出した。

 飛び出した刃を見てマイクは震えあがった、慌てて立ち上がろうとする横っ腹に蹴りが刺さった。


──ずぶり


 音のない世界だが、自分の体から響く音だけは聞こえる。音が聞こえない分、マイクは自分の体に刺さる刃物の感触をじっくりと味わった。

 痛みで、マイクは思考が混乱してきた。今は何故という思いで支配されていた。

 今までの悪事のツケを払う時が来た。だというのに、死ぬ瞬間ではなぜと思ってしまう。どうしてこんな目に合わなければいけないのだろうか?肥大した自己中心的な考えが心を支配し、自業自得だということを理解できない。


 何回か蹴りがマイクの体に突き刺さる。ずぶ、ずぶと刃が突き刺さる感触と共に、熱がじんわりと腹部から広がっていく。

 高品質な絹を使った衣服に血がにじんでいく。マイクはそれが見たくなくて、体から視線をそらし、自分を殺そうとする女を見た。

 その女は、右手に小振りなナイフを持っていた。彼女はマイクに近づき、頭をつかむ。


(やめてくれ、殺さないでくれ!)


 そう叫びたかったが、言葉には出なかった。

 ラーフィリスはナイフを首に突き刺した。

 鋭い痛みと、苦しみがマイクを襲う。その苦痛から逃げたくて体をばたつかせる。


 そして、彼女はそのまま頸動脈を横に引き裂いた。

 音のない世界であるためか、マイクは自分の皮膚がぶちぶちと引き裂かれる音を聞かされる。

 激しく血が噴き出し、マイクはその場に倒れた。


 びくびくと痙攣するマイクをラーフィリスは動かなくなるまで眺めていた。




 それからどれぐらい経っただろうか。

 ラーフィリスは荒い息が聞こえてきて、世界に音が戻っていることに気づいた。

 はあはあと激しいのは自分の息遣いだった。

 足音に気づいて来た道に振り向くと、二人がラーフィリスを見ていた。


「よくやった」


 言葉とは裏腹に、圭は不快な顔をしていた。ルーファスからは表情が伺えなかった。

 ラーフィリスは安心させるように、にっと笑おうとしたが、どこかひきつった笑みになっていた。


「じゃあ、また五日後に」


 ルーファスはそれだけ言うと、踵返して闇の中に消えていった。


「ララ」


 圭はラーフィリスに近づくと、術符を使って水を作成する。

 マイクを殺したナイフはその場に捨て、水と布で汚れた手を拭った。


「そんな顔しないでよ」

「……すまん」


 圭の不安そうな表情が不快だったラーフィリスは、声を荒げた。

 虚を突かれた圭は一瞬固まるが、すぐに表情を切り替え誤った。


「俺らも行くぞ」

「うん……」


 二人はルーファスとは別の方向に向かい、そして闇へと消えていった。




明日からはエピローグとなります。

ここまでご覧になっていただいてありがとうございました、もうしばしお付き合いください。

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