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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第一部「裁きの夜、死に装束を着せるために代行屋は闇を動く」
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第三話


『ごめんください。 ごめんください』


 圭の『耳』には、ラーフィリスの声が聞こえていた。しかし、近くに彼女の姿はなかった。

 実際には。数十メートル離れたマイク機織りの門の前にラーフィリスはいる。

 それでも、圭の『耳』には玄関を叩いているラーフィリスの『声』と、そのノック音が聞こえていた。


 ルーファスが得意としている呪文の『共有の耳』の力で、離れた場所にいる圭とラーフィリスは、まるで近くにいるように聴覚を共有していた。

 圭と同様に、彼にもその声が聞こえているはずだが、あまり気にしている様子はなく。剣をむき出しのまま持ち、様々な角度から眺めていた。


『なんだ夜分に、やかましいぞ』

『ええ、実はカイルさんから火急の要件でマイクさんに来てほしいと』

『なに? カイルの野郎、呼び出すとは偉くなったもんだな』


 圭とルーファスには見えないが、ラーフィリスが裏口の用心棒に声をかけているのが聞こえる。相手が女性ということもあって、警戒はされていないようだ。


『事情があってこちらに来ることができないので、代わりに私が使いに頼まれました』

『事情って……あの野郎、なにかヘマしやがったな』


 少しだけ会話が途切れて、圭は緊張してきた。


『………行ったよ、マイクを呼ぶみたい』


 聞こえてくる声で大体予想がつくが、一応は信じてもらえたようだ。

 つぶやく声でも聴かれないように、用心棒が離れてからラーフィリスは報告をした。


(見えないってのは、やっぱり不安だな)


 よくホラー映画で、音だけ聞こえても姿が見えないという表現を見るが、あれは理にかなっているのだなと圭は思った。

 目視する、ということはその存在を強く認識する行為だ。圭は落ち着かせるように、両足の膝を握った。


「ララ。 どこまで誘い込めるかはお前次第だ」

『わかってる』


 気にしていない様子だったが、ルーファスも聞いていたようで、アニェーゼに声をかけた。

 彼の言葉に彼女は力強く返事をした。その声を聴いて彼は頷くと、持っていた剣を月明かりに照らす。

 その時になって、ようやく彼は圭が不安を隠そうとして、隠しきれてないのに気が付いた。


(やはり、ラーフィリスだけには態度が違うな)


 年齢に似合わず、堂々とリーダーとしての役割を果たす圭は頼もしかった。しかし、ラーフィリスが絡んでくると、どこか脆さをにじませることがあった。


 彼は圭とラーフィリスの関係を詳しくは知らない。裏社会では詮索はご法度だし、嫌われる行動だ。だが、話の節々や行動を見ていると、なんとなく関係性が透けてくる。

 ルーファスの見立てでは、圭はラーフィリスを信頼し、大事にしている。そして、彼女は彼に恩を感じ、役に立ちたいと思っているようだ。

 このメンバーで一番の新入りのルーファスだが、ラーフィリスと圭の間には言葉では説明のできない何かがある、それは感じ取っていた。


 それは、例え付き合いが長くなったとしても、アニェーゼや自分ではラーフィリスのような立場になることがない。月日では埋められない差が、そこにはあった。


 誰しも大事なものはあるので、圭がラーフィリスをどう思おうがかまわないが、そわそわしている彼からは普段の頼もしさを感じさせず、不安になる。

 しょうがない奴だなと思い、ルーファスは剣をしまった。

 彼の雰囲気が変わった事に気がついた圭は視線をあげる。彼は圭に近づくと、軽く肩を叩いた。


「どうした、圭。 トイレにでも行き忘れたか?」

「ふ……。 大丈夫だよ、ルル」


 ルーファスの肩を叩き返し、圭は苦笑した。呼応するように、ルーファスは左の口角を釣り上げて皮肉気に笑った。


(やはり年長者なだけはある。 こういう時は本当に頼りになる)


 落ち着きを失っているのを見て、緊張をほぐしてくれたのだと圭は悟った。

 普段は頼りないくせに、こんな時は年長者だなと圭は改めてルーファスを見直した。




『来た』


 弛緩しかけた空気をラーフィリスの声が引き締める。


『まったく、カイルのやつ。 見込み違いだったかな?』

『おや、あなたは……』

『ん……どこかで見たことがあるような……』

『以前、仕事先の酒場に来られたことが……』

『おぉ、そうか。 すまんすまん、覚えておらんでな』

『いえ、客商売ですから』


 マイクが表に出てきたようだ、彼女と彼がしゃべる声が、『耳』に聞こえた。

 彼らは酒場で一度会ったことがある。そのため、知らないふりをするか、先に言ってしまうか悩んだが、知らないふりをしていることに気づかれると厄介だ。結局、先に言ってしまう事にしていた

 どうやらラーフィリスの事は覚えていないようだった。結果としては問題ない。


(本番はこれからだ)


 ルーファスは剣を鞘にしまった。

 準備ができた段階で、圭に頷いて合図を送る。すると圭も同じように返した。

 二人は気配を消し、ゆっくりと歩き始めた。




─────




「まったく……待ち合わせ場所はもっと近くにしてほしかったな」

「巡回が多いものですから」


 言葉巧みにマイクと用心棒二人を連れ出したラーフィリスは、彼らを連れて暗い夜道を歩いていた。

 先導するラーフィリスは、小さなラーサス神と呼ばれる提灯のようなものを手にしていた。蝋燭で作られた照明道具だが、ないよりは圧倒的に光源を確保できた。

 しかし、雲が出てきたのか、明るさによって暗闇が濃くなったのか。

 光に照らされていない横道は、まるで冥界への門が開いているように真っ暗だった。


 そんな夜道を歩かされて、マイクはぶつぶつと文句を言っていた。

 後ろをついてきている用心棒たちは、夜道は危険なため油断なく周囲を警戒している。


『予定通りだ、ララ。 ここらへんの警備は薄い』

『自警団はこっちから去ったばかりだ、チャンスだな』


 彼女の『耳』には仲間たちの声が聞こえていた。

 仲間たちの声が聞こえると、ラーフィリスは勇気が湧いてくる気がする。


 ラーフィリスは元々普通の少女だ。

 ソロヴァ王国諸侯の一門という貴族ではあり、厳密には普通ではないが、感性としてはただの少女だ。

 裏稼業が怖いと思ったことは何度でもある。いつかは自分が殺される側になるのではないかと、眠れない夜もあった。

 だが、こうやって仲間たちの声が聞こえれば、何も心配はない、そう感じていた。


「あの人が申し訳ありません……

でも、頼りになるのはマイク機織りの旦那だけっていうものですから」

「ふふふ……そうかそうか、ならば仕方ないなぁ?」


 ラーフィリスがおべっかを使うと、マイクは上機嫌に笑った。

 そう、仲間たちの声が聞こえればいくらでも嘘がつけるし、強い自分が演じられる。


『ララ。 もう少しだ』


 圭の声が彼女の耳に届いた。普段とは違う、労わる様な声だ。



──ララ。 この稼業に入る以上、厳しく扱うぞ



 それが、この仕事を始める時に圭から最初に言われたことだ。確かに、圭はこの仕事をしている時は厳しくなった、

 ようやく対等になるためのスタートに立てた、と彼女は思った。


(まだ、完璧な対等じゃないけど……)


 自分の役割は果たして見せると、彼女は自分に誓っていた。




「……風が」


 気配を感じたのか、用心棒が不思議そうにつぶやく。ラーフィリスの目には正面から歩いてくる二人の姿が見えた。

 ルーファスと圭は顔を隠し、武器を抜いた状態でこちらに近づいてきていた。ラーフィリスはそれを視認してから、ついてきているマイク達に右手を横に伸ばして制止を示す仕草をする。


「ん……? なんだ突然」


 のんきそうに言うマイクに対し、用心棒は素早くマイクの前に出て、ラーフィリスに近づいた。


「……なんだ、あいつら?」

「辻斬りか? 大将は後ろに下がっていてください。 女もだ」


 用心棒たちがラーフィリスの前に出た。彼らは腰に備えてある投げナイフを、いつでも投げられるように手を伸ばす。

 ラーフィリスはマイクに振り返った。


「ここでは邪魔になります。 横道に隠れましょう」

「う、うむ……くそ、カイルのやつ何をしおったんだ!

お前たち、金は払ってるんだ! 降りかかる火の粉は払え!」


「わかっていますよ、大将。 まかせとけ」


 ラーフィリスは用心棒の声を聴きながらも、ちらりと圭たちの方に目をやる。布で顔が隠されているが、圭のもごもごと口元が動いた。


『任せた』


 心強い声援を受け、彼女はマイクをつれて横道へと入っていく。

 『耳』からは、ルーファスが呪文を詠唱しているのが聞こえた。

 すべては予定通りだ。


 少し奥に入ったところで、いらいらとしていたマイクは、彼女に向かって怒鳴った。


「なんだ、あいつらは! いったいカイルのやつは何をした!」


 落ち着かないのか、カイルは地団駄を踏む。それを眺めながら、ラーフィリスはポケットにしまっていたある物を取り出した。


「そういえば、伝言がありました」

「なんだ、カイルのやつは何を言っていた?」


 カイルが何かを言っていたのだろうかと勘違いし、マイクはラーフィリスに顔を向けた。彼女は何かを右手に持っていた。


(伝言の元は、その人じゃないよ)


 彼女はマイクの間違いを正すことなく、顔面に向かってそれを勢いよく投げた。

 ひゅんと、風を切るそれは夜の暗さに隠れてマイクには判別ができなかった。

 とっさに彼は顔をかばった。ガンっと鈍い痛みが腕に広がり、しびれるような感覚がする。投げられたものは大きさに比べて、重量があった。


「貴様ぁ、なにをッ!」

「せぇい!!」


 ひるんだすきに、ラーフィリスはマイクの股間を蹴り飛ばした。


「──ッ!」


 形容しがたい、男にしか理解できない痛みに悶絶する。吐き気が襲い、体をくの字に曲げて、思わず跪いた。

 ラーフィリスの靴は、魔獣の革をなめして作られた特注品だ。重さがあるが、その強度は簡単な刃物を弾き返せるほどにある。

 マイクは気持ち悪さと痛みにこらえながら、目を開いた。涙でにじむ視界の先に、彼女が投げたものが見えた。

 黒い絵の具で着色された紙で金属の何かを包んでいるようだ。マイクには見覚えのある物だった。


(なぜ、香典袋……?)


 確かに重量があるため投げるのに適しているだろうが、武器として使うのならもっと適切なものがあるだろう。だが次の言葉を聞いた時、疑問は氷解した。






「『少ないですが、香典でございます』」






 ラーフィリスがマイクにささやいた。

 最初は何を言っているのだろうと思ったが……


(なぜだ、どこかで聞き覚えが……)


 理解するよりも早く、マイクの背筋を冷たいものが襲い、全身を鳥肌が覆った。

 その言葉を誰が誰に対して言ったかを思い出した。


 自分が、白絹屋の店長に言った言葉だ。


(つまり、こいつは……これは!)


 そして、この香典は自分が渡したものだ。

 つまり、この状況は……とそこまで考えた時だった。

 





 世界から音が消えた──。


アクセス履歴を見ると、19時投稿は半端な時間だったみたいですので、変更します。

今日は21時にも投稿予定です。

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