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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第一部「龍の会の日、復讐代行屋は夜を待つ」
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第四話


──娘さんは、自殺されました


 淡々と、そう伝えたラーサス教の神官を見て、アメリアの父親は呆然としてしまった。

 殺しではなくなった。この国では自殺は犯罪行為になる。そのため、殺害されたのと、暴行されたゆえの自殺では、被告人に対する罪に雲泥の差があった。つまりそれは、犯人に対する追及が緩くなったということも示していた。

 自殺と判断され、検死が終わった。いつまでも傷ついた体を残しておくのも忍びなく、早々に火葬することになった。

 六神教では、火葬が一般的だ。灰になった体は風に吹かれ、天へ昇ると考えられていた。

 もはや悲しみのあまりに表情が動かなくなってしまったのか。灰となった娘を見ても、父親は無表情だった。


──店長……いや、師匠


 一番弟子は気を落とさないでください、と言いたがったが言えなかった。そんな軽い言葉で済ませられるような相手ではなかった。彼にできることは、父親の心の傷がいえるまで、そっと見守るだけだった。

一人になった父親に、包帯を巻いたカシムが訪ねてきた。真新しい怪我を押して、妻と思われる人物に補佐してもらいながら来たカシムは、ただ彼に頭を下げた。


──すまねえ


 何が申し訳ないのか、父親はすぐに分かった。彼は他殺だといっていた。そんな彼がけがをしたということは、誰かが手を回したと考えるのが自然だろう。

すべてを悟った父親は、カシムを責めることはできなかった。だが、どうすればいいのかわからなくなった父親は、ただ茫然と娘の部屋で座り込んでいた。


「何が悪かったのだ……」


 空になった娘のベッドの上には、赤いドレスが置かれていた。婚約者に会う時に、着飾っていなければ恥ずかしいだろうと思い、高級な絹を使って仕立てたものだ。

アメリアが着るはずだったドレスを眺めながら、父親は身動きができなくなっていた。何もしたくない、何も考えたくない。これから、どう生きればいいのだろうか。


──コトン


 その時、天井から物音がした。


「白絹屋、アメリアは殺されたのだ」


 男の声が部屋に響く。ぞわりと、背筋に鳥肌が立った。


「動くな」


 思わず立ち上がろうとした父親を、謎の声が制する。声は天井からしているが、なぜか直接耳元に入る不思議な感覚がした。

 それは『囁き声』と呼ばれる呪文で、圭がルーファスに作ってもらったものだ。遠くから特定の人間にだけ声が届くようにする魔法だ。

 天井裏には圭が潜んでおり、術符を使って父親にだけ声が聞こえるようにしていた。


「お前の娘は殺されたんだ」

「貴様は、何者なんだ。 なんでそんな事を知っているんだ!」


 混乱した父親は同じような内容を繰り返す声に問いかける。


「復讐、代行人」


 あっ、と思わず声が漏れた。王都に流れている噂があった。


──正当な復讐と金さえあれば、あなたの恨み晴らして見せましょう


 腐敗した神殿、裁くことのできない悪、それらを専門に扱う復讐代行人。ちょっと耳が良い者なら知っている噂だ。


(実在したとは……)


 混乱のさなかだったため、父親は素直に信じてしまった。


「お前の娘を手にかけたのは、マイク機織りの会長だ。

カイルという女衒を使って、お前の娘を嵌めた」

「マイク……機織り……?」


 その名前を聞いた瞬間、すべてに納得がいった。マイク機織りの会長ならば、神殿に伝手があるだろうし、口をふさぐこともできる。また、アメリアをわざわざ狙ったのも納得がいった。

 頭の中に殊勝な態度で店に来たマイクの顔が思い浮かんだ。父親は憤怒で顔が真っ赤に染まった。


「あの、糞がぁ!」


 怒りに任せて父親は立ち上がり、外に出ようとする。

 立ち上がった瞬間、再び圭が制止した。


「動くな! 白絹屋1人で言っても無駄だ。

奴には用心棒がいるし、気がふれたとしか扱われないだろう」

「では、どうしろというのだ……!」


 制止する声に少しは冷静になり、父親は外に出るのをやめるが、憤りを隠せない。そして、圭が何を名乗ったか思い出した。


「……復讐代行人」

「そうだ」


 淡々とした声に、父親はごくりと唾をのんだ。だが、こいつを信用してもいいのだろうかという疑問が頭をよぎる。


「信じられないとかいう言葉はいらない。

ただ、金を用意し、探し人の板に『干支を探す。白絹屋』と書いておけ」


 探し人の板とは各地区の中央に置かれている伝言掲示板のようなものだ。さすがに王都はでかすぎて、連絡を取るのも一苦労だ。伝言掲示板には大銅貨1枚で、メモを書いた紙を張ることができた。メモ書きは3日間掲載される。


「金は連合銀貨100枚」

「100枚!?」


 圭が示した金額を聞いて、父親は驚きの声をあげる。連合銀貨100枚は、ルーファスの半年分の給料に相当する。

 依頼料の下限は龍の会が決めるが、こういったケースなら連合銀貨100枚もあれば受けるだろうと圭は判断した。

 白絹屋の店長ぐらいならば、ひと月で稼げるだろう。集めることに問題はないはずだ。


「100枚なんて用意でない!」

「なに?」


 だが、予想外の言葉に圭は耳を疑った。


「マイク機織りと対抗するためには、大きな市場改革が必要だった!

私は私財をはたいて、何とか規模を拡大させたのだ」


(それが、マイク機織りを警戒させたのか……)


 圭は今回の事件にようやく納得がいった。ただの趣味でアメリアを殺したには危険が大きすぎるのではないかと、彼は思っていた。

 大手商会と白絹屋がつながるのは、ライバルとしては警戒するだろうが、圧倒的にマイク機織りのほうが規模は大きい。そこまで危険視するものだろうかと思っていた。

 しかし、白絹屋が大規模な進出を始めようとしていたのなら頷ける。


「金を決めるのは俺じゃねえ。 俺はあくまで連絡係だ」


 だが、金がなければ仕事にはならない。そして、仕事以外で殺すのはご法度だ。

 龍の会の決まりだから、という理由だけではない。報酬もなしに殺すのは、ただの殺人鬼だ。


「決めるのはあんただ。 だが神殿は期待しないほうがいい」


 そういって締めくくると、圭は屋根裏を伝って、外へと出た。

 天井裏の気配が消え、父親はその場にへたり込んだ。


(マイク機織りが、娘を殺しただと……)


 怒りと困惑が頭の中をぐるぐる回り、父親は悩み始めていた。はたから見るとぼんやりと、立ちすくんでいるようだった。

 如何すべきか、悩んでいた父親の視界に、赤いドレスが映った。アメリアが着るはずだったドレスだ。

 それを見て決意がついた。彼は部屋から出て、私室へと向かった。

 まずは手紙を書くために、そして探し人の板へと向かうのだ。


17/3/27 女衒を使ってという言葉を、カイルという女衒というふうに修正。

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