第四話~『生徒会と風紀会』~
入学式が終わって一週間が経った。
一週間前と少し違うところは、俺の隣に鞄を持った撫子がいることだ。
前日、撫子が学園に通いたいという事でその夜にみさきさんが撫子の入学申請を学園へ出したところ、あっさりと申請が通った。
流石は自由校だと改めて思った。
撫子の服装はいつも通りの和服だ。
学園の服装は何でもいいと言う事で、いつもの服がいいと撫子が言うので和服で行く事になった。
撫子が外へ出るという事で、俺は相棒を学園にまで持ち出さなければならない。
そうしておかないと、撫子は撫子荘から出ることができないからだ。
「・・・・・・学園かぁ。楽しみだよ・・・・・・」
撫子はそわそわしていた。
「叶!撫子さ~ん!おはよ~!」
遠くから榛名が手を振っている。榛名と一緒に居る人は見たことの無い人だ。
「榛名。その人は?」
「この子は、私の親友の花坂茜だよ!」
「どうも。天野君。茜です。よろしくね」
「知っているとは思うけど、天野叶。よろしく」
「ふ~~ん・・・・」
「な・・・何だ?」
いきなり茜が俺の体をあちこち見ている。
「この人が天野君かぁ~。榛名がいっつも話の話題に出てくる人か~。予想よりかっこいいね」
「ちょ・・・・・・茜っ!!」
「私も惚れちゃいそうだよ~。ねぇ、榛名」
「~~~~~!!!!!」
榛名の顔が真っ赤になっていく。その姿を茜がニヤニヤと見ている。
「?」
その話にまったく着いていけない俺であった。
「あ、天野先輩!」
「ん?おっ。梗華か」
「おはようございます」
梗華の隣に友人と思われる人がいた。
「初めまして先輩。前回、親友の梗華を助けてくださってありがとうございます。
私の名前は、藤宮紫と申します。以後お見知りおきを」
「ああ。よろしくな」
「こちらこそ」
紫と握手をして、一緒に歩く事になった。
「紫。お礼なんていいよ。俺は当たり前のことをしただけだから」
「いえいえ。私の親友を助けてくれたからには、お礼を言わなくてはなりません」
「そうか・・・。では受け取っておくよ」
「ありがとうございます」
紫は頭を下げた。
紫の雰囲気は気品があり、服装、口調、仕草、礼儀がまるでお嬢様を相手にしているようだった。
「これが・・・登校なんだ・・・にぎやかでとても楽しいね、叶」
「そうだな」
撫子は微笑んでいた。
俺もこんなに楽しい登校はあの日以来であった。
また訪れるとは思っていなかった。
撫子を学園に通わせることは、間違っていなかったと俺は思った。
みんながいると、今までのことを忘れるとこができた。
※
校門に近付くと、そこには人が数人立っていた。
「何だやっているんだ?」
「もうやってるんだ~。早いなぁ~」
茜があちゃ~と頭を抱えた。
「おっと、叶は初めてだっけ?これは、生徒会と風紀会合同の服装容儀検査だよ。」
「へぇ~自由校でも服装をチェックするんだな」
生徒会と風紀会。
確かこの学園を仕切っている二大組織だ。
その組織に所属している人たちはかなり優秀で、将来の日本を支えてくれる人材ばかりらしい。
「そこの君!そのアクセサリーは必要ないだろ!」
生徒会、風紀会の声が響いている。
「すごいなぁ~」
「あちゃ~。今回は引っかかりそうだから・・・バイバイッ!!」
「あ・・・おい!」
茜は校門とは違うルートへ行き、俺たちから離れた。
「この日になるといつも茜はこうなんだよ~」
榛名はため息をついていた。
「引っかからないようにすればいいのに・・・」
「私の格好は大丈夫かな?榛名?」
「ん~。華美なところはないし、大丈夫だと思うよ。和服をどう捉えるかだね」
「はい。検査しますよ」
風紀委員と思える人から検査を受け、みんな引っかからずに終えた。
こうして、校門の服装容儀が終わると、
「「ん?」」
生徒会、風紀会の会長らしき人たちと目が合った。
「君は・・・確か、天野君かな?」
「え、ええ。そうです・・・」
「・・・・・よし!」
二人は顔を合わせ、近寄ってきて、俺の手を取った。
「風紀会に入ってこないかい!?」
「生徒会に入って来ませんか?」
「・・・・・え?」
二人から同時に勧誘を受けた。
「君の事件の解決した腕を見込んで、風紀会に来てくれ!私と学園の平和を守ろうじゃないか!」
「いえいえ。私たち生徒会に入って一緒に学園を楽しくしませんか?今なら特典もついてきますよ~」
「えっと・・・あの・・・その・・・」
俺は反応に困っていた。
どう返事をすればいいのか分からない。
「私が先だぞ!シャル!」
「いえいえ。私が先ですよ。紅秋」
「何を言っているんだ?この金髪悪魔」
「そっちこそ何を言っているのですか?筋肉馬鹿女」
「「っ!!・・・・・・・・・・」」
俺の両端から鋭い視線が飛び散っている。
間に挟まれた俺はただ見ていた。
「あの・・・・」
「なんだ!!」
「なんです!!」
「うっ・・・・・・」
そんなに当てられたら流石に悲しくなる。
「・・・・・・手を離してくれませんか?」
「「!!!」」
二人はすぐに手を離した。
「す、すまない・・・」
「すみません・・・」
顔を赤くして、俯いた。
「あの・・・貴方たちの名前は?」
そう言ったら、風紀会の人が先に言った。
「失礼!自己紹介はまだだったな!私は桜花学園風紀会会長!緋崎紅秋だ!よろしくな!天野!」
風紀会会長緋崎紅秋は女子なのに男気が溢れる声で自己紹介をした。
男っぽい口調でその姿は少しかっこよかった。
「私は天照学園生徒会会長のシャルル・マーガレッドです。宜しくお願いしますね。天野君」
生徒会会長シャルル・マーガレッド。
普通の人とは違い、金色の髪、青い瞳が存在を一際目立っている。
その雰囲気は落ち着いていて凛としている優しい雰囲気であった。
「えっと、二人方は知っていると思いますが、私は天野叶です。宜しくお願いします」
「・・・・・・ああー!もう!天野!私たちに堅苦しいのはいい!気楽にしてくれ。そっちの方が話しやすいからな!」
「ええ。私もそうしてください」
「分かりました。紅秋さん。シャルルさん」
「おう!」
「はい」
「で、連絡先を教えてくれよ!天野!」
「わ、私にも教えてください!」
二人と携帯の連絡先を交換した。
「いつでも連絡してくれ!」
「楽しみにしていますよ」
「はい。分かりました」
今日は生徒会会長と風紀会会長と友達になった。
「・・・おっと、もうこんな時間か。またな!天野!」
「それでは。また会いましょう。天野さん」
学園の中へと行ってしまった。
俺も学園の中に行こうとした時、後ろから鋭い視線が刺さった。
「うっ・・・・・・」
振り返ると榛名と撫子がいた。
一緒に来ていたのを忘れていた。
「あ、あの・・・・・・どうしたのデスカ?榛名サン?撫子サン?」
「ん?ちょっと叶に言いたいことがあるの。ねぇ、撫子さん?」
「そうだね。私も叶に言いたいことがあるんだよ・・・」
二人は笑っているが、目が全然笑っていなかった。
俺は榛名と撫子に引きずられ、HRが始まる前まで、正座で二人の説教を受けた。
※
「皆さん始めまして。この学園へ編入した、黒川撫子といいます。よろしくお願いします」
撫子は俺のクラスに入ることになった。
苗字が無いと変に思われるので、みさきさんの苗字を使うことにした。
撫子は俺の隣の席に座ることになった。
一週間前の俺と同じように、クラスの生徒から質問攻めにあっている。
聞こえているのを言ってみると特に、服装のことについて言われているようだ。
しかし、一人だけ例外がいた。
「あんな可愛い子は見たことが無いぞ!天野!お前は何か知っているんじゃないのか!?」
「何で俺なんだよ・・・」
「朝一緒に登校していただろうが!しらばっくれんじゃねぇ!」
東条だけが撫子のところに質問していなく、俺のとこにいた。
東条は撫子の編入の情報+こんな美少女の情報を自分が持っていないことを悔しがっている。
「くぅ~、何で私の情報網に掛かってないんだ?あの子は誰なんだ!?」
「撫子だって本人から言っただろ?」
「そこじゃなくて中身のほうだよ!
「くそっ!町一番の情報屋の私が知らないなんて、どんな子なんだ!?」
知らないのも仕方ないだろう。
撫子は幽霊で、最近まで俺以外の人間には見えていなかったからな。
「こうなったら、あの子の家を特定してそれから・・・」
「東条。それ以上やると、今お前の体から頭が離れるぞ」
俺は持ってきたこいつを東条の首に当てた。
「うっ・・・天野、冗談は・・・・っ!!これは・・・」
「お前の察しどおりだ」
「この前までこれを持ち歩いていないのに、どうして今頃持ち歩いているんだ?また、戻るつもりなのか?お前が嫌がっている『刹那』に・・・」
「いや、そんな気はない。だが、一つだけ言えることがある。これを持ち歩いているのは、撫子が関わっているからだ。これ以上この件に首を突っ込むと、体から首が離れるだけではなく、ここに肉塊が一つ転がることになるぞ」
「・・・・・・分かった。私はこの件から離れることにしよう。私も命が惜しいからな」
この件に他人が関わると、撫子の存在が明らかになり、撫子が学園に居られなくなる。
撫子もあの時の俺のようになってしまう。
あんな思いを誰にも思わせたくない。
せめて、俺の目に映る人は守りたい。
そのために俺は・・・。
あと、相棒には謎が多くありすぎる。
俺も調べなくてはならない。
「話が変わるが、生徒会と風紀会のことについて、詳しいことを教えてくれないか?」
「すごく変わったな。・・・・・・まぁ、いい。教えよう」
「まず、生徒会。ここの生徒会は学園の行事、年間方針、予算、教育方法など、本来教員たちが決めることを生徒会がやっているんだ。生徒会の所属条件はかなり厳しく、入れたらかなりのエリートか天才しかいない。その超一流を束ねている会長。生徒会会長シャルル・マーガレッドはかなり頭が良く、彼女が提案したもの全て大成功に収めている実績がある。学園にもかなり貢献していて、学園がここまで人気なのは彼女が深く関わっていると言う。この学園の基盤を作った人なんだ」
この学園の基盤、人気の理由はシャルルさんが関わっていることに驚いた。
「次は風紀会。ここは生徒会とは違い、学園の秩序と平和を守っている。世間で言うと警察の代わりだ。風紀会も所属条件が厳しくて、条件の一つとして一つの武道の資格を3段以上持っていないと無理だという。そんな警察のSPみたいな軍団を束ねているのが風紀会会長の緋崎紅秋。あらゆる武道、格闘技を全て極めた恐ろしい人だ。彼女に逆らった人は容赦なく制裁される。前にこの学園に不良200人が攻めてきて、緋崎紅秋はたった一人で倒したというし、弾丸を避けたとも言われている。だから、この学園が何もかも自由というのを言えているのは彼女のおかげだ」
「ほう・・・」
あの人はかなりの強者だったのか・・・。
一度、手合わせをしたい。
「まぁ、お前もかなりだからな。彼女と戦うとしたら・・・・結果はどうなるかは分からないな」
「なぁ、東条。今日、紅秋さんと手合わせをしたいと頼みたい」
「なっ・・・お前!!」
「俺は戦いで生きてきた人間だからな・・・血が騒ぐ」
この衝動は時々起きるものだ。
あの時はその衝動に駆られ、多くの人を葬った。
「やめておけ!そうすればお前の正体が・・・」
「確かにそうだが、流石に衝動を抑えきれない」
俺はこの5年間、戦いの中で生きてきた。
本能が疼いてしまう。
俺は携帯で紅秋さんにメールを送った。
「昼休み、手合わせを願いたいです」
すぐに返信が帰ってきた。
「いいだろう。グランドで待ってる」
あっちもやる気であった。
「よし!」
「天野、お前・・・どうなっても知らないぞ」
東条が呆れている。
授業中は、昼のことで集中できなかった。
俺は昼が楽しみで仕方なかった。
※
「待っていたぞ。天野!」
「こちらの我がままに付き合ってもらって、ありがとうございます」
昼休みとなり、グランドの真ん中に二人が立っていた。
俺が紅秋さんに戦いに挑むという事が噂になったのか、周りには大勢の生徒がいた。
多分、東条が流したのだろう。
・・・後でシバいてやる。
「私も天野と手合わせしたかったんだ。窃盗犯が乗ったバイクに一瞬で間合いを詰めたと言うからな。気になって仕方なかったんだ」
「俺もそんな感じですよ。友人から聞いて貴方の実力を知りました。それを聞いて、体が疼きました」
「ははははは!!天野!お前の気持ちは一流だ!強いやつと戦いたい。そんな衝動が襲ってきたんだろ!」
「まったく、そのとおりです」
二人は見つめて、沈黙が流れた。
「・・・・・それじゃ、行きますよ」
「いいぞ」
声と同時に俺は紅秋さんとの間合いを詰めた。
「なっ・・・」
紅秋さんはその速さに驚いていた。
「ちぃ!!」
俺の攻撃を避け、距離をとった。
「今まで見たことの無い戦闘スタイルだ。しかも、ちゃんと型になっている。お前・・・何者だ?」
「何者でもないです。俺は天野叶という学生です」
「ほう・・・。それじゃあ、私も本気で行こうっ!!」
紅秋さんは距離を詰め、俺の目の前に来た。
「もらった!!」
顔へとストレートを繰り出した。
「ふっ・・・」
「っ!!」
当たったかと思われた拳が避けられていた。
しかも紙一重で避けられていた。
紅秋さんの速さをゼロ距離から避けることは常人レベルではほぼ不可能だ。
だけど、戦っている相手は、超人だ。
「まだまだですね」
「くっ!!」
その後も連続して拳を繰り出すが、それを避け、流し、受け止めた。
「なっ!!!」
紅秋さんは驚いて、距離をとった。
「お前・・・只者ではないな!流石だ!」
紅秋さんは笑った。
「そうですか。ありがとうございます。しかし俺はまだ本気を出していません」
「な・・・なんだって・・・」
周りにいる生徒たちも驚いていた。
俺と紅秋さんの戦いはすざましいもので、誰も目で追えていない。
だが、俺はこれでも本気を出していない。
本気を出せは、すぐに決着がつく。
「本気を出していないだと・・・・・・ふざけるな!!私との戦いがそんなものなのか!」
紅秋さんは怒りに満ちた声で言った。
「そうではありません・・・本気で戦えば、この場がどうなるが分かりませんから」
「それは私への侮辱か?」
「いえ、警告です」
「・・・・」
「!!」
一気に間合いを詰め、拳を放つ。
「うおっと!」
間一髪で避ける。
「これでもか・・・天野」
完全に熱に帯びていた。
これでは、勝負にならない。
「・・・分かりました。本気で行きます・・・後悔しないでくださいよ」
「私に二言はない!」
腰を低く構えた。
「一瞬ですよ。それでは・・・・・・行きます」
俺は全力で間合いを詰めた。
「え・・・・・・・・」
そのときの周りの生徒、紅秋さんは驚いた。
俺がそこから消えたかのように見えたから。
俺は紅秋さんの周りを回る。
「くっ・・・・・」
高速で動く。
早すぎるのか、紅秋さんの目では追えなくなっている。
「きゃあああ!!!」
高速で動いているから、砂が舞い、木枯らしが起きていた。
周りにいた生徒達は砂が思いっきり体に当たる。
「この速さ・・・・・・まさか!」
「そこまでです。紅秋さん」
紅秋さんの首に手刀を入れた。
「くっ!!・・・く・・・・そ・・・・・」
気を失い、倒れた。
木枯らしもやみ、静寂が訪れた。
「ちょっとした打撲が数箇所か・・・気を抜いたら、こっちも危なかったな」
紅秋さんとの戦いは終わった。
「さて・・・・と、保健室へ行きますか」
俺は紅秋さんを保健室へ運んだ。
周りにいた生徒たちは唖然として、その姿を見ていた。
※
紅秋view
「はっ!!・・・・ここは・・・・・」
私が居たのは保健室。
私は、昼休みに天野と戦って・・・。
「お。起きましたか紅秋さん」
天野がいた。
「あ、天野」
「目覚めるのが早いですね。手刀を首に入れたので何時間は目覚めないと思ったんですが、10分でさめるなんてすごいです」
笑っていた。
しかし、あの時、本気を出すといって構えたときの天野の目は別人だった。
あの目と一度だけ戦ったことがある。
ああいう目をするのは、
・・・・殺しをした事のある目。
「天野・・・お前は・・・・・・あの『刹那』なのか?」
天野はこちらを見つめる。
「何故・・・・・そう思うのです?」
雰囲気がかなり重い。
まるで、死と隣り合わせでいるようだ。
それでも私は、問いかけた。
「あの速さ、噂で聞いた伝説の男『刹那』と同じなんだ。お前がそうなのか?」
「・・・・それは違いますよ」
「へ?」
意外と回答に私は驚いた。
「『刹那』は天下を取ったあの後行方不明になって、死んだと言われています。そして、特徴が違いすぎます。『刹那』は腰まで長い髪で、すばやい速さと威力、刀一振りで戦うと聞いています。それに私は当てはまっていませんよ」
天野は私に向かって微笑んだ。
さっきの雰囲気が消えた。
本当に何者だろうか?
ますます、天野に関して謎が深まる。
「あと、戦いで分かったことなんですけど、紅秋さんの戦いはチンピラどもには効くと思います。しかし、貴方の戦いには心がないんです。戦う意味がまったく伝わっていませんでした。このままで貴方より強い人と戦うことは出来ません。すぐに負けてしまうでしょう」
「う・・・・」
天野は的確なところを突いていた。
確かにそのとおりであった。
父に昔言われたのと同じように言われた。
「あと・・・放課後、生徒会と風紀会を見たいのですが、よろしいですか?」
「・・・・・ああ!分かった!手配しておく!」
「あ、あとそれと・・・・」
「どうしたのですか?」
「あ、天野のことを・・・・・・師匠と読んでいいか?」
「え・・・あのえっと・・・・」
「頼む!!」
私は気づいた。
今の私じゃダメなんだ。
越えるためには、天野の力が必要だという事に。
「・・・・・・・」
沈黙が続いた。
「分かりました。いいですよ。でも、二人きりのときだけですよ。変な誤解はされたくないので」
「あ・・・あぁ!ありがとう!感謝する!」
天野は引き受けてくれた。
「それでは、俺は失礼します」
天野は保健室を出た。
窓から青い空を見上げた。
「・・・天野叶・・・か・・・・・・」
天野は普通の人とは違う感じがする。
あの人と良く似ている。
優しく、時には厳しく、そして・・・強かった。
私は・・・・。
ずっと窓を眺めて、思い出していた
※
叶view
「・・・・・・はぁ~!危なかった~」
保健室を出て数秒、緊張が一気に解けた。
紅秋さんにはあと少しで正体がばれそうだった。
つい、『刹那』のことを聞かれて、『刹那』の目になってしまった。
「・・・・・バレてない事を祈るしかないな・・・」
そのまま教室へと帰った。
※
「天野!!おまえすごいな!」
「あの紅秋会長を倒すなんて、お前は何者だ!?」
「あははは・・・・」
昼に見ていた生徒から聞いたのだろう。
かなり広まっていた。
「叶。話があるからちょっと来てくれないか?」
「分かった」
撫子に連れられ、屋上に来た。
「叶。どうしてあんなことをやったんだ?」
撫子は怒りに満ちていた。
どうやら、昼の出来事での話だ。
「・・・・・・すまない・・・・・」
「私は叶に感謝している。しかし、今日の昼はなんだんだ!!」
「・・・・・・」
何も反論出来なかった。
撫子がここまで怒るとは予想外だった。
「!?」
撫子の顔を見ると、頬から涙が零れていた。
「私は!叶が怪我する姿を見るのは・・・嫌なんだ・・・」
「それで、怪我して、ボロボロになって、もしかしたら、死んでしまうかもしれない!そんな姿!私は!私は!・・・・・見たく・・・ない・・・」
撫子はその場で泣き崩れた。
俺の怪我はそう大したものではないが、撫子にとって大きいものなのだろう。
俺は撫子を抱きしめた。
「お前の気持ちを考えずに・・・・・・すまない・・・・・・」
「ひぐっ・・・・・うん・・・・・」
これからの俺は、何も理由の無い戦いはやらないことにした。
その後、放送で俺と紅秋さんが呼ばれ、シャルルさんに思いっきり怒られた。
※
「それでは、これで今日の授業は終わりです。みなさん、気をつけて帰ってくださいね。天野君。今後、あんなことはだめですよ」
「はい・・・」
帰りのHRで華恋先生にも言われてしまった。
流石にあそこまで派手にやらかしてしまったから、もう誰でも知られてしまっているだろう。
帰りの挨拶が終わり、放課後となった。
「さてと、見学に行きますか」
そのとき、
「叶。何処に行くんだ?」
「撫子。今日は一緒に帰れないんだ。先に帰ってくれないか?」
「いや、叶と一緒にいるよ。いいかな?」
「・・・・・・・・・・仕方ないか。いいぞ」
「ありがとう」
予想外に撫子も一緒になったが、俺はまず、生徒会のほうへ向かった。
※
「待っていましたよ。天野さん」
「俺のわがままを聞いてくれてありがとうございます」
「ここで断っていれば、生徒会の恥ですよ」
撫子と俺は一緒に生徒会室へ向かい、シャルルさんがその前で待っていた。
「それでは、改めまして・・・ようこそ、生徒会へ」
生徒会室の扉が開く。
「おお~」
そこに広がっていたのは、別世界。
これが・・・生徒会室・・・」
他の教室や職員室とはまったく違うつくりだった。
部屋の広さは職員室以上で、机や椅子などの家具は比べものにならないレベルだ。
「生徒会室は中世のヨーロッパをイメージして造られていて、ここで私たち生徒会員は活動しています。まぁ、こんな豪勢な内装ですからびっくりしてますよね」
「・・・はい」
机や椅子のほかに、鎧もあるし、絵画も何枚か飾ってある。
・・・桜花学園は改めて普通じゃないと思った。
撫子は周りをきょろきょろする。
「撫子さんは予定では来ない筈でしたが・・・」
「まぁ、そこは許してください」
「分かりました。さぁ、座ってお茶にしましょう」
シャルルさんが持ってきたのは紅茶。
しかもかなりの高級品だ。
「それでは、いただきます」
貰った紅茶を飲む。
流石高級な物だ。
香りもいいし、味も上品な味わい。
隣で撫子が、あちっ。と言いながら飲んでいる。
「生徒会の大体のことは知っていますね」
「はい」
「それじゃあ、少し雑談をしましょう」
シャルルさんとのティータイムを過ごした。
「・・・・・・・」
突然沈黙が流れる。
「天野君。撫子さん。あなたのことを少し調べさせてもらいました」
「!!」
さっきまでの雰囲気がいきなり緊張が走るものになった。
シャルルさんから笑顔が消えていた。
「あなた達は最近まで高校にも入学してなく、中学校にも入学していない。そのときの住所は天野君達は不明。本来たくさんある情報があなた達は少なすぎる。あなた達は今まで何をやっていたんですか?」
「そ・・・それは・・・」
撫子は口ごもっていた。
それも仕方ない。
最近まで外に出れなかったからな。
俺もそうだ。
山に篭っていたから本来あるべきの情報が少ない。
生徒会。教員が持っている権利を全て持っている組織。
ここまで調べるなんて、流石ここをまとめる長だな。
「・・・それは言えない」
「何故です?」
「今は話せない。・・・いずれ話す」
この雰囲気で、俺は敬語ではなかった。
また、『刹那』となってしまった。
「叶・・・・」
「・・・なら、質問を変えましょう。何故この学校に入学したのですか?」
さっきの雰囲気がなくなり、いつものシャルルさんになった。
「それは、俺の両親が薦めたことのある学園だったからです」
「そうなんですか。天野君の両親は確か・・・」
「そうです」
俺はシャルルさんの言葉を遮った。
それ以上言って欲しくなかった。
それを察してくれたのかそのまま黙ってくれていた。
「両親は・・・ここは自由で、自分の道が探せる場所だと言っていました。両親がここのOBで、一緒に同窓会出れればいいなと思っていましたので入学しました」
「そうなのね。ありがとう。撫子さんは?」
「わ、私ですか!?私は家の事情で外にあまり出られませんでした。その時に叶に会って、外に出れるようになりました。それで、叶と同じところへ通いたいと思ってここに決めました」
「天野君が関わっていたんですね。うふふ・・・」
「学園は楽しいですか?」
「今までにない以上に俺は楽しんでいます」
「私もです!!」
「そう。それはよかったです。これを聞いて私は満足です」
俺達は笑いながら話した。
「おっと・・・そろそろ時間なので行きますね」
「もうそんな時間ですか。早いですね」
「紅茶美味しかったです。ありがとうございました」
「いいえ。これからも遊びに来てくださいね。気が向いたら、いつでもいらして」
「ありがとうございました」
撫子は先に生徒会室を出た。
「天野君」
俺だけシャルルさんに呼び止められる。
「なんでしょうか」
「さっきはきつく聞いてごめんね。でも、いずれ話してね。私はあまり親しい人とは、隠し事はしたくないから」
「分かりました。それでは」
俺と撫子は生徒会を後にした。
※
「おお!待ってたぞ!!天野!!」
紅秋さんは胴衣で迎えてくれた。
「どうも紅秋さん。わがままを聞いてくれて」
「いいって!・・・で、このお嬢さんは?」
「私は撫子です。叶の友達です」
「そうか!なら、一緒に見て行ってくれ!」
部屋の前には達筆で「風紀会」と書かれていた。
「ようこそ!風紀会へ!」
勢いよく襖が開かれる。
部屋は生徒会室とは違って和室。
広さは生徒会室よりもあった。
奥に道場。
道場には風紀会の委員が稽古を行っていた。
手前には昔ながらの机と筆、硯と和紙があった。
「どうだ!?風紀会の部屋は!?いいだろう?」
「・・・・とてもいいです。落ち着きます」
「私も落ち着くね。畳がいいものだね」
撫子も気に入ったみたいだった。
生徒会室に入った撫子はカチコチしていて、ぎこちなかったが、風紀会ではそうではなかった。
「そうか!!よかった!」
紅秋さんは満足していた。
「風紀会の仕事は聞いているだろう?」
「はい」
「ならいいな」
「よぉし!!やめ!!」
紅秋さんの声が風紀会室に響く。
一斉に集まる委員。
「今日のお客さんたちだ!丁重にもてなすこと!」
「押忍!!」
風紀会の人たちの声が響く。
気合も入っていて、中々いい。
「天野。お願いなんだが、こいつらに稽古をつけてくれないか?」
「俺がですか?」
「そう。今日の昼で私を倒したという事で、是非っ!って言われてな~」
「・・・・・・」
撫子が心配そうな目で俺を見る。
「大丈夫だ。昼みたいなことはしないよ。怪我もしないから」
「・・・分かった。怪我をしないでね」
撫子の許可が下り、俺は道場に入った。
風紀会の委員は総勢35人。
弓道、柔道、空手、剣道、合気道など様々な武道に精通している委員達。
「さて、一人一人相手にするのも面倒だしな~。う~ん・・・よし。みんな、一斉に掛かって来い!」
「!!」
その場にいた全員が驚いた。
一つの武道で3段以上たちの相手35人に一斉に掛かって行く。
いくらなんでも、そこらの人には出来ないことだ。
本来、武道は一対一の対決だ。
武道で一対多数の相手をするのは、武道の達人でなければ出来ない。
「失礼ですが天野さん。ここにいる風紀会をなめているのではないでしょうか?」
風紀会にいる35人が殺気を露にしている。
紅秋さんと同じだ。
「いや、そうではない。俺ならそれが出来るから言っているんだ。俺をこの学園を敵に回して、混乱を招いた反逆者とお前達が見ればいい。全力でこの学園を潰してくる相手にやるんだ。そうじゃなければ守れないぞ」
「防具はどうしますか?」
「着けん」
「!!・・・怪我をしても後悔しないでくださいね」
「始めっ!!」
始まりの言葉が響き、一斉に攻めて来た。
「うおおおおおおお!!!!」
「・・・そうこなくちゃ」
正面から35人の突撃を俺は迎えた。
※
「うう・・・」
勝負が決したのはそれから15秒後。
全員が床に伏せていた。
「な・・・なんて強さだ・・・」
驚いていたのは紅秋さんだ。
「私はこんな相手と昼に戦っていたのか・・・」
その場は唖然としていた。
こんなことは紅秋さんでも出来ないだろう。
「ティータイム後のいい運動になったよ」
俺は無傷。
床に倒れている風紀会の人達に首、手、足などに一撃を加えた。
「まぁ、普通のやつらよりはいいか」
「一つ言わせて貰う。お前らはさっき、何を思って俺に挑んだ?
俺に挑発されたからと、自分のプライドを傷付けられたという理由で挑んだ奴は今すぐ風紀会を抜けろ。そんな志を持った者には学園や自分すら守れやしない。むしろ、ここにいるのが邪魔だ。
武道をやっている人間なら自分の信念を信じ、大切な人や場所を何が何でも守ろうとする。命に代えても守り抜くのが武人としてだと俺は思う。
お前達の守るべきものは何だ?この学園に通い、一緒に過ごしている友人や恋人がいるだろう。そして、そんな人に会えたこの場所が守るべきものだ。
負けたという事はその信念が小さい、そう思っていないということだ。さっき言った俺の言葉で言うと、お前らはこの学園に混乱を招くやつに負け、お前達の大切な人たちがそれに巻き込まれてしまい、怪我を負っているかもしれない。
お前達はいざと言うときに大切な人を守れなかったんだ」
「くっ・・・・」
風紀会の人たちは黙って俺の話を聞いていた。
「負けたくなかったら、大切な人を守りたかったら、自分の体がどうなろうと戦う。心に持った自分の信念を強く持つ!そうすれば、戦いには勝つ!戦いの要は自分の心だ。その信念が揺らいだときは負けだと思え!」
「押忍!!!ありがとうございました!!!」
風紀会の委員から気合のこもった声が響いた。
最初のときとは違う。
覚悟を決めた声だった。
※
「ありがとうな!天野!あいつらにすごい一言を言ってくれるなんて!」
その後は風紀会室から出て、学園の校門で紅秋さんと話していた。
「いいえ。ただ、思ったことを言っただけなんで」
「いい経験になったよ。あいつらも、私も」
「そうですか。それならよかったです」
「ちょっと~天野君~!」
遠くから俺を呼ぶ声がした。
「シャルルさん?」
「そういえば、決まった?生徒会か風紀会のどちらかに」
「おお!そうだ!天野!どうなんだ?」
「え?」
何故か俺が入ることになっている。
「あれ?俺はただ見たいから見学をお願いしたんですが?」
『はい?』
「勘違いしていましたか?」
「はぁ~~!!」
二人とも長いため息を吐いて、その場に座る。
「入ってくれると思っていたんだけどなぁ~」
「そうですね。私もそう思っていました」
二人とも残念がっていた。
「考えがあって、俺は入らないんです」
「それはどんな?」
「もし、俺がどっちかに入ってしまえと、今まで見ていた目で俺を見ていてくれないと思うんです。そうなるのが怖くてこのような結果になりました」
「大丈夫です!私達ならそうしません!」
「そうだ!私達はそんな小さい器の持ち主ではないんだ!」
「ありがとうございます。それは二人と話していて分かりました。でも、俺は昔そういう事があって、片方を選択してそうなってしまったんです。
そのときの罪悪感が未だあるんです。誘ってくれたのは感謝しています。おかげでこの学園がもっと好きになりました」
「・・・・・・・・・・」
二人は黙っていた。
「そうなんですか。すみません」
「すまなかった」
「いいですよ。誰にでもそういう事はあります」
「叶。そろそろ時間だよ」
「おっと・・・それではまた明日。紅秋さん、シャルルさん」
「さようなら~!」
俺と撫子は手を振り紅秋さん、シャルルさんと別れた。
※
紅秋view
「・・・・・・・」
私は考えていた。
今日私を倒し、委員に的確なアドバイスを言った天野叶のことについて。
「天野・・・叶・・・か」
天野には他の人とは違う感じがした。
何か私達には考えられないものを背負って生きているように見える。
今日、風紀会室で言ったあの言葉が忘れられない。
『一つ言わせて貰う。お前らはさっき、何を思って俺に挑んだ?
俺に挑発されたからと、自分のプライドを傷付けられたという理由で挑んだ奴は今すぐ風紀会を抜けろ。そんな志を持った者には学園や自分すら守れやしない。むしろ、ここにいるのが邪魔だ。
武道をやっている人間なら自分の信念を信じ、大切な人や場所を何が何でも守ろうとする。命に代えても守り抜くのが武人としてだと俺は思う。
お前達の守るべきものは何だ?この学園に通い、一緒に過ごしている友人や恋人がいるだろう。そして、そんな人に会えたこの場所が守るべきものだ。
負けたという事はその信念が小さい、そう思っていないということだ。さっき言った俺の言葉で言うと、お前らはこの学園に混乱を招くやつに負け、お前達の大切な人たちがそれに巻き込まれてしまい、怪我を負っているかもしれない。
お前達はいざと言うときに大切な人を守れなかったんだ』
あの言葉には思ったことだけではなく、そう経験したこそ言っている感じ。
「・・・・・・・はっ!何で天野のことばかり考えているんだ私は!?何か今日の私は・・・変・・・だな・・・」
その日は簡単に眠ることが出来なかった。
「あ~~~何だんだ!!もう~~~!!!」
「戦う・・・想い・・・か」
※
シャルルview
「・・・・・・はぁ~」
私は紅茶を飲みながら考えていた。
「天野叶と黒川撫子・・・・」
生徒会室で話したとおり、彼の本来あるべきの情報が少ない。
こんなに本人の情報が少ない人は初めてだった。
「何でこんなにも情報が少なすぎるのはおかしい。絶対何かあるはずです!」
彼と彼女は何か裏があるはずと思っていた。
「気が進まないですが、あの人から聞きますか」
私はある人物と連絡を取った
昔からの幼馴染で腐れ縁で同じ学園にいる情報屋に。
※
???view
「兄貴!!見つけましたぜ!その写真です!」
「ご苦労・・・」
その日、ある場所で会談が行われていた。
「こいつが例の奴だ」
「こいつが・・・・」
「なんだと!」
そこに集まっていたのは五人のボスとその付き人がいた。
「こいつがあの伝説の・・・」
「恐らくな。確証がないが、そうらしい」
「こいつに襲われたのか?」
「ああ。俺のところの部下がやられたんだ。相手はこいつでありえない速さだったと言う」
「俺様のところは窃盗で働いていた奴が警察に捕まって、バイクと同じ速さについてきたと言うんだぜ。しかもこいつにだ」
「だとしたら、こいつなのかもな。あの伝説の『刹那』に・・・」
そこで行われたことを天野は気がついていなかった。
魔の手が迫っていたことに。