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天の空に輝くうたかたの  作者: 篠華 楓
3/6

第三話~『変化』~

昼休みも残りわずか。

数分、屋上で風を浴びて教室へ戻った。

まだ東条のことを考えていた。

まさか自分の正体がばれてしまうとは・・・。

最悪だ。

「叶?大丈夫?何か考え事?」

「ん・・・・あ、ああ。そうだけど、どうした?」

「相談ならいつでも乗るよ♪」

「ありがとう。でも、今回はいいよ」

「そう?分かった」

榛名は気を使ってくれる。

昔から榛名は考え事をしていると、すぐにそのことに首を突っ込む。

よく言えば世話好き、悪く言えば大きなお節介。

「ところで、東条君と何の話していたの?」

「それはな・・・行く前にも言ったが、男同士の話だ」

「どんな?」

「どんなって・・・口に言えるわけ無いぞ。言ったらな・・・」

「え・・・・」

「それって・・・」

「それだ」

榛名の顔はみるみると赤くなっていく。

「はわ・・・はわ・・・はわわわわ」

榛名は下ネタを自分で言うことは慣れているが、言われることには慣れていない。

「どうした?」

ニヤニヤしながら榛名を見る。

「ごごごごごごめん!!変なことを聞いて!!」

「別に良いさ。・・・・・・いいから落ち着け」

「いや、あの・・・その・・・えと・・・」

「榛名・・・」

「ごゆっくり!!!」

残像を残し、俺の前から消えた。

「速ぇ・・・」

残像が見えるほどの速さで逃げるなんてありえないだろう。

それだけ慌てていたのか・・・。

しかも、逃げ方が俺の知ってるキャラに似ているし・・・。

「まぁ・・・いいか」

昼休みが終わり、授業に入った。

榛名はその授業には出なくて、後で生にかなり怒られた。


                       ※


「これで、今日は終わりか~!」

背もたれに寄りかかりながら背伸びする。

授業も中々面白いし、先生もいい。

上手くやれそうだ。

「さて、帰るか・・・」

帰ろうとしたときに教室に聞き覚えのある声が響いた。

「天野さんはいますか!!」

「ん?」

声の主は、前に不良から助けた女の子。

轟陽那だった。

「お前は・・・陽那か?」

「はい!覚えていてくれてありがとうございます!」

「え?陽那ちゃん?まじ!?」

「陽那ちゃんが誰を呼んでる!?」

周りの生徒がざわざわし始めた。

みさきさんが言ったとおり、この子は本当に有名なんだ。

「あの・・・この前に助けてくれたお礼していなかったので・・・これをあげます!」

手にあったのは、チケット2枚。

内容は、『轟陽那!!全国ライブツアー!!』

「あのチケットは!伝説の全国ライブチケット!販売開始5分で完売したレア中のレアチケットだ!」

周りが騒ぎ出す。

一言で言うと・・・阿鼻叫喚。

周りから妬みの声がかなり聴こえる。

しかし、本当にこの子、陽那ちゃんはすごいと改めて思った。

「ありがとう。ついでにサインを貰えないかな?」

「喜んで!!」

「名前は俺と、黒川みさきってこの2枚に分けて書いてくれないか?」

「はい!」

手馴れた手つきでサイン色紙2枚を書き上げていく。

「どうぞ!」

「ありがとうな」

「いえいえ!このぐらい大丈夫です!それでは、私はこれで!さようなら!天野さん!」

「ああ。またな」

俺に手を振りながら、陽那ちゃんは帰っていった。

「おいおい!天野!!お前、陽那ちゃんとはどんな関係なんだ!?」

「あんなに陽那ちゃんが元気に話しているとこ初めて見た!天野君!どういうこと?」

「その場所、俺と変われ~!」

周りが俺の周りに集まってくる。

あっという間に40人以上周りにいた。

「おい!そんなに押さないでくれ!!たの・・・」

人の波に飲み込まれ、また朝と同じ質問攻めにあった。

 

                    ※


「はぁ~今日は本当に疲れましたよ~」

「いいじゃない。それだけ貴方のことが気になっているのよ」

質問攻めに遭い、帰る時間が大幅に遅れた。

帰る途中にみさきさんと会い、帰っている最中だ。

「みさきさん。今日の放課後に陽那ちゃんが俺のクラスに来て、チケットとサインくれましたよ。

チケットは全国ツアーで、サインはみさきさんと俺の2枚書いてもらいました」

「本当に!?」

みさきさんの目がキラキラと輝きだした。

「ありがとう~!天野君~!大好き~!!」

勢いよく俺に抱きついてきた。

「あっ!みさきさん~。こんな道端で抱き付くのはやめてください。変な誤解が生まれてますよ~」

「いいよ~そう思われても~♪」

「!!」

俺の腕にほよんと柔らかい物が当たる。

「ん?」

「い、いえ・・・なんでもありません・・・」

なんでもないように装う。

「そう?」

みさきさんはニヤニヤとこちらを見ていた。

「そうです!」

「早く戻りましょう!」

「うふふ・・・」

不意にもみさきさんの反応でドキってしてしまった。

こんな感情とはもう無縁だとは思っていたが・・・。

「まだ、捨てきれてなかったんだな・・・」

空を見上げ、みさきさんと帰っていた。


                     ※


「ただいま~」

「ただいま~」

「おかえりなさい。叶」

撫子が玄関で迎えてくれた。

「ああ。遅くなったな」

「いいえ。大丈夫です」

隣にいるみさきさんが何故か青白い顔でいた。

「あ、天野君・・・この子は・・・誰?」

「えっ!?」

みさきさんに撫子の姿が見えたのだ。

前聞いた話では、みさきさんは撫子の姿を見れなくて、撫子はみさきさんには見えていないとい言った。 

けど、今は撫子のことが見えている。

「あぁ・・・」

「みさきさん!!」

みさきさんはその場で倒れてしまった。

「撫子・・・」

「ええ・・・」

「とりあえず、みさきさんを寝かせよう」

「分かりました」

 みさきさんが目を覚ますのは2時間経った後だった。


                       ※


「みさきさん・・・」

「んっ・・・・・」

目を覚ました。

「あれ?私は・・・」

「みさきさんは玄関で気を失ってしまったんですよ」

「そうなの・・・・・・あ!!あの子は?」

「ここにいます」

俺の隣に撫子が座っていた。

撫子もみさきさんのことを心配していた。

「みさきさん。この人が、分かりますか・・・?」

「・・・ええ。多分だけど・・・ずっとこの家に住んでいる話に聞いていた・・・撫子さん?」

「・・・・そうです。私が貴方の曽祖父、父が言っていた大切な人と言っていた撫子です」

「言われてたとおりの姿・・・これは曽祖父も父も大切な人って言うわけね・・・貴方に会えて嬉しい。・・・撫子さん。これからもよろしくね」

「・・・はいっ・・・」

撫子の目から涙が零れ落ちた。

俺以外の人にも自分の存在が確認できたことが嬉しいのだろう。

「・・・・泣かないの。せっかくの美人が台無しよ」

「でも・・・でも・・・・」

それでも撫子は泣き続ける。

みさきさんは撫子を抱きしめる。

撫子が泣き止むまで抱きしめていた。

今日は色々と騒がしい一日だった。

だが、清々しい一日であった。

 

                       ※

 

「ん~」

「叶。もう朝だよ。今日も学校あるんじゃないのかい?」

「もう、そんな時間か・・・」

窓には朝日が差し込み、今日の一日の始まりを告げていた。

「おはよう。撫子」

「おはよう。叶」

昨日のあの後は撫子たちと食事を取り、楽しく夜を過ごした。

撫子が体験した話、みさきさんが父親達から聞いた話をしていた。

「ねぇ、叶」

「ん?どうした?」

「何で私がいきなり見えるようになったんだろう?・・・分かる?」

「分からないな・・・で、そっちは何か変わったことはないのか?」

「えっと・・・姿が見えるようになって、物に触れられるようになって、食事も出来るようになったね。今までは出来なかったことだよ」

「そうか」

撫子の顔は嬉しそうであった。

撫子にあった変化は大きいものだ。

撫子は幽霊として存在して、物に触ることや姿が特定の人にしか見えなかった。

だが、昨日には他の人でも見れるようになり、物にも触れるようになった。

出来なかったことができる。

これほど嬉しいものないだろう。

撫子のこの大きな変化の原因は恐らくだと思うが分かっていた。

俺の持っているあれの影響だ。

あれは普通のとは違い、特殊なものだ。

あれの影響を受けたと言うのか?

ますますあれの謎が深まっていく。                 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「あのさ・・・・・撫子」

「はい?なんですか?」

「着替えるときぐらいは外に出てくれないか!?」

撫子は首を傾げてた。

「・・・出ないとダメですか?別に恥ずかしくなるような事ではないですし・・・」

「俺が恥ずかしい!!出てくれ!!」

「ちょ、ちょっと・・・」

無理やり撫子を部屋の外に出した。

「男が着替えるのに何も感じないのか!・・・はぁ・・・」

こうして今日も一日が始まっていく。


                         ※


「早く食べないと遅れるよ~」

着替え終わり、みさきさんお手製の朝食を食べる。

俺の座っている隣には撫子がいる。

撫子は別に食べ無くてもいいのだが、食べる楽しみが増え、朝食を一緒に摂っている。

撫子が突然言い出した。

「叶の行っている学園へ行ってみたいな・・・」

「撫子。それはいくらなんでも無理だぞ」

「何故?こうして普通の人と同じことができるようになったのに」

「撫子がいつ、触れられなくなるのか分からないのに行かせられるか」

「・・・そう・・・だね」

撫子の表情が暗くなっていく。

「天野君。朝からそんなく暗い話しちゃだめでしょ」

「撫子さん。もう少し様子を見て決めましょ。まだ希望があるわ」

「みさき・・・ありがとう!!」

撫子は喜んでいた。

朝から元気だなぁ。

「それじゃあ、撫子。今日実験してみるか」

「ん?何を?」

「撫子荘から出れるかという実験」

「やる!」

即答。

撫子は目を輝かせながら俺を見ていた。

「いつ出るの!?」

「俺が帰ってきてからだ。それまで待ってろよ」

「分かった!」

「それは・・・私も付いて行ってもいいかな?」

みさきさんも付いて行きたいようだった。

「いいですよ」

「よしっ!」

小さくガッツポーズをとっていた。

何気ない日常。

こうして楽しく暮らす日々。

こんな生活になるとは思ってもいなかった。

あんな生活とは大違いだ。

「おっと、こんな時間か。行ってきま~す」

「いってらっしゃ~い」

みさきさんと撫子は俺を見送った。

今日は土曜日。

普通の学園なら休みなのだが、桜花学園は年に一ヶ月ぐらいは土曜日も登校しなければならない。

授業は午前だけなのだが、休みの日に学園に行くなど、ちょっと疲れるが仕方ない。

今日みさきさんは休みを取っていて、その理由は撫子とたくさん話したいという事であった。

桜花学園は生徒も教員も自由第一なので、休みたいときに休むことが出来る。

休んでも他人から文句を言われないのがいいところだ。

「さて、今日もがんばりますか!!」

気合を入れ、学園へと向かう俺であった。


                    ※


朝来て、教室の生徒が騒いでいた。

「何だ?この騒ぎは?」

「天野君~。知らないの~?笑える~」

「随分と軽い口で言ってくるな。東条」

東条が俺の所へ来た。

「そう簡単に殺気を込めるなって『刹那』」

「その名で呼ぶな。すぐにお前の息の根を止めるぞ」

「怖い怖い・・・あの時の話はちゃんと分かってる。私もちゃんとした者だ。裏切ることはしない。これからの生活でも、こうするから宜しくな」

ウィンクを俺に向けた。

男がウィンクするのは流石に気持ち悪い・・・。

「・・・はぁ~・・・」

「で、何でこう騒いでいるんだここは」

もう朝からツッコミの気力を使い果たし、他の話題へ変えた。

「それは、今日やっと私たちの担任が来るからだよ」

「今まで来なかったのか」

「入学式で私たちのクラスにいたのは代わりだ。本当の担任はあっちの用事で数日、この学園に着任するのが遅れたようなのさ」

「で、やっと今日来るって話だ」

「お前のその情報源は何処から沸くんだ?」

「それは企業秘密♪」

流石情報屋。

情報なら何でもござれってか。

今後も利用できそうだ。

「おっと、噂をすればなんとやら!来たようだぜ」

教室の戸が開かれる。

そこにいたのは美人といえる女性の人がいた。

教室の生徒たちはキャーキャー言っている。

その先生は凛としていて和服を着れは完璧な大和撫子だろう。

そう思ったとき、

「きゃっ!!」

ズテーン。

その先生が何も段差の無いところで転んだ。

「痛~い」

予想外だった。

まさかこんな人が転ぶとか思っていなかった。

「・・・・・・言い忘れてたな。今回の担任はドジっ子だったんだ・・・」

隣にいた東条の言葉で理解した。

「み、みなさ~ん。席についてくださ~い」

先生は何事も無かったように進めていく。

「・・・・・・度胸はすごいな・・・」

「私の名前は華恋真白(かれんましろ)です。皆さん宜しくお願いします」

「は~い。ズッコケ先生」

「~~~~!!そう呼ばないで~!」

担任、華恋真白は顔を赤くしていた。

よほど恥ずかしかったのだろう。

こんな担任でこの一年は大丈夫なのか?

段々と不安になってきた。


                    ※


「今日の授業はこれで終わりです。みなさん気をつけて帰ってくださいね」

「それは、先生でしょ?」

「~~~~~~!!いい!!終わりだから!!」

帰りにも言われ、生徒たちにいじられる先生。

今日の授業が終わり、帰る時間へとなった。

「んーー!!今日も終わった~!」

背伸びをして体をほぐす。

「今日もお疲れ~」

榛名が俺の所へやってきた。

「どうした?何か用?」

「今日は叶と凪姉ぇと一緒に行きたくて誘いに来たんだ!」

「奇遇だな。俺はこれから出かけるところなんだ」

「へぇ~、誰と?」

「みさき先生と」

「それじゃあ、私たちも行っていい?」

「あ~」

撫子もいるけど、こんな時にはどうするかな・・・。

「まぁ、いいか。いいぞ」

「よし!それじゃあ家に帰って準備するよ!」

「集合は・・・撫子荘で時間は1時半でいいか」

「分かった!凪姉ぇにも言っておくよ!」

すぐに教室を抜け、疾風の如く駆け抜けた。

「まぁ・・・大丈夫かな?」

俺も準備をするため、撫子荘へ帰った。


                   ※


「お帰り叶!まだなのか!」

「そう急かすな。俺にも準備があるんだ。撫子はみさきさんを呼んでくれ」

「分かった!」

玄関に撫子がいて、はしゃぎながら迎えに来た。

撫子の口調がかなり変わっているのだが、そこは気にしない。

「どうしたの?天野君?」

「あ、みさきさん。お出かけですが新しく人が増えました」

「誰なの?」

「榛名と凪姉ぇです」

「大歓迎よ。天野君も準備してね」

「はい」

俺も準備を始めた。

「撫子」

「ん?どうした?」

「ちょっと来てくれ」

俺は撫子を呼んで撫子荘の門の所へ呼んだ。

「どうしたんだい?」

「確認だ」

撫子の手を握り、撫子荘の外へ撫子を引っ張った。

「あっ・・・」

しかし、撫子は出れなかった。

門に結界かなんかが張らさっているようだった。

「で、出れない・・・・・・」

「・・・やっぱりか・・・撫子、ちょっと待ってくれ」

俺は撫子荘の中へ入り、あるものを取ってくる事にした。


                    ※

 

「・・・やはり、こいつが・・・」

自分の部屋に戻り、あるものを手に取っていた。

長さが約1メートル50程のもので丁寧に布で包まれている得物。

これは俺と5年間ともに過ごした相棒と言うべき存在。

こいつの影響でやはり撫子に変化が起きたのだろう。

「本当に、お前は不思議な奴だな」

それを昔みたいに持ち、撫子の元へ向かう。


                    ※


「待たせたな。さぁ、出てみよう」

「叶?手に持ってるそれは?」

「いいから早く」

さっきと同じように撫子を連れてみた。

「・・・・・・あれ?出れた・・・・」

撫子は出れるようになった。

「やったー!出れた!」

「・・・・・・よかったな」

撫子は子供みたいに出れたことにはしゃいでいた。

・・・やはり、こいつが影響してみたいだった。

俺が『刹那』だったときに一緒に戦ってきたこいつと・・・。

「どうしたの?叶?」

「いや・・・なんでもない。さぁ、準備しよう」

こうして、出かける準備をした。


                     ※


「おっ待ったせ~!」

「天野君。待たせたね」

榛名、凪姉ぇが待ち合わせどおり来た。

「ん?叶、持ってるのなに~?」

「これはな、俺もお守りだ。気にしないでくれ」

「へぇ~でっかいお守りだね~」

「・・・で、この子誰?」

「あ~」

榛名も撫子の存在に気づいているようだ。

「撫子」

「いいよ。私の正体を言っても」

「分かった」

「誰なの?返答しだいでは・・・」

「天野君・・・?」

榛名と凪姉の目が笑っていない。

このままでは、お出かけが台無しになってしまう。

「実はな・・・かくかくしかじか・・・・・・」

榛名たちに撫子のことを話した。

「なんと!私たちは珍しい体験をしているのか!」

「あらあら。そういうことなのね~」

二人は納得してくれたようだ。

「その話は終わりにして~。揃ったことだし、行きましょう」

「「「「おー!!」」」」

みさきさん、榛名、凪姉ぇ、撫子、俺のメンバーで町へと出かけた。


                  ※


「じゃあ~何処に行く~?」

「ん~?何処に行こうかしら・・・」

町へと着き、行き先に悩んでいた。

「へぇ~。これ町か~!すごいなここは!」

撫子は周りをキョロキョロ見回していた。

撫子の服装は、相変わらすの和服で、周りからの注目を集めている。

そして、俺への視線がかなり痛かった。

美人とも言える人が4人。

男は俺ただ一人。

周りから見れば、女をたぶらかしているやつにしか見ていないだろう。

これで受ける視線はかなりきつい・・・。

歩いていると、デパートが見えてきた。

「そうだ。デパートに行くのは良いんじゃないか?」

「そうだね!」

「いいわね~」

「賛成です」

「行ってみたい!!」

満場一致でデパートに行く事にした。


                   ※


「やっぱりすごいね~!ここは!」

町に唯一ある大型デパート。

ここで買い物を済ます人はかなりいる。

今日は休日。かなり人がいる。

「さて、デパートについたのはいいが、俺から一つ提案がある」

「何?提案って?」

「撫子の服を買ってあげたいと思う」

「あ~・・・確かにそうだね」

「ん?私はこのままの格好でいいのだが・・・」

撫子の頭には?マークが浮かんでいた。

みんなは理解してくれたようだ。

撫子の和服は、今ではかなり目立ってしまっている。

現在も周りで言われている

「あの和服の子誰~?」

「可愛い~」

「時代劇か何かかな?」

他の人たちの声が聞こえてくる。

「さぁ、服屋に行こう」

俺たちは服屋へと向かった。

「服選びは女子でやって欲しい。男が出てくるところではないからな」

「そう言わずに私たちと一緒に選べばいいじゃん!」

「俺に服のセンスが無いことわかってるだろ?」

「俺はここで待ってるから、ゆっくり選んでくれ」

みさきさん、榛名、凪姉ぇ、撫子は中へと入っていった。

俺は入り口で待つことにした。

「・・・・・・」

昔の事を思い出していた。

手に握られているもの。

『刹那』だった頃に一緒にいた相棒。

こいつであの時は、何をやっていたのだろう。

今考えてみると、もう遠い話になっていた。

あれは俺が全てを失っていた時期だ。

その頃は人が嫌になり、出来たばっかのこいつを持ち出して山を降り、たった半年で日本の裏世界の天下を取った。

取った後はそれをすぐ捨て、山へとまた籠もった。

何かをしたかったわけではなかった。

こいつを振り、人から奪ってきた。

人間というものが嫌いで、滅ぼしてやるという気持ちだけで動いていた。

けど、今は違う。

こうしてやり直し、友達が出来て、人として生活している。

この生活に満足している。

あの時のような失敗はしない。

そう決めたのだ。

「叶!終わったよ~!」

「おう」

榛名に返事をし、店から出てきた。

「いや~、かなり掛かっちゃったよ~」

「撫子さんは何着ても似合うから迷いました」

「撫子さんはいいなぁ・・・何着ても似合うなんて、私ももう一度戻りたい・・・」

みんなが出てきたが、撫子が出てこない。

「撫子は?」

 あ~、ちょっと待ってね」

榛名が中へ入り、撫子を引っ張り出してきた。

「さぁ!もう諦めなさい!」

「いやっ・・・。ちょっと、榛名!!・・・きゃっ!」

「・・・・・・」

出てきた撫子の姿は目を離すことが出来なかった。

上はピンクのパーカーで、下はショートパンツ。

可愛いの一言しか出てこない.

シンプルであるが、いつも和服姿だった撫子がこんなにも変わったことに驚いている。

「・・・ど、どうかな?叶・・・」

「・・・可愛いぞ・・・」

「~~~~~!!!」

顔が真っ赤になり、榛名の後ろに隠れた。

「こんな姿・・・恥ずかしい・・・」

その姿はまるで子供のようだった。

「・・・・・・」

撫子の姿に心臓がドクンッと跳ねた。

何回はあったが今回のは一際強かった。

ぐぅ~。

誰かの腹の音が聞こえた。

「・・・飯にするか」

「そうだね」

「そうしよう!!」

俺たちはレストランへ行った。そこでみんなと和気藹々な雰囲気で話し合った。

撫子が喜んでいたから良かった。

これで、俺が考えた今回のお出かけは大成功だった。


                    ※


「ん~!今日は楽しかった~!」

「ええ」

「そうだね」

「よかったね~」

ご飯を食べ終わり、空は紅く染まり、一日の終わりを告げていた。

「撫子」

「どうしたんだい?」

「学園の件。いいぞ」

「え?」

「~~~お前が学園へ通って良いってことだよ!」

撫子の顔を見れない。

さっきの服のせいであの後はまともに顔を見れなかった。

「・・・ありかとう!」

撫子は俺に抱きついてきた。

「お・・・おいっ!」

腕にふにゅと吸い付くような柔らかい弾力。

「あれあれ。叶~?照れちゃって~」

「うふふ。初々しいですね」

榛名と凪姉ぇがニヤニヤと俺を見る。

「う・・・うるせー」

「撫子さんの学園への編入手続きは私がやっておいてあげるね」

「ありがとうございます。みさきさん」

「みさき!ありがとう!」

今日は撫子も、俺も、みんなも楽しめたと思う。

久しぶりにこう思った。

生きていて良かった・・・。

その後は撫子荘へ帰り、久しぶりの外出で疲れたのか、すぐに寝てしまった。


                      ※


 撫子view

「今日は楽しかった~」

今日は叶が私を外へ出してくれた。

新しい友達も増えた。

こんなに幸せだと感じたのは、昇一郎の時以来だ。

昇一郎もこんなことをたくさんしてくれた。

叶はまるで、昇一郎みたいだった。

「叶!って寝てるか・・・」

部屋を訪れたが叶は寝ていた。

くぅーくぅーと安らかであった。

「・・・今日はありがとう・・・」

「あの服を可愛いと言ってくれて、私は嬉しかったよ」

叶の耳元で、お礼を言った。

あの時言えなかったこと。

叶にはとても感謝している。

私に新しいことを教えてくれる。

私を優しくしてくれる。

嬉しかった。

叶に会えて本当に良かった。

「・・・そういえば、叶が持っていたあれはなんだろうか?」

叶が持っていたものに私は気になっていた。

あれを持ってきた時、私は外へ出れた。

あれから感じたのは、とてつもなく強い霊力。

「あんなに霊力が込められた物はまず無いのだけど・・・」

あれほどの霊力が込めらた物はほとんど存在しない。

あるとすれば、宝具か御神体しかない。

「何が入っているのだろう?」

私はそれに触れようとした時、

「うっ!!」

頭の中に何かが入ってきた。

「これは・・・記憶?」

「この景色は・・・・・・見覚えがある・・・」

頭の中に流れ込んでくる記憶に覚えがあった。

「くぅっ!!!」

段々と頭が痛くなる。

私はその場から離れ、距離をとった。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「あの記憶は・・・・・・私の生きていた頃の記憶?」

あの景色、あの家、あの人の表情。

いくら思い出そうとしても思い出せなかった記憶。

それが叶の持っているものに触ろうとしたら、一部だが思い出せた。

「私の記憶・・・思い出させるあれは・・・何?」

謎が深まった。思い出せずにいた記憶が、叶のものに触れようとした時に思い出したこと。

叶の持っていたもの。

分からない事ばかりだった。

この時の私は知らなかった。

私という存在に。

そして、私が生きていた時に起きたあの時を思い出すことに・・・。

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