第三話~『変化』~
昼休みも残りわずか。
数分、屋上で風を浴びて教室へ戻った。
まだ東条のことを考えていた。
まさか自分の正体がばれてしまうとは・・・。
最悪だ。
「叶?大丈夫?何か考え事?」
「ん・・・・あ、ああ。そうだけど、どうした?」
「相談ならいつでも乗るよ♪」
「ありがとう。でも、今回はいいよ」
「そう?分かった」
榛名は気を使ってくれる。
昔から榛名は考え事をしていると、すぐにそのことに首を突っ込む。
よく言えば世話好き、悪く言えば大きなお節介。
「ところで、東条君と何の話していたの?」
「それはな・・・行く前にも言ったが、男同士の話だ」
「どんな?」
「どんなって・・・口に言えるわけ無いぞ。言ったらな・・・」
「え・・・・」
「それって・・・」
「それだ」
榛名の顔はみるみると赤くなっていく。
「はわ・・・はわ・・・はわわわわ」
榛名は下ネタを自分で言うことは慣れているが、言われることには慣れていない。
「どうした?」
ニヤニヤしながら榛名を見る。
「ごごごごごごめん!!変なことを聞いて!!」
「別に良いさ。・・・・・・いいから落ち着け」
「いや、あの・・・その・・・えと・・・」
「榛名・・・」
「ごゆっくり!!!」
残像を残し、俺の前から消えた。
「速ぇ・・・」
残像が見えるほどの速さで逃げるなんてありえないだろう。
それだけ慌てていたのか・・・。
しかも、逃げ方が俺の知ってるキャラに似ているし・・・。
「まぁ・・・いいか」
昼休みが終わり、授業に入った。
榛名はその授業には出なくて、後で生にかなり怒られた。
※
「これで、今日は終わりか~!」
背もたれに寄りかかりながら背伸びする。
授業も中々面白いし、先生もいい。
上手くやれそうだ。
「さて、帰るか・・・」
帰ろうとしたときに教室に聞き覚えのある声が響いた。
「天野さんはいますか!!」
「ん?」
声の主は、前に不良から助けた女の子。
轟陽那だった。
「お前は・・・陽那か?」
「はい!覚えていてくれてありがとうございます!」
「え?陽那ちゃん?まじ!?」
「陽那ちゃんが誰を呼んでる!?」
周りの生徒がざわざわし始めた。
みさきさんが言ったとおり、この子は本当に有名なんだ。
「あの・・・この前に助けてくれたお礼していなかったので・・・これをあげます!」
手にあったのは、チケット2枚。
内容は、『轟陽那!!全国ライブツアー!!』
「あのチケットは!伝説の全国ライブチケット!販売開始5分で完売したレア中のレアチケットだ!」
周りが騒ぎ出す。
一言で言うと・・・阿鼻叫喚。
周りから妬みの声がかなり聴こえる。
しかし、本当にこの子、陽那ちゃんはすごいと改めて思った。
「ありがとう。ついでにサインを貰えないかな?」
「喜んで!!」
「名前は俺と、黒川みさきってこの2枚に分けて書いてくれないか?」
「はい!」
手馴れた手つきでサイン色紙2枚を書き上げていく。
「どうぞ!」
「ありがとうな」
「いえいえ!このぐらい大丈夫です!それでは、私はこれで!さようなら!天野さん!」
「ああ。またな」
俺に手を振りながら、陽那ちゃんは帰っていった。
「おいおい!天野!!お前、陽那ちゃんとはどんな関係なんだ!?」
「あんなに陽那ちゃんが元気に話しているとこ初めて見た!天野君!どういうこと?」
「その場所、俺と変われ~!」
周りが俺の周りに集まってくる。
あっという間に40人以上周りにいた。
「おい!そんなに押さないでくれ!!たの・・・」
人の波に飲み込まれ、また朝と同じ質問攻めにあった。
※
「はぁ~今日は本当に疲れましたよ~」
「いいじゃない。それだけ貴方のことが気になっているのよ」
質問攻めに遭い、帰る時間が大幅に遅れた。
帰る途中にみさきさんと会い、帰っている最中だ。
「みさきさん。今日の放課後に陽那ちゃんが俺のクラスに来て、チケットとサインくれましたよ。
チケットは全国ツアーで、サインはみさきさんと俺の2枚書いてもらいました」
「本当に!?」
みさきさんの目がキラキラと輝きだした。
「ありがとう~!天野君~!大好き~!!」
勢いよく俺に抱きついてきた。
「あっ!みさきさん~。こんな道端で抱き付くのはやめてください。変な誤解が生まれてますよ~」
「いいよ~そう思われても~♪」
「!!」
俺の腕にほよんと柔らかい物が当たる。
「ん?」
「い、いえ・・・なんでもありません・・・」
なんでもないように装う。
「そう?」
みさきさんはニヤニヤとこちらを見ていた。
「そうです!」
「早く戻りましょう!」
「うふふ・・・」
不意にもみさきさんの反応でドキってしてしまった。
こんな感情とはもう無縁だとは思っていたが・・・。
「まだ、捨てきれてなかったんだな・・・」
空を見上げ、みさきさんと帰っていた。
※
「ただいま~」
「ただいま~」
「おかえりなさい。叶」
撫子が玄関で迎えてくれた。
「ああ。遅くなったな」
「いいえ。大丈夫です」
隣にいるみさきさんが何故か青白い顔でいた。
「あ、天野君・・・この子は・・・誰?」
「えっ!?」
みさきさんに撫子の姿が見えたのだ。
前聞いた話では、みさきさんは撫子の姿を見れなくて、撫子はみさきさんには見えていないとい言った。
けど、今は撫子のことが見えている。
「あぁ・・・」
「みさきさん!!」
みさきさんはその場で倒れてしまった。
「撫子・・・」
「ええ・・・」
「とりあえず、みさきさんを寝かせよう」
「分かりました」
みさきさんが目を覚ますのは2時間経った後だった。
※
「みさきさん・・・」
「んっ・・・・・」
目を覚ました。
「あれ?私は・・・」
「みさきさんは玄関で気を失ってしまったんですよ」
「そうなの・・・・・・あ!!あの子は?」
「ここにいます」
俺の隣に撫子が座っていた。
撫子もみさきさんのことを心配していた。
「みさきさん。この人が、分かりますか・・・?」
「・・・ええ。多分だけど・・・ずっとこの家に住んでいる話に聞いていた・・・撫子さん?」
「・・・・そうです。私が貴方の曽祖父、父が言っていた大切な人と言っていた撫子です」
「言われてたとおりの姿・・・これは曽祖父も父も大切な人って言うわけね・・・貴方に会えて嬉しい。・・・撫子さん。これからもよろしくね」
「・・・はいっ・・・」
撫子の目から涙が零れ落ちた。
俺以外の人にも自分の存在が確認できたことが嬉しいのだろう。
「・・・・泣かないの。せっかくの美人が台無しよ」
「でも・・・でも・・・・」
それでも撫子は泣き続ける。
みさきさんは撫子を抱きしめる。
撫子が泣き止むまで抱きしめていた。
今日は色々と騒がしい一日だった。
だが、清々しい一日であった。
※
「ん~」
「叶。もう朝だよ。今日も学校あるんじゃないのかい?」
「もう、そんな時間か・・・」
窓には朝日が差し込み、今日の一日の始まりを告げていた。
「おはよう。撫子」
「おはよう。叶」
昨日のあの後は撫子たちと食事を取り、楽しく夜を過ごした。
撫子が体験した話、みさきさんが父親達から聞いた話をしていた。
「ねぇ、叶」
「ん?どうした?」
「何で私がいきなり見えるようになったんだろう?・・・分かる?」
「分からないな・・・で、そっちは何か変わったことはないのか?」
「えっと・・・姿が見えるようになって、物に触れられるようになって、食事も出来るようになったね。今までは出来なかったことだよ」
「そうか」
撫子の顔は嬉しそうであった。
撫子にあった変化は大きいものだ。
撫子は幽霊として存在して、物に触ることや姿が特定の人にしか見えなかった。
だが、昨日には他の人でも見れるようになり、物にも触れるようになった。
出来なかったことができる。
これほど嬉しいものないだろう。
撫子のこの大きな変化の原因は恐らくだと思うが分かっていた。
俺の持っているあれの影響だ。
あれは普通のとは違い、特殊なものだ。
あれの影響を受けたと言うのか?
ますますあれの謎が深まっていく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あのさ・・・・・撫子」
「はい?なんですか?」
「着替えるときぐらいは外に出てくれないか!?」
撫子は首を傾げてた。
「・・・出ないとダメですか?別に恥ずかしくなるような事ではないですし・・・」
「俺が恥ずかしい!!出てくれ!!」
「ちょ、ちょっと・・・」
無理やり撫子を部屋の外に出した。
「男が着替えるのに何も感じないのか!・・・はぁ・・・」
こうして今日も一日が始まっていく。
※
「早く食べないと遅れるよ~」
着替え終わり、みさきさんお手製の朝食を食べる。
俺の座っている隣には撫子がいる。
撫子は別に食べ無くてもいいのだが、食べる楽しみが増え、朝食を一緒に摂っている。
撫子が突然言い出した。
「叶の行っている学園へ行ってみたいな・・・」
「撫子。それはいくらなんでも無理だぞ」
「何故?こうして普通の人と同じことができるようになったのに」
「撫子がいつ、触れられなくなるのか分からないのに行かせられるか」
「・・・そう・・・だね」
撫子の表情が暗くなっていく。
「天野君。朝からそんなく暗い話しちゃだめでしょ」
「撫子さん。もう少し様子を見て決めましょ。まだ希望があるわ」
「みさき・・・ありがとう!!」
撫子は喜んでいた。
朝から元気だなぁ。
「それじゃあ、撫子。今日実験してみるか」
「ん?何を?」
「撫子荘から出れるかという実験」
「やる!」
即答。
撫子は目を輝かせながら俺を見ていた。
「いつ出るの!?」
「俺が帰ってきてからだ。それまで待ってろよ」
「分かった!」
「それは・・・私も付いて行ってもいいかな?」
みさきさんも付いて行きたいようだった。
「いいですよ」
「よしっ!」
小さくガッツポーズをとっていた。
何気ない日常。
こうして楽しく暮らす日々。
こんな生活になるとは思ってもいなかった。
あんな生活とは大違いだ。
「おっと、こんな時間か。行ってきま~す」
「いってらっしゃ~い」
みさきさんと撫子は俺を見送った。
今日は土曜日。
普通の学園なら休みなのだが、桜花学園は年に一ヶ月ぐらいは土曜日も登校しなければならない。
授業は午前だけなのだが、休みの日に学園に行くなど、ちょっと疲れるが仕方ない。
今日みさきさんは休みを取っていて、その理由は撫子とたくさん話したいという事であった。
桜花学園は生徒も教員も自由第一なので、休みたいときに休むことが出来る。
休んでも他人から文句を言われないのがいいところだ。
「さて、今日もがんばりますか!!」
気合を入れ、学園へと向かう俺であった。
※
朝来て、教室の生徒が騒いでいた。
「何だ?この騒ぎは?」
「天野君~。知らないの~?笑える~」
「随分と軽い口で言ってくるな。東条」
東条が俺の所へ来た。
「そう簡単に殺気を込めるなって『刹那』」
「その名で呼ぶな。すぐにお前の息の根を止めるぞ」
「怖い怖い・・・あの時の話はちゃんと分かってる。私もちゃんとした者だ。裏切ることはしない。これからの生活でも、こうするから宜しくな」
ウィンクを俺に向けた。
男がウィンクするのは流石に気持ち悪い・・・。
「・・・はぁ~・・・」
「で、何でこう騒いでいるんだここは」
もう朝からツッコミの気力を使い果たし、他の話題へ変えた。
「それは、今日やっと私たちの担任が来るからだよ」
「今まで来なかったのか」
「入学式で私たちのクラスにいたのは代わりだ。本当の担任はあっちの用事で数日、この学園に着任するのが遅れたようなのさ」
「で、やっと今日来るって話だ」
「お前のその情報源は何処から沸くんだ?」
「それは企業秘密♪」
流石情報屋。
情報なら何でもござれってか。
今後も利用できそうだ。
「おっと、噂をすればなんとやら!来たようだぜ」
教室の戸が開かれる。
そこにいたのは美人といえる女性の人がいた。
教室の生徒たちはキャーキャー言っている。
その先生は凛としていて和服を着れは完璧な大和撫子だろう。
そう思ったとき、
「きゃっ!!」
ズテーン。
その先生が何も段差の無いところで転んだ。
「痛~い」
予想外だった。
まさかこんな人が転ぶとか思っていなかった。
「・・・・・・言い忘れてたな。今回の担任はドジっ子だったんだ・・・」
隣にいた東条の言葉で理解した。
「み、みなさ~ん。席についてくださ~い」
先生は何事も無かったように進めていく。
「・・・・・・度胸はすごいな・・・」
「私の名前は華恋真白です。皆さん宜しくお願いします」
「は~い。ズッコケ先生」
「~~~~!!そう呼ばないで~!」
担任、華恋真白は顔を赤くしていた。
よほど恥ずかしかったのだろう。
こんな担任でこの一年は大丈夫なのか?
段々と不安になってきた。
※
「今日の授業はこれで終わりです。みなさん気をつけて帰ってくださいね」
「それは、先生でしょ?」
「~~~~~~!!いい!!終わりだから!!」
帰りにも言われ、生徒たちにいじられる先生。
今日の授業が終わり、帰る時間へとなった。
「んーー!!今日も終わった~!」
背伸びをして体をほぐす。
「今日もお疲れ~」
榛名が俺の所へやってきた。
「どうした?何か用?」
「今日は叶と凪姉ぇと一緒に行きたくて誘いに来たんだ!」
「奇遇だな。俺はこれから出かけるところなんだ」
「へぇ~、誰と?」
「みさき先生と」
「それじゃあ、私たちも行っていい?」
「あ~」
撫子もいるけど、こんな時にはどうするかな・・・。
「まぁ、いいか。いいぞ」
「よし!それじゃあ家に帰って準備するよ!」
「集合は・・・撫子荘で時間は1時半でいいか」
「分かった!凪姉ぇにも言っておくよ!」
すぐに教室を抜け、疾風の如く駆け抜けた。
「まぁ・・・大丈夫かな?」
俺も準備をするため、撫子荘へ帰った。
※
「お帰り叶!まだなのか!」
「そう急かすな。俺にも準備があるんだ。撫子はみさきさんを呼んでくれ」
「分かった!」
玄関に撫子がいて、はしゃぎながら迎えに来た。
撫子の口調がかなり変わっているのだが、そこは気にしない。
「どうしたの?天野君?」
「あ、みさきさん。お出かけですが新しく人が増えました」
「誰なの?」
「榛名と凪姉ぇです」
「大歓迎よ。天野君も準備してね」
「はい」
俺も準備を始めた。
「撫子」
「ん?どうした?」
「ちょっと来てくれ」
俺は撫子を呼んで撫子荘の門の所へ呼んだ。
「どうしたんだい?」
「確認だ」
撫子の手を握り、撫子荘の外へ撫子を引っ張った。
「あっ・・・」
しかし、撫子は出れなかった。
門に結界かなんかが張らさっているようだった。
「で、出れない・・・・・・」
「・・・やっぱりか・・・撫子、ちょっと待ってくれ」
俺は撫子荘の中へ入り、あるものを取ってくる事にした。
※
「・・・やはり、こいつが・・・」
自分の部屋に戻り、あるものを手に取っていた。
長さが約1メートル50程のもので丁寧に布で包まれている得物。
これは俺と5年間ともに過ごした相棒と言うべき存在。
こいつの影響でやはり撫子に変化が起きたのだろう。
「本当に、お前は不思議な奴だな」
それを昔みたいに持ち、撫子の元へ向かう。
※
「待たせたな。さぁ、出てみよう」
「叶?手に持ってるそれは?」
「いいから早く」
さっきと同じように撫子を連れてみた。
「・・・・・・あれ?出れた・・・・」
撫子は出れるようになった。
「やったー!出れた!」
「・・・・・・よかったな」
撫子は子供みたいに出れたことにはしゃいでいた。
・・・やはり、こいつが影響してみたいだった。
俺が『刹那』だったときに一緒に戦ってきたこいつと・・・。
「どうしたの?叶?」
「いや・・・なんでもない。さぁ、準備しよう」
こうして、出かける準備をした。
※
「おっ待ったせ~!」
「天野君。待たせたね」
榛名、凪姉ぇが待ち合わせどおり来た。
「ん?叶、持ってるのなに~?」
「これはな、俺もお守りだ。気にしないでくれ」
「へぇ~でっかいお守りだね~」
「・・・で、この子誰?」
「あ~」
榛名も撫子の存在に気づいているようだ。
「撫子」
「いいよ。私の正体を言っても」
「分かった」
「誰なの?返答しだいでは・・・」
「天野君・・・?」
榛名と凪姉の目が笑っていない。
このままでは、お出かけが台無しになってしまう。
「実はな・・・かくかくしかじか・・・・・・」
榛名たちに撫子のことを話した。
「なんと!私たちは珍しい体験をしているのか!」
「あらあら。そういうことなのね~」
二人は納得してくれたようだ。
「その話は終わりにして~。揃ったことだし、行きましょう」
「「「「おー!!」」」」
みさきさん、榛名、凪姉ぇ、撫子、俺のメンバーで町へと出かけた。
※
「じゃあ~何処に行く~?」
「ん~?何処に行こうかしら・・・」
町へと着き、行き先に悩んでいた。
「へぇ~。これ町か~!すごいなここは!」
撫子は周りをキョロキョロ見回していた。
撫子の服装は、相変わらすの和服で、周りからの注目を集めている。
そして、俺への視線がかなり痛かった。
美人とも言える人が4人。
男は俺ただ一人。
周りから見れば、女をたぶらかしているやつにしか見ていないだろう。
これで受ける視線はかなりきつい・・・。
歩いていると、デパートが見えてきた。
「そうだ。デパートに行くのは良いんじゃないか?」
「そうだね!」
「いいわね~」
「賛成です」
「行ってみたい!!」
満場一致でデパートに行く事にした。
※
「やっぱりすごいね~!ここは!」
町に唯一ある大型デパート。
ここで買い物を済ます人はかなりいる。
今日は休日。かなり人がいる。
「さて、デパートについたのはいいが、俺から一つ提案がある」
「何?提案って?」
「撫子の服を買ってあげたいと思う」
「あ~・・・確かにそうだね」
「ん?私はこのままの格好でいいのだが・・・」
撫子の頭には?マークが浮かんでいた。
みんなは理解してくれたようだ。
撫子の和服は、今ではかなり目立ってしまっている。
現在も周りで言われている
「あの和服の子誰~?」
「可愛い~」
「時代劇か何かかな?」
他の人たちの声が聞こえてくる。
「さぁ、服屋に行こう」
俺たちは服屋へと向かった。
「服選びは女子でやって欲しい。男が出てくるところではないからな」
「そう言わずに私たちと一緒に選べばいいじゃん!」
「俺に服のセンスが無いことわかってるだろ?」
「俺はここで待ってるから、ゆっくり選んでくれ」
みさきさん、榛名、凪姉ぇ、撫子は中へと入っていった。
俺は入り口で待つことにした。
「・・・・・・」
昔の事を思い出していた。
手に握られているもの。
『刹那』だった頃に一緒にいた相棒。
こいつであの時は、何をやっていたのだろう。
今考えてみると、もう遠い話になっていた。
あれは俺が全てを失っていた時期だ。
その頃は人が嫌になり、出来たばっかのこいつを持ち出して山を降り、たった半年で日本の裏世界の天下を取った。
取った後はそれをすぐ捨て、山へとまた籠もった。
何かをしたかったわけではなかった。
こいつを振り、人から奪ってきた。
人間というものが嫌いで、滅ぼしてやるという気持ちだけで動いていた。
けど、今は違う。
こうしてやり直し、友達が出来て、人として生活している。
この生活に満足している。
あの時のような失敗はしない。
そう決めたのだ。
「叶!終わったよ~!」
「おう」
榛名に返事をし、店から出てきた。
「いや~、かなり掛かっちゃったよ~」
「撫子さんは何着ても似合うから迷いました」
「撫子さんはいいなぁ・・・何着ても似合うなんて、私ももう一度戻りたい・・・」
みんなが出てきたが、撫子が出てこない。
「撫子は?」
あ~、ちょっと待ってね」
榛名が中へ入り、撫子を引っ張り出してきた。
「さぁ!もう諦めなさい!」
「いやっ・・・。ちょっと、榛名!!・・・きゃっ!」
「・・・・・・」
出てきた撫子の姿は目を離すことが出来なかった。
上はピンクのパーカーで、下はショートパンツ。
可愛いの一言しか出てこない.
シンプルであるが、いつも和服姿だった撫子がこんなにも変わったことに驚いている。
「・・・ど、どうかな?叶・・・」
「・・・可愛いぞ・・・」
「~~~~~!!!」
顔が真っ赤になり、榛名の後ろに隠れた。
「こんな姿・・・恥ずかしい・・・」
その姿はまるで子供のようだった。
「・・・・・・」
撫子の姿に心臓がドクンッと跳ねた。
何回はあったが今回のは一際強かった。
ぐぅ~。
誰かの腹の音が聞こえた。
「・・・飯にするか」
「そうだね」
「そうしよう!!」
俺たちはレストランへ行った。そこでみんなと和気藹々な雰囲気で話し合った。
撫子が喜んでいたから良かった。
これで、俺が考えた今回のお出かけは大成功だった。
※
「ん~!今日は楽しかった~!」
「ええ」
「そうだね」
「よかったね~」
ご飯を食べ終わり、空は紅く染まり、一日の終わりを告げていた。
「撫子」
「どうしたんだい?」
「学園の件。いいぞ」
「え?」
「~~~お前が学園へ通って良いってことだよ!」
撫子の顔を見れない。
さっきの服のせいであの後はまともに顔を見れなかった。
「・・・ありかとう!」
撫子は俺に抱きついてきた。
「お・・・おいっ!」
腕にふにゅと吸い付くような柔らかい弾力。
「あれあれ。叶~?照れちゃって~」
「うふふ。初々しいですね」
榛名と凪姉ぇがニヤニヤと俺を見る。
「う・・・うるせー」
「撫子さんの学園への編入手続きは私がやっておいてあげるね」
「ありがとうございます。みさきさん」
「みさき!ありがとう!」
今日は撫子も、俺も、みんなも楽しめたと思う。
久しぶりにこう思った。
生きていて良かった・・・。
その後は撫子荘へ帰り、久しぶりの外出で疲れたのか、すぐに寝てしまった。
※
撫子view
「今日は楽しかった~」
今日は叶が私を外へ出してくれた。
新しい友達も増えた。
こんなに幸せだと感じたのは、昇一郎の時以来だ。
昇一郎もこんなことをたくさんしてくれた。
叶はまるで、昇一郎みたいだった。
「叶!って寝てるか・・・」
部屋を訪れたが叶は寝ていた。
くぅーくぅーと安らかであった。
「・・・今日はありがとう・・・」
「あの服を可愛いと言ってくれて、私は嬉しかったよ」
叶の耳元で、お礼を言った。
あの時言えなかったこと。
叶にはとても感謝している。
私に新しいことを教えてくれる。
私を優しくしてくれる。
嬉しかった。
叶に会えて本当に良かった。
「・・・そういえば、叶が持っていたあれはなんだろうか?」
叶が持っていたものに私は気になっていた。
あれを持ってきた時、私は外へ出れた。
あれから感じたのは、とてつもなく強い霊力。
「あんなに霊力が込められた物はまず無いのだけど・・・」
あれほどの霊力が込めらた物はほとんど存在しない。
あるとすれば、宝具か御神体しかない。
「何が入っているのだろう?」
私はそれに触れようとした時、
「うっ!!」
頭の中に何かが入ってきた。
「これは・・・記憶?」
「この景色は・・・・・・見覚えがある・・・」
頭の中に流れ込んでくる記憶に覚えがあった。
「くぅっ!!!」
段々と頭が痛くなる。
私はその場から離れ、距離をとった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「あの記憶は・・・・・・私の生きていた頃の記憶?」
あの景色、あの家、あの人の表情。
いくら思い出そうとしても思い出せなかった記憶。
それが叶の持っているものに触ろうとしたら、一部だが思い出せた。
「私の記憶・・・思い出させるあれは・・・何?」
謎が深まった。思い出せずにいた記憶が、叶のものに触れようとした時に思い出したこと。
叶の持っていたもの。
分からない事ばかりだった。
この時の私は知らなかった。
私という存在に。
そして、私が生きていた時に起きたあの時を思い出すことに・・・。