第二話~『刹那』~
「――――」
俺が誰かと話している。
「―――――――」
何を言っているのか分からない。
「――――――――」
何だ。何を言いたいんだ・・・。
「・・・・・・」
突然、喋る声が聞こえなくなった。
長い沈黙が続く。
「―――貴方のせいで私は死んだ」
「!!」
はっきりと聞こえた声。その声、言い方には覚えがあった。
あいつだ・・・。あいつの声だ。
「死んだ」
やめてくれ・・・。
「貴方のせいで・・・」
俺が悪かった・・・。
「死んだ・・・」
もう・・・やめてくれ・・・。
「死んだ!!」
やめてくれ!!!
※
「!!!・・・はぁ・・・・・はぁ・・・」
そこで目が覚めた。
「・・・・・・夢、か・・・・・・」
久しぶりの悪夢を見たせいで体は汗でびっしょりだった。
「どうしたのですか?かなりうなさえていましたが大丈夫ですか?叶?」
「撫子・・・すまない、大丈夫だ。心配ないよ」
見ていた夢は俺の昔の記憶の断片。
俺が山へと行くきっかけとなったあのときの記憶。
「こんな日に見るとはな・・・」
俺にとってトラウマなのかもしれない。
あの時に・・・俺が・・・。
「そうならなければいいんだがな・・・」
俺も心は不安に満ちていた。
また、あの時みたいになってしまうのではないかと・・・。
「・・・・・・・・・・」
黙々と準備を進める。
撫子がこちらをずっと見ている。
「撫子。さっきのがまだ心配か?大丈夫だ。なんともないから」
「叶。・・・叶がそういうのであれば分かりました」
「あぁ。それじゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい・・・」
部屋を後にし、撫子荘から出た。
気持ちはまだ不安が残っていた。
※
撫子view
「・・・・・・」
叶が学校へ向かった。
「叶・・・」
私は今まで長い間、人を見てきた。
叶はかなり無茶をしていることがすぐに分かった。
とても大丈夫ではないはずだ。
「見ていた夢はかなりのものなのね・・・」
叶の服はかなり汗で濡れていた。
寝言で『やめてくれ』とつぶやいていた。
「貴方はどんな人生を送っていたの・・・」
心配で心が苦しかった。
あの時もそうだった。
いつも私に関わった人はそうだった。
そのときの姿は、無残な姿。
「私はもう・・・あんな思いをしたくない・・・あんな思いは・・・」
畳の上に一つの雫が落ちた。
「叶・・・・」
※
叶view
撫子荘を出て、入り口で待っていた凪姉ぇたちと一緒に登校していた。
「こうして歩いてると嬉しいな~。こうしてみんなが揃って歩けるなんて夢みたいだよ」
「榛名、もう何回も言っているぞ」
「だってぇ~いいじゃない~叶~♪」
「ふふっ。榛名ったら」
「あはは」
「ふふっ」
人と話して笑ったのは久しぶりであった。
こうして、新しい生活が待っているのだ。
その時だった。
「泥棒ーー!!」
道の先で窃盗の現場に遭った。
被害者はどうやら、うちの学生の女性。
犯人はバイクに乗って逃走していた。
「どうして俺の周りには面倒事が起きるんだ?・・・ハァ~~やめてくれよ。こういうのは嫌いなのに・・・仕方ない。榛名。俺の鞄持ってくれ」
「え?叶?もしかして、バイクを追うの!?無理だよ!」
「大丈夫だ。すぐに終わる」
体制を整え、バイクへ視線を向ける。
「ふっ!!」
「え?」
榛名たちから見れば、俺は瞬間移動したかのように見えるだろう。
この技は、山にこもって手に入れたものだ。
そして、一瞬でバイクと並んだ。
「何だお前!!!」
「それはこっちが聞きたい」
すばやくバイクに蹴りを入れ、体制を崩し、横転した。
「ぎゃあ!!」
犯人は二回転して、止まった。
「ち・・・ちくしょう・・・」
それでも犯人は逃げようとしていた。
「は~い。逃げな~い」
「ひぃっ!!」
犯人を素早く押さえた。
「さっさと鞄返してくれないかな~?」
「何を偉そうに・・・」
「立場考えろ」
「ぎゃああああああーーーーー!!!!」
少し締めるとすぐ犯人は叫んだ。
「鞄を返してもらえないかな」
「だから・・・」
「いい加減にしろ」
「ぎゃああああああーーーー!!!!!」
このやりとりは警察が来るまで続いた。
「ご協力感謝します」
「ああ」
犯人は警察に任せ、盗られた鞄を持ち主に返しに行った。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
「名前は?」
「鈴峰梗華です」
「いい名前だな。これから気をつけろよ」
「はい!あの!貴方に名前は?」
「天野叶だ。また会える事を祈るよ」
「叶!やばいよ!遅刻しちゃうよ!」
遠くから榛名の声が聞こえた。もうそんな時間か。
「いけねっ!またな」
俺はこの場を後にし、学園へ急いだ。
※
???view
「あの構えに、あの速さ・・・まさか・・・」
現場を見て、昔調べていたことを思い出していた。
「あいつが・・・驚いたな。どおりで正体不明で消息不明ってなるわけだ・・・」
「お手並み拝見としましょうか。『刹那』よ」
これで、やっとここに面白い風が吹いてきそうだ。
※
叶view
昼休み。
「はぁ~疲れた~。こんな事になるなんて予想もしなかったな」
学園へと入り、どうにか間に合い、始業式に出れた。
そこで、校長からの祝辞で今朝のことを話され、俺は壇上へ上がり、そこで俺を紹介したのだ。
1200人もの生徒が俺に注目して拍手を送っていた。
出来ればもうあんなのは勘弁してもらいたい。
自分のクラスは40人構成。
10クラスあり、学年400人となる。
クラスには榛名がいて安心できた。
転校して来た俺はすぐに質問攻めされた。
好きな物、趣味、懲戒の話、そして彼女はなど・・・面倒な物ばかりだった。
「人気者は辛いね~。叶」
「最初だけだ」
榛名と話していると、クラスメイトの一人が近付いてきた。
「天野君。ちょっといいかな?」
「何だ?」
「屋上へ来てくれるかい?ここではちょっと・・・」
男は言いづらそうに俺の耳元で言う。
「・・・分かった」
男の話を承諾し、席を立つ。
「ん?どしたん?」
「ちょっとした男の話ってやつさ。来るか?」
「!!行かないよ!ばか!!」
赤くなりながら叫ぶ榛名を無視し、人が居なさそうな屋上へと向かった。
※
「よし。ここでならいいかな?」
「で、俺をここに呼び出して何だ?俺に変な視線を送ってたやつよ」
「あれ?気づいてた?流石だな~」
「あんな変な視線送ってればすぐ分かる」
今朝のあのときに、一人だけ違う視線で俺を見ていたやつがいた。それはこいつの視線だ。
「何か話したいんだろ?何だ?」
「まず自己紹介からだ。私は東条明彦。以後お見知りおきを」
丁寧に礼をする。
「何から話そうかな~?天野君。いや、『刹那』って呼んだほうからいいかな?」
「っ!!お前・・・!!」
すぐに東条の首を掴み、袖から暗器を突きつける。
「何処でその名を知った?返答しだいではただでは・・・殺す」
『刹那』・・・。昔にその世界で言われた名で、思い出したくない名でもあった。
「まぁ、落ち着いて。まず、この手を離してもらえるかな?天野君?」
東条は表情を変えずに、言う。
・・・・・・ポーカーフェイスか。
「ちっ」
言われたとおりに離し、距離をとった。
「私はこの町のあらゆる情報を持っている情報屋なんだ」
「今回の件で見たあの素早さ、瞬発力・・・。情報では、昔にここで現れた刀一振りで裏世界で天下を取った伝説の男『刹那』とほとんど同じなんだよ。天下を取った後、行方をくらまして消えたあの『刹那』にな・・・」
「・・・で、俺をどうするつもりだ・・・貴様」
「なに。あんたを売ろうとは思わないさ。今伝説の『刹那』がここにいるんだから。売ったら面白くない」
「何をするつもりだ」
こいつ、東条の考えが全く分からない。
俺で何をしようとしている?
「何もしないさ。私はただ確認したかったのさ。あんたがあの『刹那』かという確認を。あそこで言われていたら大変だったろう?」
「・・・・ああ」
もしあの場で『刹那』のことを言われていたら、また、ここを去らなければならなかった。
あの地獄の日々に戻ることになる。
「そういうことだ。私の用件は終わり。またな。『刹那』」
「待て」
「なんだ?」
「『刹那』の名をこの学園で言うな。言ったらどうなるかは分かるだろ?」
袖から暗器を出す。
「おぉ~、怖い怖い。言われなくてもしないさ」
「それともう一つ」
「ん?」
「お前は情報屋なんだろう?今後俺の依頼を受け情報を提供しろ。分かったか」
「お安い御用だ。それだけか?」
「ああ」
「またな。『刹那』」
東条は屋上を後にして、帰っていった。
「『刹那』・・・か」
この名はもう聞かないだろうと思った俺の罪の名。
5年前の愚かな自分の姿。
「まさか・・・登校初日でこうなろうとはな・・・」
これではこの先がかなり思いやられる。
「この先は、何もなければいいが・・・」
蒼い空を見つめた。
この先の俺の存在。
そして、榛名たち。
俺のことで巻き込まなければいいと思う。
風が優しく吹く。
こうして、俺の学園生活が始まった。