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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

間の悪い婚約破棄

間の悪い婚約破棄~後日談

作者: 九曜 蓮

 白大理石の回廊に鮮やかな初夏の木漏れ日が反射して、疲れ目には少々辛い今日この頃でございますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

先日、目出度くエーアヘッド様との婚約が解消となりました、メアリー=スーディフォルトでございます。


 過日の騒動はどうにかR-18Gな事態は防げましたものの、後処理がまた大変でございまして……

最近ようやく一段落つき、私も本日は定時で上がれまして喜ばしい事です。


 ────あら? お待ち下さい、おかしゅうございませんか?


 普通なら、内実はどうあれ王族との婚約が解消されたのですから、所謂傷物として世間体を慮り、しばらくは粛々と館に篭っているというのが筋というものです。

 ですのに、何故王宮で重臣の皆様や文官の方々に混じって各方面の折衝や書類仕事に駆り出されているのでございましょう?

私、公爵令嬢ではありますが無位無官でございますよ?


 ……あ、何だか昔先輩に押しに弱いとか流されやすいとかお人好しだと言われましたのが懐かしく思い出されます。

先輩のご指導でなんとゴネられようとも違反点数はびた1点たりとも負けないようになりましたのに……いえ、でも皆様のあのように消耗なさった姿を見ては無下にも……んん?そう言えば、ここ一ヶ月ばかり私王宮に泊まりこみで実家に帰れてないような……?

 やっぱりこんなのおかしゅうござ


「メアリー殿! 件の予算申請が降りましたぞ!」


「まあ、早速各ギルドへお知らせしなければ!」


「はい、これで西地区の問題は解決に向かえます!」


 これであの件の片付く目処が立ちますわ。本当に良うございました。

────はて?その前に私何か考えていましたような……




 あら、向こうからいらっしゃるのは


「御機嫌よう、アイシェア様」


「御機嫌よう、メアリー様。お会いできて、こ、光栄でございます?」


「ふふ、“光栄でございます”は適当ではありませんわ。この場合ですと“嬉しゅうございます”でよろしいかと。それにしましても、少しお会いしないうちに所作が見違えるように美しくなられましたこと。アイシェア様は努力家でいらっしゃいますね。」


「ありがとうございます。これも一重に王妃様やサフォーネ様が丁寧にご教授くださったおかげでございます。」


 ふわりと花の綻ぶように微笑む様は、喜びとお二方への感謝が溢れるようです。

ですが王妃様はともかく、サフォーネ様は、その、適度な距離感を保たれた方が……そのように無防備に信頼してらっしゃると鴨がネギ……コホン、いえ、なんでもございません。

 ええと、こちらのモンプティート伯爵の養女アイシェア様は、この度国王陛下の第二妾妃に迎えられました。

実はあのハニトラ密偵さんでございます。



『決して節度無い不必要な女性関係をもつべからず』


 この誓いは王妃様だけでなく主神ミティーザーネにも捧げた神聖なもの。

R-18G回避の為には、例え後出しこじつけであろうともこの誓いを破っていない事にしなければなりませんでした。

 つまり、ハニトラさんを「節度無い遊び」では無い事にしたのでございます。

王宮に入り込み、陛下を籠絡してのけた手管の持ち主で魅了の魔眼保持者。敵であれば厄介ですが、逆に言えば同様の手口を察知し、防ぐカウンターともなり得ます。

 という事にして助命と引き換えに名を変え、表向きは第二妾妃、実際には【影】を司るモンプティート伯爵家の養女にして王宮警備担当者の一人となったのです。

 身柄については隣国とのちょっとした駆け引きもありましたが、かの王も非公式ながら


「よもやそのような事態になるとは想定外であった。正直、同じ男として想像しただけで怖い、というか痛い。ホントすまん。」


との事で、思ったよりスムーズに身柄を引き取ることが出来ました。


 そう、思ったより、と言えば────アイシェア様の魅了の魔眼の検証も行われました。

精神操作系は悪用すれば大変恐ろしいものです。故に、その能力を詳らかにする事で対策が取れるよう研究せねばなりませんのでしたが……


アイシェア様の魔眼は野良猫が懐きやすくなる程度の能力、という事が判明いたしました。


 ……思ったよりショボ、いえ、ささやかな効果でいらっしゃって……? つまりそれ人間にはほぼ効かないって事ですよね?!


「ま、丸きり嘘じゃないです! それに、だって、ああでも言わないと陛下のがもがれちゃうと思って……っ」


 ───そう言えば、魅了の魔眼“っぽいと言えなくもないもの”とおっしゃっていましたわね。


 何というか、この方、密偵などなさっていた割に憎めないというか、嫌いになりにくい人柄をしてらっしゃるのです。

これが演技なら大したものなのですが、どうも素のようで……

一緒にいると気が楽と言いましょうか、どこかホッとする雰囲気を持っていらっしゃるのです。

 共にいると背筋の伸びるような、心地良い緊張感と高揚感を覚える王妃様とは正反対のタイプです。両陛下のロマンスは有名ですので、あちらのお国としても上手くゆけば儲けものといった程度であったそうでございます。

 それでも、モンプティート伯爵によると、身体能力や気配の操作等は中の上だそうですが。


 そんな訳で、どうにかこうにか両陛下の仲は取り持たれ、日常が戻ってきつつあります。




 そうそう、忘れるところでしたわ。

 あの騒動の渦中であったお二人ですが、エーアヘッド様は王妃様のヤキ入……お説教の後、第三騎士団団長預かりとなって鍛え直されている最中でございます。

逆ハー仲間でありました第一騎士団長子息様も共にという事なので、きっとお寂しくはありませんでしょう。

 基本的に貴族子弟で構成されている第一、第二騎士団と違って、第三騎士団は平民や他国からの移住者で構成されています。身分が低いにも関わらず、力関係では他の騎士団に勝るとも劣らぬ第三騎士団はキワモ……んん、曲者……いえ、実力者揃いと評判です。

先日偶々第三騎士団本部の近くを通りました時には


「ヒャッハーーー! お馬鹿は消毒だあぁぁぁ!!」


という奇声にも似た勇ましい号令が聞こえてまいりました。

 あれでも幼い頃はそれなりに優秀な方々であったのです。今までにない視点と経験を得て、立ち直ってくださればと思います。


 同様に宰相子息様、魔道士団長子息様方も、第二尚書院、別名デスマーチ院にて再教育を受けていらっしゃいます。

第二尚書院はアホ様方とお花畑様の尻拭いが一番多かった部署でございます。

本来学業では優秀な方々なのです。恋に浮かれた過ちが、いかに他所様に迷惑をかけていたかという事実を目の前に、心を改めてくださると信じています。

 正直、文官の手が足りないのです。この際計算係か清書係として使えるようになってくださるだけでも良うございます。

悲しいことに、この世界には電卓やパソコンに類するものがまだ無いのです。

通常業務ならまだしも、一連の騒動で発生した諸々の書類と伝票の処理は人海戦術の他に術がありません。

 ああ! 今ここにチートでなくてもいいので人数分の電卓とパソコンを背負った現代日本人がトリップして来て下さったら……っ! と何度思った事でしょう。



ただ、残念ながらフローラル様の再教育ばかりは、芳しくないようです。

醜聞にまみれたといえど、エーアヘッド様の想い人である事は事実。野心や企みをもった貴族が何人か、何くわぬ顔をして教育係に立候補したのですが……何方も長くて一週間、早くて二日でギブアップなさいました。

 少々下品なまでに野心に目をギラつかせていたシディン=カイ伯爵など、六日で酷く消耗され、元から控えめだった御髪が尽く儚くなられてしまいました。

痛ましい事です。


 そして、今日もまた───


「根性無しめと謗られても構いませぬ……っ、畏れながら、フローラル嬢の教育係を辞させて頂きたく……」


 青白い顔で目の下に隈を作ってらっしゃるこの方は、次期法務大臣と目されているレジスタンテス伯爵。

由緒正しいお家ながら、先代から密かに反王政主義に傾いているとの情報が影から上がってきております。


「そこもとを根性無しなどと誰が言えようか!」


 思わずといった様子で飛び出し、項垂れるレジスタンテス伯の手を握って熱く語るのは先王様の代から篤い忠誠心と数々の軍功でもって、今なお軍部に絶大な影響のあるタカーハ侯爵。


「この五日間よくぞ、良くぞ耐えなされたっ……!」

「た、タカーハ殿……っ!」


滂沱の涙を流すお二人にもらい泣きするものもちらほらと。

確かタカーハ侯爵様は三日でございました……それにしても犬猿の仲の政敵同士でしたのに、同じ苦労を負うと心通じるものがあるのでしょうか。

何はともあれ、仲良き事は尊い事でございます。


 それにしましても、大の大人の精神をここまでへし折るフローラル様のメンヘ…、いえ電波…もとい、残念な夢見がちぶりは凄まじゅうございます。

刑吏官から“フローラル嬢の教育係、もしくはお世話係になる事”を新たな刑罰として採用したいという奏上が上がっていましたが……このままでは実現するのも遠くはない気が致します。



 ここのところ、両陛下には絆の修復の為にと、最低限の公務以外はお二人のお時間をとって頂いております。

先日など、仲睦まじく中庭を散策なさっているお姿が見受けられ、城勤めの者達も安心と憧憬の眼差しを向けておりました。

ちょっとばかり拗れかけたものの、依然お二人方は皆の憧れのご夫婦なのでございます。



 ───ああ、私もいつかあのような仲睦まじい夫婦になりたいものです。

図らずも先日の騒動で私の結婚相手のハードルは下がり、お相手となる方の範囲は増えた筈です。

 政略結婚が当然の身ですもの、燃えるような恋をしたいとまでは申しません。

美形でなくとも、武勇に優れなくとも構いません。

お歳も、非常識な年齢差でなければ上でも下でも拘りはありません。

ただ、誠実で優しい、人として尊敬できる殿方と、穏やかな家庭を築いていけたらと思うのでございます。


「いやー、佐々木ちゃん“誠実で優しくて人として尊敬できる相手”って、それ白馬に乗ったイケメン王子様よりレアだからね?」


 ええっ! そ、そんな?!


「アタシもさー、年収も身長も顔も気にしないから、誠実で優しくて尊敬できる人と~なんて考えてたら結局独身のままご臨終しちゃったのよねー。」


 あっはっはと朗らかに笑う、我が国最大規模を誇るカイ・センドーヤ商会の一人娘、ハンナマリア=ゼーニャ様。

 前世では、とある有名IT企業を立ち上げた肝っ玉女社長とTVで特番を組まれた事もおありでした。

あと、私今はメアリーでございます。


「まー、会社は見どころのある若いのに継がせたし、最後まで面白く仕事させてもらったから未練はないけどね!」


 豪快に言い放つ様はあくまで明るく、女傑ぶりは今世も健在でいらっしゃいます。



 でも、そうですか……白馬のイケメン王子さまよりレアですか……


「あの……」


「なあに?」


「結婚相談所を立ち上げる予定はございませんか?」


「んー、立ち上げてもいいけど、実質王妃様に次ぐ王国第二位の女性を登録するのは無理だと思うよ?」



 ……前世からの夢は、思いの外険しいようでございます。

 

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