第四十六話。エリーゼとの戦い (執筆ラビリンスコーヒースライムLv1)
まさかライバルである犬神師範と共闘する日が来るとは猫柳師範は思ってもみなかった。ついこの間まで敵として死闘を繰り広げたあのトーナメントでの出来事がまるで嘘のようである。しかしそれが我流先生が死んだことによっての共闘という点で猫柳は感慨深さに浸ることが出来ず、複雑な気持ちを抱いていた。
「何をぼけっとしておるんじゃ、猫柳!」
そんな猫柳師範を叩き起こすかのような鋭い犬神師範の声。
「分かっておるわい」
猫柳師範は再度気を引き締めエリーゼに向かって構える。
相手が、本当にかの有名な魔法界の女王であるのならば、遠慮などしている余裕はどこにもない。相手が魔法使いであるのならば、どんな攻撃を仕掛けてくるのか分からないのだから。炎や氷を使いこなせるという噂が本当ならば、いくら気をマスターした自分らでも防ぎようもないと、そう猫柳は思ったのだ。
「参る!」
猫柳師範は最初から体力など関係なしに気を全開にした。それを見た犬神師範が「おいおいなんて気だよ」と驚いた表情を見せたが、何も気にすることもなく猫柳師範は気功による神速の一歩でエリーゼの延髄に蹴りを放つ。
「速い!」
犬神師範が叫ぶ。
しかしエリーゼは足を一歩も動かさないまま、まるで幽霊のように体全体をスーッと後ろへと移動させて猫柳師範の攻撃を躱した。
「馬鹿な!」
猫柳師範が言う。そしてすぐに「犬神! お前も早く攻撃せんかい!」と今度は猫柳師範が犬神師範に怒鳴る。
「ええい! なるようになるだけじゃ」
犬神師範もエリーゼに攻撃を仕掛ける。
気を極めたと二人の二重攻撃。しかしエリーゼの体を捉えることは全く出来なかった。近接攻撃、遠隔攻撃、それらの全ての攻撃がエリーゼに掠ることなく空を切るばかりだった。
「はあっ~」
その時、ふいにエリーゼがため息を漏らした。
こんな時になぜ溜息など。まさか魔法とやらをエリーゼは発動するのではないか。そんな風に猫柳師範が思ったその時、エリーゼはがっかりしたような表情で呟いた。
「なあんだ。東洋の気功使いって大したことないのね。二人係でもそこに死んでいる木偶の坊と大して変わらないじゃない」
エリーゼは亡骸となった我流先生を見てそう言った。
「貴様!」
犬神師範が激高し、エリーゼへと向かおうとする。しかし猫柳師範はそれを止めた。
「なぜだ。なぜ止める!」
「冷静になるんだ。罠かも知れない」
猫柳師範はそう言うが、犬神師範の怒りは収まらない。
「あら、ばれた? 私の魔法であなたたちを吸収する結界を張っておいたのだけれど、そちらの人は勘が鋭いね」
エリーゼはクスクスと笑った後、話を続けた。
「でも吸収してカードにしても大したカードにはならないようだし、まあ別にいいわ」
「カ、カードにするだと?」
「ええ、ちょうどそこの木偶の坊もカードにしようと思っていた所に、あなたたちがやってきたから隠れて様子を見ていたのだけれど、あなたたちはどうやらその木偶の坊の弟子達みたいね。悪いことをしたわね。殺しちゃったりして、昔呪いをかけて目を見えなくしたのだけれど、私は才能があると思ったらから修行をして強くなっていると思っていたけど、大して強くなっていなかったから殺しちゃった」
悪びれる様子もなく我流先生殺しを認めるエリーゼ。
しかし我流先生を簡単に殺すほどの腕前、いくら自分と犬神師範が共闘しても勝てる可能性は低いだろう。しかし玉砕覚悟ででも、エリーゼを倒す。いや倒せないとしても傷の一つぐらいはつけなければ、と猫柳は思ったのだが……。エリーゼはエリーゼは退屈そうに話しはじめた。
「もう飽きちゃった。私魔法の国に帰るわね。もしあなた達が生きていることがあるのならば、私に復讐しに私の住んでいる魔法王国へといらっしゃい」
エリーゼは屈託のない笑顔でそう言った。
「お前を逃がすとでも思うのか?」
犬神師範がエリーゼへとにじり寄る。
「あら、あなた達の相手は私じゃないわ」
「何じゃと?」
猫柳師範が聞く。
「あなたたちのあ・い・て・は……。あなた達の良く知っているこの人よ」
そう言ったエリーゼの後ろに音もなく姿を現したのはそう、猫柳と犬神の師匠である我流先生だった。
「この人もう死んでいるけどカードにするほどでもなかったから肉体のままゾンビとして操らせてもらったわ。力は生きていた時と変わらないからご安心なく。もし生き残ったら私の所まで復讐に来なさい」
エリーゼはそう言って妖艶な笑みを浮かべると、道場から去って行った。
ゾンビとなった我流先生と二人の戦いの火蓋が切って落とされた。




