第四十二話。気の奥義。 (執筆ラビリンスコーヒーLv1)
「呪いのカード? それは一体……」
猫柳師範はそのカードを訳が分からずに眺めていた。
すると我流先生が重い口を開いた。
「実はまだお前には教えていなかった奥義がいくつかある」
「な、何故ですか? 我流先生」
猫柳師範は我流先生を責めるように問いただした。
「それはな……まだお前達と犬神が精神的に成熟しきっていなかったからだ」
「精神的に未熟……だったと?」
「そうだ。お前達を鍛えていた当時、お前達の気は確かに素晴らしく私すらも上回る才能を感じた。だが、それに伴った精神力がなく、今でこそお前は気が充実しているが、当時のお前達は荒波のような精神状態じゃった。それは犬神とのライバル心から来ていたのかもしれないがな。その当時に気の奥義をもしお前に教えていたとしたら、お前はもしかしたら使い方を間違え、今の犬神のように悪の道に進んでいたかもしれない。だから奥義の伝授は出来なかったのだ」
「ぬうっ。そうでしたか」
猫柳は複雑な気持ちを飲み込むように下を向いた。
「だが、今のお前は別だ。今のお前は弟子をとり、悪に流されることなく、正義を貫くことが出来る」
「じゃ、じゃあ」
「ああ、今のお前になら奥義を伝授することが可能だ」
「その奥義とは……」
「この呪いのカード、それは私が山で一人寂しく夜も哀しく、そして慰めの相手は孤島に流れ着いたエロ本だけだったある日のこと。私の元に誰かがやってきたのだ。私は「はーい。いらっしゃい」と新婚さんいらっしゃい的なノリで部屋のドアを何の警戒もなく開けた。それは一人さびしく孤島に暮らしていたので、客が来るとは思ってもみなかったので、もしかしたらお前が私を訪ねて来てくれたのだと、勘違いし油断をしていたのだ。だがそれがいけなかった。私がドアを開けた瞬間、仮面を被った黒ずくめの男が私にこの呪いのカードを発動したのだ。しかし、私ならばそれは簡単に跳ね返せるとそう思っていた。しかしその呪いは強大だった。私は呪いにかかってしまい、目が見えなくなってしまったのだ」
「そ、そんな。でもなぜそんなアニメのようなカードがこの世の中に存在するのですか?」
「それはこの気の奥義、念じ気というものだ」
「念じ気?」
「そう。例えば今紙をそこの棚から持って来てくれないか? あとボールペンでも鉛筆でもいいから」
「は、はい」
猫柳師範は我流先生に言われて、鉛筆とメモ用紙を持ってきた。
すると、我流先生がメモ用紙に何かを書き始めた。
スラスラと流れるような仕草で。
「お前はお茶漬けが好きだったよな。確か」
「は、はい。我流先生」
メモ用紙には『お茶漬け梅干し味』と書かれていた。
「それは一体……?」
猫柳師範は意味が分からず、独り言のようにぽつりとつぶやいた。
すると。
「むうっん! お茶漬け梅干し味!!」と我流先生が叫んだ。
直後、メモ用紙が一瞬発光した。
発行が収まると、メモ用紙から湯気が出ていた。そして驚くことにメモ用紙からお茶漬け梅干し味の匂いが立ち込めていたのだ。
「な、何と! これは梅干しお茶漬け味の匂い! そんな馬鹿な! これはまるで奇跡。わしは奇跡を今この目で目撃したのか?」
「ふうっ」
一息ついた我流先生は話しはじめた。
「これは気功を極めた者が出来る、具現化系気功だ。私のイメージした香りを今、気を使ってこのメモ用紙に張り付けたのだ。これが私がかかっている呪いと同じ気功だ。私はお茶漬けの匂いをカードに張り付けた。しかし、私の呪いを付けた者はカードに私にかかる強力な呪いをかけ、カードに張り付けた」
「そんな馬鹿な」
「信じられないかもしれないが、今見た通りそれは真実だ」
言った我流先生はもう一度そのカードの力を示すべくもう一枚の白紙のメモに今度は『犬の嗅覚』と書いた。
そして我流先生がそれを読みあげると再びカードが発光した。
「それを額に当てて見ろ」
我流先生の言葉に従い額にカードを当ててみると、猫柳師範の目が驚愕で見開かれた。
「な、何と。凄まじい嗅覚を感じるわい」
そう言って猫柳師範が床下の壊れた板の下から発見したのはカビが生えて、そこから生えていたキノコだった。
「それはどうやって見つけた?」
我流先生が聞くと「何か床下からキノコの匂いがしたのじゃ」と猫柳師範は言った。
それを聞いた我流先生は頷いた。
「そう、それがこの気功の奥義の力。気の能力が強い者が意志を持って気を念じれば、それが実現できる」
「じゃ、じゃあ我流先生の目もその力を使えば見えるようになるのではないですか?」
猫柳師範が言うと、我流先生は首を横に振った。
「それは出来なかったのだ。それほどまでにこの呪いのカードにかけた呪いは強力だったのだ。だが安心するがいい。この呪いのカードは一人にしか効かないようになっているからお前に呪いが発動することはない」
「し、しかし。一体誰がこの呪いのカードを作ったと言うのだ……」
「少なくとも呪いが破れないということは私よりも強い気の持ち主だということだ」
我流先生が深刻な表情で言った。
一体誰がこの呪いのカードを作ったのだろうか。
我流先生と、猫柳師範の間に沈黙が流れた。
しかし、それを破ったのは我流先生だった。
「よし、というわけでお前にその気の奥義を伝授する。お前はもう奥義を伝授するに値する人間になったからな」
我流先生が言った。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。猫柳」
そして、我流先生は猫柳師範にその気の奥義を伝授した。
猫柳師範は僅か三日でそれをマスターし、一人下山して行った。
一体誰が我流先生に呪いをかけたのだろうか。それは誰にも分からなかった。




