第三十九話。それぞれの修行 (執筆たつきさん)
世界大会に向けて、由佳子たちの修行が始まろうとしていた。
「失礼しまーす」
由佳子たちは、猫柳師範の道場を訪れた。
「おお、入りなさい」
猫柳師範は、あたたかく迎えてくれた。
「修行って言っても、どうします?」
勇気は、世界大会のことを考え、慎重に言った。
「難しいことは考えるなよ……」
俊哉はふてくされたように言った。
この間、優勝して100万円を手に入れたが、チケットも別で手に入った。
その後、祝勝会で皆で100万円を使い果たしてしまったのだ。
「そういえば、この間の、超高級お茶漬けは美味しかったの」
「猫じい! あの茶漬けで、80万円ほど使っちまったんだぞ!!」
俊哉は怒った。
「猫じいとは、なんじゃ! 猫柳師範と呼べ!」
「いや、じじいか、じいさんか、猫じいとしか、呼べん」
俊哉はそっぽを向いた。
「師範、あれはさすがにまずかったのでは?」
卓郎がフォローするように言う。
「まずかったじゃと? 美味かったぞ?」
「そういう意味じゃない気が……」
由佳子も、結構食べたので、多少の罪悪感を抱えつつ言った。
「まぁまぁ、本題に戻って……」
「勇気、お前もオレに奢ってもらっただろ?! ケッ!」
俊哉は、急に立ち上がると、道場の外に出ていった。
「おい、俊哉! どこへ行く?」
「……」
辺りに、険悪な雰囲気が流れる。
「俊哉君、どうしたのかしら?」
由佳子が勇気に尋ねる。
「そうだね。彼は根はいい人間のはずだが……」
俊哉は、道場の外に出ると、悲しげな顔で街に颯爽と歩き出した。
「あの100万円があれば……」
実は俊哉の妹が、この前、謎の病気にかかり、手術代が100万円ほど必要だったのだ。
「いや、待てよ。猫じいなら、気功で治せるか? でもいまさら……どんな顔をしたらいい?」
俊哉は思春期の中、思いが揺れていた。
「それに、治せるかどうかもわからねぇ……とりあえず見舞いに行くか」
総合病院に、俊哉は自転車で来た。
病室の前に行くと、俊哉の妹の小鈴がいた。
白いベッドの上で、パジャマを着て本を読んでいる。
「小鈴……起きてたのか?」
「お兄ちゃん。まだ昼だよ? 起きてるわよ」
小鈴の優しい声に、自然と俊哉の表情も優しく和らいだ。
「なんの本を読んでるんだ?」
「将棋の本」
短く答える小鈴に、俊哉は驚愕した。
よく見ると、その将棋の本は、ボロボロになるまで読み込まれていたのだ。
この前、買ってあげたときは、新品だった。
その将棋の本は、プロ棋士たちでも苦戦する詰将棋の本だった。
それを、この歳でスラスラ解くとは。
やはり、妹の小鈴がこんなところで死ぬのは惜しい。
「手術はどうする?」
俊哉は単刀直入に訊いた。
「いやだ。こわいもん」
「気功って手もあるぞ」
「なにそれ。あやしいー」
小鈴は、吹き出しだ。
「ゴホッゴホッ!」
「小鈴! 大丈夫か!?」
俊哉は決心した。小鈴を治せるほどの気功を、身につけることを……




