第三十六話。優勝チームが決まる。 (執筆ラビリンスコーヒーLv1)
ようやく審判が止めた時には猫柳師範の意識はすでに朦朧としていた。
審判は首を振り、そして両手を振った。試合はドクターストップにより決着されたのだ。
「勝者、魔堕天チームの犬神師範!!」
審判に右手を持ち上げられ、勝ち誇った顔をする犬神師範。
「ぬうっ、ぬかったわ」
ようやく意識がぼんやりとではあるが戻ってきた猫柳師範が絞り出すような声で言った。
「きたねえぞ。反則じゃねえか!」
俊哉が言うと、「やめんか!!」と猫柳師範が一喝した。
「負けは負けじゃ。これ以上わしに恥をかかせるでない」
「そうだ。敗者は潔く負けを認めるもんだぞ。なあ猫柳」
犬神師範が死体蹴りをするように言う。
「く、くそっ」
由佳子チームは皆、唇をかみしめ、あるいは拳を固く握りしめ怒りを何とかこらえている。
「さあ、では優勝賞品を頂くとするか。なあ皆よ」
犬神師範が言うと、「おお!」と魔堕天のメンバーが喜びを爆発させた。
「で、では」
しばらくすると、大会の運営のお偉いさん方と思われる、いかにも金を持っていそうな社長といった風情の男がリングに上がった。
「では、魔堕天チームおめでとう!!」
大会運営の男はそう言うと、魔堕天のチームに紙のような物を見せた。
それを見た、俊哉が呟いた。
「何だあれ? ディズニーのペアチケットか? 猫柳師範。この大会の優勝賞品って知っているか?」
リングから降り、手当を受けている猫柳師範に俊哉が聞いた。
「いや、わしも優勝賞品については知らん。もしかしたら本当にペアチケットかもしれんのう」
「そんなわけないでしょ」
由佳子がすかさず突っ込む。
すると、大会の運営の男が言った。
「では、優勝賞品のペアチケットです」
「ほら、やっぱり」
俊哉がどや顔で言った。
「そ、そんな」
由佳子は唖然としている。しかし、次の運営の口から語られた言葉は。
「では、この世界大会の出場権のペアチケットを贈呈します。このチケットは一枚で5人一チーム出場可能です。もう一枚は誰かいればその方に差し上げて下さい!」
「ふんっ。私達と対等にやれる、世界大会に出場できるチームが日本にいるわけがないだろう」
犬神師範は威嚇するように運営の男に言った。
「そ、そうですか。ではもう一枚のチケットは捨てるなり焼くなり、売るなりどうかご自由にしてください」
そして運営の男は犬神師範にチケットを渡した。
「はっはっは。確かに受け取ったぞ。世界大会のチケット。おい、大知!」
「は、はい」
「おまえ、この余ったチケット質屋に売るか、ネットオークションに出してこい。まあ世界大会に出る勇気がある奴はいないと思うから、買う奴がいるかどうかは分からんが、まあこの貴重なチケット。さぞかし高値がつくだろう」
「は、はい」
チケットの一枚を受け取った大知は巨漢を素早く動かし、会場から出て行った。
「さあ、では世界大会に向けて特訓を開始するとしようか」
犬神師範が言うと、「はっ!」と魔堕天のメンバーが声を揃えて言った。
そして、犬神師範と魔堕天のメンバーは会場から颯爽と出て言った。
「……行っちまったな。俺達負けたんだな」
魔堕天のメンバーが会場がいなくなると、俊哉が元気のない声で言った。
「馬鹿もん!」
すると猫柳師範が怒りの声を上げた。
「ど、どうしたんだよ。猫柳師範」
「わしらも早速特訓開始じゃ!」
「はい?」
素っ頓狂な声を上げる俊哉。
「さっきの話を聞いていなかったのか。犬神師範はチケットの片割れを質屋かネットオークションに出品すると言っておったじゃろう。それを手にして、わしらも世界大会に出場するのじゃ。そして今度こそ魔堕天チームに完勝し、ぎゃふんと言わせるのじゃ」
「その手があったか」
勇気が手をポンと叩いて、目を輝かせた。
「でもよう。猫柳師範のおっちゃんも完敗してしまったしよ」
「ええい。うるさい。わしも試合勘がなまっておったのじゃ。犬神の奴が汚い奴じゃというのをすっかり忘れておったわい。わしもあそこで足を踏まれないように気を張っていれば、もっといい試合が出来たはずじゃ。それにわしはな、今骨折しておるのじゃ」
「こ、ここここ骨折ですか? 師範!」
足立卓郎が目を大きく見開いて言った。
「なんじゃ。知らんかったのか。ちょいとした未確認生物を探しに行った時、秘境の地で謎の生物に襲われ骨折し、命からがら逃げだしてきたんじゃ」
「ああ、だからたまに師範、道場にいなかったんですね。全くもう何してるんですか」
「だから分かったじゃろう。わしは骨折していなければ、犬神に負けるなんてヘマはしなかった。じゃから、今度こそ世界大会であいつらチームに勝つのじゃ」
「おお。分かったぜ。猫柳師範。そうと決まったら早速修行だな」
俄然やる気を出し始めた、俊哉。
「でも、そのチケットお高いんじゃないかしら。だって貴重なんでしょう?」
「むうっ。そう言われればそうじゃのう」
「では、まずそのチケットを手に入れるために、皆さんバイトをしたらどうでしょうか」
勇気が言った。
「バイトか……その案良いかもしれないな」
俊哉が同意した。
「僕はもうメンバーから下ろさせて頂きたいと思います」
すると話を黙って聞いていた由佳子の弟の真吾が言った。
「な、何でだよ真吾。裏切るのか」
俊哉の言葉に、真吾は首を大きく横に振った。
「僕はまだ皆さんに比べて実力が大きく劣るということに気付いたんです。僕がいても足でまどいになるだけだと。それに新たに猫柳師範がメンバーになったので、僕がいる隙間はもうありません」
「馬鹿言うでない。真吾よ。お主は立派な戦士じゃ。それにお主は秘めたる才能がある。わしが保証する。それにお主の存在は皆にとって精神的な支えになる」
「そうだぞ真吾。卑屈になるなよ」
俊哉が言った。
「で、でも僕がいてもあまり意味がないような」
「いや、君がいてくれないと困るな。君がまだ僕達に比べて実力が劣るというのは客観的に見て否定はしない。しかしさっき猫柳師範が言った通り、君には秘めたる才能がある。そう格闘技のセンスでは君は僕よりもあると思っているんだ」
勇気が言った。
「ゆ、勇気さんよりも?」
「うん。お世辞じゃなくてね。それに君は成長が早い。この大会でも君は格段に進化したことだろう。世界大会までに特訓すれば僕達を凌ぐ存在になると僕は見ている」
「そうよ。それにもし何かあった時の為にサブメンバーも必要だわ」
由佳子が言った。
「お、お姉ちゃん」
「どうやら決まったようじゃな。では皆まずはチケットを買う為にバイトじゃ!」
猫柳師範が言うと、由佳子達メンバーは「おお!!」と声を合わせて言った。




