第十三話。どっちが勝つ?足立卓郎VS神龍寺俊哉の組手! (執筆たつきさん)
「で、練習メニューとかはあるのかい?」
勇気は由佳子に訊いた。
「練習メニューはないわ。毎回、師範が新しいことを思いつくの」
「そうじゃ。今日は組手にしようかの。ちょうど威勢のよい者もおるし」
猫柳師範は、俊哉をちらっと見て言った。
「おしっ。そうこなくっちゃ」
俊哉はボクサーのような軽快なステップワークで準備運動している。
「組手ですか。僕は今回はパスしましょう」
勇気は言った。
「何故じゃね?」
「だって、この流れだと俊哉と卓郎さんが闘うんでしょう。僕は女性と闘う趣味はない」
由佳子は勇気の発言に少し感動したが、勇気がその後に「紳士ですから」と言ってウインクしてきたので、少しイラッとした。
「あまり、おしゃべりをしていても始まらない」
卓郎はそう言うと、中国拳法のように、半身になり構えた。
「面白え。少しは楽しませろよ」
俊哉はフットワークで卓郎の周りを回った。
お互いが距離を測り、気の流れを読む。
卓郎は、俊哉のフットワークに対し、常に正面を向く。
と、肩で僅かにフェイントを入れたあと、俊哉が右の飛び膝蹴りを放った。
「おりゃッ」
卓郎は声は出さず、しかし息はちゃんと吐きながら、飛び膝蹴りを躱した。
躱すと同時に、左で俊哉の学生服の襟を掴んでいた。
「フンっ」
そして、卓郎は、俊哉の飛び膝の勢いを利用して、くるりと回り、俊哉を道場の畳に叩きつけた。さらに、腕を極める。
俊哉は、なんとか腕を返して、体勢を整えた。
「なるほど、これからは俺も本気で行くぜ」
「最初から、本気だろう」
「どうかな?」
俊哉は、学生服を脱ぐと、中から通販で買った謎の重りが、道場の畳に落ちた。
ゴンッという鈍い音がした。
「なるほど。ハッタリというわけではないようだ」
卓郎は、もう一度、構えなおした。
「へへ、これで前より20kg軽くなった」
「ほう。では来たまえ……?!」
俊哉は卓郎の言葉を待たずに、前に踏み込んでいた。
さっきより格段に早いスピードで。
左ジャブからの右ハイキックのワンツーだ。
咄嗟に避けた宅浪だが、追い打ちの前蹴りを喰らい、後ろに仰け反った。
「ぐッ!」
「おりゃあ!!」
俊哉は、更にさっき躱された飛び膝蹴りで、追撃する。
しかし、それは卓郎に読まれていた。
「はぁっ」
柔道の巴投げで、卓郎は俊哉を投げた。
俊哉は持ち前の運動神経で、空中で一回転して、なんとか片膝で倒れるのを防いた。
「ほっほ。俊哉とか言う若者。なかなかやるではないか」
猫柳師範は穏やかに笑った。
「しかし、卓郎の目も死んでおらんぞ」
その通り、卓郎もまた、日々の修行の維持もある。
確かに、喧嘩なら俊哉に分配が上がるだろう。
だが、これは武道。最初から、飛ばし過ぎると、後半にスタミナ切れの恐れがある。
お互い、息が切れてきたところだ。
だが、そこで由佳子は組手を止めた。
「はいはい。私と勇気くんがすることないから、そこまで!」
「おい。俺の立場はどうなる」
俊哉は呆れた目で由佳子を見た。
「自分は引き分けということでいい」
卓郎は、俊哉のポテンシャルと、勝負への執着心に内心、敬意を抱きつつ言った。
「では、この勝負、引き分け!」
猫柳師範はいつの間にか、赤と白の旗を持って、引き分けを判定した。
「じゃあ、次はワシが指導してあげよう。勇気くんとか言ったかな」
猫柳師範の目がギラっと光った。
「君はまだ伸びるぞ……」




