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立花京介からの手紙2

 僕は子供の頃から中途半端な人間だった。両親に言われた通りにするわけではないのだけれど、かと言って反抗というものもあまり、したことがない。

 野球がやりたかったはずなのに、蓋を開けてみればサッカーをやっていたり。そろばんに興味などないのにあっという間に検定に受かってしまったり。嫌で嫌で仕様のなかったヴァイオリンにおいては、ジュニアコンクールで金賞をもらってしまったり。

 こうして思い返してみても、自分のことながらよくわからない。

 一体全体お前は何者なのかと聞かれたら、僕は恐らく言葉を返せないだろう。それほどまでに僕は僕を知らないのだ。

 そうだと言うのに僕のまわりの人間たちは、口を揃えてこう言う。京介君はとても良い子だと。果たして彼らは、僕のどこを見てそう思ったのか不思議で仕様がない。

 サッカーをしていれば良い子なのか。そろばんが得意であれば良い子なのか。ヴァイオリンで賞をもらえば良い子なのか。よもやそんなはずがあるまい。

 だとしたら、僕はどうして良い子だと言われ続けてきたのか。

 しかしまあ、薄々ではあるが、僕は子供ながらに感じてはいた。何をもって大人は、子供の良し悪しを決めているのか。それはすなわち――大人にとって都合が良いか悪いか、ということだ。いわゆる世間体というやつだろうか。

 けれど、世間とはつまり、個人のことを指し、俗に言う世間の目とかいうものは、あくまでも個人的なものに過ぎない。世間の目ではなく私の目。そう言ってくれれば子供の頃の僕は、何も疑問を感じなかっただろうに。

 いや、いまさら反抗をしても遅い。二十歳になってからの反抗など、恥ずかしいにも程があるだろう。だから、せめてもの抵抗として、僕は自殺をしようと思う。

 唐突な自殺宣言だと思った人は多いかもしれない。けれど別に、ふっと思い立ったわけではないのである。二十歳という年齢を節目にして自殺をする。これは僕が高校を卒業したのと同時に思いついたことだ。

 どうしてそんなことをするのかと聞かれたら、僕は迷わずこう答える。

 僕は既に死んでいるからだ、と。

 何も心臓が止まった瞬間に、人間は死ぬわけではない。

 心が凍り付いてしまった瞬間にも、人間は死ぬのだ。心が停止し、心が機能せず、心が飾り物となった途端に、人間は死ぬ。だから僕は死んだのである。

 しかしそうは言っても、やはり死ぬからには何かを残して死にたいと思う。遺書ではあまりにも物騒だし、メモ書きでは重さが足りない。だとしたら僕は何を残すべきなのか。

 そう考えて思いついたのは、小説であった。

 だが、男女の色恋沙汰を描くのではなく。読者に青春を思い出させるためのものでもなく。僕という一人の人間についてあれこれと語るだけの小説を、書こうと思う。

 ただ用心してもらいたい。

 闇から生まれし文字の数々は、場合によっては魅力的に見えてしまうかもしれない。

 こちら側に引き摺りこまれないように、細心の注意を払いながら、心して読んでもらおうか。これ以上の忠告はしない。僕は繰り返しを嫌う人間である。

 果たしてこの小説を読むのは僕の両親なのだろうか。それとも死体の第一発見者。いやいや警察官なのかもしれない。

 さあ、立花京介の人生を、語ろうではないか。

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