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月曜日


 あれから三回太陽が昇り、月曜日になった。また今日も同じことの繰り返しになるのかと思うと解りやすく憂鬱になった。頭では嫌がっているのに、なぜか身体は学校に行く気満々なようで、今日は朝五時に目が覚めた。もう一度布団にもぐりこんだが、全然眠れそうになかったので、起きることにした。


 やはり脳と身体は別の動きをするということを改めて感じることが出来た。脳が身体を動かしているのは、今では子供でも知っているような内容だが、実際、脳は百%身体を動かせているわけではない。だから筋肉痛やら肉離れやらが起こるのだ。脳が思っている以上の働きを身体がしてしまったり、脳の命令通りに身体が動けなかったりするから関節やら筋やらを痛めたりするのだ。


 何でこんなことを突然思ったかというと何を隠そう、現在俺は絶賛筋肉痛中だからだ。土日は溜まっていた掃除や洗濯を一気にやった。全く自分の性格を呪うね。


 いつも通りの掃除や洗濯でやめておけばよかったのだ。実際いつもより汚れていたのだからいつも通りとはいかないのかもしれないが、だからって模様替えじみたマネなどしなくても良かったはずだ。結構一生懸命になってしまった。普段やらないようなところにも手を伸ばしているうちに、家具の下にまで行き着き、タンスを移動してまで掃除をした。


 しかもそのあと冷蔵庫の中身が少しもないことに気が付いて、疲れ切った身体に鞭を打って買い物に出かけた。しかもタイムサービス中でえらく買い込んでしまったのである。


 おそらくこの二つの要因により身体中がオーバーワーク状態なのである。


 朝食を終え、学校の支度を終えた俺は、出発に時間より三十分以上早かったのだが、筋肉痛のこともあったし、家にいてもすることもなかったので、学校に向かった。


 学校に着くとすでに麻生が教室にいた。机に突っ伏しているからよくは分かりかねるがどこか元気なさそうに見えなくもない気がするようなしないような。どうやらこっちに気付いてもいないようなので話しかけてみよう。


「どうした?女にでも振られたのか?」


 こう言うと、麻生はゆーっくりこっちを見てゆーっくりもう一度元の位置に顔を戻した。無視されたのかと思って、また何か言ってやろうかと思ったら、麻生は、本当は話したくないけれど仕方なく話している、というような声でこう言った。


「やらかした」


 正直このセリフをあんなに落ち込んだような姿で言われたら、受験に失敗した浪人生を思い出さざるを得なかった。


 これでは話が進まない。本当は聞かないほうがいいのかも知れないが、せっかく答えてくれたのだからちゃんと聞いてやったほうがいい気がした。


「何をやらかしたって?」


 俺は全く顔を上げない麻生に向かってこう聞き返した。すると麻生はうめくような声で、デート、と言うとまた黙り込んでしまった。


 その言葉を聞いて俺は土日の掃除とともに綺麗さっぱり片付けてしまった金曜日の麻生との会話を思い出した。そういえばデートに行くとか言っていたな。それに失敗して落ち込んでいたのか。さっきの挨拶はまずかった。


 そのあとも俺がいくつか質問をすると、麻生は単語じみた返答をよこした。その辺のやり取りも面倒なので謹んで割愛させていただくとして、麻生の単語風返答を纏めると大体以下のようになる。


 土曜日は会っていないが二人はずっとメールを交換していて、お互いデートを楽しみにしていた。


 当日は昼前から会う約束だったのだが、朝はメールをしなかったという。そして集合時間の一時間前に待ち合わせ場所に着いてしまった麻生は、デートのシミュレーションを繰り返していたのだが、相手は集合時間を過ぎても一向に来ず、一時間過ぎ、二時間過ぎ、結局五時間ほど待ったのだが結局来なかったらしい。


 つまり、


「すっぽかされたのか」


 まぁなんというか、あれだね、憐れ。憐れの代名詞のような状況だ。これが憐れでなければ、全国の辞書を書き換えなければならない。


「どうしたんですか?」


 声をかけてきたのは、岩崎だった。


 この女子は幼馴染でもなんでもない。高校に入ってから知り合った。


 しかしこいつも麻生も同じで、知り合うきっかけなどなかったと思う。気が付いたらそこにいて世話を焼いていたような気がする。ちなみに同級生である。言葉使いが丁寧なのは先輩だからでも師匠だからでもない。ではなぜだというと、聞いてないから解らないし、これからも聞く気もない。さらに興味もない。


 今日も今日とてその世話好きな性格を如何なく発揮し、こうしてちょっかいを出してきたのである。


「また麻生さんをいじめているんですか?ママ許しませんよ!」

「誰がママだ。勘違いするな。俺のせいでこうなってるんじゃない」


 じゃ、誰のせいか?とは聞くな。俺には解らないから。しいて言うなら麻生本人のせいだろう。俺の勘じゃ、どうせ気付かないうちになにか相手を怒らせるようなことを言ったりしたりしたのだろう。


「じゃあ麻生さんはどうしたんですか?」


 こいつの声色からは心配や同情といった憐れんだ感情は欠片も感知することができない。あるのは好奇心だけだ。なにか面白いことを期待しているに違いない。


 とはいえ黙っていると俺のせいにされかねないので、麻生に了解を得てから、今日までの経緯を話した。


「そうだったんですか・・・」


 岩崎は納得の声を上げて、それから、きっと急な用事が入ったんですよ、とか、昨日は罪悪感で眠れなかったはずです、とか言って慰め始めた。


 しかし当事者である麻生は机に伏せたまま、黙り込んでいた。


「ちょっと!成瀬さんも励ましてあげて下さいよ!」


 岩崎が顔を近づけてきて、小声で俺に言った。俺がなにか言ったところでどうにかなるとも思えなかったのだが、このままだといつも以上に鬱陶しいし、まぁ慰めの言葉の一つでもかけてやるか。


「元気を出せ。失恋なんてたいしたことない。よくあることじゃないか。今日の朝刊見たか?大手電化製品メーカーの代表取締役が自宅で殺されたらしい。全く可愛そうなことじゃないか。それに比べたらお前の悩みなんて・・・」


 月とすっぽんだ、と続けようとしたが、岩崎に止められた。


「何言ってるんですか!ちゃんと励ましてあげて下さい」


 と、小声で岩崎に怒られた。


「う、ううぅ・・」


 こんなうめき声を漏らしたのは麻生だった。一見泣いてるように思える。実際岩崎は、ほら泣いちゃったじゃないですか、とか言ってちょっと困惑顔をしている。


 だが、俺はそんなことちっとも考えなかった。こんなことで泣くようなやつじゃないし。そして俺は漠然と嫌な予感がした。


 実際泣いてなかったこともその嫌な予感の正体もこの直後に解った。


「うううううううううううおおおおーーー」


 叫んだ。見事に叫んだ。当然のごとく、教室にいたクラスメートたちが驚き、こちら、というか麻生に妙な視線を送っていた。岩崎も驚いていた。


 俺はというと呆れただけで、べつに驚きはしなかった。全く周りの迷惑というものと考えないやつだ。お前はいいかもしれないけど、こうして一緒にいる俺たちの身にもなってもらいたいね。お前と同じく変なやつだと思われたらどうするんだ。


 思わずため息をついた俺の気持ちを知ってか知らずか、また叫んだ。


「黙って聞いてりゃ好き勝手言いたいこと言いやがって!お前に俺のこの痛々しい気持ちが分かってたまるか!心の痛みを分かってたまるか!大手電化製品メーカーの代表取締役が殺されたって?大手の代表取締役なんてなぁ、どうせ相当悪いことして金稼いだんだから殺されて当たり前なんだよ!誰にも文句言えないんだよ!」


 いったいどんな偏見だろうか。こいつはおそらくねたんでいるに違いない。しかし代表取締役も死んでしまったのになんだってこんな一高校生にここまで言われなきゃいけないんだろうか。人知れず同情してしまうね。


「俺はあきらめん、あきらめんぞぉ!」

「そうです!その意気ですよ!」


 なぜか知らないうちに岩崎が呆然から復活していて、麻生と一緒に乗り気である。二人とも声がでかいのだが、意気投合してさらにでかくなった気がする。これが干渉というやつか。いや、声は音波なのだから干渉は起こりうるのだろうが、今回の場合、強め合っているばかりで、弱め合っている箇所がない。この場合、相乗効果というのが妥当だろうな。


 気合を入れた二人は勢いよく教室を飛び出していった。当然俺は付いていかなかったが、教室にはいやーな空気といやーな視線が残っており、それらを一人で受けることができず、結局いそいそと教室から退散することになった。


 適当にぶらついて、授業が始まる直前に帰ってきたら、すでに二人は教室にいた。


 それから二人はなにかこそこそやっているような雰囲気をかもし出していた。授業中に何やら話し合っていたり、昼休みや授業の間の短い休み時間にもどこか行っていた。どうやら二人で何かを企んでいるようだった。俺は心の底から関わりたくないと思った。




 放課後、帰り支度をしていると、例の二人がすっかり支度を終え、俺のところに来た。最近ではすっかり日常に本当におかしなことが起こったのはこのあとだ。


 いつものように校門を出る。校門を出ると道が三つに分かれている。電車通学をしている俺たちは、正面の道を行く。ひたすら真っ直ぐ、十分ほど歩くと、最寄り駅に着く。俺たちは慣れた手つきで、定期を自動改札に通し、構内へ入った。


 気味が悪いことに学校から今までの十五分弱、二人は一言も口を利かなかった。二、三分ほどすると電車が到着。俺たちはあまりいない車内へ乗り込んだ。電車が走り出してしばらくすると、ずっと閉じたままだった岩崎の口が静かに開いた。


「私たち朝のホームルーム前に教室から出て行きましたよね?」

「ああ、そうだったな」


 俺は二人が勢いよく教室を出て行ったのを頭に思い浮かべた。


「あの時笹倉さんのクラスに行ってたんです」


 なるほどね。気合を入れたのはそういうわけか。で、要件はなんだったんだ?待ち合わせに来なかった理由でも問いに行ったのか、それとも、麻生の気持ちでも伝えに行ったのか。


「でも笹倉さんはいませんでした」

「まだ来てなかっただけじゃないのか?」


 この二人もそう思ったらしく、ここで諦めなかったようだ。


「私たちもそう思ったので、授業が終わる度に行ってみました。でも放課後まで笹倉さんは現れませんでした」


 昼休みは職員室まで足を運び、笹倉から欠席の連絡がないかも調べに行ったらしい。それにしてもこの短い間にずいぶん話が進んでるな。


「それで休んでた理由は分かったのか?」

「いえ・・・。連絡は来てなかったそうなので結局笹倉さんが休んだ理由は分かりませんでした」


 いろいろ動いていたようだが、最終的にほしい情報は得られなかったみたいだ。俺は一生懸命頑張ったらしい二人に同情の言葉でもかけてやろうと一つ二つ考えたが、その言葉に出番はなかった。


 岩崎は、でも、と言い、続けてこんなことを言った。


「笹倉さんの家の住所を聞いてきました」


 ・・・。俺は無言にならざるを得なかった。ここまでやるか、普通。明日になればまた会えるかもしれない人に対して。これは誰の発案だ?どうも岩崎のような気がするね。麻生はさっきから黙って話を聞いているだけだし。


 俺は岩崎の言葉に答えることができずに黙っていた。この間も電車は休むことなく進み続けた。そして駅に止まる。どうやら結構長い間話していたようで、もう俺の降りるべき駅の二つ前まで来ていた。ちなみに麻生の降りる駅は俺と同じで、岩崎はその一つ先だ。つまり俺たち三人の中でこの駅で降りるやつはいない。


 しかし俺以外の二人は降りようとしている。降りるのか、と聞こうとして口を開きかけたのだが、それよりも一瞬早く岩崎がこう言った。


「だから今から笹倉さん家に行こうと思います」

「はっ?」


 思わず叫んでしまった。しかし岩崎はそんなことお構いなしに俺の手を取ると、開いているドアから電車を降りた。驚いたままの表情をしている俺の後ろで電車のドアが閉まった。


「お前、いったい何考えてるんだ?」


 こう言ったのは俺だ。そしてこの問いかけに岩崎は、


「麻生さんと笹倉さんのことですよ、いけませんか?」


 と言い、可愛らしく微笑んだ。


 呆れた。俺は思わずため息をついた。今日はどうやら運が悪いらしい。断固反対して、ここに残ることも考えたが無意味な気がして、仕様がないと割り切った。


「ここからそんなに遠くありません!さぁ行きましょう!」


 そう言って元気よく歩き始めた岩崎の天使のような笑顔を見て、俺はなぜだか白雪姫に出てくる魔女を思い出した。


 元気よく歩く岩崎、少し緊張気味の麻生、それに続きやる気のない俺。


 往生際が悪いのは解っているが、駅から刻一刻と目的地に向かっている現在になっても帰れるものなら今すぐ帰りたいと思う。先頭を歩く岩崎の手には、いったいいつ手に入れたのか、地図が握られている。少しでも迷ったら即刻帰ってやろうと思っているのだが、岩崎の足取りは相変わらず軽快だ。


 行くなら二人で行けばいいものをなんで俺が同行しなくてはならないんだ。正直言って俺が行ったところですることもできることもない。というかこいつらはいったい何をしに行くのだろうか。


 淀みなく動き続けていた岩崎の足がはたと止まる。とうとう迷ったのかと岩崎が思ったが残念なことにこう言った。


「着きました。ここですよ」


 岩崎の示した指の先にはアパートだかマンションだか微妙な建物があった。


 岩崎は俺たちに部屋番号を教えた。どうやら結構階段を上りそうである。


 しかしそうはならなかった。そのマンションにはオートロックが備え付けてあったのだ。なってしまっているので、あまりおかしなことではない。 麻生は俺たちを見た。


 俺は何もしなかったのだが、岩崎は、頑張れ、というようなポーズを取っているのを目の端で捕えた。麻生はそれにうなずいて答えた。その場を妙な緊張が支配する。そんな中、麻生は岩崎が言った部屋番号を押した。が、返事はない。もう一度押してみる。が、返事はない。少しずつその場を支配していた緊張感が薄らいでいくのが分かった。代わりに諦めの色がだんだん濃さを増していく。


「どうやら留守みたいだ」


 麻生がこう言うと、岩崎は、


「すぐ帰ってくるかもしれません。少し待ってみましょう」


 と、言った。麻生はこの言葉に賛成した。俺はもちろん反対だったが二対一で待つことが決定した。そのときすでに時計の針は午後六時を回っていた。


 それから一時間以上待ってみたが未だホシは現れない。ロビーは暖房が効いていたから寒いということはなかったが、すっかり陽は落ち、外は真っ暗になっていた。


 笹倉本人は当然帰ってきていないし、顔を知らない笹倉家の住人も、インターホンに出ないところをみると、まだ帰ってきてないらしい。


 だが、笹倉家の住人以外のマンションの住人は続々と帰宅してきた。


 こんなところでたむろしている、おそらく見たこともないであろう俺たちに疑いの眼差しを向けてくる。


 今のところ証拠不十分で見逃してくれているようだが、話を聞く前に警察に通報するような強行派がいつ現れるか分からない。当人である俺の目から見ても俺たちは相当怪しい。 正直言って一人だったら確実にストーカーに間違えられる。いや、俺と麻生の二人でも十分に間違えられるかもしれない。なぜだか解らないが、黒幕である岩崎に感謝の言葉を送りたくなってきた。



 そろそろまずい。限界だ。このままではいつ正気を失ってもおかしくない。俺は精神的に強い人間ではないんだ。


「そろそろ撤収しよう。もう結構な時間だ」


 耐え切れなくなって言ってみたのだが、二人は意外なくらいあっさり賛成した。どうやら誰かがこう切り出すのを待っていたようだ。


 外の空気はすっかり冷え込んでいた。三人が吐く息は白く濁り、時折強く吹く風はとても冷たかった。


 そんな寒さを振り払うかのように帰りは二人ともよくしゃべり、賑やかだった。おそらく妄想であろう身の上話を楽しそうにする麻生と、それを興味深そうに聞いている岩崎を見て、悔しいことに、こんな日も悪くないかなと思ってしまった。


 二人と別れて一人になり自然と早足になる帰り道、俺は考え事をしていた。それは夕飯のことでも、その他の家事のことでも、学校のことでもなく、笹倉のことだった。自分でも意外だったが、今どこにいるのか、とても気になった。心配していたわけじゃない。もちろん、麻生とのことも関係ない。ただ漠然とどこにいるのか、何をしているのかが気になった。


 これはあとから思ったことなのだが、この漠然と居場所が気になったのが虫の知らせというやつだったのではないか、と。実際このことは後に回収されるべき伏線だったのだ。このときはまだ俺には知るべき手段がなかったのだが。


 俺はなんでこんなこと気になったのか考えていたのだが、途中で面倒になった。心のどこかで心配しているのだろうということにして考えるのをやめた。


 それからはいつものように夕飯のことを考えた。今日はいつもより余計に歩いたし、普段は浴びないような視線をいやというほど浴びて、精神的にも肉体的にも疲労困憊だったので、簡単に済ませることにした。そんなことを考えているうちに家であるマンションに着いた。


 このマンションは中々高級で少なくとも高校生が一人暮らしをするようなところではない。もちろん俺が選んだわけではない。俺は実家が選んだところに来ただけだ。こんなガキにこんなマンションを用意するなんて実家はよほど金が余っているらしい。オートロックを開錠し、中に入り、エレベーターに乗り込む。自分の部屋がある階のボタンを押すと、ドアが静かに閉じた。


 しばらくして到着を告げる安い機械音が鳴り、ドアが開く。俺は疲れきった身体を、もう少しだ、と励ましながら自分の部屋へと歩き出す。


 そこでふと気が付く。


 俺の家の前に一人の女性――俺と変わらないくらいの年齢に見える――が立っていた。俺の見間違いだと思ったが、部屋番号は疑いようもなくうちの番号だ。声をかけようとしたがそれは躊躇われた。相手の意図が分からない。少し離れたところから様子を見ていたらその視線に気が付いたようでその女性がこちらに向き直った。俺は驚いた。結構驚いた。俺はこの女性のことを知っていた。


「笹倉京子・・・」


 俺はその名前を思わず口に出してしまった。本来ならそこにいるはずがないのだが、その姿形は見紛うことなく彼女だった。


 俺は混乱した。探していた人物が見つかったのだから、ここは喜ぶべきところなのかもしれないが、全然そうは思えなかった。なぜ笹倉がここにいる?今までどこにいた?どういう過程でここに来たんだ。


 俺の頭の中には解決できない疑問がいくつもいくつも浮かんでくる。落ち着け。とりあえず話しかけてみよう。


「あんたは笹倉京子だよな?」


 やはり俺は混乱していたようだ。なんでこんな質問をしたんだ。そんなことは当たり前じゃないか。


 とりあえず麻生に連絡してやろう。ついでだから岩崎のやつも呼んでやろう。だが笹倉は、こんなことを考えられるくらいに回復した俺の頭を再び大きな混乱の中に陥れることを言った。


「私、笹倉京子って言うんですか?」


 眩暈がした。


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