君と国語辞典
掲載日:2013/10/13
「僕、すごく賢くなりたくて、国語辞典を
読破したことがあるんだ」
帰り道、ふとした拍子に
そんな話をしたくなった。
「国語辞典を?」
「うん。小学校五年生のときかな」
「国語辞典熟読しようとする
小5なんてなかなかいないよ」
ふはは、と、彼女は
秋風に乗せて笑って言う。
あのころの僕は、なにか確かなものが
欲しかった。きっちりと定義されていて、
揺るがない、唯一これだけはって
信じられるものが。
思ったとおり、その知識は僕を
裏切らなかった…だけど。
「で?その成果は?」
彼女は僕の目を覗き込んで微笑む。
「…ふふ、どうかな」
国語辞典を読破した小学五年生の
あのころは、僕は世界の全部を
知った気でいた。
だけど…。
「僕は本当は、まだ全然、何も知らないのかもしれないなぁ…」
君といると、
ほんとにそう思うよ。
「そうかな。君はじゅうぶん
物知りな気がするよ」
「うぅん、そんなことないんだ」
残念ながらね、
君に贈れそうな言葉は、
僕の辞書には載ってなかったから。
探さなくちゃ見つからない。
君と。
「…ねえじゃあ君がさ、
僕の辞書になってよ」
帰り道。ふとした拍子に
そんなことを言いたくなった。
「あはは、なにそれ」
君はそう言ってまた、
秋風に乗せて笑う。




