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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
45/46

今日は厄日か吉日か

大変遅くなりました。

読者の皆様も、インフルには十分ご注意ください。

 俺は朝から新しい執務室で書類を見ながらウンウン唸っていた。

 新政庁は3日前に完成した。俺の執務室は、3階建ての政庁の南東角、中央広場が見渡せる位置に作られていた。もちろん、3階だ。

 室内は皇城の執務室より広くて、大きな執務机に応接セット、大きな本棚が置いてある他、小さなシンクもあり、紅茶のセットが置いてあった。

 今この部屋には、俺の他に桜香と尚蓮がいる。

 桜香は秘書らしく、執務机の側の椅子に腰かけており、尚蓮はドア近くの壁際の椅子に座っている。

 尚蓮は副官であるが、護衛も兼ねているのでその場所になった。


 執務室の出入り口は直接廊下につながっておらず、手前の小部屋では百合花が待機してくれている。

 執務室と廊下の間に、待機部屋を作るように指示したのは俺だ。

 皇城では、結構沢山の人が、直接執務室に来て小枝子さんとやり取りするので、結構気になっていたのだ。

 だから今回は、大企業の秘書室みたいな部屋をまねさせてもらった。



 そんな想像以上に豪華に作られた執務室で、俺は1枚の書類相手に何度目かのため息をついた。

 今見ているのは、重京の収支報告書だ。

 ぱっと見ただけで赤字と分かる。

 現状、収入はほとんどなく、にもかかわらず、復興政策に力を入れているためだ。

 おかげで景気は見てわかるほど良くなっている。しかし、何とか重京内での金回りは良くなりつつあるが、外部からの流入が全くなく、流出がかなりある。

 原因は、食料品の外部依存と特産の無さだ。

 一応、兵士の家族を呼び寄せたりと、少しでも外貨を稼ぐ方策は取っているが、根本的な解決にはまだ時間が掛かりそうである。

 袁芳さんに依頼した、切子ガラスも、まだ、納得のいく作品が出来ていないみたいで、連絡がない。

 切子が出来たとしても、大量生産は難しいから、そこまでの外貨獲得にはならないだろう。

 という事は、現状では、騎士団の給金以外には外貨は入ってこないという事だ。

 これは、かなりまずい、このままいけば秋の収穫まで持たない。

 俺は再度大きなため息を盛大にはいて、引き出しから1枚の書類を取り出した。

 この書類には、手押しポンプの設計図が書かれている。

 未だに、この世界での井戸からの水をくむ方法は、木の桶を投入してくみ上げる方法だ。

 この手押しポンプを売り出せば、飛躍的に売れるに違いない。

 中学生の頃、じいちゃん家にあった手押しポンプに興味を持って、構造とか原理とか調べた事があったから、結構詳細な設計図を作る事が出来た。

 これを、鉱山村のドンガガルさんに渡せば、改良して生産してくれるだろう。

 ただし、このポンプ、鉄製で更にけっこう手間がかかるから、鉄道の整備が遅れる事になる。

 流通は一番大事だと思っているので、遅れるのは痛手だ。せめて、ゼノンの街までつながってからにしたかったが、背に腹は代えられない。

 しぶしぶ、この設計図をドンガガルさんに送付し、試作後、量産する様に依頼する書類を作成した。



 書類を作成し終わって、気分転換に窓際まで行って、窓の外を眺める。

 既に、俺が指示した公共事業はほとんど終了していた。残っているのは俺の家となる、領主館くらいだ。

 しかし、未だに重京の建設ラッシュは続いていた。

 主に、金を持っている領民が自分たちの家や店を建てるための建設ラッシュだ。

 この景色を見ているだけで、街の発展が実感でき、気分が良くなる。

 広場の反対側でも、皇都の大店の店が建設中であった。

 この4棟は、政庁にも負けない位大きな建物になりそうである。

 駅舎も建て増しが始まっていた。俺の指示通り、結構立派な2階建ての建物が出来つつある。

 もちろん、見た目だけでなく、機能性も持たせてある。


 列車が到着したみたいで、正面入り口から多くの乗客が出て来た。その多くは、大きな荷物を持った行商人や移住者であるみたいだ。

 重京の街もここの所、こういった皇国国民が増えているみたいで、人口が増加している。

 そして、通用門からは、多数の木材が運び出されてきた。


 はて?あの木材はいったいどこから運ばれてきたのだろうか?

 そういえば、だいぶ前に、元々森で伐採をしていたという人物に、カーラシア村と鉱山村の分岐点に新たに出来た分岐村付近での木材の伐採を許可したが、彼だけが儲かっているという事はないだろうか?

 彼の他に許可を出した覚えもないし、これは一度確認する必要がありそうだ。

 問題があれば、森林組合みたいなものを作らなければならないかもしれない。

 早速、桜香を呼んで、分岐村の視察をスケジュールに入れてもらう。備考として、森林組合と書いてもらって。

 それと、そろそろ村に名前を付けないといけなさそうだ。

 今確認しているだけでも、ドワーフ達の鉱山村、エルフの隠れ里、そして、分岐村と3つある。何かいい名前を考えておこう。

 エルフの隠れ里はそのままでもいいかもしれないが。



 そんな事を考えつつ窓の外を眺めていると、ドアがノックされた。

 振り向いて、ドアの方を見ると、百合花が入って来て来客を告げる。


「ご主人様、公徳様と丹葉様がお見えになりました。急ぎの用との事ですが、お入れしてもよろしいでしょうか?」


 もちろん、大きくうなずいて入ってもらう。

 しかし、この2人が同時に尋ねて来るのは珍しい。何かあったのだろうか?

 その答えは、入って来た2人の顔を見てはっきりとした。

 何かめんどくさい事が起こったのだと。

 なぜなら2人とも、申し訳なさそうな、難しい顔をして入って来たからだ。


「お2人が一緒に来られるのは珍しいですね。どのような問題が起こったのですか?」

 

 俺は窓から離れて、応接セットのソファーに腰かけながら尋ねた。


「すみません、将軍。公徳殿に相談したところ、私達では解決不能という意見で一致しまして、恐縮ですが、早急にご足労願いたいのですが。」


 答えたのは、鉄次さんの方だった。


「何が起こったのです?」


 俺が2人にソファーを勧めながらそう言うと、2人は座るのを辞しながら、話を続ける。


「公徳殿にも事情を伝えるのにも苦労しまして、言葉で伝えるのは難しいかと、直接見ていただいた方が良いと思います。」

「私も、丹葉殿の意見に賛成です。申し訳ありませんが、直ぐに来ていただけますか?」

「緊急の事態みたいですね。分かりました。では、何処に行けばいいのですか?」

「「西の一番広場です。」」

「後、事態が事態だけに、桜香殿にはここに居て貰う方が良いと思います。」


 2人同時に答えた後、公徳さんがそう付け足した。


「解りました、とりあえず、そこに向かいましょう。


 そう言って俺は、政庁を出る事にした。




 政庁の玄関では、公徳さんが来る時に手配でもしたのか、すでに愛馬が待機していたので、直ぐに飛び乗って走り出す。

 走り出すと言っても、大通りにはそれなりに人がいるので、全力では走れない。駆け足よりも少し早い程度で、出来るだけ急ぐ。

 前を公徳さんと鉄次さんが先導してくれて、後ろに尚蓮と俺付の伝令である、健三郎さんが続く。 


 ほどなくして、広場の端が見えて来たが、もの凄い人だかりで中が見えない。

 鉄次さんが大声を出して、人々をかき分けながら道を作り、その後ろを順番に続く。

 やっとのおもいで人垣を抜けた所で、馬を下りてそばに来た兵の1人に愛馬の手綱を預ける。

 そして、広場を見渡した。


 広場では、警備隊の兵士たちがぐるりと広場の中央を囲む形で展開していた。

 警備隊とは、今回の改編で改名したが、元は帝国軍の重京守備隊だ。

 彼らは俺に投降したあと、警察力として使用していたが、この度、国王様から増員の許可が下りた為、正式に俺の騎士団の一部隊として、警備隊と名乗らせた。


 そんな彼らが、全兵出撃で大捕り物を行ったようだ。

 中心部には、主犯と思われる人物たちが、両手を頭の上に組んだ状態で正座をさせられていた。

 もちろん、彼らの周りを長い木の棒を持った警備隊の兵が、棒先を彼らに突きつけていた。

 そして、そんな彼らと周りを囲む兵たちの間には、いくつかの塊を作って、座り込んでいる女の子たちがいた。

 彼女たちは両手、両足に手枷足枷をはめられて、衣服はボロ布を一枚巻きつけただけの姿だ。

 ご丁寧に、広場の中心付近には、学校の朝礼台の様な木の台まで設置されていた。

 この状況を見たら、確かに一目両全である。 

 また、この状況を説明されても、俺は信じなかっただろう。なぜなら、皇国では奴隷取引は、皇族の許可なくは禁止されているからだ。

 皇国では奴隷は皇族から賜る恩賞なのだから。



「奴隷売買の禁止について説明しなかったのですか?」


 俺は、公徳さんに尋ねた。


「いえ、奴隷売買を行っていた商会はもちろん、奴隷所持者や、そういった人物が集まる場所には直接通知しておりました。

 ただですね、彼はこれまで完全にそういった話がなかったために、見過ごしたようです。」


 公徳さんは渋い顔をして、そう答えた。


「なるほど。」


 俺はそう答えて、この騒ぎの中心人物の元へ向かう。

 彼とは面識がある。重京一の商会の旦那だ。


「しょ、将軍様ぁ~。見逃して下せぃ~。あっしはほんっとうに知らなかったんでさぁ。信じてください。」


 俺が彼の目の前に行くと、彼はそう泣きついてきた。


「本当に知らなかったのですか?」

「そりゃ~もちろんでさぁ。」

「これまで奴隷売買をしていた商会が、一切取引をしなくなって不思議に思わなかったのですか?」

「そりゃ~そう思いましたですよ。でも逆に、その~……」

「儲けるいい機会だと?」

「ええ、その通りです。」

「はあ、まあ、こんな目立つところで堂々と競売しようとしていたのなら、本当なんでしょうね。

 でも、困りましたね。皇国では、奴隷の取り扱いは皇族の特権なんですよね。」

「はい!それはもう、先ほどから何度もこの人たちに伺いました。大変な無礼をいたしまして、誠に申し訳ありませんです。」

「まあ、今回は私のミスでもありますし、不問としますか。」

「ほ、本当ですか?」

「ただしです。彼女達はきちんと元の家族の元へ送り届ける事。

 もちろん、元金の返済は要求しない事。返してきても受け取らない様に。

 それから、綺麗な服を着させて帰してあげるように。

 良いですね。」

「お、送り届けるのですか。」

「そうです。あなたが責任を持って、送り届けてください。」

「うっ、そ、それは、すみません。不可能です。」

「なぜ不可能なんですか?!」

「あの、その、この娘達は、上香から連れてまいりまして……」


 彼はだんだん先細りに声を小さくしながらそう答えた。


「……上香からですか。重京には娘を売るような貧しい人はいないと思っていましたが、まさか帝国領から連れて来るとは。

 どうやって帝国領から連れて来たのかは、後で鉄次さん詳しく話してもらう事にして、この娘達の代金はきちんと支払ったのでしょうね。」

「そ、それはもちろん、支払いました!」

「では、この娘達は私が引き取りましょう。

 あなたは、この娘達を購入した代金を失う事になるので、それで奴隷売買をしようとした罪は放免としましょう。

 しかし、帝国領に行ったと言う事なので、その件については詳しく取り調べさせていただきましょう。

 鉄次さん、警備隊の隊長と連携して、この件、頼みます。」

「はい、わかりました。お任せください。」

「公徳さん、彼女たちは私の領館に連れて来てください。警備隊の人達を使って構いませんので。

 領館はまだ完成していませんが、とりあえず住める部屋がいくつかは完成しているはずですので。」

「解りました。以後も私が面倒を見れば良いので?」

「いいえ、この件は桜香と小梅に任せようかと思います。桜香と小梅にはこちらから言っておきますので、公徳さんは領館で桜香と小梅に引き継いでください。」

「解りました。では、そのように。」



 ふう、これでひとまず解決した。そう思って、細かい事後処理に入ろうとした時、人垣を割って伝令が広場に飛び込んで来た。


「将軍様!桜香様から至急の連絡です!こちらが一段落したら、急いで政庁にお戻りくださいとの事です!」


 伝令は俺を見るやいなや、大声でまくしたてた。

 俺はその場で盛大にため息をはいた。そして片手を軽く伝令に向かって掲げて、了解の意を示す。


「なんか、あちらでも面倒事が起こったみたいです。

 お2人に後はお任せしますのでよろしくお願いします。

 報告は後程書類にて。

 では、失礼します。」

「はっ!分かりました!」

「了解です。」


 鉄次さん、公徳さんの順に了解を示してくれたので、俺は急いで愛馬に乗り、伝令の後を追い、政庁に向かって走り出した。




 急いで政庁に戻ってきて、執務室に帰ると、意外な人物が俺を待っていた。


「お久しぶりです。颯太様。お元気そうで何よりですわ。」


 小春ちゃんがソファーから立ち上がってそう挨拶して来た。


「これはこれは、小春ちゃ、コホン、小春さん。お待たせしたようで申し訳ない。」


 俺は小春ちゃんにソファーに座るように勧めながら対面に座った。

 直ぐに桜香がお茶を用意してくれる。


「『さん』だなんて、颯太様、小春とお呼びくださいな。将来を誓った仲なのですから。」


 そうだった、皇都の貴族からの政略結婚は赤穂将軍がうまくいなしてくれていたが、もっとも先行している人物がいる事を忘れていた。


「コホン、まあ、それはまだ先の事なので、ひとまず置いておいてですね。本日はどのようなご用件で?」

「まだ、先の話ですか……。あ、えっとそうでしてた。父上から書状をお預かりしております。

 まずは、これをお読みください。」

 

 そう言って手紙を取り出して、俺に渡して来た。

 とりあえず、手紙を広げて読んでみる。ご丁寧に蝋で封印された手紙だ。

 よほどの内容なのだろうか?


『親愛なる五十嵐将軍殿。

 度重なる戦勝、誠におめでとうございます。

 また、日居頃は、我が領地の鉱山に騎士を派遣してくださって、感謝の極みでございます。

 さて、この度は、将軍様の治められている重京において、文官が著しく不足していると聞きおよび、僭越ながら優秀な人材を集めてまいりました。

 皆、優秀なれど、他の者には扱いきれぬ人材で、冷遇に甘んじておりました。

 されど、五十嵐将軍で有るならば、彼らの能力を使いこなせる事間違いないでしょう。

 なにとぞ彼らに、能力に相応しい地位をお与えくださいませ。

 不肖、この真田勝彦、将軍様のお役にたてられれば幸いであります。


 なお、将軍は重京の安全を確保されたようで、身内を集めておられるとか。

 なので、この度は娘の小春も同行させることにいたしました。

 以後、娘の事はよしなに。


                          皇国男爵、真田勝彦』


 俺は最後の『娘の事は……』の行を呼んで、盛大に頭をテーブルにぶつけた。

 応接セットのテーブルだから、90度以上腰を折っての事だ。

 どうやら、真田男爵は予想以上に娘を俺に嫁がせたいらしい。

 なんか、今回の件で外堀を完全に埋められた気がする。

 このまま小春ちゃんを送り返すわけには……いかないだろうな。


「だ、大丈夫ですか颯太様!」


 テーブルに頭突きを食らわした俺を見て、小春ちゃんが慌てて気づかってくれる。


「あ、はい、大丈夫です。」


 俺はとりあえず、衝撃から復帰して、話を続ける。


「ところで小春さん。この手紙には、小春さんはこのままここに残るみたいに書かれているのですが?」

「はい、颯太様。不束者ですが、よろしくお願いいたします。」


 そう言って頭を90度下げられた。

 なんかもう、腹をくくるしかないんでしょうか?

 別に、御嬢さんに手を出した覚えはないんですが。

 なんで、俺が罪悪感を感じなければならないのでしょうか。

 俺はたぶん悪い事はしていないはずなんだが。


「あの、私じゃダメでしょうか?」


 て、そんな涙目でこちらを下から伺うように見られて、断れるほど、俺の心は強くないです。


「い、いえ、そんなことないですよ。」

「本当ですか?良かったです!」


 満面の笑みで喜ぶ小春ちゃん。いったいどこで道を間違えたのでしょうか。


「そうですね、それでは、小春さんにはしばらく私の領館に居て貰いましょう。」

「はい!もちろんです。よろしくお願い致します。」


 そう言って再度、90度のお辞儀をされた。


「と、ところで、小春さん。この手紙には、なんか私の部下になってくれるような、文官の方達がいらっしゃるとか?

 ご一緒でないのですか。」

「はい。一緒に参りました。人数が多いので、こちらには私だけが通されまして。」


 そう言って小春ちゃんはチラっと桜香の方を見た。すると、桜香が後を続ける。


「はい、全員は入りきらないと判断いたしましたので、他の方達には控室の方でお待ちいただいております。」

「そうですか、では、まずそちらに向かいましょう。」


 俺は、ソファーから立ち上がって控室へと向かう。

 もちろん、後を小春ちゃんと桜香が続く。廊下に出た所で、ちょうど広場から帰って来た尚蓮も合流した。



 控室は執務室の隣にある。主に、俺への面会者の待機部屋だ。結構広い部屋に、多くのソファーが配置されている。

 中にはいると、結構な人数の人たちが居て、皆俺を確認すると一斉に立ち上がった。

 俺はそんな彼らに再びソファーに座るように言ってから、彼らの前に立った。

 右後ろには、小春ちゃんが立ち、桜香と尚蓮は扉付近で待機している。


「皆さん、ようこそ重京へ。

 私が五十嵐颯太です。

 この度は私の為に力を貸していただけるそうで、大変ありがたく思っております。

 それでは、まず、1人ずつ自己紹介をお願いできますか?」


 俺がそう告げると、まず、部屋の奥から1人の女性が立ち上がった、ここにきて直ぐのはずなのに、その女性はドレスを着ていた。



 ドレスの女性は、俺と同じ位か少し上の年齢の綺麗なお姉さんだ。

 細身の体に豊満な胸を強調するような、体に張り付く感じの黒いドレスを着ている。

 更にそのドレスは、胸の所は大きく開いており、裾も大きな切れ込みが入っていて、歩くたびに太ももまで見え隠れしている。

 その女性が俺の前まで歩み出て、その綺麗な顔で微笑みながら、軽くお辞儀をする。


「私の姉で、真田秋美です。」

「え!?」


 女性がお辞儀をしたところで、小春ちゃんがそう説明をしてくれる。

 その説明に一瞬固まってしまう。

 それを見て、お姉さんじゃなく、秋美さんが更に笑みを深めながら挨拶してきた。


「初めまして、颯太様。小春の姉の秋美と申します。妹共々、よろしくお願いいたしますわ。」


 そう言って、最後にウインクをする。

 俺は一瞬、邪間事を考えてしまったが、直ぐに、思考を切り替えて質問をする。


「あ、初めまして、いつもお世話になっております。

 秋美さんですか。どうぞ、これからもよろしくお願いします。

 ところで、秋美さんはどのような事が得意ですか?」

「そうですわね。殿方を手玉に取る事でしょうか?」


 え!?えええええっ!


 俺は少し狼狽しそうになった。単に、どの様な仕事をしてもらうかの参考にしようと聞いただけなのに。


「あ、いえ、その、どのような仕事が得意なのかなと、思いまして。」

「あら、そうですの? そうですわね。わたくし、これまでほとんど舞踏会や晩さん会に参加ばかりしておりまして、これまでこれといってお仕事をした事が無いのですのよ。

 前の夫からも、浪費ばかりすると言われておりまして、何かお役に立てればいいのですけれど。」


 そんな事を、左手を右手の肘に沿えて、右手の人差し指を口元にあてて、軽く首を傾げながらおっしゃる秋美さん。

 腕で胸を軽く押させて、それとなく胸を強調するあたり、さすがは「特技、殿方を手玉に取る事」だ。

 まさにお嬢様的な仕草だ。まあ、貴族令嬢なのは間違いないのだが。


「そ、そうですか。解りました。お仕事の内容につきましては、後程連絡いたします。」

「あら、そうですの。解りましたわ。よろしくお願いいたしますわ。」


 秋美さんはそう言うと、一礼して、お尻を軽く左右に揺らしながら、元の席に帰って行った。


「小春さん、お姉さん、私の所なんかに来て良いのですか?」

「そうですよね。やっぱり颯太様も、お胸は大きい方が良いですよね。」


 秋美さんの後姿を見ながら、小春ちゃんに小声で問いかけると、なぜか小春ちゃんは予想と違う答えを返して来た。

 自分のまだ膨らみかけの胸を両手でおさえながら……


「え、いや、そうではなくてですね。お姉さん、旦那様がおられるのでしょう?私の所で働いてもらって良いのですか?」

「え、あ、す、すいません。えっとですね。秋美お姉様は、その、前の旦那様に里帰りを言い渡されまして。」


 自分の発言が恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしながら小春ちゃんがそう答えてくれた。

 そう言えば、自己紹介も「真田秋美」だったな。前の夫とか言っていたし。


「そうなんだ。理由はやっぱり、その、浪費のせい?」

「いいえ、なんでも、舞踏会で周りの男性を誘惑したとかなんとか、そのせいらしいです。」


 なるほど、確かに、今の仕草が地なら、勘違いする男は多そうだ。危ない危ない。俺もその1人になるところだった。

 でも、お姉さんは社交界に強そうだし、貴族令嬢だ。俺の皇都での代理人としてはうってつけなのではないだろうか。

 少し経費は掛かりそうだが、舞踏会とかに参加してもらって情報収集や、俺に近づきたい貴族の相手をしてもらうのはいい考えかも知れない。



 秋美さんの次に立ち上がったのは、剣を腰に差したイケメンの男性だ。

 歳は俺と同じ位か。いや、すこし下かな?

 服装も高級そうで、剣の鞘も銀色に輝いている。

 男性が俺の前まで来ると、また、小春さんが紹介してくれる。


「兄の大地です。」

「どうも初めまして。小春の兄の真田大地っす。よろしく。」


……。

 どうやら今度はお兄さんの様だ。


 確かにイケメンがしたら形になるが、初対面の相手に2本指を揃えて敬礼の格好をするのはどうなんだろう。調子のりなんだろうか。


「えっと、大地さんですか。大地さんの特技は何ですか?」

「俺の特技かい?そりゃぁ、もちろん、この剣さ。」


 そう言って剣を抜いた。

 室内で。

 俺の目の前で……


 大地さんはそのまま輝く剣をしばらく見つめて、そしてまた鞘にしまった。


「えっと、剣の腕はどれくらいですか?」

「今この街で一番強いのは、まちがいなくこの俺だね。」


 え!?

 まさか。

 今の動きを見ただけだけど、修二郎さんよりも動きにキレがなかったような。


「えっと、そうですね。では、とりあえず、そこの私の副官に稽古をつけてやってくれますか?」

「ほう、そこの御嬢さんが颯太殿の副官かい。いいだろう。見てあげよう。

 どうかな、これからとりあえず実力を見せてもらうために、少し試合しないかい?」


 大地さんはそう尚蓮につげた。尚蓮は眉間にしわを寄せて嫌そうだ。


「尚蓮。今から少し大地さんに強さを見てもらってきてくれないか。」

「尚蓮ちゃんと言うのか。大丈夫だよ。やさしく教えてあげるから。」


 その後、尚蓮は大地さんを連れて、裏庭で試合をしてきた。

 もちろん、木刀での練習試合だ。

 そして、尚蓮は大地さんをボコボコにして、直ぐに帰って来た。

 尚蓮曰く、大地さんの実力は、中隊長の下の方くらいのレベルらしい。

 国内の盗賊や犯罪者程度なら遅れは取らないが、戦場では使い物にならないだろうとの事だった。


 やっぱり、こちらも貴族の坊ちゃまだったみたいだ。

 性格もあれだし、仕事は秋美さんの護衛とでもしときますか。

 貴族なら、皇都での生活は心配なさそうだしな。



長くなり過ぎたので、いったん切らせていただきます。

続きもう少し、お待ちを

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