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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
42/46

早く誰か代役を

「でかいな。」


 俺は皇都にある北条侯爵の別邸を前に、ついつぶやいてしまった。

 北条侯爵の別邸は、皇都でも皇城に近い一等地にあった。

 今日は、軍馬のお礼を言いに訪問をしたのであるが、その大きさについ門前で足を止めてしまったのだ。


 赤穂将軍の別邸も大きかったが、こちらはその2倍はありそうである。

 なんだか、鉱山を多数抱えている北条侯爵の経済力を見せつけられたようだ。やはり、同じ侯爵と言っても、鉱山街と西方の街とではこうも違うのか。


「五十嵐男爵将軍ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」


 馬車を降りて、門の前でつい見上げていると、中から慌てた様子で出て来た執事さんに気を遣わせてしまった。

 俺達は執事さんに先導されて、良く手入れの行き届いた庭を進む。今日の供もいつも通り、桜香と尚蓮だ。

 馬車で直接玄関まで乗り付けなかったのは、この庭の為である。

 すこし見学したくなるようなすばらしいバラ園だったのだ。もちろん、桜香に見せてあげたくなるくらい。

 こっちの世界では、と言うか、皇国では、庭と言えば日本庭園が基本であるが、北条侯爵の別邸の庭はバラ園だったのだ。

 バラは赤いのではなく、少し黄色がかった白の物が主流の様で、一番多い。もちろん赤いバラもあるが、かなり少数派である。

 驚いたのは、これも少しだが、青いバラもあった事だ。

 前の世界では、四苦八苦して不可能とまで言われたバラが普通に咲いているのには少し衝撃を受ける。


 バラ園を抜けて白亜の城という感じの別邸に到着する。

 皇都でも洋風の建物は珍しいが、北条侯爵の別邸位はこの大きさの為かなり目立つ。

 純和風の皇城の側に有るだけに、初めの頃の違和感は半端なかったのを覚えている。

 真田男爵の邸宅もそうだったが、鉱山を領地に持つ貴族は洋風な感じが好きなのだろうか。


 北条侯爵の別邸は、中もとんでもなかった。

 もちろん中も洋風で、通路には絵画や壺が飾ってあり、赤いじゅうたんまで敷き詰められていた。

 ただし、絵画が和風なので少し違和感ありだ。

 さすがに、油絵とかはそろえられなかったのだろうか。壺があるからこれは侯爵の趣味のせいかもしれないが。

 そんな衝撃を受けつつ、通された応接室も豪華だった。

 天井にはシャンデリアが輝いており、調度品もいたるところに黄金を使用したもので、つやつやの革張りソファーと、目が痛くなりそうなくらいピカピカだ。

 お尻がすべて沈み込むようなソファーに、座ると直ぐに、北条侯爵が入って来た。もちろん、立って出迎える。


 北条将軍は、ガッチリとした体つきに、鼻下に左右に分けた髭をはやした30代後半と思われる容姿だった。

 鉱山に相応しい体格だが、どうやって整えているのか、ほほの半ばまで水平に伸びている髭に、つい目がいってしまう。


「北条侯爵、この度はこの素晴らしい邸宅に訪問させていただき、ありがとうございます。」

「いやいや、私も今や皇国の英雄たる五十嵐将軍に、会う事が出来て光栄ですよ。どうぞ、お楽に。」


 そう言って頭を下げると、侯爵も、手を振りながら答えて座るように勧められた。

 再び柔らかすぎるソファーに座ると、メイドさんが紅茶を入れたティーカップを机の上に並べてくれる。

 ソファーの後ろに立っていた尚蓮の分もあるようで、礼を言う声が聞こえた。

 まず、紅茶を1口飲んでからと思い、口を付けると、もの凄く美味しかった。前の世界の紅茶なんか目じゃない。まあ、安いティーパックのお茶しか飲んだことないけど。

 俺が驚いていると、その表情を見た侯爵が話しかけて来た。


「どうやら気に入ってくれたみたいですな。」


 俺と同様に、ティーカップに口を付けていた侯爵も、カップを置いて紅茶の説明をしてくれる。


「この紅茶は、私の領地でもかなり高い山の上で育てた茶葉を使っていてね。

 その辺の紅茶には絶対に負けない自信があるのだよ。

 ただ緑茶で出すと、やれ何処どこのが良いだの、あのお茶はどうだの言いだす貴族が多くてな。

 それでほとんど紅茶にしているのだが、紅茶の味を理解してくれる者が意外に少なくてあまり知られていないのだが、将軍はさすがだ。

 この紅茶の素晴らしさに、たった1口で気付くなんて。」

「いえいえ、恐縮です。今までたいした物を飲んでいなかっただけですから。」


 そう、その通りである。高級紅茶などこれまで縁がなかったのだ。


「よかったら、少しだが持って帰りたまえ、用意させよう。」


 そう言って侯爵は執事さんに何か言っている。執事さんは了解すると直ぐに部屋を出て行った。


「そんな、本日は、先日頂いた軍馬のお礼の為にお伺いしたのに、紅茶までいただくなんて、本末転倒です。」

「そんな事はない、あの軍馬は将軍への戦勝祝いだ。皇国の侯爵として当然の事だから、気になさらぬように。

 将軍の活躍で皇国は救われ、さらなる発展が見込まれるのだから。」

「ですが、やはり、軍馬を頂いた事には感謝の意を表すのが当然かと。

 ですので、遅くなりましたが、改めまして、お礼申し上げます。

ありがとうございました。」


 そう言って、俺は頭を下げる。


「将軍は礼儀正しいのだね。そういえば、戦場でも敵兵をも助けるとか。さすがは稀代の英雄であらせられる。」

「そう持ち上げられても、困るのですが。」

「これは失敬。では、話題を変えますか。

 聞く所によると、将軍の騎士団はまだ騎馬隊がないそうですな。

 今回の軍馬はその足しにと贈らせていただいたのだが、これで騎馬隊は設立できそうかな?」

「北条侯爵は、本当に色々私の騎士団の事を見ていてくれているようでありがたく思います。

 騎馬隊の件ですが、残念ながら今回頂いた分を含めましても、編成は難しいと思います。

 その、言いにくいのですが、まだまだ馬の数不足でして。」

「ほう、50騎でもまだ少なかったか、では、後どれ位あれば編成する予定ですかな。」

「最低でも、300騎は揃えないと編成は難しいと思っています。」

「300ですか。300位なら将軍はお持ちではないのか。」

「すべての軍馬を集めればそれくらいにはなるかと思いますが、そうすると伝令や荷駄に使う馬がなくなってしまいます。」

「伝令や荷駄に使う馬の方が大切なのか? 騎馬隊を作れば攻撃力は格段に上がると思うのだが。」

「はい、確かに、騎馬隊を揃えられれば戦場では有利になるかもしれません。

 しかし、その戦場にたどり着くまでで著しく不利になるでしょう。

 騎馬隊は編成できませんが、そういった意味で、頂いた軍馬50騎は貴重です。たいへんありがたく思っております。

 騎馬隊については、今後、余裕が出来れば軍馬を購入させていただいて、作らせていただきます。」

「うむ、では、その時は格安でお譲りしよう。

 ところで、将軍の新たに納める重京なる街はかなりの人数がいるそうではないか。」

「北条侯爵は良くご存知ですね。そうです、まだはっきりとしておりませんが、4万程の人々が住んでいると思われます。」

「それは大した数だ。その人数の街を抱えていて、まだ資金不足なのですかな。」

「残念ながら。重京の街はまだこれと言った産業がありませんので。今は街から上がる収入よりも、経費の方が多くかかっている状態なのです。」

「そうなのか、まあ、湿地帯なら致し方ないか。まあ、将軍の事だから、きっととんでもない所から金を作り出すのだろうな。期待しているぞ。」


 そう言って締めくくられた。顔からは読み取れないが、言葉の節々が、無理そうだと語っている。


「ご期待に沿えるように、重京の、ひいては皇国の発展に努力して行く所存です。

北条侯爵から、軍馬や紅茶を大量に買えるように頑張ります。」

「ははは、そう言ってもらえると、うれしいよ。では、ご活躍期待しています。」


 これで会談は終わったようだ。このままお暇しようとすると、突然、

侯爵がとんでもない事を言い出した。


「ところで、将軍。昼食の用意をさせているのだが、一緒にどうかな?」

「お心づかい感謝いたします。しかし、軍馬に紅茶も頂いて、その上昼食までとは、そんなに頂いたばかりででは。」

「良いではないか。別に私は気にせんよ。それに料理はもう用意させておるのでな。辞退される方が困るのだよ。

 なに、ちょっとした自慢もあるのでな、ぜひご賞味いただきたいのだよ。

 もちろん、御嬢さん方のもあるので、心配は無用だ。」


 こうして、半ば強引に昼食まで頂くことになった。



 昼食は大きな食堂に用意されていた。それこそ、1度に10人以上の人間が並んで食事できるような長い机に、俺達3人は案内された。

 片側の真ん中に俺達3人が、対面に侯爵夫妻が座られた。

 そして驚いたことに、俺達の前にはそれぞれ、大きめの皿を中心に両脇にナイフとフォーク、スプーンがいくつも並んでいた。


「将軍もご存じの通り、帝国が建国されて以来、わが国には多数の移民が北方より移り住むようになった。

 中でも多いのがエルフやドワーフと言った亜人たちだ。

 私は、いや、正確に言うなら、私の祖父の代から、私たちは彼らを積極的に保護して来た。

 特にドワーフ達は、我々が必要とする鉱山の知識を多数持っていたので、我が領地では大変重宝した者だ。

 そんな彼らがもたらしたのは、何も技術だけではない。北方の文化ももたらしたのだ。

 今日はその内の1つである、北方料理を振る舞おうと思う。存分に堪能してくれ。」


 そう、侯爵は前置きして空のグラスを持ち上げる。

 すると、直ぐに側で待機していたメイドさんが、侯爵のグラスにワインの様なお酒を注いだ。

 侯爵夫人もグラスを持ち上げていたので、俺も慌ててグラスを持ち上げる。

 すると、直ぐに俺のグラスにもお酒が注がれた。

皆のグラスにお酒が注がれると、乾杯になるようだ。侯爵が音頭をとる。


「では、将軍の御武運を祝して。」


 これで乾杯になると思ったが、侯爵が動かなかったので、俺も慌てて口を開く。


「侯爵の今後ますますのご健勝を祈って」


 なんか、自分でも何を言っているのか分からなかったが、これで正解のようで、侯爵はようやくグラスに口を付けた。

 俺も同様に口を付けると、昼食会が始まったのか、料理が運ばれてきた。

 グラスに注がれたお酒は、見た目はワインだが、梅の香りがする。

 梅酒に近いのだろうか。たしかに、苦味より甘み強い。食前酒の様だ。

 出された料理を順番に食べて行く。

 北方料理と言うが、見た感じそのまんま西洋料理だった。なので、フォークやナイフ、スプーンも外から順に使っていく。

 使った物を揃えて皿に置くと、皿ごと持っていかれた。

 侯爵夫妻も同じことをしていたので、これも正解だろう。

 尚蓮は、帝国で過ごしていた時にでも覚えたのか、俺よりも違和感なく食べていた。

 桜香は、俺や侯爵夫妻の真似をしているみたいで、一番食べるのが遅い。

 しかし、西洋料理と違うのは誰1人として、話をしない所だ。

 侯爵がやっと話しかけて来たのは、デザートに入ってからだった。


「将軍は皇国の小さな村出身と伺ったが、北方料理の食し方を身に付けられているとは、感心致しました。

 乾杯の時は、緊張なさっていたようだが。将軍のほーくとないふの使い方は素晴らしかった。

 貴族でも、ほーくの使い方が解らず、箸を要求する者がいるのだがね。」

「ありがとうございます。訳あって、小さいころから使っておりましたゆえ。」

「そうか、小さいころからとは、将軍の御父上は先見の明がおありですな。」


 いや、親父がどうとかじゃなくて、日本では当たり前だったんだけどね。


「では、北方料理も自慢しようとしたが、将軍は食べなれておったのかな?」

「いえいえ、とんでもありません。こんな素晴らしい料理、初めて食べました。本当においしかったです。」

「そうか、それは良かった。コックたちも喜ぶだろう。」


 その後しばらく雑談して、ようやく俺達は解放されることになった。

 北条侯爵に玄関まで見送られて、紅茶の缶を侯爵自らから手渡されて、白亜の城の様な別邸を後にしたのだ。

 ただ、話をして、昼食をご馳走になっただけなのに、戦場で一戦交えた位疲れているのは何故だろう。

 早く代役を見つけたいものだ。せめて、助言役が欲しい。


 それにしても、北条侯爵。俺の事をだいぶ調べたみたいだ。

 どうやって調べたのか不思議だが、なんか、心の中まで見られてみたいで嫌だ。

 これが上位の貴族、侯爵といったものなのだろうか。しかし、赤穂将軍とは全く違う印象だ。

 加賀将軍以上に厄介な存在になりそうで怖い。出来るだけ、友好関係を維持しておくべきだろう。敵になったら何をされるか。

 それに、情報の重要性にも気付いているみたいだし。油断できない。

 これだから、貴族の社交界とか嫌なんだ。まあ、前の世界でも、政治とはこういった裏の駆け引きが重要みたいなところがあったそうだが。まったく。

 明後日の伊勢侯爵との会談が今から億劫だ。

 胃が痛くならなければいいが……




 北条侯爵との会談で、皇都での予定がすべて終わったので、次の日にはランドマークに向けて出発した。

 街道の関係で、当初の予定を変更し、ランドマークに向かうのは、俺と桜香と尚蓮の3人だけだ。いや、御者として四朗さんがいるから、4人か。

 会談が終わって皇都に戻ってからは、別邸の管理者の小次郎、梅夫妻を除く、四朗さんとその家族、奴隷娘3人、それに尚蓮の全員で重京に移動する予定だ。

 因みに、北条侯爵に頂いた軍馬は、侍に頼んで一足先に重京に向かって出発させた。


 ランドマークに着くと手ごろな宿に部屋をとる。四朗さんが固辞したので、俺と四朗さんは1人部屋。桜香と尚蓮が2人部屋となった。

 尚蓮が「桜香ちゃんと一緒じゃなくていいんですかぁ?」とニヤニヤしながら聞いてきたので、軽くデコピンを食らわしておいた。最近の尚蓮はいやになれなれしくなって困る。

 そんなこんなで1夜をすごし、次の朝、伊勢侯爵の邸宅に出向いた。


 伊勢侯爵の邸宅は、まさに、純和風な感じの大邸宅だった。

 皇都の別宅とはかなり趣が違ってビックリする。

 皇都の別宅は、高級ホテル的な感じの洋風だった。皇都では、洋風が流行っているのだろうか。

 それとも、こちらの邸宅は先祖代々受け継いできたからだろうか、とにかく、凄い邸宅なのは間違いない。

 高さはないが、平屋の大きな本邸といくつかの別邸。そして、それらは渡り廊下で結んであり、周囲は綺麗な日本庭園が広がる。

 特に、入って右側にある大きな池は、多数の錦鯉らしき魚が泳いでおり、ひょうたん型のその池のくびれた部分を渡り廊下が走っているという、さながら平安時代の宮中を思わせる感じだ。

 舟を浮かべて、俳句大会でもしていそうだ。

 そんな庭園を抜けて本邸の玄関に案内される。もちろん、案内してくれる執事さんも着物姿だ。

 そして、靴を脱いで木の廊下を進み、大きな部屋に通された。もちろん、畳の部屋で、豪華な座布団が重厚な木の机の前に置いてあった。

 案内されるままに着座する。俺の右斜め後ろに、少し上品な座布団が敷かれており、そこに桜香が、入り口付近の座布団に尚蓮がそれぞれ座った。

 直ぐに、こちらも着物姿の女性がお茶を出してくれる。抹茶でなく煎茶で良かった。

 抹茶なんか出されても、作法が解らん。煎茶にも作法があるそうだが、そこは大目に見て貰おう。

 今回も、桜香と尚蓮にもお茶を出してくれる辺り、だいぶ俺の奴隷や部下に対する扱い方が、皇国に広まっているみたいだ。

 以前なら、奴隷や御付に茶は不要とか言われていそうだし。

 そんなことを、思いながらお茶を少しすすっていると、伊勢将軍が部屋に入って来た。


「今日は遠い所をわざわざ来てもらってすまないね。」

「いえ、こちらに来て見ておきたいものがありましたので。」

「それは、エルフたちの事かね?」

「ええ、まあ、彼らのその後が気になってはいます。」

「安心したまえ、私は君と事を構える気なんて毛頭ない。むしろ、君を敵にしない為に努力している位だ。君の好みは解っているよ。

 エルフたちは丁重に扱っている。畑の中に集落を造ってそこで暮らして貰っている。

 良く働いてくれて、畑は見違えるようになっている。

 なんでも、種まきの前に花を植えると収穫量が増えるとかで、今は一面紫の花で覆われているよ。

 今年の収穫が楽しみだ。」

「そうですか、良くして頂いて、感謝します。」

「気にするな、そういう条件だったからな。

 ところで、お礼の兵糧だが、重京に贈っておいた。公徳なる者から届いたという礼の手紙が来ておるので、帰ったら確認をしておいてくれ。」

「何から何までありがとうございます。」

「さっきも言ったように、君と敵対したくないからな。

 それから、エルフたちに聞いたが、重京でも普通に米が採れるそうだな?」

「はい、すでに開墾を始めておりますので、秋にはそれなりの収穫は見込めます。」

「ふむ、では、芋との交換の話はなしだな。残念だが、それなら兵糧もあまり必要なくなりそうだな。」

「それが、人口の割に食料の生産力はあまりなく、今後もしばらくはお世話になりそうです。」

「そうかそうか、それは良かった。では、必要になったら言ってくれ、蓄えも十分にあるし、いつでも売るぞ。」

「ありがとうございます。」

「いやなに、いつでも頼ってくれ。ところで、これからエルフたちに会いに行くかね?」

「はい、そうしたいと思っております。」

「では、案内させよう。」


 そう言って、伊勢侯爵は1人の男性を呼んだ。

 会談はこれで終わりの様で、侯爵とはその場で別れて、男性に案内されて畑の中のエルフの集落へと向かった。

 伊勢侯爵との会談がすんなり終わった事には安堵のため息が出る。

 前回みたいに色々と吹っかけられるかと思ったが、結果だけ見れば、北条侯爵の会談よりも楽だった。

 俺と敵対したくないという事を強調していたが、はて、何かあったのだろうか。

 まあ、それは、考えても仕方ないだろう。敵になりたくないと言うのであれば、放っておいても、俺に損はなさそうであろう。むしろ、俺にとってはありがたい。



 エルフの集落は、伊勢侯爵が言った通り、畑の真ん中にひっそりと作られていた。

 豪華な家ではないが、実用的で丈夫そうな家がならんでいる。これなら、彼らの生活も問題なさそうだ。

 周囲の畑も、伊勢侯爵が言った通り、紫の小さな花で埋め尽くされていた。

 集落について、一番大きな建物から、エルフの長老が出迎えてくれた。政庁で話し合った長老の1人で、中心にいた壮齢の長老だ。

 長老の話では、この地の人々も良くしてくれているみたいだ。

 侯爵の加護があるようで、人間たちはあまりこの場所に近づかないみたいだが、街中でも特に嫌な態度を取られる事はないそうだ。

 普通に買い物ができ、襲われる事もない。皇国の人々は素晴らしいと言っていた。

 食料もきちんと貰えてるみたいで、挨拶に来た他のエルフたちの顔色も良い。

 伊勢侯爵の丁重に扱っているという言葉に、嘘は無いようだった。

 長老に何か問題はないかと尋ねたが、特にないみたいで、逆に大変感謝された。

 俺も、伊勢侯爵から兵糧をもらえた旨を報告し、重京の同胞たちも元気で大変役に立ってもらっていると伝えた。

 最後に、この地で今後も元気に過ごしてくださいと言って、集落を後にした。

 エルフたちも、俺の武運を祈ってくれて、まだ帝国に居る同胞たちの事をよろしくと頼まれた。

 すこし心配だったエルフたちだが、今の所問題が無いようで良かった。

 何かあれば直ぐに知らせるように言っておいたが、この分だと問題ないだろう。

 しかし、そうすると不安になるのが伊勢侯爵の考えだ。

 何を考えているのか、会談直後は心配ないと思ったが、こうまでエルフを好待遇するとは、何か裏があるのではと考えてしまう。

 でも、政治駆け引きに不得手な俺が考えても結論などでないだろう。

 まあ、なるようになると、気持ちを切り替えて皇都に戻った。思ったよりも会談が早く終わったので、今日中には皇都に帰れる。

 そして、明日には重京に向けて出発だ。


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