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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
41/46

資金集めは計画的に

 今日は前々から予定していた会合の日である。俺は帝都にある駐屯地の会議室で参加者達を待っていた。

 この駐屯地は、初めて晴嵐騎士団が結成された時に訓練に使っていた場所で、未だに俺の管轄下にある。

 2ヶ月間、まったく使用していなかったので、ほとんど廃墟の様になっていたが、この会議室と隣の給湯室だけ百合花と小梅に掃除してもらった。

 今日の会議に参加するのは、皇都の大店の4商会である。


 前回、戦利品競売会で最も売り上げに貢献して、重京侵攻作戦の必要物資を購入した『三島屋』。

 伊勢将軍贔屓の『備前屋』。

 後は『長門屋』と『浜屋』である。

 皇国における各商会の勢力は、大きい順から『長門屋』『備前屋』『三島屋』『浜屋』の順みたいだ。


 今回も全商会、旦那自らが来るそうだ。皆商人なだけあって、全員が約束の時間よりも早く集まった。



「皆さん。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。」


 俺は全員がソファーに座ったのを確認しそう切り出した。

 大店の旦那たちには、桜香たちが紅茶のティーカップを渡している。


「今や皇国の英雄であられる、五十嵐将軍様にお呼びいただいたのです。来ないわけにはいきませんからな。」

「その通りです。それに、私は前回の競売でかなり儲けさせていただきましたしね。」


 俺の言葉を受けて、初めに長門屋次に備前屋の順番で言葉を返して来た。


「前回は三島屋さんに良い所を持っていかれましたが、今回は私たち浜屋も資金を大量に用意させていただきました。

 前回とは違って、今回は沢山貢献させていただきますよ。」


 と、前回資金不足でほとんど落札できなかった浜屋の旦那は意気込みを語ってくれる。

 そして、最後に三島屋が口を開いた。


「しかし、五十嵐様。今回は、資金は用意するようにとの事でございましたが、支払いは後日で良いと言うのはどう言うことでございましょう。

 今回は前回のような、戦利品の競売会ではないという事でしょうか?」

「さすがは、三島屋さんですね。あの手紙だけで良くそこまでお分かりで。」

「では、本日は戦利品の競売ではないという事ですね。」

「え、そうなのですか将軍様?」


 三島屋の推測に、備前屋が動揺して声を返す。


「その通りです。実は重京の要塞と街を占領した時、多くの帝国人には逃げられてしまいまして、それほど多くの戦利品は獲られなかったのですよ。」


 これは、半分本当で、半分は方便だ。

 要塞にはほとんど財宝はなかったが、政庁をはじめ、街中には結構な量の戦利品があった。

 その中で、目ぼしい物数点は国王様と赤穂将軍に贈り、金になりそうな物は伊勢将軍と食料を交換して欲しいと、エルフたちに持たしてしまったのだ。

 結果、競売するほどの戦利品は手元に残っていない。


「では、本日は重京の街の開発に投資するように、といった要件でしょうか?」

「さすがは三島屋さんですね。重京の発展のために資金を集めるために、皆さんに集まって貰ったのは事実です。」

「え、では、男爵将軍様。今回は何も売ってはいただけないと……」


 その話を聞いて、一人浜屋だけはがっくりと肩を落としている。


「いえ、今回皆様に集まっていただいたのは、これを買っていただく為です。」


 そう言って俺は、皆の前に大きな紙を広げた。この紙は重京の開発計画が書かれた地図であり、その中心部の拡大図だ。


挿絵(By みてみん)


 地図の中心には、大きな広場が描かれている。重京の街は俺が城壁を拡大した結果、中心部は旧城壁の北城門すぐ北側に位置する事になった。

 この中心部に大きな中央広場を整備する予定だ。

 そして、この広場を中心に東西南北に大通りを配置し、それぞれが東西南北の城門まで伸びる。

 広場の北西側は、政庁建設予定地であり、南西側には領主館、つまり、俺の屋敷を建設する予定だ。

 現在は、南北の中央大通りだけが整備出来ている状況である。

 そして、その中央大通りの東側には幹道が走っている。


 この幹道も整備が終わっており、現在は新城門から重京を南北に貫いて、ドワーフ達の鉱山村までつながっており、途中で分かれた枝道は石切り場につながっている。

 現在は、途中分岐した部分がカーラシア村まで延伸工事中だ。それも、間もなく終わるとの報告を受けている。


 その幹道と新たに整備予定である、中央広場から東西に伸びる東西大通りとの交差点にも、広い広場が描かれている。

 この広場には、「(仮)中央荷物積降場」と書かれており、その名の通り、幹道を通って運ばれた荷物を、小分けにして街中に運ぶための物資集積場の様に使われる広場だ。

 そして、注目すべきは、この(仮)中央荷物積降場と中央広場の間に一~四の漢数字が書かれた四角い枠がある事である。大きさは一と二が同じで、それより少し小さい三と四がある。


 一は東西大通りの北側にあり、中央大通り、東西大通り、幹道とすべてに面している。

 二は一の北側にあり、中央大通りと幹道のみに面している。

 三は東西大通りの南側にあり、中央大通りと東西大通りに面している。

 四は三の東側で東西大通りと幹道に面している。



 この地図と見た一同が一応に、思案顔で固まっている。


「この地図は、新たに整備する重京の新市街地の中心部を描いた物です。

 そして、この数字の書かれた場所、この場所の使用許可を皆さんに買っていただきたい。

 解らない事が多いと思うので、質問をどうぞ。」


 そう言うと、真っ先に長門屋が手を挙げた。


「どうぞ、長門屋さん。」

「はい、五十嵐将軍様。この『(仮)中央荷物積降所』とはどのような場所でしょうか?」

「(仮)中央荷物積降所とは、馬車から荷物を降ろす場所です。

 重京の街は基本、馬車による大通りの通行は禁止しています。

 馬車はこの重京を南北に貫く幹道のみ通行できるのです。逆に、幹道は馬車以外は通行できないのですが。

 つまり、この中央荷物乗降所とは、馬車の荷物を荷車や人足に積み替える場所と思っていただいて結構です。」


 そう説明すると、浜屋がさらに質問して来た。


「だ、男爵将軍様。では、この(仮)中央荷物積降所に面していない『三』の場所だと、荷物をわざわざ積み替えて運ばないといけないと言う事ですか?」

「ええ、その通りです。」


 その答えに、一同さらに思案顔になる。


「『一』の大きさどれ位ですか?」


 と浜屋の質問。


「そうですね。皇都にある長門屋さんの大店よりも少し大きい位です。」

「長門屋さんのお店よりも大きいのですか!」


 と浜屋は驚いている様だ。大きさだけなら、今の浜屋の大店の倍くらいの大きさだ。


「将軍様。では、数字の書かれている四角の大きさがバラバラなのは、どういった理由があるのでしょうか。」


 今度は備前屋がそう質問する。


「もちろん。条件を変える事によって、使用料を吊り上げる為ですよ。」


 ここは素直に本当の理由を答えておくと、引き続き備前屋が質問してきた。


「とおっしゃりますと、今回も競売ですか?」

「その通りです。

 まず初めに『一』を競売します。

 そして最終的に、その競売で付けた値段が高い順に、他の土地を選べるようにします。もちろん、値段はその時付けた金額でですが。


 解りやすく礼を挙げると、『一』の土地の競売で、最終的な落札価格が金貨1万枚だったとします。

 そして、競り負けた方は9000枚。その他は途中5000枚と3000枚で脱落したとします。

 すると、もちろん、『一』の土地は1万枚の値段を付けた商会の物です。

 そして次に、9000枚の値を付けた商会が、9000枚の値で他の3つの内の1つを選ぶことが出来るのです。

 もちろん、次に選べるのは5000枚の値を付けた商会で、残りの土地は、3000枚で最初に脱落した商会の物となります。

 お分かり頂きたでしょうか。」


 再び、静かになる一同。

 しばらくして、備前屋が再び質問をしてきた。


「失礼ですが、将軍様。その土地の使用権を買うとどのような特典があるのでしょうか?」

「良い質問ですね。

 まず1つは、その立地条件でしょう。人口4万人の重京の街の中心部。それももっとも栄えるだろう、中央広場と中央大通りに面したその立地条件はかなりの物でしょう。

 また、馬車から直接積み荷の積み降ろしが出来ると言うのも、有利な点です。

 後は、この土地を使用している商会は、私と直接取引が出来ます。すでに私が認定した重京に元々ある商会は除きますが、それ以外の商会とは、今後私は取引しない予定です。」

「その将軍様が認定する商会が、今後増える可能性は?」

「ありません。」


 備前屋の追加の質問にきっぱりと答える。

 更に思案顔を深めて眉間にしわを寄せる一同。

 かなり色々と考えている様である。

 長門屋は御付の人間と何やら相談もしている。



 しばらくたって、もう質問が出ない様なので、先に進める事にした。


「では、皆さん。もう質問は無い様ですので、競売に移らせていただきたいと思いますが、よろしいですか?」


 その問いに、皆静かにうなずく。


「では、最低落札価格、金貨1000枚から始めます。お願いします。」


 そう宣言すると、直ぐに価格がつり上がって行った。

 しかし、驚いた事に、初めに備前屋が金貨2000枚を過ぎた所で脱落した。資金的なものではなく、故意に落札を止めたみたいだ。

 次が浜屋、5000枚まで粘ったが、こちらは資金不足の様だ。

 最後は、長門屋と三島屋がデットヒートの末、8800枚で三島屋が『一』の場所を勝ち取った。長門屋は8500枚止まりだった。

 最後に一気に300枚も上げた三島屋の意気込みに諦めた感じだ。

 その後、それぞれの土地は、順番に指名されていった。

 浜屋は、三か四かで迷っていたが、俺の四の方が良いという提案をそのまま受け入れた感じである。

 備前屋がわずか2150枚しか出さなかったのが意外だが、それでも合計で金貨24430枚も集める事が出来た。

 元手が完全なタダであるだけに、これほど集まってホクホクだ。


 因みに、浜屋は4980枚。落札した場所は、『一』が三島屋、『二』が長門屋、『三』が備前屋、『四』が浜屋である。



 後に、この競売の結果は各商会の皇国における勢力に、大きな影響を及ぼす事になるほどの重大な物であるという事は、たぶん、俺以外は気付いていないだろう。

 しかし、この結果は、確実に三島屋を大きく発展させる事だろう。もっとも、三島屋の今後の頑張り如何に依る所が大きいが。



 その後、大店の旦那たちはそれぞれ帰って行った。

 金貨は後程、この土地に店を建設する時に、政庁に払いに来るように言っておいた。

 気の早い三島屋は、直ぐにでも店の建設に取り掛かるそうだ。

 今頃は、城壁の整備も目処がついて、計画通り政庁の建設も始まっているだろう。

 それに、幹道の再整備もそろそろ終了する頃である。

 俺が重京に戻る頃にはカーラシア村までの再整備が終了しているかもしれない。そうなれば、物資の大量輸送ができる様になる。

 カーラシア村から先、俺の領地に入る馬車には少なくない制限が掛かる事になり、今集まった大店の旦那たちも驚くことになるだろう。

 そんな事を考えながら、大店の旦那たちを見送った。

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