表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
35/46

只今領地運営奮闘中。その1

 俺は政庁の地下の牢屋に来ていた。

 占領当初はにぎわっていた牢屋だが、今は閑散としている。収容されていた人達のほとんどを俺が解放したからだ。

 今ここには、殺人犯や極度の人種差別者くらいしかいない。

 そんな閑散とした牢屋の内の1部屋。昔は沢山の人々が入れられていたであろうその大きな牢屋で俺は静かに手を合わせていた。

 目の前には顔に白い布を掛けた兵達が16人、静かに横たわっている。

 昨日の戦闘での戦死者たちだ。

 彼らの数が多いのか少ないのか。今の俺には判断できない。

 敵がかなりの手練れだったために、首を切断され戦死した者が多く出たのだ。

 それでも、死者の数は普通よりかは少ないのだろう。しかし、俺が出した初めての戦死者たちだ。

 彼らは何を思って死んでいったのか。何の為に死んでいったのか。そんなことを考えざるを得ない。

 既にこの場でどれ位そんなことを考えながら手を合わせているだろうか。


 後ろで扉の開く音と人の入ってくる気配がした。


「将軍、そんなに気を落とさないでください。彼らも覚悟の上です。

 きっと彼らは名誉に思っているはずです。将軍の元で戦闘に参加し散ったのですから。」


 楓さんの声だ。どうやら俺がかなりの時間ここに居るのを心配してくれたようだ。


「違うんですよ、楓さん。死とはだいぶ前に向き合ってきました。」


 そう、愛国心を考えた時に。自問していて、答えは既に出ていたのだ。

 『彼らは、自分の知っている人々を守る為に死んでいった。』俺はそう思っている。俺自身がそう思っているように。

 現に、この地で俺の騎士団が敗北すると、次はゼノンだ。俺が来る前に帝国が皇国に攻めて来ていたように。

 そしていずれは皇国全土が河南国の様になるかもしれない。河南国の状況はこの重京を見れば一目でわかる。

 彼らもそれを知っていた。だから俺の元で帝国兵と戦い、そして散って行った。

 彼らは守ったのだ。自分の家族を、自分の知り合いを。

 俺はそう思っている。

 では、なぜ俺はこの場に居るのか?


「彼らはきっと自分の大切な物を守るために散って行った。だから俺はそれを彼らから引き継がなくてはならない。そう思うのです。

 ですが……。そう、頭では分かっていても、心はそうではない。人間とはそういうものだと思っていました。

 しかし……。

 悲しくないのですよ。少しも。

 自分の為に死んでいった。自分を守るために死んでいった様なものだ。

 そんな部下たちの死を、私は悲しむ事ができないのです。

 私はおかしいですね。人間失格です。

 他人の、いえ、自分の部下の死さえ悲しめないなんて。

 私は悪魔みたいだ。」


 そう、私が悩んでいた理由はそこである。

 今の私は、ゲームか何かで死が単なる数字の様にとらえてしまっているのだ。

 自分の人間性。そこに私は疑問を持ってしまっているのだ。


「将軍は御強いのですね。」


 楓さんがポツリと漏らす様に答えてくれた。


「強い?」


 意外な言葉に聞き返す。


「ええ、お強いですわ。

 そういうことに疑問を持つ時点で、将軍は人の優しさを理解されていると思います。

 理解されたうえで、そのさらに向こう側を考えていらっしゃる。たぶん無意識で。

 彼らは別に悲しんで欲しい訳じゃない。悲しんでいる暇があるならきっと、彼らがしたかったことを、将軍に成し遂げて欲しい。そう思っているはず。

 ならば、悲しみという感情は今は必要ない。

 今必要なのは、冷静に判断すること。今しなければいけない事を出来る状態でいること。

 そう将軍の心は考えられて、悲しみを抑えているのですわ、きっと。

 ですから、別に将軍の心が悪魔みたいなのではないですわ。

 将軍は人の心を持っておいでです。それは皆が知っている事です。

 そして、その上で、大変お強い将軍の心は、悲しみを抑制しているのですわ。」


 楓さんは言い終わると、まっすぐにこちらを見つめてくれる。あたかも、それが正論だと言わんばかりに。


「君がそう思ってくれているなら、私もそう思う事にするよ。」


 楓さんの意見に全面的に賛成した訳ではないが、そう返した。

 今それについて話し合うのはよそう。そして、考える事も。それが今は1番良い気がする。

 そう考えただけだ。つまり、棚上げだが。


「ところで、楓さんはどうしてここへ?何か用事があったのでは。」

「そうでした。エルフの長老たちが将軍に面会に来ています。」




 エルフの長老たちは、会議室で待っていた。

 待っていたのは、男性2人と女性1人の3人だ。3人とも壮齢と聞いていたが、かなり若く見える。これも種族特性なのか。

 俺が席に着くと、真ん中に座っていた男性エルフが口を開いた。


「この度の戦勝、誠におめでとうございます。」

「ありがとうございます。何とか勝つ事が出来ました。」

「それから、これは初めに申さねばならなかったのですが、我々を助けていただいて、我ら一同感謝に耐えません。今一度、お礼申し上げます。」

「別に特に感謝されるようなことはしておりません。我々としては当然の事です。どうか、あまり気になさいませんように。」

「それでも、あなた様は我々にとって人間から救っていただいた、救世主様です。この気持は末代まで伝えていく所存です。」

「救世主ですか。私も人間族なのですがね。ところで、今日はどのようなご用件で?」

「はい、実は我々の今後について、将軍様と一度お話をしておかなければと思いまして。」

「あなた達の今後ですか?私としましては自由になさって何も問題ありませんが。」

「はい、デネマ殿もそうおっしゃっておりました。元気になれば自由にして良いと。

 しかし、私達といたしましては、将軍の意に沿う様な事をしたいと思い伺った所存です。」


 デネマというのは衛生隊第2小隊長の事だ。もちろん、彼はエルフで白魔法が使え、主に治療系の魔法の腕を磨いてもらっている。


「私は先ほども言いましたが、あなた達には自由に行動してもらいたい。特に枷を設けたくないのですよ。あなた達は何かしたい事はないのですか?」


 その俺の問いに、今までは黙っていた女性のエルフが答えた。


「私たちは平穏に暮らせればそれでよいと思っております。」

「それは全員の意見でしょうか?」

「いえ、全員ではありません。一部の者は帝国に一矢報いたいと思っている者もいます。」


 今度は女性と反対側の男性エルフが答えた。


「基本的に、私たちは将軍の役に立ちたいと考えております。ですから、何らかの提案を将軍に聞きに来たのです。

 私たちにどうして欲しいかと。それが私たちのしたい事です。」


 真ん中の男性が最後にそうまとめた。



「そうですか。では、私の提案をお話ししましょう。しかし、これはあくまで提案であって、強制ではありません。

 ですから、従わなくても構いませんし、途中で放棄してくれても全く問題ありません。

 それを理解したうえで聞いてもらえますか?」

「拝聴します。」


 3人のエルフたちは頷きながらそう返した。



「1つ目ですが、私は重京の南側の山岳地帯の中に村を1つ造ろうと思っておりました。

 そこでは各種薬草とココの木を栽培してもらう予定です。

 この村の開拓に従事してもらいたいというのが1つ目です。

 この村はエルフたちだけの隠れ村にしても良いとも考えております。


 2つ目は、皇国の伊勢侯爵領への移住です。

 伊勢侯爵は「エルフたちが自領へ移住してくれたら兵糧を出す」と言われております。

 私は確かに兵糧は欲しいですが、伊勢侯爵の出方が解りません。もしかしたら、あなた方を危険に追いやるかもしれないのです。

 ですから、これについてはあまりお勧めしません。

 もっとも、快適な生活を伊勢侯爵は用意されているかもしれませんが、こればっかりは行ってみないと分からないといったところです。

 もう少し時間と人手があれば確認をしたいのですが。


 最後はこの街に残って貰って、私の元で、正確には衛生隊や第2中隊で共に戦って貰いたいというものです。

 もちろん、これも強要はしませんし、もしそうなればこの街の人達の盾になって帝国と戦わねばならず、その場合は気持ちの整理をしていただかないといけないと思います。


 以上が私の提案です。もちろん、これ以外にしたいことがあれば自由にしてもらっても良いと思っております。

 いかがですか。」


 3人のエルフたちは、しばらく考えているようだったが、初めに質問を返して来たのは女性のエルフだった。



「1つ質問をよろしいでしょうか?」

「もちろん。なんでしょう?」

「山岳地帯に私達の隠れ村を造ってくれるとの事ですが、この街との交流はあるのでしょうか?また、税金等は取るのですか?」

「残念ながら税金は取ります。私があなた達を領民と認定している以上、国に人頭税を支払わなくてはなりません。ですので税はいただく予定です。

 しかし、それは物納を考えております。農民が穀物で納税するのと同様です。

 それから、街との交流ですが、こちらを代表する商人のみの交流としても構いません。

 あなた達は必要な物をこの商人から手に入れ、私はこの商人に薬草やココの実を運ばせます。

 もちろん、人間族はそちらには伺いませんが、あなた達はこの街に自由に来てもらって結構です。

 また、問題を起こさない程度に自治も認めるつもりです。」

「なんですと、自治もお認めになるのですか?」

「ええ、私の不利益になる様な事をしない限り、私は基本あなた達には干渉しないつもりです。」

「救世主様の不利益になるようなこと等しないとはっきりと明言させていただきますわ。」

「では、問題ないでしょう。それでは、あなた達には新しい村を造ってもらうという事でよろしいでしょうか?」

「いや、待ってくれ。」


 今度は女性とは反対側の端に座っている男性エルフが質問をしてきた。



「俺の所には何人か血の気の多い奴がいる。たぶん奴らはあなたの騎士団に入り帝国と戦うと言うだろう。その際は引き受けてくれるか?」

「もちろんです。ですが、全員が攻撃要員を希望するわけですよね。私としては貴重な白魔法使いのエルフの方には衛生隊に入っていただきたいのですが。」

「それは私の所の者を行かそう。」


 今まで黙っていた中央のエルフが答える。


「私の所に何人か、助けてくれた貴殿の騎士達に好意を抱く者がおってな。

 彼女達は戦闘は無理だが、貴殿の騎士達の治療なら喜んでする事だろう。」

「それは助かります。」


「それから、伊勢侯爵領移住の件だがな。私の所の者を何名か派遣しよう。

 初めは様子見の為に、少人数だが、安全が確認されたのならさらに追加で移住させようと思う。」

「よろしいのですか?保証は出来かねますが。」

「構わん。この儂もなのだが、少しでも帝国の支配下から離れたいと思う者がいるのだよ。元々紅河の北に住んでいた者ほど帝国から離れたいのだ。

 たしか、伊勢侯爵領は此処とは皇国の反対側にあったと思うのだが?」

「確かに、伊勢侯爵領はここからかなり離れた場所、皇都よりも遠い位置にあります。」

「うむ、であるなら、そこに移住できれば、皇都が陥落でもしない限り2度と帝国に支配される事はあるまい。

 ならば、儂はそこに行かせていただきたい。何も知らない土地ばかりなら、少しでも我らを必要としてくれている所に移りたいしの。」

「わかりました。私としましては、お願いしたい位ですのでよろしくお願いします。」

「うむ、ではまずは使者を送りたいので一筆お願いする。決まるまではしばらく今の場所に厄介になっていていいのだろう?」

「はい、もちろんかまいません。手紙は今日中に書いて届けさせます。」



「新しく村を造る場所は決めてございますの?」


 今度は女性のエルフだ。どうやら会談は最終の確認段階に入って来たようだ。


「場所は決めておりません。地図をお渡ししますので、気に入った場所に建設してください。また、必要な物があればおっしゃって下さい。ご用意します。」

「ありがとうございます。では、私たちは場所が決まり次第移住いたしますわ。」

「ま、待ってくれ、私の所にも新しい村に移住したい者がいる。私も含めてだが、私達も合流させて欲しい。」


 端の男性エルフが少し慌てて女性エルフに問いかける。


「儂の所もじゃ。もちろん合流させて貰えるよな。」


 中央のエルフも女性エルフに質問した。


「もちろんですわ。人数は多い方が良いに決まっております。しかし、長は厳正にきめていただきますわ。」

「もちろん、異存はない。」

「儂もじゃ。皆を頼みたい。」


 初めに端のエルフ、続いて中央のエルフが答えた。


「では、ご報告を楽しみにしております。騎士団に入団希望の方はデネマに言えば通るようにしておきます。」

「解りました、ありがとうございます。」


 端のエルフが答えて、3人は立ち上がった。


「では、失礼します。我らに道をお教えいただき誠にありがとうございました。

将軍に幸多きことを。」

「「幸多きことを。」」



 最後のフレーズを声を合せて言った後、3人は退室して行った。

初めはどういった会談になるか心配したが、結果は私の一番良い様に終わった。

 結果が良すぎて逆に不安になる位だが、エルフたちには感謝しなければならない。

 今後のエルフたちにも幸多きことを。そう思った後、俺も会議室を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ