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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
33/46

ドワーフ発見。ついでに問題も。

 ようやく城壁の基礎の土壁部分が北側の1辺だけ完成した。毎朝の日課として少しずつ伸ばしていった成果だ。

 石材による補強も城門を中心に4割ほど完成している。

 城門の直上には司令部や会議室といった要塞の主要部が建設中だ。

 この建物は城門前に城門と一体化するように建設されており、城門をくぐる場合、この建物の1階部分を通り抜けることになる。

 その為、1階部分はトンネル状になっており、建物の街側にも門を設ける予定である。

 そして、このトンネル部分には多くの穴が開いており、それらはトンネル部分と平行に作られた建物内部の通路とつながっている。

 そう、ここから弓矢等で攻撃するのだ。

 戦国時代の城によく造られた虎口をまねてみた。

 これなら、万が一城門を突破されても、矢の雨の中もう1つ門を破らなければならない。


 城門の西側部分には兵舎が半分ほど完成していた。

 この兵舎も城門の一部として建設されているので城壁と一体化しており、見た目は城壁が街側にせり出した様な格好だ。

 そんな建物が3棟並んでいて、櫛型を形成している。

 建物は3階建で今はまだないが、最終的には城門付近の主要施設と城壁側部の廊下でつながる予定だ。

 これらの建物は、製造設備大隊の建築が得意なドワーフの指導の下、第3大隊が造っているので、城壁よりも精密に作られている。

 第3大隊も腕を上げたのかわずか10日余りでここまで作り上げてしまった。まさに脱帽である。


 このほかにも城門の東側には倉庫が立ち並ぶ予定で、現在はその建設予定地に、兵糧や資材が並べられている。

 倉庫予定地の南側は広場になっていて、多くの馬車がここで積み荷を降ろしていた。

 積み荷の多くは赤穂様や今川様からの戦勝祝いという名の援助物資だ。

 赤穂様からは主に麦を、今川様からは塩を送っていただいた。

 炊き出しに大量の食糧を消費しているので大変助かる。

 つい先日も国王様に街の状況を記した第3報にて、騎士団の運営金を兵糧で送って欲しいとお願いしたところだ。現在の重京では金貨よりも食料の方がありがたいのだ。


 もちろん食料の生産も始まっている。

 街の東側、城壁の建設予定地の外側では田畑の開墾作業が本格化していた。

 住人に確認したところ、やはり芋しか育たない等という事はなく、主に米を栽培していたそうだ。

 なので開墾するにあたって、用水路を整備し、四角形の田んぼを作らせている。

 この用水路は街の南側の山脈の湧水を北東にある窪地に流し込むように整備中だ。

 いずれは、この土地に浸み込む前に、湧水を窪地に移動させることで土地が乾いて湿地帯は耕作地として十分に機能するだろう。

 もちろん、必要な水は用水路から引き入れられる。

 そして、湧水が流れ込む窪地には大きな沼か湖ができそうだ。


 因みに、造った城壁の前の堀には、少しだが水が溜まり始めている。

 放って置けば、空堀は水堀になりそうだが、そうなると堀の壁面が崩れてしまいそうだ。

 城壁建設が一段落したら、今度は堀の両側を石化して固める作業をしなければならないようだ。




 北側から街中に入ってすぐの壁際に形成されていた、重京一大きなスラム街はかなり撤去されて来ていて、大きな広場になりつつあった。

 この広場は、だれでも出店できる市場になる予定で、すでにいくつかの露店が出始めていた。

 管理は街道沿いの城壁近くに建てた2階建の建物で行っており、月に銀貨5枚で1区画を貸し出している。

 元々このスラムに住んでいた人達は、他の撤去が始まっているスラムもそうだが、強制的に移動してもらった。

 街中のあちこちにあった瓦礫を撤去して、そこに新たに2階建ての長屋というかアパートを建設。出来上がった所から順次移ってもらっている。

 この入居者だが、募集を掛ければ大混乱になりそうなので、炊き出しに集まった人々の中で、特に頑張っていると監督している騎士団員が判断する者に、ある日突然鍵が渡されるという方法をとった。

 この方法は結構好評で、参加者のやる気の向上につながっている。

 残念ながら、入居に漏れてスラムを追い出された人々は、俺の騎士団が街外に立てた大きな天幕に移動してもらった。

 敵襲があれば速やかに街中に避難してもらわなければならないが、風雨がしのげるのと、温かい寝床が用意されるので、スラムよりも快適だと好評をいただいている。



 街中の炊き出しをしている広場は相変わらず混雑している。

 すでに朝食のピークは過ぎているので、行列の長さは短い。

 代わりに皿洗いや夕食の仕込を行っているであろう女性たちが目立つ。

 ここ数日で彼女たちの平均年齢が上がった。若い女性たちは瓦礫の仕分けや開墾作業に移動してもらって、そのような作業ができない者がここに残っているのだ。

 広場の奥にあった建物は取り壊されて、新しく造られた幹道まで広場が続いている。今も、幹道から馬車が数台広場に入って来て、食料の入った袋を炊き出しの広場に降ろしている。

 炊き出しを行っている広場は釜の他に大きな物はなく、倉庫も建設しない予定だ。雨季の来る夏前までには、炊き出しを行わなくても良い経済状況に復帰させる予定だからだ。


 炊き出しを行っている広場と幹道との間に新たにつくられた広場の一角では大きな天幕が張られていた。その横では結構大きな建物が建設中だ。

 この天幕は、いずれは隣の建設中の建物に移る予定だが、現在は仮営業している診療所だ。

 本部直轄の衛生隊が治療に当たっている。

 もちろん、それだけでは人数が足りないので、街中にいた医者や薬剤師をかき集めた。

 一部上流階級専門の医師はこの召集に参加しなかった。

 しかし、参加してくれた一般人相手の医者は、俺がこのような無料診療所を開く前から、というか占領する前からほとんどタダ同然で治療に当たっていた者も多く、良心的で良く働いてくれると報告が上がっている。

 彼らは今後完成する、公立病院で引き続き働いてもらう予定だ。


 薬剤師の方はなぜか牢屋に閉じ込められている者がほとんどだった。

 投獄理由はほとんどイチャモンに近い冤罪がほとんどで、きっかけは帝国人のお偉いさんを毒殺しようとした薬剤師がいた事によるらしい。

 その者はすでにこの世を去っていたが、その影響で毒殺を恐れた帝国に投獄されたみたいだ。

 彼らも喜んで参加してくれたので、診療所は順調だ。

 これまで、病気やケガの治療を受けられなかった人々がこちらにも長い行列を作っていた。

 薬剤師がいなかったため苦労していた医師たちも喜んでいた。

 こうして概ね順調に進んでいた診療所だが、思わぬところでつまずいた。

 まあ、当然と言えば当然なのだが、薬草が払底したのだ。

 そのため慌てて元狩人の経験のある第2大隊の隊員を護衛に、炊き出しに集まった子供隊を率いて南の山間部に薬草採集に行かせた。

 必要な薬草や、間違えそうな毒草等は事前に薬剤師からレクチャーを受けて出発させたのだが、今の所大きな問題なく成果を上げているようだ。

 報告書では、何度説明してもたまに薬草に毒草が混じっているという薬剤師のなげきが書かれていたが。



 政庁に戻ると新しく第3大隊長に任命した駿介しゅんすけ殿が報告に来た。

 駿介殿に第3大隊長を預けたので鉄次さんは副将軍として、騎士団全体の補佐をお願いしている。

 たぶん、俺の仕事の半分以上を肩代わりさせているので、今俺の領地で一番仕事の多い人物になったのではないだろうか。

 早く内政部門の人員の確保をしなければならない。

その為の行動も起こしているのだが、人材獲得には今しばらく掛かりそうだ。




 今日までで起きた一番の事件は『ドワーフの地下街事件』だろう。

 事の始まりは、第1大隊による、街全域の把握だった。

 占領後からこの作業を行わせているのだが、スラム街は崩れかかった建物で迷路のように形成されていたので、スラムの掌握に手間取っていた。

 しかし、そんなスラムから時折エルフたちが保護されていくのでこの作業は急務だった。

 帝国時代、エルフは亜人と蔑まされて人種差別の対象だった。

 奴隷以下の生活を強いられたエルフたち。そんなエルフたちが帝国の圧政に苦しめられた街民のはけ口にされたのは想像に難くない。

 発見された彼らは全身ケガだらけで、生きているのが不思議な感じだった。

 女性たちは人族の性欲のはけ口にされてもっと悲惨なありさまだった。種族的に美男美女が多いのと、回復魔法が使える者がいた事が事態を悪化させたようだ。

 そんな状況を目の当たりにして、第1大隊の人間が躍起になるのはしかたない。

 彼らはスラムを片っ端から捜索、把握を行ってエルフたちを衛生隊管轄の天幕まで送り届けて行った。



 そんな中、西のスラムで捜索活動中の第1大隊の1小隊が、入り組んだスラムの路地に地下へと通じる階段を発見した。

 もちろん、すぐさま中を捜索しようとしたらしいが、門番よろしくそこに立っていたドワーフに制止された。

 制止したドワーフが、実はこの街に来て初めてのドワーフとの接触だったのだが、エルフの事が頭の大半を占めていたこの隊員は制止を振り切って中に入ろうとした。


 当然、助けを呼ぶドワーフ。

 それに対抗する第1大隊の兵。


 気が付けば、彼の所属する全小隊員と中から出て来たドワーフ達で小競り合いに発展した。

 棒きれを振り回す胆力のあるドワーフ達を相手にすることになった小隊長は、次第に数が劣勢になるにつれて恐怖を覚え、中隊に緊急を知らせる伝令を飛ばした。

 伝令を受け取った第3中隊長は、『小競り合い発生』と聞いて、全中隊員に急行を命じ、本人も駆けつける。

 この時、さらに第1大隊長であるガルガラにも伝令が出ており、そのまま俺の所にも伝令が来た。


 俺の所に来た伝令の報告は『西8番スラムにて小競り合いが発生。現在第3中隊が対処中。ガルガラ副将軍が状況確認に急行中。』というものだった。

 このなかで、致命的に情報不足だったのが、「誰と誰が小競り合いをしているか」という情報である。

 ガルガラもその確認に向かったんだろう。だから俺はとりあえず、動ける第2、第3大隊の隊員に戦闘準備を命じただけで、第2報を待つことになった。


 政庁の前で俺自身も戦闘準備をして待っている時にようやく第2報が届く。

 伝令はガルガラの直轄の者で内容は、

『西8番スラム奥にて、ドワーフの男衆と小競り合いになった模様。現在はこう着状態。両者とも冷静さに欠けるため、状況判断できず。』

というものだった。

 俺は第2、第3大隊に解散を告げると共に、単騎で駆けだした。

 俺の後を本部要員の伝令達が慌てて追ってくる。

 出せる速度で飛ばすが、まだ馬に乗れるようになって日が浅い、直ぐに伝令達に追いつかれるがそれでもなるべく早く駆けつける。

 スラムに入ってからは第2報を持って来た伝令が先導してくれる。

 そしてようやく問題の場所に到着した。


 その場所は狭い路地で、微妙な距離を挟んで第1大隊第3中隊とドワーフ達が睨みあっていた。

 ドワーフ達は全員男たちでボロ布を纏い、棍棒のような棒切れを振りかざしている。

 対する第3中隊は、街中の捜索だったので、槍ではなく、長い棒を持ってけん制していた。

 人数はほぼ互角。身体能力を考えるとあちらが圧倒的に有利だろう。


 小競り合いがあった事を証明するように、両者に負傷者が発生している。

 第3中隊の後方に到着し、負傷者を確認したので、衛生隊の1小隊を連れて来るように伝令を出した後、大声を張り上げた。


「やめい!棒を立てよ!」


 俺に気付いた兵達が一斉に構えていた棒を立てて、左右に分かれて整列し、道を開けた。

 その中心を馬に乗ったまま、ゆっくりと前進し、最前列に移動する。

 一番前で馬を降りると直ぐにガルガラと第3中隊長が俺の前にひざまずいた。


「中隊全員を動かしたのは、中隊長の判断か?」


 俺の問いに中隊長が、うつむきながら答える。


「はい。そうです。小隊から救援要請が来ましたので。」

「そうか、立て。」


 中隊長は、少し疑問に思いながらも起立した。

 その中隊長を俺は殴り飛ばした。殴られた中隊長は驚きながらよろめき、後ろに倒れる。

 俺は心の中で謝りながら、指示を出す。


「始めに手を出した小隊以外は元の任務に戻れ!」


 その意味を正しく理解した隊員たちは、1小隊を残して移動を始める。中隊長も隊員の一人に肩を借りながら移動を開始した。

 そんな彼の後姿を見ながら、「後で彼には謝らなくては」と思いつつ視線をドワーフ達に向ける。


 俺はその日まで重京でドワーフに遭わなかった理由として、3つのパターンを考えていた。


 1つ目は、帝国占領前に全員逃げ出した場合。

 2つ目は、帝国にどこかに連れ去られた場合。

 そして3つ目は、街中に隠れている場合だ。


 どうやら彼らはこの場所に身を寄せ合い、今日まで生き延びてきたようだ。その生活が決して楽ではない事は、彼らの服装が物語っている。

 俺は彼らのもとに歩み出て謝罪した。


「どうも、部下たちが無礼を働いたようで、申し訳ない。この通り、私達に敵意はない。」


 そう言って、ガルガラに青龍を投げた。

 ガルガラは慌てて青龍を受け取ったが、ドワーフ達に反応がない。


「将軍。言葉言葉。共通語じゃなきゃ通じませんぜ。」


 そうか、日本語は大陸南部の人間族か皇国の人々しか通じないのだったか。

 改めて英語で謝罪する。喋れるが得意じゃないので苦労しそうだ。


「何が目的でここに来た!中には死んでも入れさせないぞ!」


 中央の一際大きな棍棒というかもはや角材を持っているドワーフが答えてくれた。

 俺の語学力のせいか、ドワーフの訛のせいか聞き取りにくいが会話は出来そうだ。


「エルフの保護と街中の把握。それに、スラム解体の予備調査の為です。」

「エルフだと、エルフをどうするつもりだ?」

「保護します。彼らは悲惨な状況だったので、現在衛生隊の天幕で治療中です。」

「治療だと?治して奴隷として売るのか?」

「まさか、領民として迎え入れるのですよ。

 実はあなた達も探しておりましてね。出来れば協力していただきたいのですが。

 もちろん、強制はしませんし、対価もお支払いたします。」

「領民として?貴様何者だ?」

「これは失礼しました。どうも焦っていた様で。

 私はサウザンエメラシー皇国将軍、五十嵐颯太男爵です。以後お見知りおきを。」

「サウザンエメラシー皇国将軍だと?そんなやつがなぜここに居る。ボログロフス帝国将軍の間違いだろう。」

「そうですか、ご存じありませんか。

 先日、我が皇国騎士団がこの街を占領いたしました。帝国兵はもうこの街にはおりません。

 先ほども言いましたが、現在は街の状況把握中でして、その為にここに来た訳です。

 どうか安心してください。もう、この街では人種差別のごとき制度はありませんし、あなた達を傷つける様な行動をとった者は、誰であろうと私が法の下に裁きを与えます。」

「本当に皇国がこの街を占領したのか?あの弱小騎士団の?しょ、証拠だ。証拠を見せろ!」


 弱小騎士団とか、どんな言われようだよ。そう思いながらも、腰の懐刀を投げて渡す。


「刃の根元に皇国の印が入っている。こんな物、帝国は持たないだろう。」


 そう言うと、そのドワーフは鞘を少しずらして印を確認した。


「た、確かに、皇国のマークだ。こんな凝った物、帝国が作るはずないか。

 しかし、ほ、本当に皇国が占領したのか?ポレルの策略じゃないのか?」


 そのドワーフが、一歩歩み出て、懐刀を差し出しながらそう返す。


「ポレル?それは誰ですか?聞いたことの無い名です。」


 懐刀を受け取りながらそう答える。


「帝国の役人だ。」

「そんな名の役人いましたっけ?」


 そう言ってガルガラを見る。


「お、俺に聞かれても知る訳ないでしょう。将軍は残っていた書類とかに目を通されなかったのですか?」

「一応目を通しましたが、忙しかったので走り読みでしか。(英語でしたし。)

 そこに出て来た名前なんか一々覚えてません。というか覚えきれませんから。

 ですが、安心してください。今この街に帝国人は一人もいませんから。」

「1人も。皆殺しにしたのか?」

「失礼な。占領前に逃げ出したのですよ。」

「そ、そうか。」

「ところで、あなたがここのドワーフ達の代表でしょうか?」

「え、いや、俺じゃない。頭目は中だ。」

「出来ればこれからの事について話し合いたいのですが、案内していただけないでしょうか?」

「あ、そうだな分かった。帝国がもういないなら、問題ないか。

 あ、しかし、武器を預からせてくれ。万が一にそなえてだ。

 べ、別に信用していない訳じゃないんだが、そ、そうだ、保険だ。」

「ええ、良いですよ。ガルガラ。」


 そう言うと、ガルガラは自分の大剣を背中から外してドワーフに渡した。 ドワーフでも重たかったのか、1人では持ち切れず2人で抱え込んだ。


「か、彼も行くのか?」

「ダメでしょうか?彼はあの巨体ですが、ドワーフですよ。まあ、正確にはハーフですけど。」

「な、本当か。あんな巨体でハーフだと。信じられん。だが、確かに、顔つきはドワーフだ。まあ、仲間なら問題ないか。

 わかった。良いだろう。それから、その剣も渡して貰おうか。」


 彼はガルガラに預けた青龍を指しながらそう言った。しかし、ガルガラは青龍を抱え込んで反論する。


「この刀は将軍の物だ。渡すわけにはいかん。」

「な、なんだと。しかし、頭目の部屋に武器を持ち込む訳には……」


 なぜか彼は青ざめてぶつぶつ言い始めた。無くなると大変だが、まさか盗りはしないだろう。


「ガルガラ。大丈夫でしょう。預けなさい。」

「し、しかし将軍。この刀は……。分りました。」


 そういうと、ガルガラは近くまで受け取りに来ていたドワーフの1人に青龍を渡した。


「なくすとタダじゃおかねぇからな!」


 と言う脅し文句付だが。

 その後、若干おびえているドワーフ達に案内されて階段を下りて行く。

 別にそんなにおびえる様な事はしていないと思うのだが。

 因みに懐刀はなぜか預けなくても良いみたいだ。武器と言うより証明書扱いなのかな?



 階段の下は迷路のような地下街だった。地下街と言うよりダンジョンと言った方が良いかもしれない。

 何回か分かれ道を曲がり、さらに階段を下りた。驚くことに2層構造のようだ。

 そしてさらに進んだ先。ようやく1つの扉の前に案内される。どうやらここが目的地のようだ。


 懐刀を確認したドワーフが軽くノックしてから中に入った。しばらくして、扉から顔を出し、中に入るように言われる。

 中に入ると、少し大きめのリビングといった感じの部屋だった。部屋の中央の机にドワーフが1人腰かけている。

 髭をこれでもかと主張して偉さをアピールしていたが、座っている椅子から足が床に届いていない時点で成功しているとは言い難い。

 しばらく見つめ合っていたが、何も言ってこないので勝手に向かいの椅子に座ってやった。ガルガラは素早く俺の背後に移動して背中を守るように立つ。


「誰が座っていいと?」


 ようやく口を開いた頭目と思われるドワーフ。上から目線が頭に来たので少し棘のある返答になってしまった。


「私の判断ですよ。このままにらめっこを続けるつもりはありませんので。」

「ふん。偉そうに。」

「偉そうではなく、偉いんですよ。今この街で一番ね。」

「それは人間たちの中での話だろう。」

「なるほど、ではドワーフは違うと。」

「そうだ。ここでは俺が一番偉い。」

「では、こうしましょう。私は人間代表で、あなたはドワーフ代表だ。

 では改めまして、私はサウザンエメラシー皇国将軍、五十嵐颯太男爵です。ここ重京から鷹ヶ城までを所領としています。」

「むむ、……。くっ。」

「と、頭目。向こうが正式に名乗ったので、こちらも名乗らないと、ドワーフとして……」

「解ってるよ!」


 助け船を出したここに案内してくれたドワーフに、怒鳴り返す頭目。しかし、どうやらちゃんと名乗りかえしてくれるようだ。


「儂の名はドンガガルだ。この地下都市の頭目だ。」

「そうですか、ドンガガルさんとおっしゃるんですか。

 では、ドンガガルさん。もう、ご存じかとは思いますが。この度、私が帝国に代わって重京を統治する事となりました。

 帝国時代の制度は廃止しましたし、安心して地上にお戻りください。」

「地上に戻れだと?」

「ええ、ずっとここに居続ける訳にはいかないでしょう。」


 そう言って俺は部屋の隅を見る。そこは水が染み出していた。


「断る!」


 そう拒絶したドンガガルさんにガルガラが突っかかった。


「断るだって。あんた状況は解るだろう。この地下都市は立派だが、そう長くは持たない。そこら中から水が出てる。こんな湿地帯の地下空間に住むのは自殺行為だ。」

「それに、補足しますと、街の安全を預かる私としても、この空間を放置できません。

 早急に埋め立てないと街の安全にかかわりますので。出来るだけ早く地上に移住してください。

 でないと強制的に排除して埋め立てを行わなければならなくなります。」

「くっ、そんな事解ってんだよ!この街がもう長くないってことは。だがな、地上には上がれねぇんだよ!」

「なんでだよ。将軍が街を占領して街は住みやすい所に代わってんだぜ。」

「……それでもだ。」

「なぜ、なぜなんだよ。なぜ……」


 まだ何か言いたそうなガルガラを手で制してから話し始める。


「理屈じゃないんですね。つまり、人間を信用できなくなったと。」

「……ああ。……多分、そこのでかいドワーフが言う通り、地上は住みやすくなったんだろうな。

 だがな。そうであっても、地上には戻れないんだよ。」


 歯を食いしばってうつむきながらそう答えるドンガガルさん。きっとよっぽどの事があったのだろう。


「それは頭目としての判断ですか。一族を代表する。」


 俺のその言葉に一瞬息を飲むドンガガルさん。そして、しばらくして重い口を開いた。


「なあ、あんた、偉いんだろ。儂らを皇国に亡命さしてくれよ。」

「皇国に亡命ですか。もうすでにここは皇国の一部ですので、亡命は不適当ですが。まあ、意味は解ります。

 ええ、大丈夫ですよ。皇国は基本国内の何処に住もうが自由です。もっとも、移住に関しては領主の許可がいる場合がありますが、私が領主ですので問題ありません。

 しかし、この大人数で移住する伝手つてはあるのですか?」

「……とりあえず、帝国の占領時に逃げて行った同胞を頼るよ。」

「なるほど、しかし帝国から逃げて来たと言うドワーフ達を何人か知っていますが、この人数では大変でしょうね。」

「……。」

「実は相談があるのですが。

 ここから半日位の所に未開発の鉄鉱山がありまして、そこを今度開発する予定なのですが、人手が不足していましてね。」

「!?」

「どうでしょう。そこに移住する予定はありませんか?今なら当面の食糧の供給もしますし、生産される鉄もすべて買い取りますよ。」

「ほ、本当か?」

「ええ、もちろん。」

「……そこに帝国の連中は来ないだろうな。」

「重京が奪還されれば可能性はありますが。私が生きている間はそうならないはずです。」


 まあ、奪還されれば俺は生きてないだろうしね。


「人間は何人いる?」

「今は誰も。もし人間が行く事があってもそれは私の息のかかった人間だから問題は起きないでしょう。」

「わかった。あんたに任せよう。」

「ありがとうございます。助かります。」


 こうして、『ドワーフの地下街事件』は終了した。

 かなりの労力を使ったが、鉱山開発の人員を確保できたし、街の崩落を未然に防げたので結果オーライだ。


 この後、2日掛けて魔力を補給しつつドワーフの地下都市を埋め直す作業に追われた。


 因みに、第3中隊長には殴った事を詫びておいた。もちろんお咎めなしだ。

 職業軍人に政治的判断を任せるのは筋違いだ。

 それに、あの時は場を納めるためとはいえ、殴ったのはやり過ぎだと自分は思う。次からはもう少しうまく立ち回ろう。


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