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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
31/46

奇跡と呼ばれた戦い

 ついにこの日がやって来た。

 早朝から各部隊が部隊ごとに整列している。まだ暗い内から準備を開始していた補給部隊の兵はいまだ準備中だが、各部隊が出発している間に準備は整うだろう。

 今回の居残り組は、製造開発大隊と司厨部隊の一部のみだ。

 途中の乙地点、つまり野営地で司厨、補給の各部隊と護衛に第1と第3大隊から各1小隊残すが、それ以外は全員が戦闘に参加する。まさに俺達の全力出撃だ。


 少し予定より早いが出発の号令を出す。

 第1大隊から順に出発していく。

 街道は途中で狭くなるので、この辺りでは余裕があるが、4列横隊で行進していく。

 皆戦意旺盛なのか、行進速度が速い。直ぐに俺達本部の番になった。

 俺の周りの本部要員も心なしかいつもより精悍な顔つきに見えた。


 カーラシア村の駐屯地を出発し、古鷹砦と鷹ヶ城の横を通過する。古鷹砦と鷹ヶ城では俺達の騎士団に向かって皇国の国旗が振られていた。

 わずか千五百名にも満たない騎士団だが、皇国始まって以来の侵攻部隊だ。

 彼らの目には、俺達はどのように映っているのだろうか。

 侵略部隊か、解放部隊か。まあ、俺からすれば、植民地の取り合いみたいな感じか。当事者の元河南国民は置いてきぼりだ。


 そんなことを考えていると、山間の細道に差し掛かる。

 曲がりくねって見通しが悪い。事前の偵察隊の報告では、罠はないとこのとだったが、周囲を注意深く見ながら進む。

 狙われるなら、部隊の分断と、指揮系統の混乱を狙って本部が攻撃されるだろうから。

 しかし、心配をよそに、部隊はなんら妨害を受けることなく乙地点の野営地に到着した。


 先行していた第1大隊は既に水の補給を済ませ、部隊全体の位置決めを終え、哨戒を開始していた。

 俺が到着すると、この場所を偵察監視していた偵察隊の1小隊がこの付近に異常はない事を報告して来た。罠どころか、ここにきて1度も帝国兵に遭わなかったそうだ。

 第3大隊が到着すると、野営地の街道沿いに簡単な陣地が構築され、便所用の穴も多数掘られた。

 そして、司厨部隊が到着。各部隊に鍋に入った食事が配られる。

配られた食事は下ごしらえがされただけの物で、各小隊ごとに鍋に水を入れて煮込んで終わりだ。

 水の補給はまた明日朝一にしなければならないが、司厨部隊が準備するのは大変だ。

 火はもちろん赤魔晶石が使われる。重くないし小さいので、各自が携帯している。

 この世界ではこれがあるのでかなり楽だ。食事の為に薪を集めなくていいし、煙を気にすることなく料理出来る。

 補給部隊が到着すると、第3大隊の手であっと言う間にテントが並べられた。

 そして、食事が終了した者から就寝していく。特に第1大隊は哨戒も順番で回ってくるので早い。

 俺も、青龍と防具の革鎧を簡単に手入れをして直ぐに就寝した。



 朝日が昇ると同時に、再び進軍を開始する。

 予定通り、この場で司厨、補給部隊を分離。昨日と同じ順番で行軍する。

 向かうのは『甲1番』地点。名前の通り最重要地点だ。

 昨日に引き続き、狭い山道を行軍するが、やはり敵の姿が見えない。

 要所要所で合流する偵察隊も、やはり、1度も帝国兵に遭っていなかった。

 そして、俺達は誰にも邪魔される事もなく『甲1番』地点に到着した。



「よう、早かったな。」


 『甲1番』地点で待っていた秀男さんに報告を聞く。


「状況は変わらずだ。奴らは1度も要塞から南側には向かっていない。不思議な事に、重京の市民も山には入らないんだ。理由が解らん。

 ただ、ここからは俺の想像だが、奴らは、俺たちが攻めて来るなんて夢にも思ってないんじゃないかな。」

「そんなはずはないだろう。俺らが鷹ヶ城を占領したのも、この辺りの情報を集めているのも知っているはずだぞ。侍所を通じて情報を流したのだから。」

「そんなこと言われてもな。奴ら、朝の鍛練さえまともにやってないぞ。」

「……。訳が解らんな。まあ、こっちとしてはありがたい誤算か。」

「まさにな。よくこれで帝国は河南国を占領できたもんだ。

 ところで、おま、じゃなかった。将軍は、よくこんな場所に気付いたもんだな。ここなら敵の動きが手に取るように分かる。」

「それだけじゃない。この場所から要塞を奇襲する。」

「っ!!なるほど、ここからか。たしかに、ここから攻撃すれば敵の要塞の塔も城壁も関係ないか。」

「それだけじゃないがな。攻撃方法も特殊だ。この場を最大限に利用させて貰うよ。これが地の利というやつだ。まあ、見てな。」


 そういって、俺は秀男さんと分かれて、攻撃準備に取り掛かる。




 今俺達がいる場所。『甲1番』地点とは重京の街の南側。街が接する中で一番高い山の中腹に建設された要塞のさらに上。要塞のある山の山頂付近だ。

 敵に見つかるとまずいので、部隊はこの山の南側、要塞とは反対側から登山し、頂上付近の南側に布陣している。布陣は山頂から第2、第3、第1の順番だ。

 山は木々が生い茂っているが、要塞付近は、昔石切場だったせいで、木が伐採されて、山肌がむき出しになっており、ごつごつとした岩肌になっている。

 その岩肌と森との境目の木の陰に隠れて秀男さんは情報収集をしていたのだ。


 軽く腹ごしらえをした後。第2と第3大隊を岩肌との境界付近に布陣し直す。第1大隊は、号令があれば一気に山を下って要塞になだれ込む手はずだ。

 そして、布陣が完了した時点で、俺は地面から直径2mの岩球を5つ作り出した。作り出した地点は、地面が平らになり、山頂側はえぐれて崖になった。

 そして、号令と共に順番にこの岩球を斜面に押し出させた。


 すぐにもの凄い速さで転がり出す岩球。途中の木々をなぎ倒して直ぐに岩肌の斜面に到達した。

 岩球を落とすたびに木々がなぎ倒されて視界が開けて来る。

 そしてついに、1つ目の岩球が轟音と共に城壁に衝突した。

 城壁に衝突した岩球は、城壁を粉砕した。そしてそれでも勢いを落とさず転がり、石造りの建物1つを破壊してようやく止まった。

 要塞は緊急を知らせる鐘の音が鳴り響き、それを聞いて建物から兵達が飛び出してくる。しかし、彼らが見るのは斜面を猛スピードで転がってくる岩球だ。

 兵達が逃げ惑うのが見て取れる。


 しかし、岩球は容赦なく要塞を襲った。

 次々に城壁を粉砕して要塞内に侵入し建物を破壊していく。塔に当たった岩球の1つは塔を倒してしまう。塔はいくつかの建物を巻き込んで倒壊した。

 また、ある岩球は細長い形の兵舎と思われる建物の中央を通過、同じような建物を3つも貫通してようやく止まった。

 岩球がようやく止まったとき、すでに要塞の城壁は5つの大穴のせいでその機能を失っていた。

 岩球で森が切り開かれたため、向こうからもこちらが視認できたのだろう。敵兵がバラバラと要塞を出てきて斜面を登ってくる。

 そんな彼らの頭上に第2大隊の弓矢や火の玉が落ちていく。敵も弓や魔法で反撃してくるが、ここまでは届かない。高所の利点だ。こちらの攻撃は届くのに、向こうからは攻撃されない。


 敵は矢の攻撃に悩まされながら何とか半分ほど登って来た。もっとも、多数の脱落者を出してだが、しかし、そんな彼らを待っていたのはさらなる冷酷な攻撃だ。

 第2大隊が攻撃している間。俺はせっせと石製のボーリングの球を作っていた。もうお分かりだろう。矢が尽きて、魔力が少なくなった第2大隊の代わりに、第3大隊がこの石製のボーリングの球を転がしていく。

 俺も魔力も8割がた消費して、秘蔵の魔力回復の効果のある薬草を練り込んだ餅をかじりながら状況を観察する。

 いきなり上から大量の石球を転がされて、敵は大混乱。次々に、転がり落ちていく。

 ある者は球にあたって、またある者は、避けようとして足を踏み外し。不幸な者は、落ちて来た味方の巻き添えになって次々と脱落。

 斜面と城壁の間には、斜面から転がり落ちて身動きが取れなくなった敵兵で埋め尽くされる。

 何とか斜面にへばりついてその場をしのいだ者はほとんどいなかった。


 しかし、その斜面にへばりついて脱落を免れた者達に不幸が訪れる。

 満を持して、第一大隊が斜面の横から突撃を開始したのだ。

 斜面に残っていた者たちはあっという間に蹴落とし、城壁の前で倒れている者を踏み越えて、斜面を駆け下りる勢いのまま城壁の穴から要塞内に突撃する第一大隊。

 すぐさま要塞内の半数を制圧。要塞内で一番大きな建物の前の広場手前まで進軍した。

 たぶん、あの大きな建物が本丸だろう。そこを制圧すればこの戦いは終わる。


 しかし、事は簡単にはいかなかった。

 本丸と思われる建物前の広場に進軍した時、本丸から敵小隊が現れた。

 数はわずか30名程だが、それだけで第一大隊の先鋒が乱れる。

 敵が少数のため直ぐに取り囲めたが、敵は精鋭らしく攻めあぐねている様子。


 だが、それも少しの間だけだった。

 第一大隊が突入して直ぐに動いた第三大隊の一部が、弩を装備して広場周辺の建物の屋上に布陣。一斉に矢を射ち掛けた。

 この攻撃に敵は倒れて要塞すべての制圧が完成した。


 この戦いのさなか、本丸と思われる建物の直ぐ裏側にある城壁。その陰から一台の馬車が飛び出していた。馬車は猛スピードで逃げていく。

 当初は街に逃げ込むかと思われたが、そのまま街の城壁の外を回って北上。どうやら重京は諦めて、上香に逃げ込むようだ。


 要塞内の制圧が終わるとすぐさま衛生隊が突入。負傷者の救護に当たる。

 それと同時に俺は第一大隊と第三大隊の半数を率いて重京の街に向かう。

 街の入り口まで進軍すると、街の入り口の門は既に開かれており、守備部隊と思われる兵達が白旗を振っていた。見た所、現地の河南人部隊の様で、抵抗する意思はなさそうだ。

 こうして、俺はあっさりと重京を占領する事に成功した。

 作戦開始からわずか数十時間で占領終了という、まさにとんでもない電撃戦だった。

 しかも、奇跡的にと言うかもう奇跡としか言いようがないが、俺の騎士団に死者は出なかったのだ。

 腕が切り落とされた者とかもいたのだが、衛生隊の白魔法で腕がくっつくなどの俺からしたらあり得ない方法で一命を取り留めた者がかなりいたが、死者はゼロ。

 まさに奇跡。

 こうして、後に『奇跡の重京戦』と言われる戦いが終わったのである。


やはり、戦闘シーンは短いです。

すみません。

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