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科学技術は偉大なり

 ドクトルさんの鍛冶場に着いた後、興味があって少し鍛冶を見せてもらうことにした。

 ドクトルさんも

「わしらも魔法見せてもらったし、暑くて構わないなら見学して行きな。たいして面白くないと思うがな。」

っと心地よく了承してくれ、見学する事になった。

 こちらの世界での鍛冶(と言ってもドクトルさんの鍛冶だが、)は、あっちでの江戸時代以前と同じように炉で熱くした鉄を金槌で叩いで成形していく物で今でも職人が刀などの刃物を作るのと一緒だった。

 ただ違うのは、炉の中で燃えているのは石炭や薪ではなく、魔晶石だということ。

 赤魔晶石は魔力を溜める事で炎を上げながら熱を発するらしい。ただし、普段使う程度なら、魔晶石に魔力を送り込んで着火し、魔力を吸い取って消火する程度で良いらしいが、鍛冶に使うような高温にするには魔力を送り続けなくてはならないらしく、それをここではリンさんがやっていた。

 リンさんは炉の前の椅子に座りながら両手を炉の方に突出し、汗だくになって魔力を送り込んでいた。


 俺はいつしか、ドクトルさんの鍛冶そっちのけで炉の方ばかり見ていた。そう、炎を出して燃える赤魔晶石を。

 魔晶石から炎が出る?これが不思議だ。

 熱が出るだけなら納得がいくが、炎を出すには酸素と結合する炭素等が必要である。簡単な化学である。炎は炭素等の酸化現象なのだから。

 もしかして、魔力自体が炎となって出てきている?

 なるほどそれはあり得るが、それならわざわざ炎を出さなくても熱だけを発すればいいだろう。炎を出すのはなんだか非効率だ。

 ならば、酸素と魔力が結合して炎になっている。これもあり得るな。火の三要素は、熱、酸素、そして燃えるもの(可燃物)だから。

 そう考えるとリンさんは魔力(可燃物)を大量に送り込む事で炎を大きくして温度を上げているという事になる。

 欧米式だな。

 じゃあ、日本式に酸素(空気)を送り込むとどうなるのだろうか、普通の火なら大きくなるはずである。バーベキューをする時炭をうちわで扇ぐ原理だ。


 魔晶石には通じるのかな?そんなことを考えているとドクトルさんが一振りの剣を打ち終えた。

 ドクトルさんが持つとかなり大きく見えるが、人間の大人が持つとちょうど良い大きさだろう。

 柄はまだないがかなり美しく良い品と思われる。


「素晴らしい出来ですね。」

「まあまあかな。まあ、そこらの職人には負ける気はしないがな。それよりもどうした。リンにほれたか?リンの方ばっかり見ていたが。」


 ドクトルさんが、最後の方は小声で耳打ちしてきた。


「違いますよ。炉の方を、魔晶石を見ていたんです。とても不思議ですね。」

「赤魔晶石がか?量は多いがどこの家庭でもあるぞ。まあ、お前さんには珍しいんだな。」

「ええ、でも、どうして魔晶石から炎が出るんですか?」

「なぜって、赤魔晶石だからさ。」


 …話が、かみ合ってない。まあ、赤魔晶石から炎が出るのはこっちじゃ当たり前なんだろうけど。


「少し試してみたいことがあるんで少しいじってもいいですか?」

「いじるって、赤魔晶石をか?別にかまわんが炎を出してる時は触るなよ火傷じゃすまないぞ。」

「わかりましたありがとうございます。」


 ドクトルさんに許可をもらったので炉に近づく。

 リンさんはもう炉の赤魔晶石に魔力を送ってはいなかったが、炉の中ではまだ赤魔晶石が炎を出していた。

 魔晶石を機能させるには魔力のこもった魔晶石に魔力を少し送ってやれば良い。

 逆に機能を停止するには魔晶石の中の魔力を少し吸い出してやれば良い。そう弥々子さんは言っていた。

 つまり、炉の中の赤魔晶石を止めるには魔力を少しずつ吸い出さなければならないが、こんなに大量にあったら吸い出す量も膨大になる。

 だから、鍛冶がひと段落しても炉は止めずに相変わらず炎を上げていた。

 もっとも、もうリンさんが魔力を送ってないのでかなり火力は落ちていたが。


 そのリンさんは炉の前の椅子に座ってうちわで顔を扇いでいた。

額には汗が玉のように出ていてそれがうちわの風を受けて気持ちよさそうに揺れていた。

 俺はそんなリンさんにうちわを借りて炉の中の魔晶石を扇いでみる。

 始め私が自分自身を扇ぐと思っていたであろうリンさんは驚いていたが、炉の中の赤魔晶石を見てさらに驚いていた。

 そう、思った通り赤魔晶石は激しく炎を上げ始めたのだ。


「い、いったい何をしたんだ。そのうちわで魔力を送っているのか?」


リンさんと同じく驚いて目を剥きながらドクトルさんが聞いてくる。


「いいえ、うちわで空気を送っているだけですよ。」

「本当か?」


 そう言いながらなおも半信半疑なドクトルさんにうちわを渡す。

 ドクトルさんは、「俺は魔力がないんだぞ」とぶつぶつ言いながらうちわで扇ぎだした。

 結果は同じ。炎は激しく燃え始めた。


「な、なんで炎が激しくなるんだ。ただ、うちわで扇いだだけだぞ。」


 ただ、空気を送っただけで炎が激しく燃えだしたことに驚愕しながらドクトルさんが問いただしてきた。


「えっとですね。魔晶石にも通じるかどうかは判らなかったのですが、普通の木とかが燃えるときは、空気を送ってやるとよく燃えるんですよ。

 それは、物が燃えるときに空気中の酸素を利用しているっていう現象でして、私のいた世界では当たり前のことだったんですよ。」

「へえ、物が燃える時は空気を使っているのか。それが、お前さんの言うカガクギジュツってやつかい。なんか、すげーな。」

「あの、ドクトルさんは解ったみたいなんですが、私にはさっぱりわからないのですが…」


 こっちの世界でも、魔力が使えないドワーフのドクトルさんの方が、魔力に頼り切っているエルフのリンさんよりも科学に対する理解度が良いらしい。

 その後、作業場の隅にあったロウソクとドクトルさんが出してきてくれたコップで、火のついたロウソクをコップで覆うと火が消えるという中学校で良くやる簡単な実験をやってみせると二人とも納得してくれたようで、さらに、よくそんなこと知っているなと感心された。


 実験がうまく行った為に気が良くなっていた俺はもう少し知識を自慢したくなってドクトルさんに木材と革を分けてもらってふいごの作成に取り掛かった。

 さいわい此処は鍛冶場なので必要な道具はすべてそろっていた。なので簡単に作成する事が出来た。

 大きさは足で使うような結構大きいもので、バネの部分はもちろん金属製のバネなどないので細い木の板を曲げて取り付けた板バネとした。

 何を作るのか興味津々で見ていた二人は出来上がった物を見て一体何かと頭にハテナマークを付けていたが、ふいごを実際に使って見せると、もの凄い尊敬の眼差しで見られた。


 その後はドクトルさんが練習だと言ってふいごで鉄も入れていない炉に空気を送り続け、炎を大きくしていたが、傍から見ると遊んでいるようにしか見えなかった。

 そして、ドクトルさんがようやくふいごに満足したら、今度はリンさんと仕事の相談になった。

 どうやら、ふいごのおかげでリンさんが魔力を送り続ける必要がなくなったという事は、リンさんの仕事がなくなった訳で、その分アルバイト料が減らされるのではないかとリンさんが不安になったらしい。

 結局、赤魔晶石に魔力を込める時や、朝初めに炉に火を入れる時と夕方炉を止める時はリンさんの協力が必要な訳で、アルバイト料は変えないんだそうだ。

 リンさんは、アルバイト料が変わらずに、日中に魔法の練習ができると喜んでいたし、ドクトルさんも可愛いお嬢さんに暑くてきつい仕事をさせていた事に負い目があったらしく、ふいごを喜んでくれた。

 俺としては、ふいごのせいでリンさんが失業しなくて一安心だった。


 「便利な道具が人を必要としなくする」という科学技術の本質を忘れていて、暑さではない嫌な汗を流していただけに、双方が良い方向で話が纏まって本当に良かった。

 その後はしばらくドクトルさん達とお茶をしながら、他にどんな道具があったのかなどを話していると日が傾きだしたのでお礼を言って村長さんの家に帰った。



 帰りしなドクトルさんとリンさんに改めてふいごのお礼を言われて気を良くし過ぎてついつい鼻歌交じりにスキップが出たのは余談である。

 もちろん、その日の夕食はその話題でもちきりで、村長さんは明日朝一でふいごを見てくると言っていた。


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